講座53 「○○したら○○だからね!」
2.嫌子(けんし)の原理
3.「脅し」は強く保存される
4.人間脳で考えさせる
1.「○○したら○○だからね!」
「しつけ」だと言って、こんな叱り方をする方がいます。
「バンってやったら、もうオモチャ買ってやらないからね!」
「行かないんなら、置いて行くからね!」
「怒って言っているのとは違います」「しつけです」と当人は言います。
「どっちにしても意地悪じゃないの?」と私は思います。
私の中では「ダメな叱り方」の中の「脅す(おどす)」ですね。
「不安」というのは感情(気持ち)です。
「考えて行動する」のではなくて、仕方なく行動するだけです。
人間の防衛反応です。
「しつけ」に防衛反応(不安)を使うのは間違った子育てになります。
2.嫌子(けんし)の原理
その子にとって「嫌なもの」を出すと行動が変わりますよね。
「お父さん」を出すとコワイから言うことをきくようになる、とか。
これが「脅し」です。
似たようなものに「嫌子(けんし)の原理」というのがあります。
「道路で遊んでいたら車が来てびっくりした」という経験をしたら、「もう道路で遊ばないようにしよう」とか、「道路で遊ぶときは車に気をつけよう」と思うようになりますよね。
こんな風に「嫌な経験」によって、その子の行動が変わるのが「嫌子の原理」です(行動分析学という分野の言葉です)。
「脅し」と「嫌子の原理」
ちょっと似ていませんか?
実は、この「嫌子の原理」は、つい乱用したくなっちゃうものなんです。
「子どもの嫌がるもの」って、しつけに使いたくなるじゃないですか。
子どもの行動を変えるために便利なんです。
「お父さん」が怖い子は「お父さんに言うからね!」の一言で黙ります。
これは多分、お父さんに怒られた経験が今までにあったからですよね。
つまり「嫌な経験(嫌子)」です。
「脅し」と「嫌子」、似ていますよね。
でも本当は全然違うものなんです。
ここを区別できないと、つい「乱用」してしまうのです。
3.「脅し」は強く保存される
脅すのはダメです。それは「しつけ」ではありません。
親の都合で子どもを不安にしているだけです。
脳が委縮します。精神的なストレスです。「考える脳」が発達しません。
しかも、防衛経験は脳に強く保存されます。
自分の命に関わることだからです。
お父さんに怒られるから行動を変える
ご飯をもらえなくなるから行動を変える
そういう子に育ちます。
3.「しつけのつもりだった」
では、「道路で危ない目にあった」という嫌な経験との違いはなんでしょう。
言葉にしているかどうか
経験はあくまでも「自分の経験」なんです。
人に言われて動くものじゃないんです。
「前に危ない目にあったから気をつけよう」と思うのが経験です。
これが「嫌子の原理」です。
いい例にはなりませんが、「前にお父さんに怒られたから気をつけよう」と自分で考えたのなら、それは「嫌子の原理」です。「お父さん」が「嫌な経験」になって自分で自分の行動を変えているからです。
「遅刻したら先生に怒られた」という経験から「遅刻しないように気をつけるようになった」というなら「嫌子の原理」ですが、「今度遅刻したら廊下に立たせるぞ」と言ったら「脅し」ですね。教師としてはアウトです。
同じように、「オモチャ買ってあげないからね」も「置いて行くからね」も脅しです。そして、実際にそれを実行することを「罰」と言います。
「脅し」も「罰」も「しつけ」ではありません。
場合によっては虐待にもなりかねません。
虐待事件に「しつけのつもりだった」という理由が多いのは、「脅し」や「罰」を「しつけ」だと考えているからだと思います。
4.人間脳で考えさせる
そうは言っても「子育て」って大変ですよね。
子どもの行動を変えたい!と思うのは日常茶飯事です。「経験」を待っていられないので、口で言って何とかしたくなることがほとんどだと思います。
ではどうするか。
「バンってやったら、もうオモチャ買ってやらないかなあ~」
「行かないんなら、置いて行っちゃおうかなあ~」
笑顔でこう言うのです。
そうすると必然的に声も優しくなります。
絶対に、感情脳を刺激させない。
感情のスイッチが入らないようにするのなら、こういうのもアリです。
100点満点の方法ではありません。
いくら笑顔でこう言っても泣き出しちゃう子だっています。
「本当じゃない!」っていうのがバレちゃうくらいがいいのです。
このお母さん「行動を変えさせたい」わけですよね。
「言っちゃおうかな~」は、考えさせるキッカケに過ぎません。
大切なのは「考えさせること」です。
不適切な行動を減らすためには、本人に考えさせるのが一番です。
でも、日常的には難しい。
だから私たちは「言葉」に頼ります。
しかし、言葉は便利なものなので「刃物」にもなります。
特に、子どもにとって「嫌なもの」は乱用されやすいのです。
言葉を使うときのヒントになればと思って書きました。
参考文献:
「罰の効果とその問題点─ 罰なき社会をめざす行動分析学」
(神戸親和女子大学発達教育学部心理学科 吉野俊彦氏)