1歳半~6歳(幼児期)

講座18 無言の愛

投稿日:2021年7月17日 更新日:

1.少年野球大会で敗れた息子

Yさんからの報告です。

息子のチームが大会に敗れました。
私は仕事で応援に行けませんでした。
これまでの彼の、家での個人的な努力も知っていました。
帰宅したらどう対応しようと思いました。

大事な大会だったのでしょう。

自主練習も重ねて来たのでしょう。

お母さんは応援に行くことができませんでした。

でも、負けたことは連絡があってわかったのでしょう。

家に帰って来た時にどんな言葉で切り出したらいいか…。

Yさんは迷いました。

結局、黙って抱きしめました。
それで充分でした。
あとは、彼から話始めたので、十分聞いてやりました。

黙って抱きしめた。

自分から話し始めた。

お母さんの「無言の愛」によって心が癒されたのでしょう。

エネルギーを補充できたので自分から話すことができたのでしょう。

「愛のスキル」で言えば、①②③を同時に使った対応だと言えます。

黙って抱きしめた。

深いですね。

 目 次
1.少年野球大会で敗れた息子
2.自分から話し始めた
3.彼が赤ちゃんの時の記録①
4.彼が赤ちゃんの時の記録①
5.「幸せ」の感じ方①
6.「幸せ」の感じ方②
7.まとめ

2.自分から話し始めた

私は、ハグされた後にこの子が自分から話し始めたという点に注目しました。

ずっと練習して来て臨んだ大事な大会で負けたのです。

彼にとっては大きな逆境です。

さぞ悔しかったでしょう。

子どもによっては、家に帰っても何も言わない子もいるでしょう。

ふてくされて機嫌を悪くする子もいるかも知れません。

様々な家庭の状況が考えられます。

その中でYさんの家庭では息子さんが自分から話し始めました。

彼は逆境を乗り越えたのです。

自分の中で(おでこの裏を使って)体験したことを整理できたわけです。

これは立派な小学生に育っている証拠です。

3.彼が赤ちゃんの時の記録①

Yさんは、息子が0歳だった時の育児記録を書いています。

息子と一緒に横になると彼は必ず私の方に体を丸ごと向けて眠る。
短い腕を伸ばして私の顔や首を触りながら眠る。
短い足を伸ばして私のお腹や腿にくっつけて眠る。

この時、彼は6ヵ月です。

Yさんは「添い寝」について詳しく記録しています。

6カ月の彼は自分からスキンシップを求めていますね。

育児のキーワードは「くっつく」です。

そして、この「くっつく」の時の母親の感情が大切です。

母親の感情が安定していることによって、子どもは皮膚を通してその感情を受け取ります。

母親の感情が不安定だとそれが伝わってしまいます。

この時のYさんはどんな気持ちだったのでしょう。

息子が自ら手を私の方に伸ばしてくる瞬間がなんとも幸せな時だ。
途中、お腹をすかせて息子が「う~」と声を出す。口を開けてお乳を探す。
まるで餌を入れてくれるのを待つ雛のようだ。
私が差し出してやるとすぐさま呑みだす。
添い寝しながらの授乳は犬のお母さんにでもなったような気分である。

どうですか?幸せいっぱいですよね。

だから赤ちゃんも「触りながら眠る」「くっついて眠る」わけです。

4.彼が赤ちゃんの時の記録②

眠りから覚める時、やはり息子は私を探す。
私がそばで寝ている時は私を見つけてニッコリする。
もしくは安心してまたウトウトする。

しかし、この幸せいっぱいの添い寝がいつもうまくいくとは限りません。

続きを読んでみましょう。

私がそばにいない時は反対を見て探し続ける。
その時にすぐに駆けつけてあげられたらいいのだけど、

間に合わないと彼は探し続けた反動で寝返ってしまう。
すっかり目覚めてしまった本人は「あーあー」と声をあげて私の登場を待つのである。

お母さんがいつもそばにいるとは限りません。

添い寝がうまくいったら、お母さんは起き上がってどこかへ行く時もあります。

そんな時、Yさんはどんなことを思ったか?

子育てにおいて超重要なことが書かれています。

じっくり解説しますよ。

息子が生まれて半年が経つ。
①半年前は体を私の方へ向けることもできなかった。
②腕を自ら伸ばして私に触れることもできなかった。
③お乳が欲しいからと自分から口を広げて探すこともできずに泣いていた。
④目が覚めて私がいないとすぐ泣いていた。

これは、生後6カ月以前の状態です。

「すぐ泣いていた」と書かれています。

それが、生後6カ月でこうなります。

たった半年かもしれないけど、本当にあっという間だったけど、息子はこのように愛着行動を示すようになり、すぐに泣かずに「探す」「声を出して呼んで待ってみる」ということができるようになっている。ねむりについてみるだけでも赤ちゃんの成長を見てとることができる。

どうでしょう。

どこが超重要か気がつきましたか?

「すぐに泣く」じゃなくなった

「探す」「声を出して呼んで待ってみる」ができるようになった

それを「成長」と捉えて喜んでいるわけです。

「すぐに泣く」じゃなくなったということは、「まだ泣く」ということでもあります。

でも、そこに目を向けるのではなく、「成長・発達」に目を向ける。

そして、それを喜んでいる。

だからこそYさんは、

「息子が自ら手を私の方に伸ばしてくる瞬間がなんとも幸せな時だ」

と感じたわけです。

そして、赤ちゃんはその幸せ感を安心感として受け取り、癒されて眠ります。

幸せが循環しているんですね。

5.「幸せ」の感じ方①

では、どうしたらYさん親子のように「幸せ」が循環するのでしょうか?

それは、

子育ての仕方を知っている

からです。

その証拠は次の一文です。

すぐに泣かずに「探す」「声を出して呼んで待ってみる」ということ が できるようになっている。

ここからYさんは「発達の仕方を知っている」ということがわかります。

しかもYさんはこのことを短い言葉で表現しました。

愛着行動

子育てにおける超々重要キーワードです。

愛着行動とは次の3つです。

赤ちゃんが「泣く」とか、「気を引こうとする」とか、「探す」というのは、

愛着行動ができるようになった!

という親の喜びなんです。

だからYさんは「幸せを感じた」わけですね。

「幸せ」というのは感じるものなのです。

そして、幸せを感じるためには知識が必要です。

ですから「子育て学」が必要なんです。

6.「幸せ」の感じ方②

もう一つ大切な「感じ方」を解説します。

Yさんは次のように記録していましたよね。

①半年前は体を私の方へ向けることもできなかった。
②腕を自ら伸ばして私に触れることもできなかった。
③お乳が欲しいからと自分から口を広げて探すこともできずに泣いていた。
④目が覚めて私がいないとすぐ泣いていた。

これはお子さんが6カ月になる前の様子です。

「できなかった」という言葉が並んでいます。

ここが大事なところです。

わかりますか?

「できなかった」ということは「できるようになった」の裏返しです。

「できるようになった」と言えるのが発達の順序を知っている証拠であったのと同様に、

「できなかった」と言えるのも発達の順序を知っている証拠です。

恐らくYさんは、子どもが泣いてばかりで何もできない状態を悲観しなかったはずです。

母親を探したり、声に出して呼んで待ってみたりする愛着行動は6カ月前後に表れます。

知識のある親は「まだできない」を受け入れられます。

Yさんは「あっという間だった」と書いていますが、

できない時期はそれなりに大変だったことでしょう。

でも、やがて来る成長を知っているので、お母さんも「待つこと」ができるのです。

そして、成長の喜びを大きく感じることができるのです。

愛着行動はまだできない。

この感じ方も知識があるからこそです。

子育ての仕方を知っているのと知らないのでは「幸せの感じ方」が大きく違ってくるのです。

7.まとめ

さて、Yさんの子育てはどうなったでしょうか。

野球大会で負けた息子さんはお母さんのハグによって「愛」を確かめました。

そして、自分から、自分の言葉で(脳で)話し始めました。

私はこれを「逆境を乗り越えた」と表現しました。

そうです。

小学生の時点での逆境を自分で乗り越えたのです。

赤ちゃんにも逆境はあります。

「お母さんがいない!」というのは赤ちゃんにとって命に関わる大変な逆境です。

この子は赤ちゃんの時から、そのたびに愛着行動を使って表現し、

Yさんはそのたびに赤ちゃんに愛情を注ぎ、

子どもはそのたびに逆境を乗り越えて来た。

その往復運動が何千回、何万回とくり返され、子どもをたくましくさせたのです。

息子さんはまだ小学生です。

お母さんの愛はまだ必要です。

でも、無言のハグだけで乗り越えられたのですからお母さんの対応は見事だったと思います。

そして、ここには登場して来ませんが、

お父さんもこうした状況を理解し、支えてくれているはずです。

なぜなら知識は共有可能だからです。

抱っこの大切さ、くっつくことの大切さ、添い寝の意味、愛着行動など、

これらは知識です。

「子育ての知識」を共有している家庭は最強です。

母親にとっては大きな助けになります。

そういう意味でも「子育ての知識」は男女ともに親になる前から必要だと考えるます。

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  1. […] 最後にこの記事に関連する本と、講座18「無言の愛」に登場したYさんの手記を紹介して終わります。 […]

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