講座304 ギフテッド(天才の育て方)

所詮アンタはギフテッド
  アタシは普通の主婦ですと(「Habit」SEKAI NO OWARI)

と、Fukase君が歌って有名になりましたが、

今回はこの「ギフテッド」について正しく勉強しておきたいと思います。

 目 次
1.「ギフテッド」って何?
2.ギフテッドに対する誤解
3.ギフテッドと発達障害
4.「課題」先進国・日本
5.未来の教育

1.「ギフテッド」って何?

ウィキペディアには次のように載っています。

ギフテッドとは、同世代の子供と比較して、突出した知性と精神性を兼ね備えた子供のことである。(アメリカ合衆国教育省の定義)

簡単に言えば「天才」のことです。

天才っていうのは、努力して、勉強して、天才になるわけじゃないですよね。

生まれつき優れた能力を持っているわけです。

ですから「神から与えられた才能(贈り物)」という意味でギフテッドと呼ばれるようです。

IQ(知能指数)でいうと130以上の人が該当すると言われています(右端)。

パーセントでいうと約3%くらいの人たちです。

教室でいうなら35人学級に1人は存在します。

あなたの教室にギフテッドはいましたか?

「ギフテッド 有名人」で検索するとたくさんの記事がヒットします。

たとえば「ギフテッドコム」というサイトでは次のように紹介されています。

シャロンストーン IQ154
ビルゲイツ IQ160
クエンティン・タランティーノ IQ160
中野裕太 IQ140
岩崎ひろみ IQ154
ロザン宇治原 IQ148以上
所ジョージ IQ138
ビートたけし IQ132

ほかのサイトでも調べると、まだまだヒットします。

マークザッカーバーグ IQ152
アルベルト・アインシュタイン IQ160
スティーヴン・ホーキング IQ160
レオナルド・ダ・ヴィンチ IQ205
ジョン・フォン・ノイマン IQ300

ここに登場した人たちは大人です。

でも、「ギフテッド」は教育現場における「天才児」を意味する場合が多いです。

ギフテッドとは、同世代の子供と比較して、突出した知性と精神性を兼ね備えた子供のことである。(アメリカ合衆国教育省の定義)

これはアメリカの定義ですよね。

アメリカは、ギフテッド教育の先進国なのです。

残念ながら日本はかなり遅れています。

令和3年7月14日にやっと国の中央教育審議会が「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」という会議を開きました。

この会議では日本の現状を次のようにまとめています。

我が国においては、これまでスポーツや文化などの分野では学校外において特異な才能を伸長するシステムが作られてきているが、特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する教育(以下、「才能教育」という。)に関し、我が国の学校において特異な才能をどのように定義し、見いだし、その能力を伸長していくのかという議論はこれまで十分に行われてこなかった。

民間ではシステムをつくって実施しているところもあるのに、文科省では議論することさえしてこなかったという反省ですね。

令和3年になって、ようやく話し合いが始まったのが日本の現状です。

ちなみに、日本では「ギフテッド」という言葉は用いずに「才能教育」と呼ぶそうです。

2.ギフテッドに対する誤解

ギフテッドに対するイメージが持てましたか?

「天才」だとか「IQが高い」といったイメージになりますよね。

でも、それだけだと誤解してしまうんです。

原因は「IQ(知能指数)」についての知識不足です。

IQ(知能指数)は知能検査で測ります。

よく使われるのが WISC(ウィスク)という知能検査です。

WISCの数値と勉強法(プロ家庭教師のジャンプ)

WISCには4つの検査項目があります。

「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4つです。

一番左に「全検査」とありますが、これは4つの検査項目の平均値です。

私たちが世間一般で「IQ」と言った場合には、この平均値を指しています。

たとえば、こんな結果が出たとします。

全検査(FSIQ)95

この子はIQが95ということです。

WISCでは、IQが90~109の範囲にあれば「普通」ということになります(存在率50%)。

でも、能力の中身を見ると各項目にバラツキがありますよね。

言語理解(VCI)109

VCIが109ということは、言葉の理解力が年齢相応かそれ以上ということになります。

処理速度(PSI)76

逆に、一番右のPSIは低いです。

これは、目で見た情報を素早く正確に処理する力が同年齢の子と比べると苦手だという見立てです。

こんな風にIQが95と言っても、得意な部分もあれば、苦手な部分もあるわけです。

凸凹(でこぼこ)があっても平均化されてしまうのでIQだけを見てもわからない

ですから、IQが130というギフテッドの子がいたとしても、凸凹があるかも知れないわけです。

もしかしたら、言葉の能力だけが非常に高くて、周囲の雰囲気を感じる推理力が極端に低いかも知れません。

天才だからといっても万能とは限らないわけです。

※補足:WISCは、2022年の2月からバージョン5が登場して検査項目が若干変更されています。

2.ギフテッドと発達障害

ギフテッドの存在率は約3%です。

普通とは違うので「特別」です。

周囲から「変ってる人」と思われてしまう場合もあるでしょう。

「天才」には、生きづらさを抱えている人が少なくありません。

また、ギフテッドの中には発達障害を抱えている人もいます。

そこで、Fukase君には申し訳ないのですが、理解するために分類・区別をさせてもらいます。

ギフテッドの中で発達障害を併せ持っている子は「2E(トゥーイー)」と呼ばれます。

Ttwice-Exceptional の略語で「二重に特別な支援を要する子」という意味です。

ギフテッドだけでも「普通じゃない」わけですよね。

更にその上に発達障害の特徴も併せ持っているので「二重に特別」で「2E」です。

ここで、2Eの子の生活の様子を見てみましょう。

 F君(小学校1年生)
・幼児期からプログラミングに没頭
・算数の授業で「では問題を解いてみてください」と言われると、もう解き終わっている
・国語の授業では平仮名も片仮名も読み書きできるのでワークに恐竜の絵を描いている
・でも、体育の際に着替えを一人で出来ない
・給食を食べるのがすごく遅い
・自分の好きなプログラミンの話を友達に一方的に話す
・ボール遊びの仲間に入れず癇癪を起こす
・癇癪を起こすたびに「ぼくなんかダメだ!」と言って泣く
 『発達教育』2022年9月号より

このように「天才という特別さ」と、「発達障害という特別さ」の両方を抱えている子が2Eです。

3.「特別」だからこそ配慮が必要

IQ130以上の有名人を見てもわかる通り、ギフテッドは社会の財産です。

ビルゲイツがいなかったら「windows」は生まれず、一般家庭にインターネットは普及しなかったかも知れません。

天才とは、常識にとらわれないものです。

常識を超えた創造性を持っているからこそ人類の進歩に貢献できるわけです。

それは、テクノロジーに限らず、エンターテインメントや芸術の世界でも言えるでしょう。

ギフテッドは社会の財産

ところが、日本においてはギフテッドへの理解が進んでいません。

鳴門教育大学准教授の小倉正義氏は次のように言います。

「天才」という言葉のイメージからか、天才児は一人で育っていくようなイメージを受けるのだろう。しかし、これは大きな誤りである。はじめから何でもできる人など、この世には存在しない。また、天才だからこそ、配慮が必要な部分も実は多い。『ギフテッド・天才の育て方』

先ほどのF君は小学校1年生にしてプログラミングが得意でした。

でも、学校の授業が退屈だったり、友達とうまく関われないなどの「生きづらさ」を抱えていました。

癇癪を起こすたびに「ぼくなんかダメだ!」と言って泣く

これは明らかに自分の心を傷つけています。

このようなことが続くと、発達障害であろとなかろうと
(純粋なギフテッドであろうと、2Eであろうと)

生きゆく意欲が弱まってしまいます。

それはひとりの人間としても不幸であり、社会にとっても損失となります。

ちなみに、F君のような子への配慮には次のようなことが考えられます。

・机の中に好きな本を入れておいて早く課題が終わった時に読んでもよいことにする
・時間が余った時はタブレットを使って検索などをしてもよいことにする
・発展問題などを用意してもらって取り組む
・困っている子をサポートする役にまわる
 『発達教育』2022年9月号より

こうした配慮は、学校の先生がギフテッドに対して理解していなければ難しいと思います。

ですから、保護者の側からお願いして配慮してもらうことも考えておくべきです。

本人の幸せと、社会の発展のために。

4.「課題」先進国・日本

浜松医科大学の杉山登志郎特任教授は言います。

我が国の教育は、「子どもの能力は同じ過程で発達する」という暗黙の了解によって成り立っている。『ギフテッド・天才の育て方』

日本の学校教育は、基本的に、すべての子どもたちに同じ内容・同じ目標の学習を求めています。

工夫するといっても、進度や教え方を工夫するのが限度であって、目標や内容は変えられません。

このやり方は、戦後の高度経済成長期には効率的な教育システムだったと思います。

事実、すぐれた労働力を生み出して、1972年には世界第2位の経済大国になりました。

しかし、このシステムが今後も最適であるとは限りません。

MONOist「ファクトから考える中小製造業の生きる道(2)」

日本はOECDで唯一「長期的な経済低迷」を続けている国です。

加えて、この先には「2040年問題」が待っています。(講座276「0~3歳児が生きる将来の日本」

これまでに他国が経験したことのない「課題先進国」であるというのが日本の現状です。

課題の一つに「人口減少・少子高齢化」があります。

これは何を意味しているかというと、

「一人」の価値が高まっている。

ということです。

全体の人口が減る中で、「支える人」が減り、「支えられる人」が増えるわけですから、

これまで以上に一人一人が頑張らなければ今のような世の中は維持できないということです。

「量」ではなく「質」

大量生産・大量消費の世の中はとっくの昔に終わりました。

しかし、学校教育のシステムは昔のままです。

人材育成

これこそ学校教育の使命だったはずです。

個別最適

一人一人に適した教育こそが今後の希望です。

学校教育はすべての子どもたちを大切にすべきシステムですが、

ギフテッドに対する配慮が遅れている日本にとっては、ギフテッドへの理解と対応が急務です。

ギフテッドを含めたすべての子どもたちの個性・能力が活かされる制度を構築しなければならないと考えます。

5.未来の教育

最後に、杉山登志郎氏の著書『ギフテッド・天才の育て方』をもとに、日本の教育に必要なシステムを提示して終わりにします。

(1)IQ(知能指数)だけで判断しない!

知的障害の判定にはIQが必要でしょうが、社会で必要とされる能力をIQだけで測ってはならないと思います。

教育心理学者であるガードナーは人間の知能を8つに分類しました。

ガードナーのMI理論(多重知能理論)です。

①音楽・リズム知能(音楽が得意)
②対人的知能(人づきあいが得意)
③論理・数学的知能(数学が得意)
➃博物学的知能(調べるのが得意)
⑤視覚・空間的知能(図形が得意)
⑥内省的知能(自分を活かすのが得意)
⑦言語・語学知能(読んだり書いたりが得意)
⑧身体・運動感覚知能(運動が得意)

IQだけで判断するのでなく、その子の強みを育てていくシステムが求められているのではないかという視点です。

(2)多様なニーズに応えられるシステムが必要!

アメリカには「全校履修強化モデル」という教育システムがあります。

SEM(Schoolwide Enrichment Model)

SEMでは、まず初めに「どんな勉強をしたいか」を調査します。

こんなアンケートです。

もし私が授業で学習するなら、次の10個について学びたい。
答えはよく考えて、今いちばん思っていることにマルをつけよう。

このように子どもの興味・関心に基づき授業の計画を立てるところから始めます。

そして、それを教える側の授業者には、その分野において専門的なスキルを持ったスタッフを配置します。

スタッフは教師に限らず、公務補さんでも養護教諭でも校長先生でも給食のおばちゃんでも構いません。

地域に住んでいるゲストティーチャーという場合もあるでしょう。

要するに、教える側もその分野が「得意な人」「好きな人」を充てます。

さらに、授業スタイルもその子に適した方法が選択されます。

その子の「興味・関心」に応じて、その子の「学びやすい環境」で、その子の「好きな発表スタイル」で教育が行われるわけです。

(3)特別支援教育の対象をギフテッドにまで広げよう!

現在の日本では、特別支援教育の対象者が次のようになっています。

パッと見てわかる通り、「障害」という言葉が目に付きます。

しかし、もしここに、「ギフテッド」が含まれると世界は全く変わります。

どう変わるかと言いますと、より広い意味での「一人一人に応じた教育」という考え方が求められるようになるということです。

そうなると、まず、教師が変わらなければならなくなります。

日本の特別支援教育の現状は、どちらかと言うと「お守り(おもり)」です。

杉山登志郎氏は次のように指摘しています。

現在の我が国における特別支援教育の専門性の低さは、障害児のお守りをしているだけといった言われ無きべっ視に一つの根があるのではないかとかねてから感じてきた。それなくして、どうして、通常学級を持たせられない教師を特別支援教育の担当に回すという発想が生じるであろう。しかし「ギフテッド」を特別支援教育の対象にすることによって、このような事情は大きく変わらざるを得ない。『ギフテッド・天才の育て方』

ギフテッドに対する教育は、その子の幸せと社会の財産を生み出すだけでなく、その国の教育のシステムを抜本的に改革する力を持っているということです。

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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3件のフィードバック

  1. タミー より:

    ギフテッドについて、歌から分かりやすく詳しく説明してくださりありがとうございます。
    35人に1人とは、身近な確率ですね。
    人と揃えづらいタイプのお子さんがおられるのですね。
    始まる時間とか揃えたいところはあります。
    ギフテッドなのか、調子が良くないのか、いやいや、こちらの授業力なのか。
    様々な可能性の視点で、広く子どもたちをみていきたいと思いました。

  1. 2022年11月8日

    […] 講座304「ギフテッド(天才の育て方)」でも解説しましたが、たとえ発達障害を抱えていても、その子の個性は社会の財産なのです。 […]

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