講座299 思いやりを育てる方法(前編)
2.「思いやり」とは
3.言葉にしてあげる
4.相手の気持ちを想像する力
5.まとめ
1.こんな子に育って欲しいランキング
みなさんは我が子に対して、どんな子に育って欲しいですか?
勤務していた中学校で全家庭にアンケートをとったことがあります。
そしたら1位は「思いやりのある子」でした。
「へえ~、中学校でもそうなんだ」と意外でした。
これは10年ほど前の話です。
今はどうなのかな?と思って検索してみたところ、こんな感じでした。
未だに多いんですね。「思いやりのある子」。
でも、疑問です。保護者の皆さんは、
どうすれば「思いやりのある子」に育つのかを知っているのでしょうか?
そこで今回は「思いやりのある子」の育て方を確認したいと思います。
2.「思いやり」とは
「思いやり」というのは能力です。
相手の気持ちを想像する力のことを「思いやり」と呼ぶわけです。
「思いやり」は次のように発達します。
自分の気持ちを言葉にできる力が身についたのちに、相手の気持ちを想像する力が身につく。
相手の気持ちを想像するときの「想像」は頭の中で言葉を使って行われます。
ですから「気持ちを言葉にできる」ということがとても大切になります。
その「気持ちを言葉に」の最初の段階は「自分の気持ちを言葉にできる能力」です。
気持ちのことを「情緒」とも言います。
情緒は何歳くらいに、どのように発達するかを知っていますか?
こんな感じです。
新生児期は興奮で泣くだけですが、赤ちゃんはやがて「快/不快」で泣くようになります。
6ヵ月くらいになると「~して欲しい」といった「要求」で泣くようになりますよね。
それがうまくいくと「やったー!」「ウレシイ!」といった満足や成功体験になります。
失敗すると「怒り」「嫌悪」「恐れ」「不安」などの気持ちが発生します。
自分の気持ち(情緒)の種類は増えていきます。
でも、待ってください!
赤ちゃんは言葉を知りませんよね。
情緒はどんどん分化しますが、それを言葉と結び付けてあげないと「言葉にする力」は育ちません。
自分の気持ちを言葉にできるのは1歳半くらいでしょうね。
でも、その準備は月齢3ヵ月以前からやっているはずです。
赤ちゃんを育てる時にお母さんは、
「おなかすいたのかなぁ~」
「オムツ濡れて気持ち悪かったねぇ~」
「ああ、気持ちいいですねぇ~」
などと言葉をかけて「快/不快」に対応しますよね。
気持ちを言葉にしてあげる。
実はこれが人生最初の「思いやりの育て方」なんです。
3.言葉にしてあげる
気持ちを言葉にしてあげることが本格的になるのはイヤイヤ期です。
イヤイヤ期への対応を覚えてますか?
言葉にできた場合には、その言葉をくり返してあげる。
言葉にできない場合には、大人が言葉にしてあげる。
つまりこれは「気持ちを言葉にする力」を育てているわけです。
イヤイヤ期はそのために必要なのかも知れませんね。
幼児期には、こんな風にして自分の気持ちを代弁してもらいながら育ちます。
このことがどういう意味を持っているのか。
「思いやり」の育て方と照らし合わせてみてください。
「思いやり」の発達順序:
自分の気持ちを言葉にできる力が身についたのちに、相手の気持ちを想像する力が身につく。
その土台づくりは赤ちゃんへの「言葉かけ」から始まっていましたが、
言葉でのやり取りが本格的に始まるのは1歳半以降です。
乳児期:自分の気持ちを言葉でかけられる
幼児期:自分の気持ちを言葉にしてもらえる
こうした過程を経て、3歳、4歳くらいで自分の気持ちを言葉で表現する力が身につくわけです。
4.相手の気持ちを想像する力
では次に、「相手の気持ちを想像する力(想像力)」の発達を見ていきましょう。
この能力も新生児期から育ち始めます。
「え?新生児が相手の気持ちを想像できるの?」
と思われるかも知れませんが、能力というのはその土台となる部分から順番に発達するものです。
相手の気持ちを想像する能力にも土台があるのです。
その土台となるのは、赤ちゃん時代の「あること」です。
それが何だか答えられますか?
ヒントはこのイラストです。
気づきましたか?
それは「視線」です。
赤ちゃんは大人たちの視線の中で過ごします。
大人と目が合って、笑いかけられたり、呼びかけられたりする中で「自分」を認識していきます。
視線によって自分を認識することを発達心理学では「人との二項関係」と言います。
これが乳児期の前半における「想像力の土台」なんです。
認識してましたか?
赤ちゃんと目を合わせることが「思いやり」の第一の土台になるんです。
次に第二の土台です。
それは5ヵ月頃から始まります。
これです。
注視(見つめる)
物を見つめること「物との二項関係」です。
この写真にあるおもちゃは、「つむちゃんのお母さん」から教わって私が私の孫に購入したものです。
とても役に立っています。
このおもちゃのほかにも手作りモビールをぶら下げています。
どちらもよく使われています(めっちゃ注視しています)。
これが「思いやり」の第二の土台です。
認識してましたか?
こうしたおもちゃが「思いやり」を育てるって?
これが5ヵ月くらいです。
赤ちゃんはそれから徐々に物に対する興味の範囲を広げていきます。
・おもちゃに手をのばす
・ガラガラを振って音を楽しむ
・つかんでいた物をわざと落とす
こうした行動がどうして「思いやり」と関係があるのでしょう?
一旦整理しておきましょう。
①大人からの視線によって「人との二項関係」を築く
②おもちゃによって「物との二項関係」を築く
③
次にどうなるか予想できますか?
二項関係の次は三項関係です。
共同注視(ジョイントアテンション)
人との二項関係、物との二項関係を結ぶことのできるようになった赤ちゃんは、この二つを統合させることができるようになります。
たとえば、お母さんがお花を見ていたら、その視線の先を追っていくようになります。
これが「共同注視(ジョイントアテンション)」です。
共同注視では、「お花、咲いてるねえ」という言葉も大切ですが、視線に意味があります。
このイラストではお母さんの両手がふさがっていますよね。
お母さんは視線で合図するしかありません。
この時に赤ちゃんがお花に目をやったとしたら、それは多分、視線に意味があったのです。
【共同注視】とは、他者の注意を感じ取ってその注意の方向を追いかけること
他者の注意を感じ取るのが共同注視です。
子どもは1歳前後になるとこの能力を獲得します。
他者の注意を感じ取る
どうですか?
「思いやり」と関係がありそうですよね。
さらに、共同注視は「視線」のほかに「指さし」でも可能です。
「ほら、虫さんがいるよ」と言って指をさす。
お母さんが指をさして、赤ちゃんが虫を見たらジョイントアテンションの成立です。
「え?指さしでもいいの?」
「視線を感じ取らなくてもいいの?」
という気もしますが、指さしでも共同注視は成立します。
なぜなら、
【共同注視】とは、それまで自分の目でとらえられていない世界に目をやること
だからです。
赤ちゃんはそれまで虫に気づかなかったわけですよね。
「あ、ほんとだ。虫がいる」
「お母さんはこれを見せたかったのか」
そんなことを思うかどうかは分かりませんが、
共同注視によって世界は広がるのです。
それまで自分の目でとらえられていない世界がある
どうですか?
「思いやり」と関係がありそうですよね。
ここまでを時系列でまとめます。
①大人からの視線によって「人との二項関係」を築く(新生児期~)
②おもちゃによって「物との二項関係」を築く(5ヵ月頃~)
③共同注視ができるようになる(1歳前後)
④イヤイヤ期を通して自分の気持ちを「言葉」にできるようになる(1歳半頃~)
こうやって「相手の気持ちを想像する力」が発達していくわけです。
5.まとめ
今回の解説はここまでにしますが、「思いやりの育て方」には続きがあります。
①大人からの視線によって「人との二項関係」を築く(新生児期~)
②おもちゃによって「物との二項関係」を築く(5ヵ月頃~)
③共同注視ができるようになる(1歳前後)
④イヤイヤ期を通して自分の気持ちを「言葉」にできるようになる(1歳半頃~)
⑤一次の「心の理論」を獲得する(4歳頃~)
⑥二次の「心の理論」を獲得する(9歳頃~)
子どもは、①~⑥の順序で「思いやり」を身につけていきます。
ですから中学生になってから「思いやりのある子に育って欲しい」と願うのはどうなんでしょう。
親の願いは尊重しますが、その期待を子どもに背負わせてしまわないように気をつけたいものです。
思いやりを育てるステップ。
とても勉強になりました。
娘に対して、周りの方に促してもらいながら、意識なくこのステップを踏んでいたように思います。
学校の子どもたちとも、このステップを意識して今どの段階なのか考えながらかかわっていきたいです。心の理論も是非学ばせてください。
意識しないで、できるのは子育ての本能なのかもしれませんね。そういうことって多いと思います。しかし、その本能を使えなくさせてしまう環境が現代には多いのでしょう。そうした視点からもブログを書き続けていきたいと思います。