講座528 発達障害の子の育て方

発達障害を自閉症とかADHDとか、学習障害、LDと呼んだりする。基本的には私はね、そういうふうに区分けをして、細分化して、子供を考えることは、私個人は好きではありません。
これは2017年に81歳で亡くなられた日本を代表する児童精神科医の佐々木正美先生のお言葉です。
2013年2月17日に愛知県で開催された講演会「発達障害の子どもと本当にわかり合うとは」(主催:日本知育玩具協会)から学ばせていただいた内容の一部を私が要約して示しました(文責水野)。
「発達障害」という言葉は、もうほとんどの人が知っているワードですよね。
正式には「神経発達症」ですが、こちらの方はほとんど使われません。
「障害」という言葉の方がインパクトがあるので、メディアでもSNSでも日常会話でも、こちらの方が定着してしまったのだと思います。
しかし、佐々木正美先生のように、原点に帰って、発達障害を大枠で捉えることが今だからこそ必要な気がしています。
そんな意味で冒頭に「エジソン」のイラストを用いました。
昔は、発達障害を語る時に「エジソン」は原点でしたよね。
今回は発達障害を原点に帰って「発達障害の子の育て方」をまとめてみたいと思います。
2.補い、助け合えばいい。
3.みんなと同じでなくたっていい。

1.境界線はない
理解の基本はまずこれですね。
境界線はない。
いわゆる「スペクトラム(連続体)」です。
佐々木正美先生は50年近く児童精神科医として沢山の子供達と接して来られました。
半世紀近くです。
そのご経験から次のように述べられています。
誰にもある個性、特性、資質、そういったものが「強くある子ども」、「やや強くある子ども」、「薄らぐ子供」、「そうでないと思っている子供」、「わずかにある子供」といろいろいるわけですが、発達障害のことを知れば知るほど《自分自身の中にも発達障害の要素がある》ということがわかってきます。はっきりわかってきますね。だんだんだんだん、はっきりしてくるということが言えると思うんです。(前掲講演会でのお話・文責水野)
境界線はない。
しかも、誰にでもそういう要素はある。
そういう理解の仕方は基本中の基本ですよね。

2.補い、助け合えばいい。
次がこれです。
補い、助け合えばいい。
誰にでも《得て・不得手》はあります。
《長所・短所》があります。
それが特性です。
ですから「助け合い・補い合い」が大切になります。
助けてもらえば嬉しいじゃないですか。
助けた方も嬉しくなります。
「有り難う」って言われたらますます嬉しいです。
人間の脳は複雑ですが、本能を司る部分はシンプルです。
本能の基本は《快/不快》です。
ここで重要なのは、まず《自分が「快」になること》です。
私は言葉を選びました。
《自分を「快」にすること》ではありません。
《自分が「快」になること》です。
正確に言うと《不快を避けて快を求める》ということです。
それが本能の根本原理です。出典:ロボマインドプロジェクト第543弾「汎用人工知能まであと一歩」
そして、次に重要となるのが《自分以外の人間もこの根本原理に従って動いている》ということです。
ここで、ちょっとややこしい話をします。
本能の根本原理は人間以外の動物でも持っていますが、《自分以外の人間もこの根本原理に従って動いている》ということを理解できるのは人間だけです。
つまり、他人もまた《不快を避けて快を求める》という原理に従っているということを理解できるのが人間です。
それが《共感》とか《思いやり》です。
《これをしたら喜ぶだろうな》とか、《これをしたら嫌だろうな》と思う能力です。
それが「助け合い・補い合い」です。
発達障害に境界線はありません。
スペクトラムです。
誰にでも《得て・不得手》はあります。
それを助け合い、補い合うのが人間社会です。
もしも、発達障害の人がいるなら、助け合い、補い合えばいいだけの話です。
そして、発達障害の人は社会にとって必要な存在であり、人類はその恩恵を受けていることを忘れてはなりません。
多くの現代人が「エジソン」の恩恵を受けて生きているのですから。

3.みんなと同じでなくたっていい。
発達障害を大枠で捉えるためのキーワードは3つしかありません。
最後はこれです。
みんなと同じでなくたっていい。
佐々木正美先生は言います。
マイナスの部分ばかりが多い子だとは決して思わない。
ひょっとしたらこの子、将来、一芸に秀でた特別な子になるんじゃないか、素晴らしい人になっていくんじゃないか。
そういう可能性を大いに信じながら育てていただきたい、こう思います。本当のお話です。(前掲講演会でのお話・文責水野)
それは「エジソン」を引き合いに出すまでもないでしょう。
社会の中で、歴史の中で、《特別な能力》や《秀でた一芸》がどれだけ役立っているか、人を救っているか。
ところが、育て方を間違っていまう親や教師は少なくありません。
佐々木正美先生は言います。
ところがそう思わないでダメなことばかりを子供に伝えたり、お母さんもそう思ってしまうなりすると本当にダメな人間になります。欠点、弱点ばかり指摘される、いつも叱られている、こういうようなことの結果、とっても不幸な障害が起こることになる。(前掲講演会でのお話・文責水野)
多分ですね。
親や教師が「欠点、弱点ばかり指摘」するのは、学校というシステムがその背景にあるからだと思います。
学校のシステムというのは大きく2つです。
(1)規則を守ること
(2)満遍なく勉強ができること
(1)は言わずもがなですよね。
先生の言うことをきいてトラブルを起こさないのが「良い子」だということです。
親や教師はそこからはみ出した場合に「指摘」するはずです。
(2)は「満遍なく」というのがポイントです。
学習指導要領の内容は「満遍なく」あります。
中間テストには5教科があり、期末テストとなれば9教科全部勉強(暗記)しなければなりません。
満遍なく勉強するのが「良い子」です。
この(1)と(2)をまとめて表現したのが「みんなと同じように」です。
それを「普通」とも言います。
それに対して発達障害の子は「普通」からはみ出す場合が少なくありません。
だから「指摘」されやすいのです。
そして、問題はその「指摘」の仕方です。
《なんでそんなことが出来ないの!》とか、《言われたことをちゃんとやりなさい!》などといった頭ごなしの叱責だと花は開きません。
スウェーデンには「大半の子どもはタンポポだが、少数の子は蘭である」という諺があるそうです。
タンポポは、それほど綺麗な花ではないが、どんな環境でもよく繁殖するので、わざわざ手間暇かけて育てようとする者はいない。
一方、蘭はきちんと管理してやらなければ枯れてしまうが、丁寧に世話をすればそれは見事な花が咲く。出典:エリック・バーカー著; 橘玲訳『残酷すぎる成功法則』
発達障害の子は「タンポポ」ではなく「蘭」です。
世の中で「見事な花を咲かせる」タイプの人です。
そのことが脳科学の研究から明らかになってきています。
脳内にはドーパミンという神経伝達物質があります。
意欲・やる気のホルモンとも言われます。
このドーパミンは《存在するだけ》では働きません。
神経伝達物質は電気信号の「伝達」の仲介役ですから、それを受け取る側の存在も必要です。
それが「受容体」です。
ドーパミンを受け取る受容体は「ドーパミン受容体」です。
この「ドーパミン受容体」にはD1、D2、D3、D4、D5の5種類があります。
主に、D1とD5は興奮系、D2、D3、D3は抑制系です。
最近の研究では、この5つの中のD1とD2、D4の働きが解明されてきました。出典:「ひらめき 神経系レポート」 Akira Magazine
それをまとめたのが次のイラストです。
D1とD2は一緒に働いて、報酬や期待でやる気を上げます。
D2は、その陰で単独で働いていて、労力やコストがかかると分かっても頑張る働きをします。
D4は、興味や好奇心などの探索行動の働きをします。
ここまでは一般的に誰にでもある脳の働きです。
しかし、D4には突然変異で「DRD4-7R」という受容体が発生する場合があります。
その存在率は「全人口の2割」と言われています。出典:「旅から学ぶアドベンチャーとは?遺伝子との関係性について考える。」玉川大学TAPセンター・村井 伸二(2021)
「2割」ですから結構多いですよね。
そして、このDRD4-7Rの別名が「冒険家受容体」です。
人がやらないことをやる。
チャレンジャー、開拓者、目立ちたがり屋などです。
今で言えば、人力車でアフリカ縦断を果たしたガンプ鈴木さんみたいな人です。
ガンプさんは《自分にしか出来ないこと》《世の中の人のためになること》をしたいという欲求で行動を起こしました。
多分「DRD4-7R」を持った人なのではないかと思います。
しかし、この「DRD4-7R」はいいことばかりではありません。
アルコール依存症や暴力性にも関連があると言われています。
『残酷すぎる成功法則』の著者・エリック・バーカーは次のように主張します。
7Rを持つ子が虐待や育児放棄など、過酷な環境で育つとアルコール依存症やいじめっ子になる。しかし良い環境で育った7R遺伝子の子たちは、通常のDRD4遺伝子を持つ子たち以上に親切になる。つまり同一の遺伝子が、状況次第でその特性を変えるというわけだ。 出典:エリック・バーカー著; 橘玲訳『残酷すぎる成功法則』
「7R」というのは「DRD4-7R」のことです。
私の教職経験でも「DRD4-7R」を持っていたであろう子供達がたくさんいます。
その子たちは皆、素直で、子供らしく、普通以上に親切です。
しかし、まわりの子が、その子のことを理解してくれないことがあります。
まわりの子どころか、親や親戚などが理解してくれない場合もあります。
それは「良い環境」ではありません。
「良い環境」とは何でしょう。
佐々木正美先生の言葉です。
穏やかに、緩やかに日々、配慮をしながらお育てになっていく。
大きくなるにつれて、いろんなことが、いろんな形で凸凹を持ちながら、成長していくわけです。
しばしば楽しみですよ。どんなことを大きくしでかす子供になっていくか、大人になっていくか。
どんなことに突出した能力を示すような人間になっていくか。
本当にそうですから。
そこの楽しみを上手に、そういう楽しみがあるんだからいい、今はね、無理にこんなことをみんなと同じようにいつもいつもできなくたっていいんです、というふうに考え過ぎない教えてくださるといいです。(前掲講演会でのお話・文責水野)
深いお言葉です。
1.境界線はない
2.補い、助け合えばいい。
3.みんなと同じでなくたっていい。
発達障害を原点に帰って「発達障害の子の育て方」をまとめてみました。

優しい言葉がたくさん散りばめられてて心が温かくなりました。
7Rという脳科学的なことも勉強になりました。
佐々木正美先生の言葉は本当にお優しいですよね。
コメントありがとうございます。
タンポポではなくてランという言葉、前向きになれました。ありがとうございます。
娘は、登校はするものの、登校時間は給食の時間なので、正直、勉強について、少し心配してました。しかし、持って帰ってくるテストの殆どが満点。私と勉強する時は、字1つ書くにも嫌々なのに。
柔道でも、まさかのデビュー戦一本勝ちで、娘はどうやら本番に強く、大事な所で集中力を発揮できる才能があるようです。
ランを咲かせると信じ、手間を掛けていきたいと思いました。
すごいですね!ここまで来ればもう安心です。
特に運動は脳の社会性を発達させます。
《好きなことに集中する》ということが発達につながります。
あとは、無理せず《癒しの時間》もつくることです。
ボーっとしたり、おいしいものを食べたり…。
また会えるのが楽しみです。(^^)/