講座311 なぜ秋田県は学力が高いのか?

全国学力テスト、秋田はまた全国上位 全科目で平均上回る
文部科学省は28日、小学6年生と中学3年生を対象に実施した2022年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。秋田県の正答率は国語、算数・数学、理科の全科目で全国平均を2~8ポイント程度上回り、いずれも上位だった。安田浩幸教育長は「総合的に大変良好な状況。中学生では現行の学習指導要領の元で学んだ子が初めて対象となった。主体的、対話的で深い学びに向けた授業改善が各校で着実に進められている」と話した。(2022年7月28日秋田魁新報社

これは7月28日の記事です。

そして次が、昨日(10月14日)のNHKニュースです。

全国学力テスト 秋田県 7割超の教員が「事前対策行った」
小学6年生と中学3年生を対象に実施されている「全国学力テスト」をめぐり、全国トップクラスの成績が続く秋田県で、ことしのテストについて県教職員組合が調査したところ、回答した教員のうち7割を超える教員が「事前対策を行った」と回答したことがわかりました。(2022年10月14日NHKニュース

秋田県の教育庁義務教育課は「学力テストはふだんの子どもの学習状況や指導の状況を把握するためのもので、各学校で事前対策をしている認識はない」と言ってますが本当なのでしょうか?

今回はこのことについて小学生でもわかるように解説します。

 目 次
1.メディアの責任
2.もう一つの目的
3.本当の問題点

1.メディアの責任

ニュースや新聞は「全国学力テスト」「全国学テ」などと表現しますが、「全国学テ」はテストじゃなくて調査です。

正しくは「全国学力・学習状況調査」と言います。

学校で実施するテストには大雑把に5種類あります。

(1)試験
(2)検査
(3)考査
(4)単元テスト
(5)小テスト

【試験】というのは「高校入試(入学者選抜試験)」のようなテストですよね。

合格・不合格などを判定するために行うのが試験です。

そして、試験での得点力を測定するために実施するのが「実力テスト」です。

【検査】というのは「知能検査」のようなテストです。

基準に照らして状態を調べるために行うのが検査です。

【考査】というのは「中間考査」のように中学校の先生が実施するテストです。

「定期テスト」という形で成績をつけるために行うのが考査です。

【単元テスト】は小学生が「分数」という単元を習った後にする色付きの市販テストです。

成績をつけるだけが目的ではなく、教師が到達度を把握したり、子どもに達成感を持たせたり、様々な使い方をして学力を高めます。

【小テスト】は授業の中で実施する「漢字のテスト」や「計算のテスト」などです。

「漢字スキル」「計算スキル」などのように授業の中で習熟を図ります。

「全国学力・学習状況調査」はこの中のどれでもありません。

予算をつけて国が実施する「調査」です。

文部科学省は調査の目的を次のように公表しています。

1.調査の目的
義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し,教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図るとともに,学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。さらに,そのような取組を通じて,教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。

真っ当な目的です。

日本の子どもたちの状況を把握して教育政策の成果を検証・改善するのが目的です。

ですから、学校は普段通りの授業をしていればいいのです。

それなのに、秋田県のように事前対策をして点数を上げようと躍起になる都道府県が出て来ました。

私は2013年11月10日に秋田県の先生を招いて「学力保証緊急公開勉強会」を開きました。

この時に、過去の問題を解くなどの事前対策をしている事実を知りました。

かなりの時間をかけて「調査のための勉強」をしていたのです。

そりゃ点数がいいわけです。

こうした事前対策をした学校は秋田県だけではないはずです。

日本中あちこちの学校が「学力向上」という錦の御旗を掲げて取り組みました。

宿題も増産されて、勉強が苦手な子は悲鳴を上げ、親も宿題の確認や手伝いに振り回されました。

私は、こうした競争の背景にはメディアの責任もあると思っています。

なぜ、「学力調査」とは言わないで「学力テスト」と表現したのか?

きっと煽りたかったんでしょうね。

2.もう一つの目的

私は、この調査には、もう一つ別な目的があると思っていました。

今を生き、日本の近未来を背負う子どもたちに、最新の学力を身につけさせるため

OECDが進めているPISA(ピザ)と呼ばれる国際的な学習到達度調査があります。

15歳児(高1)を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について3年ごとに調査しています。

このPISA調査に使われる問題は「いま世界で必要とされている学力」を扱っています。

読解力と言っても登場人物の気持ちを想像するような国語の問題ではありません。

その情報が正確かどうかテキストの信憑性を評価する問題やICTを駆使しながら自分の知識を活かして社会参加するために熟考する問題など、「イマドキの問題」なのです。

日本の学習指導要領は10年に1回くらいしか改訂されませんから、この「イマドキ」に対応できません。

その点、PISAは3年おきに「イマドキ」を出して来ます。

このPISAの出題傾向を分析して、1年おきに問題を作っているのが「全国学力・学習状況調査」なのです。

この調査は教科書に出ている内容に縛られません。

常に最先端の内容を出題することが可能です。

全国の子どもたちに。

ですから、

そうした最先端の問題に取り組むという点で非常に意味のある教育機会なのです。

最新情報を入手できるという点で、学校・教師への影響も大きいです。

学習指導要領の改訂を待たずに、いま目の前にいる子どもたちへ最先端の学力を身につけさせることができるのです。

いま目の前にいる子どもたちは近未来の日本を背負って立つ人材です。

そのことを考えれば、「いま世界で必要とされている学力」を担当している子どもたちに身につけさせるのは日本の教師の務めです。

しかし、残念ながら多くの学校は、この「もう一つの目的」よりも、「都道府県ランキング」や「地域別の点数」の方に関心が向いてしまいました。

その結果として「事前対策」が表面化してきたわけです。

調査は小6と中3の4月に実施しますから、事前対策はその前に行われるはずです。

小学校なら5年生の秋冬、6年生になる春休み、4月の初めなどでしょう。

そういう経験をされたお子さんはいませんか?

ちなみに私も現役時代に子どもたちに「過去問」をやらせました。

過去に実施された本物の問題を使って、かなり力を入れて授業として実施しました。

でも、事前対策ではありません。

やらせたのは6年生の三学期です。

6年の三学期は教科書の勉強がすべて終わって「ゆとり」があるのです。

その時間を使って「全国学力・学習状況調査」の過去問を授業しました。

「いま世界で必要とされている学力」を身につけさせたかったからです。

田舎の学校でしたが、そんなことは関係ありません。

田舎から全国で活躍する人材が生まれるかも知れませんし、全国に行かなくても地域の中で活躍するためにも最先端は必要な時代です。

その時の記録が18時間分、TOSSランドで公開されていますので興味のある方はご覧ください。

国語B問題対応授業(1)水野正司

3.本当の問題点

日本の子どもは学力が低いって本当ですか?

どの分野も「OECD平均」よりも上ですよ。

そんなに躍起になる必要はないと私は思います。

ランキングの1位になるよりも、「勉強が好きであること」「生きる意欲があること」「自己肯定感が高いこと」など、そうした情意面の方が大切だと思います。

ランキング上位の国が、そうした意欲も実現されているのなら、それは見習うべきです。

しかし、日本の実態はどうでしょう?

学力は「OECD平均」よりも上なのに、

勉強と仕事が結びついていない。
勉強が楽しいとは思っていない。

(詳しくは、講座309「わが国の教育システムの問題点」

「未来人材ビジョン」(経済産業省)
「未来人材ビジョン」(経済産業省)

そして、もう一つ。

習熟度レベル1以下の低得点層が有意に増加しており、OECD平均も同様の傾向。

子どもたちの読解力が二極化しています。

情報を読解する力のある子と、そうでない子の差が開いているのです。

公教育としての問題は、この「そうでない子」を増加させているということではないでしょうか。

勉強と仕事が結びついていない。
②勉強が楽しいとは思っていない。

③情報読解力が二極化している。

「全国学テ」のランキングに一喜一憂するよりも、この3つが大問題だと思っています。

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. タミー より:

    勉強が楽しいと思えることが特に大事だと思いました。
    そして情報読解力。
    これは子どもたち以上に私自身も言えます。
    インターネットの信ぴょう性を見抜けない自分もいます。
    勉強をどう仕事につなげていくか。
    何が勉強なのか。
    私も学校関係者として、いつも考えています。

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