講座433 「1歳の壁」を乗り越えさせる方法

幼児が爆発的に言葉をしゃべるようになるのは1歳8ヵ月の頃からだと言われています。

1歳8ヵ月(20m)の平均語彙数は20~30語程度ですが、

2歳4ヵ月(28m)では400語以上にもなります。

この急激な上昇時期が「語彙爆発」です。

でも、今回はその爆発時期ではなく「爆発以前の時期」に着目します。

つまり、しゃべり出す前の赤ちゃんの頭の中です。

爆発以前に何が起きているのか?

これが今回のテーマです。

 目 次
1.発話は「突然」ではありません
2.語彙爆発も「突然」ではない
3.ホモサピエンスの赤ちゃんは推論力を持っている
4.「1歳の壁」を乗り越えさせる方法
5.まとめ

1.発話は「突然」ではありません

私の孫が初めて言葉を発したのは今年の7月4日のことでした。

「じいじ」

1歳3ヵ月でした。

孫に「じいじ」って言われたら、それは嬉しいですよ!

生きててよかったって思います。

でも、よく考えてみると、これは突然話せるようになったわけではありません。

私のことを「じいじ」と呼ぶのだということは、話せる前から知っていたはずです。

なぜなら、母親(私の娘)が私のことを「じいじ」と呼んでいましたし、

私自身も私のことを「じいじ」と呼ばせようとして、しきりにアピールしていたからです。

つまり、何度も「じいじ」という言葉を聞いていたので「JIIJI」という音のかたまりは記憶されていたのでしょう。

問題は、《人や物には名前がついている》ということをいつ理解したかということです。

2.語彙爆発も「突然」ではない

たとえば、赤ちゃんを抱っこしているお父さんが、ニンジンを食べているウサギを指さして、

「ウサギ」と言ったとしましょう。

この時、赤ちゃんは「これが『ウサギ』というのか」と認識できるでしょうか。

「え?この白いかたまりがウサギ?」

「このオレンジの野菜がウサギ?」

「この長い耳のがウサギ?」

「ニャンニャンじゃないの?」など、

急に言われても「USAGI」という言葉が何を意味しているのか曖昧なはずです。

こんなことはありませんでしたか。

「ニャンニャン」という言葉を覚えたら、犬も「ニャンニャン」だったり、トラのぬいぐるみも「ニャンニャン」だったり、「しまじろう」もニャンニャンだったりします。

こんな風に、言葉を獲得している途中の赤ちゃんは、《その言葉が何を指しているのか》が不安定です。

でも、赤ちゃんは何も考えていないわけではありません。

「あ、お父さんは、あの白い生きものが『ウサギ』っていうんだって教えているのかな?」

というようなことを考えているはずです。

これを「意味推論」と言います。

上のグラフに「意味推論のコツ」と書かれていますが、そのコツを獲得するのがだいたい1歳半で、語彙爆発はその後に起こるというわけです。

つまり、言葉を話せるようになる前の赤ちゃんは何をしているかというと、

考えている(推論している)

ということです。

3.ホモサピエンスの赤ちゃんは推論力を持っている

当たり前のことですが、赤ちゃんに対して、

言葉を話せない=言葉を理解できない

と考えるのは間違いです。

話せなくても考えています。

ですから、

こんなことや

こんなことをするのは意味のあることです。

では、この写真の赤ちゃんはお父さんが見せている絵本に出て来る言葉の意味を理解していると思いますか?

実は、0歳児の段階では「言葉には意味がある」ということはまだわかっていないと言われています。

0歳の乳児の言語学習の主眼は、おもに母語の音や韻律の特徴をつかみ、音韻の体系を作り上げることである。
(今井むつみ『言語の本質』2003)

私たちの母語は日本語です。

赤ちゃんはお腹の中にいる時から、お父さんやお母さんが話している言葉の特徴(音の種類やアクセントやリズムなど)を聴いて学習していると言われています。

誕生後は生活の中での声や絵本の読み聞かせなどによって「言葉の特徴」をさらにはっきり確認します。

こうやって、まずは、言葉の要素のひとつである「音」、つまり「JIIJI」や「RINGO」や「HAPPA」などを記憶していくわけです。

そして、

1歳を迎える頃から、本格的に単語の意味の学習が始まる。(今井むつみ『言語の本質』2003)

つまり、意味推論が始まるわけです。

ヘレンケラーはサリバン先生の教育によって《物には名前がある》ということに気づきましたが、どうやらこの能力は赤ちゃんが生まれつきに持っている(脳に備わっている)ようです。

実は言語学習をまだ本格的に始めていない赤ちゃんも、ことばの音と対象が合うと右半球の側頭葉が強く活動することがわかった。脳が、音と対象の対応づけを生まれつきごく自然に行う。これが、ことばと音が身体に接地する最初の一歩を踏み出すきっかけになるのではないか。(今井むつみ『言語の本質』2003)

お父さんが、「ウサギさんだよ」と言って目の前の動物を指さしてあげると、

「USAGI」という音と目の前の対象を結びつけることができる能力を赤ちゃんは生まれながらに持っているわけです。

ただ、推論がうまく行くためには条件が二つあります。

(1)「USAGI」という音(言葉)を以前から聞き慣れて(記憶して)いること

(2)「ウサギさんだよ」と言われる経験を何度かくり返すこと

そうやって乳児は「これはウサギだ」ということを推論し、言葉と共に認識していくわけです。

ここまでを整理します。

胎児期・乳児期:「言葉の特徴(韻律)」と「言葉(意味以外)」を記憶する

1歳頃:生まれつき持っている推論力によって「言葉には意味がある」「その言葉の意味」を認識する

1歳半頃:教えてもらうコツをつかむ

2歳前後:語彙爆発

ところで、この中で赤ちゃんにとって一番難しい所はどれだかわかりますか?

次はそのことについて解説します。

4.「1歳の壁」を乗り越えさせる方法

赤ちゃんにとって最も難しいのは「言葉には意味がある」ということと、「その言葉の意味」を知ることです。

これを「1歳の壁」と呼ぶことにします。

1歳の赤ちゃんに「こんにちは」と言ってもポカンとするでしょう。

「KONNICHIWA」という音は記憶の中に保存されているかも知れませんが、それが「こんにちは」という挨拶だということは理解できないはすです。

私は孫が生まれてから娘の家に週3回くらいの割合で通いました。

玄関に入って、リビングの戸を開ける時はそっと入ります。

孫が起きているかものか、眠っているものか分からないからです。

そうやって静かに戸を開けた瞬間、起きている場合は孫がこちらを見ます。

娘は「じいじ来たよ!」と言います。

私は笑顔で「バアー」と言います。

孫もニコニコし始めます。

毎回このパターンです。

この何でもないようなやり取りの中に赤ちゃんの推論力を引き出す秘密が隠されています。

それが「オノマトペ」です。

ちょっと難しくなりますが『言語の本質』の中から該当する箇所を抜き出してみます。

オノマトペは外界の感覚情報を音でアイコン的に表現するが、そのとき、脳はその音を、環境音と言語音として二重処理するのである。

これだけを読むと何だかさっぱり分かりませんが「二重処理」というキーワードだけ覚えておいてください。

もう一箇所抜粋します。

この二重性は、脳がオノマトペを言語記号として認識すると同時に、ジェスチャーのような、言語記号ではないアイコン的要素として認識していることを示唆している。

「アイコン性」というのは《ひと目でわかる》ということです。

《説明しなくてもわかる》と言ってもいいでしょう。

「ブーブー」は車を意味する言葉ですが、車が走っている様子も表していますよね。

「パクパク」は食べることを意味する言葉ですが、同時に口を動かす動作を表しています。

「アーン」は口を開けてという指示を意味する言葉ですが、口を開く動きも表しています。

つまり、オノマトペは「意味」と「動作」の両方を持つ傾向があるわけです。

「こんにちは」の代わりの「バアー」もオノマトペです。

「バアー」というオノマトペには、「じいじが来た!」という意味と、「笑顔」という表情と、「やったあ!」という感情が含まれています。

わかりましたか?

こうすると、「バアー」だけで、「言葉には意味がある」ということが《説明なし》で伝わりましたよね。

これがオノマトペの持つ性質です。

そして、「1歳の壁」を乗り越えるための助けになるのがオノマトペです。

赤ちゃんにとって最も難しいのは「言葉には意味がある」ということと、「その言葉の意味」でした。

しかし、オノマトペを使うと、音だけで意味が伝わりやすくなります。

しかも、赤ちゃんは推論力を持っています。

「ブーブー」というのは《あの走っている物体のことだな》というように理解します。

「アーンして」と言われると《口を開けろってことか》と分かります。

「ブーブー」も「アーン」も「バア―」も言葉です。

0歳期にこのような体験を重ねていくうちに赤ちゃんは《言葉には意味がある》ということを知り、《その言葉の意味》も自然と理解できるようになるわけです。

このような体験を「記号接地」と言います。

AIには不可能と言われている体験です。

そして、赤ちゃんが成長するにつれて両親のオノマトペは《ちゃんとした言葉》に変化していきます。

「アーンして」だったのが、「お口開けて」になったりします。

変化しても赤ちゃんには推論力があるので分かります。

「お口開けて」は「アーンして」のことだな!

こうやって語彙爆発につながって行くわけです。

5.まとめ

乳幼児精神医学の第一人者であるD.N.スターンは次のように言います。

両親は常に、乳児を了解可能な人間として、つまり、これから乳児が踏み入る発達領域に働きかけることによって、そうなるであろう人間として扱います。『乳児の対人世界・理論編』(1989)

赤ちゃんは話せないから《何もできないんだ》とか、《話しても通じないだろう》などと思うのではなく、

「人間として」接することで発達する

たとえ発達の順序が分からなくても、「人間として」接していれば、赤ちゃんは自分の能力を使って発達します。

よく《子どもは放っておいても育つ》などと言われますが、それは違います。

ちゃんと人として接していなければなりません。

それが前提です。

そして、可能であれば子育てにおける「発達順序」を理解した上で接すると、子育てに対する自信がつくでしょう。

語彙爆発までの発達順序を復習して終わります。

【胎児期・乳児期】「言葉の特徴(韻律)」と「言葉(意味以外)」を記憶する

【0歳期】オノマトペを使ってコミュニケーションを楽しむ

1歳頃】生まれつき持っている推論力によって「言葉には意味がある」「その言葉の意味」を認識する

1歳半頃】教えてもらうコツをつかむ

2歳前後】語彙爆発

どうですか?

具体的な接し方が見えて来ますよね。

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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1件の返信

  1. 2024年1月22日

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