講座110 学校の先生の「普通の一日」【解説編⑤】教科書を開かせる
2.教科書を開かせる前につまずく子がいる
3.子どもの発達「三つの時代」
まずは上の動画をご覧ください。約1分です。
1.教科書を開かせる
あいさつをさせるでもなく、席に着きなさいと言うのでもなく、
何をしましたか?
ページ数を言ったのです。
「158ページ」って言ってましたよね。
これが第一声(先生が授業の最初に発した言葉)です。
なぜこの言葉を第一声に選んだのか。理由があります。
第一の理由は、「授業を始めるよ」という合図を送るためです。
そして、この言葉は「先生は待たないよ」というメッセージも含んでいます。
実際、もう始まっちゃってるわけですから。それで準備がまだの子は急いで席に着くわけです。
このことについては前回の講座109「席に着かせる」で解説しましたので省略します。
第二の理由は、ページ数を伝えるためです。
当然のことですが、教科書を使った授業ですので教科書を開かせなければなりません。
教科書を開かせるためにはページ数を伝えなければなりません。
以上2つの理由から授業の第一声は「158ページ」にしたというわけです。
どうですか?全く無駄がありませんよね。
無駄がなくて意図があります。
教師は、言葉を、このように選んで(考えて)、使っているのです。
あと一つ、つけ加えるならば、最初に発した言葉というのは記憶に残りやすいというのもあります。
これを「シリアルポジション効果(系列位置効果)」と言います。
シリアルポジション効果には2種類あります。
初頭効果:初めに言った言葉が記憶に残りやすい
終末効果:最後に言った言葉が記憶に残りやすい
「今日は教科書の158ページをやります」だと、
今日は/教科書の/158ページを/やりますよ
となり、「今日は」が最初になり、「やります」が最後です。
「今日は」と「やります」だけが頭に残って、「何ページだっけ?」となりやすくなります。
あとは声の大きさも違っていましたね。
「158ページ」の部分は明瞭に発していたと思います。
これは発声のスキルですね。
このように教師の言葉というのは、
無駄がなく、スキルがあり、意図があるわけです。
2.教科書を開かせる前につまずく子がいる
ところで、動画を見た皆さんに質問です。
ページ数はわかったと思います。158ページですよね。
では、158ページの何番だったかを覚えていますか?
覚えている方は記憶力がいい方です。
教室には覚えられない子もいるのが普通です。
向山洋一先生はこう言っています。
算数のお勉強が出来ないという子は、算数ができないからじゃないんですよ。
その前に出来ないことが山ほどあります。
たとえば、「教科書を机の上に置きなさい」と言って、教科書を出さない子がクラスに一人や二人いるんですよ。(PHPカセットテープ集『向山型教え方教室』第1集)
いるんです。必ずと言っていいほどどのクラスにもいます。
「教科書の32ページを開けなさい」と言うと、
今度その32ページを開けられない子がさらにいるんですよ。2~3人。
はい。わかります。
その32ページのうちの「5番の問題を指さしなさい」と言うと、
5番の問題を指させない子がいるんです。
いますね。キョロキョロしてやっと見つけられる子がいます。
今度はその「5番の問題の中に書いてある図をノートに写しなさい」と言うと
ノートに写せない子がさらにまた何人もいるんですよ。
さらに、「5番が終わったら6番をやりなさい」と言うと、
5番だけ終わってボーっとしていて、6番に行かない子も何人もいるんですよ。
ここまでは、普通の教室で、普通に見られる光景です。
保護者の皆さんには、これが「普通」なんだという認識を持って欲しいです。
もう一度確認します。
算数の勉強が出来ないという子は、算数ができないのではない。
その前につまずくということです。
①教科書を机の上に出せない
②ページを開けない
③問題番号を見つけられない
④ノートに写せない
⑤終わった後に何をしたらいいか分からない
こういう所でつまずく子が「クラスに1/3くらいはいる」と向山先生は言います。
私も共感できます。
では、なぜ、こうした子がクラスに1/3も存在しているのでしょう?
その原因を知ってますか?
3.子どもの発達「三つの時代」
子どもの発達には大きく分けて「3つの時代」があると向山先生は説きます。
1.愛着形成の時代(乳児期~幼児期前半)
2.お手本の時代(4~5歳くらい)
3.教科書の時代(小学校1~3年生くらい)
①教科書を机の上に出せない
②ページを開けない
③問題番号を見つけられない
④ノートに写せない
⑤終わった後に何をしたらいいか分からない
①~⑤のようなことが出来ないのは、
「教科書の時代」に教科書を使った授業をしていないからである。
と向山先生は断じます。
私もわかります。
いるんです。そういう先生が。
「教科書の時代」に教科書を使っていない先生
保護者の方々には信じられないかも知れませんが、数年前までたくさんいました。
地域の方や文教政策の議員さんなどにこのことを話すとびっくりされます。
一時期このことが全国で問題になりました。
特にひどいのが算数でした。
・教科書は机の中にしまわせる
・先生は画用紙や模造紙に問題を書く
・教科書ではなく黒板を写させる
・プリントばかり使う
こうしたことをやって算数の教科書は使わないのです。
どうして使わないか聞いてみたことがあります。
すると、
「だって教科書には答えが書いてあるでしょ」とか、
「教科書を使うと『考える力』が育たないでしょ」
などと言われました。
びっくりしましたね。
数年前までの学校にはこうした風潮があったのです。
それで「教科書以前」でつまずく子が「クラスに1/3くらい」存在していたわけです。
この続きはまた次回。
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[…] その理由については講座110「教科書を開かせる」に書きました。 […]