講座58 イヤイヤ期の正体
多くの母親が悩む「イヤイヤ期」。
1歳~3歳くらいにかけて多い(男女差がある)グラフはグッドナフの論文をもとに私が書いた。
この「イヤイヤ期」の正体は何か?
脳科学的には?ネット上では?次のようになっている。
脳の前頭前野が未発達のために起こる
たとえばこんな感じの情報がヒットする。
(1)ママも「キーッ!」となっちゃう、わが子のひどいイヤイヤ。
https://www.nhk.or.jp/special/mama/qa2.html
「ママたちが非常事態!?2」のNHK
(2)医療法人社団健尚会 千葉市認可保育園
http://www.mh-n.jp/publics/index/40/detail=1/b_id=199/r_id=20/
Googleの上位にある情報は、だいたい同じである。
これらの情報は「母親のストレスを軽減させるため」というのが目的だと考える。
「ああ~、だからなんだ!」「未発達なんだ」と納得させることで「母親が悪いわけではない」ということを伝えたいのだと思う。
実際、私も講座などで、そうやって伝えて来た。
それはそれで意味があると思う。
しかし、「未熟だから訓練によって鍛えよう」という行き過ぎた考え方も存在している。
練習主義は「理性脳強化主義」というらしい。
でも、何か腑に落ちない。
感情コントロールは幼児が「練習して」できるものではないと思う。
発達には「待たねばならない」という側面、つまり「時期がある」と考えるのが正しいと思う。
では、「待つしかないのか?」「耐えるしかないのか?」という話になる。
これも違う。
対応方法はちゃんとある。
「前頭前野が未発達のために起こる」というだけだと、
母親が自分を責めることは防げても、
目の前の我が子にどう対応したらよいのかがわからない。
対応のスキルこそ、困っている母親を支援するために必要な手段だ。
2.「ならぬものはならぬ」を持っておく
3.例外
4.まとめ
1.イヤイヤ期がない子や軽い子の特徴は?
「イヤイヤ期がない」という情報を検索してみる。
【母親A】
「イヤイヤ期がなくても大丈夫?理由や軽い子の特徴は?」
https://www.olive-hitomawashi.com/family/2020/01/8005.html
(石上 文さん)
このページの特徴は次の4つ。
(1)欲求が満たされている
(2)生まれつき大人しい・こだわりのない性格
(3)言葉を覚えるのが早い
(4)イヤイヤを出せない環境
ほとんど私の考えと一致する。
引用させていただく。
(1)欲求が満たされている
■イヤイヤ期の子どもは、自我の芽生えにより強い自己主張が生まれるが、それをがうまく自分で処理できないことにより癇癪などの行動を起こす。この「自分でしたい」という欲求をうまく親がサポートできている場合は、子どもも達成感が得られやすく、激しいイヤイヤ行動には繋がりにくい。存分に遊ばせる、待つ時間を大切にする、話を十分に聞くなどの親の対応により、イヤイヤ行動がエスカレートしにくいパターンもあるのだ。
キーワードが3つ出ている。
①存分に遊ばせる
これは、満足をさせてあげることでイヤイヤ期でも前頭前野は発達し続けることを考えると重要だ。
②待つ時間を大切にする
これは「クールダウン」とも言える。
詳しくは「講座40『クールダウン』と『ほっとダウン』」
https://win3.work/course-40-cool-down-and-hot-down/
③話を十分に聞く
これは「ほっとダウン」。
(2)生まれつき大人しい・こだわりのない性格
■2歳をすぎると、我が子の生まれつきの性格や気質を認識しだすお父さん、お母さんも多いだろう。イヤイヤの表現方法も生まれつきの性格が大きく影響する。もともと大人しい子どもであれば、反抗することがあっても激しい癇癪には及ばないことが多い。イヤイヤ行動を起こす原因になるこだわりがあまりない子どもや、気持ちの切り替えが得意な子どもも同様だ。
これは本人の気質、つまり個人差。兄弟でもまったく異なる。
(3)言葉を覚えるのが早い
■イヤイヤ期は言葉で自分の欲求をうまく表現できなかったり、親子での対話ができないことで起こる。そのため、言葉で気持ちをうまく伝えられるようになれば、おさまることが多い。イヤイヤ期に差しかかる前、1歳半くらいから言葉を覚えて会話ができるようになった場合は、イヤイヤ期が回避できるケースもある。
「イヤイヤ」になっている時の子どもは何をしているのか、何がどうなっているのか、そういう「自覚」がないものと思う。
「自覚がある」は「意識している」ということである。
「自覚」は「言語化された意識」である。
感情コントロールは言葉(内言語も含む)で行われるものだと思う。
コントロールできるということは、感情をある程度言語化できるということである。だから、「気持ちを言語化してあげる」という対応(「ほっとダウン」)は長い目で見て効果的だと考える。
(4)イヤイヤを出せない環境
■他と違いネガティブな理由だが、家庭環境が不安定であったり、親の顔色を伺う癖がついている場合、自分の欲求を十分に出せない子どももいる。結果としてイヤイヤ期がなかったということになるが、このケースの場合は子育ての仕方や環境を見直す必要があるだろう。つまりイヤイヤ期が大変だと感じている方は、それだけ子どもが安心できる環境を作ることができているのだ。
これはモンテッソーリ教育である。
モンテッソーリ教育では「順番」「場所」「一人でする」という環境を整えれば「イヤイヤ」は起きないという考え方をする。
イヤイヤは「順番を守りたい」「いつもの場所でしたい」「一人でしたい」という生命力の表れだという考え方が根底にある。これを「秩序感」ともいう。
(1)~(4)は、このお母さんの「子どもの事実」である。
私の経験とも一致する。
2.「ならぬものはならぬ」を持っておく
もうひとつ。別なお母さんの事例。
【母親B】
「イヤイヤ期が軽いと言われて、その理由を考えてみた」
https://note.com/yukij/n/n8d367fe91f3e
(メディア企業に勤めているYJさん)
■長男が「何でもかんでもイヤ」にならない理由
ということで、理解ができるが故に、私は出来る限り子どもに「やりたいようにやらせる」ようにしている。
「自分でお皿にいれたい!ママやらないで!」と言われて渡すと全部こぼして床がビショビショなんてことは日常茶飯事だが、まぁよしとしている。(私の機嫌が悪いときは顔が引きつっているけど)
ダメだというのは「危険なとき」「社会的に許されない・誰かを傷つけること」「どうしても親の都合を優先させねばならぬとき」の3つだけだ。
私も賛成である。「ならぬものはならぬ」を持っておくことも必要だ。「他人の体」「他人の心」「自分の体」「自分の心」の四つはならぬ。場合によっては「親の都合」もあると思う。現実的だ。
また、「ならぬ」を持っておくことは、「それ以外はオッケー」ということで許容(受け入れる)姿勢が出来上がる。このことは母子のストレスを軽減させる。
基本を前述の「母親A」にしておいて、「母親B」をプラスする。
これでイヤイヤ期の特徴および対応の基本は出そろった感じがする。
3.例外
しかし、それでも子育てには例外がある。
人間はすべて同じではない。
初めに「育て方」があって「子ども」がいるのではない。
「子ども」という現実があって、その子に応じた育て方が求められる。
たとえその育て方が非科学的であったとしても、大切なのは子どもの方である。極端に言ってしまえば「科学」よりも「子どもの事実」に意味がある。教育にはそういう部分がある。
「例外」として4人の子どもを紹介する。
(1)A君「欲求が満たされていない」状況にある子
これは誤解を招く言い方になっていまっているが、「母親が欲求を満たしてあげていない」という意味ではない。
A君が持っている「欲求」が通常の子より強いという意味である。
欲求は動物脳である。本能と言ってもいい。それが強い。
好奇心と言ってもいいし、意欲と言ってもいい。
それが前頭前野の発達以上に大きい(2歳は動物脳が力を出す時期なのでそれは当然)。生きる力が大きい子ほどイヤイヤ期のアクションも大きくなる。そういうお子さんである。
どのくらいの時間がかかるかわからないが、言語でコントールできるようになるのはもう少し先なので覚悟が必要となる。
将来、「生きる力が強い子」は将来、独立するのも早く、親から離れるのも早い傾向がある。「普通じゃない大人」になる可能性も高い。そういう覚悟(見通し)が必要なのではないだろうか。
(2)B君「こだわりの強い性格」の子
こだわりが強い子は、モンテッソーリ教育の環境整備が通用しない。大人の側が「順番」「場所」「一人でする」を気にしたつもりで対応しても通じない。そして、本人の中にはもっと違うこだわりが存在している場合がある。
さらに、そのこだわりは自分でも意識できていない場合が多い。本人も悶々としている。感情脳が先に発達するということは理性では説明のできない変化が脳の中で起きているということである。感情優位なので理屈ではない。勝手に変化するものなので本人にも親にも理解できない。「こだわり」も感情なので、その性格をベースにした変化が起きているのだと思う。そして、もちろんこのような性格は学力や人間力として力を発揮する財産となる(自己肯定感が下がらなければ)。
(3)C君「母親との信頼関係を強化しようとする」子
子どもは1歳半の段階で母親との信頼関係(愛着形成)の基礎づくりが終わる。そして、次の段階に進む。この「次の段階」で、更に強い信頼関係を築くための行動が「イヤイヤ」だという理論である。
つまり、人間は本能的にこの「イヤイヤ」をすることによって、それでも自分を見守ってくれる母親との間に強い信頼関係をつくるというのである。ざっくり言えば「わざと」である。この「わざと」をする子がC君である。
ただし、本人には「わざと」という意識はない。生物学的に強い信頼関係をつくろうとするというだけ話である。本能である。世の中には「親は試されているんだよ」という説明もある。まさにそれだ。大変中の大変だが、それを乗り切れば通常以上の信頼関係が生まれ、子どもは自立する。
(4)D君「前頭前野が発達し過ぎている」子
前頭前野が発達し過ぎると人間脳(コントロールする脳)が「待つ」形になる。動物脳の発達を待つ形だ。そして、通常通りイヤイヤ期を引き起こし、葛藤と調整を両方の脳で経験する。
このことによって、D君の人間脳は以前にも増して機能が向上する。
D君はこの「人間脳の機能を鍛えるシステム」を使っているという考え方である。
4.まとめ
先日、「子育ての全体構造図」という記事を書いた。
https://win3.work/overall-structure-diagram/
この構造図を見ると、3歳からは「友だち遊び」が待っている。母親と関わることがどんどん少なくなる。マラソンにたとえると、イヤイヤ期は子育てにおける「最後の坂道(心臓破りの坂)」である。キツイ。シンドイ。いつも優しく対応できるなんて出来ない。100%上手に対応できることなんてあり得ない。
そう思う私がお母さん方にアドバイスしているのは、
「ほっとダウン」6割+「クールダウン」4割
というスキルである。
「イヤだ!」には「イヤなんだあ(^^)/」と言葉にしてあげるだけ。
「帰る!」と言ったら「帰りたいんだあ(^^)/」。
「いらない!」と言ったら「あ!いらないんだ(^^)/」。
気持ちを理解してあげようとするのとはちょっと違う。
もっと気楽に、シンプルだ。
ただ言葉にしてあげることで感情を受け入れていることになる。
これは、感情を言葉で教えてあげているのと同じである。
このことが感情をコントロールする人間脳を育てる。
でも、これでも余裕のない時は出来ない。
強烈なイヤイヤが襲って来る時もある。
そういう時は「クールダウン」。
落ち着くまで「冷却時間」をとる。無理に対応しない(安全の配慮だけはする)。そして、おさまったらハグやナデナデをしてあげる。何しろ本人もわかっていないのだからシンプルでいい。本人も大変なのである。
この「ほっとダウン」6割+「クールダウン」4割がシンプルで現実的だと思っている(もちろんこれでも例外はあるが)。
以上、イヤイヤ期についての理解と対応についてでした。
参考論文:
「子ども期の情動および感情の欲求充足と精神形成― 豊かな自然体験生活体験はいかに道徳観を発達させるか ―」(立花靖弘氏)
https://core.ac.uk/reader/229615260
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