講座312 QA①「空気を読めない人」と言われてしまいます。

 目 次
1.研修会の舞台裏
2.「空気を読めない人」と言われてしまう
3.ASD圏の人の特長
4.知識化・技術化しちゃおう!

1.研修会の舞台裏

10月20日(木)に中標津町連合町内会女性部の研修会でお話しをして来ました。

今年いただいたテーマは「大人の発達障害」です。

このテーマをいただいた時に、「これはムズカシイな!」と思いました。

そう思った理由は2つです。

①「発達障害」の説明だけでも難しいのに「大人の」だから
②大人になってから特性が変わることはないことを知ってもらわなければならないから

世の中の「発達障害」に対する認識ってバラバラです。

そこをそろえる所から話さないとなりません。

「発達障害」って便利な言葉になっちゃってるんです。

その言葉を使えば通じる、済んでしまう、そんな所があるんです。

私自身も「本当の発達障害」「いわゆる発達障害」とを混ぜて使ってしまいます。

だって、世間話をする時は周囲に話を合わせなければなりませんよね。

その時は「いわゆる発達障害」で話を進めなければなりません。

昨日の研修会の中でも、軽いノリでしゃべる場面もあったために「いわゆる発達障害」を使ってしましました。だから話がゴッチャになってしまいました。(反省!)

発達障害の説明って難しいんです!

研修会でもお話ししましたが、私自身は自閉症圏の人間だと思っています。

この「自閉症圏」というのも、いろんな言い方が出来るんです。

ある時は、「私もASDなんですよ!」(^^)/と言ったりしてます。

またある時は、「私は非定型の自閉症です」と言ったりもします。

軽率なんですが、「私も発達障害持ってます!」と言ってしまうことがあります。

でも、一番正しいのは「私も発達凸凹です!」という言い方だと思いますね。

発達障害には境目がない

ですから、自分がどの辺に位置するかを言葉で伝えるのは難しいわけです。

これはすべての人に言えます。

だって個性のや特徴のない人なんていませんから。

あと、もう一つややこしいのは次の点です。

環境や時間によっても違う

「学校にいる時は発達障害だけど、家にいる時は発達障害ではありません!」

そういう考え方も成り立ちます。

家の中の生活には適応している場合です。

「小1の時は発達障害だったけど、5年生から発達障害ではなくなりました!」

そういう「時間軸」という考え方もあります。

脳は発達しますから、適応する力を身につけちゃって学校でも適応できるようになるケースは少なくありません。これは本人の力もありますし、療育・教育の力でもあります。

こういう風に、環境や時間によっても違いますので「発達障害」の説明はムズカシイのです。

しかも「大人の」となると、話さなければならないことが沢山出て来ます。

それを2時間でどう組み立てるか?

昨日はそこに苦労しました。

2.「空気を読めない人」と言われてしまう

研修会は参加者からの質問もいただくことになっていました。

そこも2時間の中に収めなければなりません。

ところが、いただいた質問が想像以上に多くて時間内にすべてお答えすることができませんでした。

でも、もうお会いする機会がありません。

そこで、もしかしたらどこかで伝わればいいなと考えて、ブログの中でお返事をさせていただくことにしました。

たくさんあるんですけど今日は1つだけ回答させていただきます。

Q1 私は「空気を読めない人」と言われてしまいます。たとえば、正しいことを言ったのにまわりの意見に合わせなかったためにそう言われます。そして、自分は不安になって自信がなくなります。この状態は何にあてはまりますか?

いい質問ですね。とてもよくわかります。

今年は、SEKAI NO OWARIの「Habit」という曲が流行しましたが、歌詞の中に「自分で自分を分類するなよ、壊して見せろよそのbad Habit」というメッセージがあります。

ここには二重の意味があると私は思っています。

世の中の人って他人を分類したがりますよね。

「この人は発達障害なんじゃない?」とかって。

簡単に言えば「レッテル貼り」です。

この曲は、そんな悪い習慣はブチ壊そうぜ!というメッセージなんですけど、その一方では「レッテルを貼ることで人は安心する」という習性の存在もアピールしています。

これをですね。発達障害の観点から整理しますと、両方大事なんです。

・レッテルに縛られたくない!
・レッテルを貼って安心する

両方大事なんです。

「レッテル」って悪い言葉として使われることが多いわけですが、「とりあえず名前を付ける(ラベリング)」というのはいい事でもあります。

名前を付けることによって、支援とか理解といった行動に結びつきやすくなるんです。

昨日もお話ししましたが「普通に見えるのに実は困難を抱えている人」というのが一番つらい思いをするというケースは多いのです。

「なんで出来ないんだ!」って叱責・攻撃されやすいのです。

ですから、レッテルを貼るのは必ずしも悪いことだとは私は思っていません。

もうひとつあります。

分類することで安心を手にすることができる。

そういう側面もあります。

質問者さんも「この状態は何にあてはまりますか?」と言ってます。

不安だからです。

つまり、はっきりさせることで安心を手に入れられる人もいるのです。

ASD傾向の方は特にそうだと思います。

これは不安でいるよりずっといいことです。

安心や自分に対する理解を手に入れることは改善につながります。

「そうなんだ。自分はASDなんだ」と知ることで、「だから空気が読めないんだ」という理解が生まれます。

こういうはっきりした理解というのは安心や納得につながる場合もあるのです。

ASD傾向の方は論理的な思考(理屈)が得意ですから、はっきりさせた方がいい場合もあるわけです。

不安を抱えたままの状態というのは「自分の脳を傷つけている時間」となりますから何もいいことはありません。

はっきりさせたことによって、改善への一歩を踏み出せるというか、中には劇的に(積極的に)自分の行動を変えられるようになる人もいます。

「そうだったのか!だったらこうしよう!」という感じで、納得して行動できるのです。

ASDの人って、納得したら強いんです。

普通の人より優れた結果を出すことが出来ます。

普通の人が持っていない集中力とか持ってたりしますから。

質問者さん:自分は不安になって自信がなくなります。この状態は何にあてはまりますか?

私:いい質問ですね。とてもよくわかります。

私が最初にそう答えたのは、そういう意味です。

3.ASD圏の人の特長

この状態は何にあてはまりますか?

知りたいんですね。

分類したいんですね。

でも、発達障害の診断ができるのは医師だけです。

たとえどんなに詳しい人でも、医師以外に診断はできません。

その医師でさえ、診断を告げる時には「多分ASDだと思われます」とか「ASDの可能性が高いです」といった言い方をされます。

「ASDです」という言い方をする医師はいないはずです。

でも、質問者さんは「病院に行かなきゃならないならもういいです!」と思われるんじゃないでしょうか。

そこまでして「知りたい」と思う人は、よほどの場合ですよね。

日本ではアメリカみたいに気軽に精神科に行ったり、カウンセリングを受けたりといったムードがありませんから、「だったらやめとく」と思う人がほとんどだと思います。

でも、ですよね。

「はっきりさせない状態で日常が続いて行く」というのは、「同じことのくり返し」を意味します。

不安とかストレスとか、それがまた続くんです。

それって改善したいですよね。

私の推測ですけど、質問者さんの質問は次のような感じなのだと思います。

・自分はどういう状態なのかを聞いてみたい
・でも、病院に行ってまで知りたいとは思わない

きっとそうですよね。

そして、世の中にはこういう方がたくさんいると思います。

でも、私は医師ではないので診断することは出来ません。

でも、質問を受けたので答えます。

質問者さんは次のように言ってます。

正しいことを言ったのにまわりの意見に合わせなかった

「正しいこと」を言わなきゃとか、「正しいことを言ってるのに」とか、「正しいことだから言うべきだ」とか、「正しいこと」に強さとか魅力とか正義とか責任などを感じるのはASD圏の人の特長です(「特徴」ではなく「特長」です)。

「特長」というのは長所ということです。

考えてもみてください。

「正しいこと」を言う人がいなかったら世の中は大変なことになります。

そういう人は世の中にとって絶対必要です。

でも、それは社会的に大きく考えた場合のことで、質問者さんにとって大切のは「まわりの人」との日常生活だと思います。

そこで私からの提案です。

思い切って自分を「ASD圏の人間だ」と分類してみませんか?

そうすると何が変わるか。

「正しいことを大切にするのは自分の特長だ」と納得できます。

自分を認めることができるということです。

そして、その上で、「まわりに合わせる」というやり方を手に入れるという方向に進みます。

実はここが大きな違いなんです。

ASDの特性を持っているのに「普通」を目指していると、「まわりの意見に合わせなかった」という反省や後悔や失敗を抱えてしまいます。

それに対して、「自分はまわりの意見に合わせるのが苦手なんだ」「それは自分の特性なんだ」と初めから思っていると、無理をして普通を目指す必要がなくなります(普通を目指してもいいのですが無理が軽減します)。

そうすると、少し余裕が持てるので「頭で考えること」が出来るようになります。

ここはASD圏の人にしか通じないかも知れませんが、私たちASD圏の人間は自分の失敗に弱いのです。

「まわりの意見に合わせなかった!」と思うと引きずるんです。

失敗のダメージを受けやすい。

脳が傷つきます。

そうするとですね。冷静に、論理的に考える力が弱まるんです。

でも、本当は、ASD圏の人は、冷静に、論理的に考える能力が高いんです。

せっかく持っているその力が「失敗」によって発揮できなくなってしまうわけです。

「大きな違い」というのはそういうことです。

普通を目指して失敗すると → 長所を発揮する機会を失い、自分を責める。
特性を理解して失敗すると → 頭で考える余力が持てる

実はこの違いが大きいのです。

余力が持てると、「まわりに合わせる」というやり方を手に入れるという方向に進みます。

4.知識化・技術化しちゃおう!

では、具体的にどんな風にしたらよいかを少し紹介して終わりにします。

「やり方」というのは知識ですから次の3つの性質を持っています。

①伝達可能
②再現可能
③蓄積可能

そして、ASD圏の人は知識に強いんです。

一度、手に入れたなら再現可能ですし、いろんな知識を蓄積する能力も高いんです。

ですから、考える余裕がある時に「やり方を手に入れる」ということをやればいいわけです。

この場合ですと、「まわりの人に合わせる方法」という知識を手に入れればいいのです。

たとえばですね。

会議とかで意見を出し合う時に、どう考えてもおかしな意見が出て来る場合があります。

「それ、おかしいんじゃない?」とか、

「ゼッタイおかしい!正しいこと言いたい!」とかって思う場面って結構あるものです。

そういう時にどうするかという知識ですね。

いくつかあります。

「沈黙は金」
「負けるが勝ち」
「急がば回れ」

昔からあるコトワザというのは知識です。

「離別感」という知識もあります。

  • 自分の価値観や考え方は自分にとって正しい
  • 相手の価値観や考え方は相手にとって正しい

それが離別感です。(参考:「ビジョン&パートナーズ」

こういう知識を身につけておいて、実際の場面で使ってみましょう。

体験するとその知識はより強力になります。

  • 自分の意見を言うことが正しいとは限らない
  • 正論を言うことが正しいとは限らない
  • 相手の間違いを訂正することが正しいとは限らない
  • このタイミングが正しいとは限らない

どうですか?

こういう知識を持っていますか?

持っていると、「このタイミングで発言するのが良いかどうか」といったことを考えることができるようになります。

これが「まわりに合わせる」というやり方なんです。

どうですか?

少しは具体的になったのではないでしょうか?

私たちASD圏の人間は、「まわりに合わせる」というような曖昧な表現では知識化するのが苦手です。

もっと具体的に伝えて欲しいんです。

今の例でもまだ曖昧かも知れません。

具体的であればあるほど知識化しやすくなります。

・黙っていることでまわりに合わせることになる

え!それでいいんだ!

それならできる!

さらに、「黙っている人の方が実は正しい」という知識もあります。

これだと積極的に黙っていることになりますよね。

あとはですね。

別に、会議の場に限定しなくてもいいのです。

会議中に正しい意見を言ってまわりに合わせられなかった場合に失敗を取り戻す技術というのもあります。

たとえば、「会議が終わった直後に自分から席を立って相手の人に話しかける」という技術があります。

意見が対立したとしても関係が崩れなければいいわけですから、そういう技術も役に立ちます。

要するに、何でも知識化・技術化しちゃえばいいのです。

Q1 私は「空気を読めない人」と言われてしまいます。たとえば、正しいことを言ったのにまわりの意見に合わせなかったためにそう言われます。そして、自分は不安になって自信がなくなります。この状態は何にあてはまりますか?

「空気を読めない」って何ですか?

私には意味がわかりません。

もっと具体的に言ってください。

私に言わせれば、

「空気を読めない人」と言っている人こそ相手のことを読めていない人です。

残念ながら世の中にはそういう人が結構存在します。

それは「空気を読めない」という言葉が便利な言葉だからです。

「発達障害」という言葉と同じですね。

思考を停止させる言葉です。

でも仕方ないのです。

日常生活には、そういう便利な言葉が必要なのです。

そして、自分は不安になって自信がなくなります。この状態は何にあてはまりますか?

どうか不安にならないで下さい。

世間でいう「発達障害」という言葉はいい加減な言葉なのです。

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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4件のフィードバック

  1. タミー より:

    力の入った長文内容をありがとうございました。
    レッテルを貼ると安心する
    というのは、日々実感します。
    私は妊婦というレッテルで、職場でかなり仕事を減らしていただいています。
    隠したい時もあります。
    リモートだとお腹が映らないので隠すことができます。
    隠したり知らせたりできると、生きやすいと感じています。

  2. k より:

    本田医師の著書ではDをとってASと呼んでました。障害までいかないけれど圏内の方々。

    自分専用の行動辞典を作ると楽かもしれませんね。そういう大学生の話を聞いたことがあります☺️

    • 水野 正司 より:

      いろんな言い方がありますよね。
      発達障害も「発達障がい」だったり様々ですよね。
      私は言い方はこだわっていないので一般的な表現を基本としています。
      あとはその時その場によります。
      ASD圏なのですが、そこはこだわらないんです。(^^)/

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