1歳半~6歳(幼児期) 発達障害への理解

講座310 就学時健康診断の落とし穴

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4月に一年生になるお子さんは10月前後に健康診断を受けると思います。

これを「就学時健康診断」と言います。

この時に簡単な「知能検査」を実施する市町村があると思います。

保護者の間では、その結果にドキドキだという話です。

今回はその知能検査の問題点を解説します。

 目 次
1.「時間がかかる」という落とし穴
2.「思春期」という落とし穴
3.「高校」という落とし穴
4.「自閉・情緒」という落とし穴
5.「法律」の落とし穴

1.「時間がかかる」という落とし穴

山内康彦著『特別支援が必要な子どもの進路の話』(WAVE出版)

この本を書いた山内氏は、教員の経験もあり、教育委員会勤務の経験もあり、小中高特別支援学校の専修資格もあり、学校心理士やガイダンスカウンセラーの資格もあるという多彩な経歴の持ち主です。

多方面での経験を持つ「進路・就学指導の達人」です。

p.16に「私が体験した落とし穴」という話が出て来ます。

ここで紹介されている話が私の経験とそっくりなんです。

多分、多くの教員が経験していることなので最初に取り上げたのだと思います。

どんな話か、山内氏と私の体験をミックスさせてお伝えします。

小学校に入学後に、授業に参加できなかったり、友達とトラブルを起こす子がいる。

多くの学校で、毎年のように、そのような子が存在するはずです。

就学時健診の知能検査では「問題なし」とされて通常学級で入学したお子さんです。

親も先生も、そして何より本人が、「楽しい学校生活」ではなく「苦しい学校生活」を送ります。

年度途中に「発達検査をしましょう」とか、「医療につなげましょう」ということになります。

保護者の同意が必要ですから何度も話し合いの場を持ちます。

保護者によっては話し合いを拒絶される方もいます。

トラブルの発生、連絡帳に記入、電話、面談…。

そのくり返しで季節が進みます。

合意が早い場合ですと5月の連休明けに動き出します。

その場合でも、心療内科などの病院は「3ヵ月待ち」なんていうのがザラですから、「夏休みを使って病院に行きます」とか、そういうタイミングで話が進むことは珍しくありません。

そして、やっと受診できても「次回は1ヵ月後」といったペースです。

そうした中で「一度、発達検査を受けてみませんか?」という合意が生まれて、検査の結果、何らかの支援が必要だと言われます。

でも、通常学級に在籍している子が特別支援学級に異動するには市町村が開く「就学指導委員会」の審査を経なければなりません。

これが開かれるのは10月とか11月が多いのではないでしょうか。

就学指導委員会が開かれるのは通常「年1回」です。

検査の結果や医師の判断などをもらったとしても、この就学指導委員会に間に合わなければ「また来年」まで待たなければなりません。

たとえば、1年生の10月に行われる就学指導委員会のテーブルに乗れば、2年生の4月から可能ですが、それに遅れると次の機会は2年生の10月の委員会になりますから、そこで判定をもらえたとしても異動できるのは3年生の4月です。

そうなると、1年生の後半に出て来る「くり上がりのあるたし算」も「くり下がりのある引き算」も、二年生で習う「二桁の筆算」も、低学年での「240字の新出漢字」も、「ゆっくり教えてくれる文字指導」も、「ゆっくりと読むことが大切な音読指導」も、不安定なままに終わってしまいます。

入学してからの判断には、こうしたリスクがあるのです。

特別支援学級への在籍異動には時間がかかる

今のは小学校1年生の場合の例ですが、同じことが学年ごとに生じます。

ただし、市町村によっては年度途中の在籍異動を考慮してくれるところもあります。

文科省が次の通知を出しているからです。

障害のある児童生徒等の就学先の決定に当たっては,障害のある児童生徒等が,その年齢及び能力に応じ,かつ,その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため,可能な限り障害のある児童生徒等が障害のない児童生徒等と共に教育を受けられるよう配慮しつつ,必要な施策を講じること。「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」

ただし、これは「可能な限り」という通知であって、その判断は各市町村の教育委員会に委ねられているのが現状です。

また、その学校に該当する種別の特別支援学級がない場合は、新しく学級を設置しなければならないので異動はできないことになります。

このように、通常学級から特別支援学級に異動しようとしても、すぐには変更できないということです。

2.「思春期」という落とし穴

小学校に入学後に、授業に参加できなかったり、友達とトラブルを起こす子がいる。

家庭と学校が話し合って途中で特別支援学級に異動となる。

この時に気をつけなければならないことがあります。

高学年になってからの在籍異動

なぜなら、思春期を迎える時期ですからプライドが高まっています。

そして、学力の積み上げが出来ていない。

それまでの数年間で自己肯定感がボロボロになっているケースが少なくありません。

今まで通常学級で過ごして来たわけですから心の中は複雑です。

「どうして自分だけ…」

「私はどうせバカなんだ…」

こうなると支援を素直に受けることが難しくなります。

しかし、在籍異動が積極的な場合は逆です。

個別に、ていねいに教えてもらえるので、

「授業がわかるようになった!」

「自信が出て来た!」

学力の積み上げが再スタートして、自己肯定感が上がります。

「もっと早くに支援を受けていればよかった」と思う保護者もいます。

高学年で支援が必要な子の多くは低学年の時も支援が必要だったはずです。

ですから、私は次のことを基本にしています。

(1)低学年での支援は受けやすいことを踏まえて就学時に判断する
(2)高学年からの支援は本人との合意形成が重要

集団生活に馴染みにくい子の場合は、低学年のうちに特別支援学級に在籍して、5年生で通常学級に異動することを目標にするのもアリだと思います。

そうすれば、「がんばった」「みんなに追いついた」という感覚が持てるので自己肯定感は下がらずに、上がるでしょう。

5年生で通常学級に異動するという選択肢

これにはもう一つの意味があります。

中学生になる時に「特別支援学級は嫌だ」と言って通常学級に異動する生徒がいます。

この場合はリスクが大きいのです。

山内氏は次のように指摘します。

毎時間、先生が変わる。移動教室も増える。宿題がまとめて出るが提出できない。部活の人間関係でトラブルが出る…等。こういった小学校にはないストレスの増加で、不登校が増えるわけです。(p.77)

山内氏は学校心理士として次のアドバイスをされています。

私がいつも皆さんにお伝えしているのは、できたら小学校5年生、6年生あたりで一度通常学級に戻しておくこと。そして、中学校での先生や宿題、部活動などの環境の変化に入る準備をさせるようにする。そうした二段階のスモールステップにしない限り、環境の激変はその子にとって厳しいのではないかと思っています。(p.77)

そして、この背景にあるのが思春期になった時の「特別支援学級は嫌だ」という心の変化です。

ですから、在籍異動に関しては、先を見通すことがとても重要になってきます。

3.「高校」という落とし穴

・通常学級でもよさそうだけど、特別支援学級の方がいいかも知れない。
・特別支援学級を勧められたけど、通常学級を希望したい。

そうした「グレー」の子どもたちの進路はどうなるか?

中学校で特別支援学級に在籍していたとしても「障害者手帳」の取得まではいかない。

従って、特別支援学校への進学を選択できない。

かといって学力は低いので、いわゆる底辺と言われる高校へ進学する。

しかし、高校では個別の支援を受けられないので授業や宿題やテストについていけなくなる。

よって途中退学する。

バイトなどをしてみるが、これも長続きしない。

結局、引きこもってしまう。

これも山内氏と私に共通する経験です。

障害が重い子は特別支援学校に行ける。
学力が高い子は高校に行ける。

その境界域にいる「グレー」の子どもたちが生きづらさを感じる世の中になっています。

では、「グレー」ではなく、手帳を持って「障害者」になればいいのか?

日本の法律では、障害者手帳を持っているかどうかが「障害者」と「健常者」の分けれ目になっています(診断名ではないのです)。

障害者手帳は次の3種類です。

①身体障害者手帳(肢体不自由など)
②療育手帳
(知的障害)
③精神障害者保健福祉手帳
(自閉症など)

この中のどれか1つを持っていれば、法的に「障害者」となります。

メリットは、交通機関の料金が安くなったり、様々な福祉サービスを受けられたり、税金の控除、医療費の割引、障害者雇用枠での就労などがあります。

デメリットは、結婚時における偏見、アパートを借りる時の壁、職業の選択幅の減少、保険加入の不利などがあります。

しかし、①②③の手帳には決定的な違いがあります。

③精神障害者保健福祉手帳(自閉症など)では特別支援学校を選択できない

高校に進学する時にどちらを選ぶか。

①高校(高等学校)
②特別支援学校(高等部)

一般に、特別支援学校に進学するには「身体障害者手帳」か「療育手帳」を持っていなければなりません。病気や体に障害があるか、知的障害があるかということです。

自閉症などの発達障害で取得した「福祉手帳」では一般的に特別支援学校の受験資格を持てません。

福祉手帳を持った障害者であっても高校に進学するしかないのです。

そして、高校では個別の支援を受けられないので苦しくなる。

これが現在の日本の仕組みです。

もう少し具体的に考えましょう。

高校と特別支援学校では何が違うのか?

①高校は高度な普通教育および専門教育をする所
②特別支援学校は就労を目標に訓練をする所

①は学校教育法・第五十条に書いてあります。

「高度な普通教育」というのは、こういう勉強です。

国語総合、国語表現、現代文A・B、古典A・B(古文、漢文)、世界史A・B、日本史A・B、地理A・B、現代社会、倫理、政治・経済、数学 – 数学I・II・III、数学A・B、数学活用、科学と人間生活、物理基礎、物理、化学基礎、化学、生物基礎、生物、地学基礎、地学…。

凸凹のあるグレーの子も、福祉手帳を持った自閉症の子も、こういった「高度な普通教育」を支援なしで受けなければなりません。

それが「高校」という選択肢です。

そして、その分かれ目は既に小学校入学時に始まっているのです。

4.「自閉・情緒」という落とし穴

就学時健康診断で特別支援学級を勧める時に、就学指導委員会は障害種別を決めます。

特別支援学級には7種類の学級があります。

①知的障害
②肢体不自由
③病弱・身体虚弱
④弱視
⑤難聴
⑥言語障害
⑦自閉症・情緒障害

7つの中で判定がしやすいのは肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害です。

知的障害は、就学時健診の知能検査で発見されるケースが多くあります。

就学時健診のスクリーニング検査は知的障害を発見するための検査だからです。

したがって、知的に問題のない発達障害などのお子さんは、⑦の自閉症・情緒障害の学級に所属することになります。

そして、今、「自閉症・情緒障害の学級」の在籍が増えています。

昔は「①知的障害学級」に在籍する児童生徒が多かったのですが、今は「⑦自閉症・情緒障害学級」が逆転しています。

つまり、知的に問題のない発達障害などのお子さんが増えているということです。

それなのに、就学時の検査は昔のままで「知的障害」に焦点を当てています。

これが発達障害の早期発見を遅らせている一因です。

小学校に入学後、授業に参加できなかったり、友達とトラブルを起こす子がいる。

入学後にそうなってやっと支援や療育につながるわけです。

この問題の大きさを理解されていますか?

「知的に問題のない」という曖昧さの問題

こうした境界域の子どもたちが小・中・高と生活していくうちに、どれほどの困難が待ち構えているか。

たとえば、「知的学級」になるか「自閉・情緒学級」になるかで将来の選択肢は大きく変わります。

そのうちの一つが高校の選択肢です。

かなりの先まで見通さなければリスクが大きい

詳しくは山内氏の本をご覧になってください。

最後に、「1歳半健診」と「3歳児健診」に触れて終わります。

5.「法律」の落とし穴

発達障害は早期発見・早期療育が大切ですが、その発見は障害の種類や程度によって異なります。

たとえば、ASDだと1歳半健診で発見される場合があります。

しかし、必ずその時期になれば発見できるというものではなく、ましてグレーであればあるほど発見は難しくなります。

国立障害者リハビリテーションセンターでは次の目安を示しています。(「発達障害の早期発見の時期について」

ASD:幼児期前期(1~2歳)>幼児期後期(5~6歳)
ADHD:学童期(7~12歳)>幼児期後期(5~6歳)>幼児期中期(3~4歳)
LD:学童期後期(11~12歳)>学童期前期(7~8歳)

法定健診には「1歳半健診」「3歳児健診」「就学時健診」がありますが、

3歳児時点では発見できず、入学時点では遅かったというケースも少なくありません。

そこで、鳥取県などでは独自に「5歳児健診」を実施して成果をあげています。

しかし、それとは真逆でに、入学前の就学時健診さえ丁寧に実施していない自治体もあります。

それは発達障害に関する法律が未整備だからです。

就学時の健康診断は学校保健安全法で実施が定められています。

しかし、その検査項目に「発達障害」は無いのです。

「その他」の努力義務として「知的障害」があるだけです。

よって、知能検査を実施している自治体は多くあります。

努力義務としてです。

しかも、主目的は知的障害の発見です。

しかも、昭和の頃から使っている簡単なスクリーニング検査です。

その一方で、平成16年に発達障害者支援法が制定され、

市町村の教育委員会は、学校保健安全法第11条に規定する健康診断を行うに当たり、発達障害の早期発見に十分留意しなければならない。

となりました。

しかし、この法律が制定された後も、発達障害の早期発見は自治体任せのままです。

拘束力がないので、鳥取県など先進的な自治体が具体的に実施しているだけで、

小学校に入学後、授業に参加できなかったり、友達とトラブルを起こす子がいる。

という「落とし穴」が学校現場で毎年のようにくり返されているわけです。

当然ながら、そのことで保護者や教師は大変な思いをします。

そして、一番つらい目にあうのが本人です。

楽しいはずの学校生活が「つらい場所・苦しい場所」になります。

それでも、友達がいるから登校するでしょう。

頑張らなければと思って我慢して授業を受ける子もいます。

親に心配をかけまいとして健気に努力する子どもの姿を、私は何人も見て来ました。

市町村議員の方々にお願いです。

どうか各市町村の就学時健康診断の仕組みを確認してみてください。

発達障害者支援法に対応した検査の実施が求められています。

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-1歳半~6歳(幼児期), 発達障害への理解

執筆者:


  1. ゆきちゃんママ より:

    特別支援学校は知的障害か身体的障害がないと入れないんですね。初めて知りました。
    学校の区分の仕方も、昔のままではダメですね。高校にも、ソーシャルスキルを教えるようなクラスを置く必要性を感じました。発達障害があっても能力のある人たちには是非大学や大学院で研究などできるようにしてあげたいです。

    • 水野 正司 より:

      その通りです!
      すべての子が人材です。
      その仕組みがまだ整っていません。
      教師が率先して動くべき問題です。

  2. 畠山文 より:

    知らないことだらけでした。詳しい説明ありがとうございます。

    私にとって学校は、残念ながら楽しい場所ではありませんでした。頑張っている子供たちが、少しでも楽しく過ごせる一助になるためにはどうしたらいいのか、、、思いつくのは、励ますこと、味方になることくらいですが、できることをしたいと思いました。

    • 水野 正司 より:

      励ますこと、理解すること、それだけで立派な教育です。子どもには可能性がありますから。

  3. みほ より:

    今回の内容は、すごく納得だらけでした。

    高学年になって特別支援学級に転籍してくる子どもたちのなかには、失敗経験をたくさんしすぎて、自尊心がズタズタの子どもがたくさんいます。

    そして、そのなかには、支援を受けることを拒絶する子がけっこういるなあと思います。

    小さい頃から、ヘルプを伝えて、助けてもらう成功体験をたくさんすることって大切ですね。

    困ったときに「助けて」「教えて」と言えるようになるには、どうすればいいのかをもっと考えて子どもとかかわりたいです。

    • 水野 正司 より:

      「通常学級で面倒を見切れないから特別支援に」という風潮が日本の学校に多いと思います。
      これって、特別支援学級に「お守り」をさせている感じですよね。
      そして、「通常学級でやれない先生は特別支援学級に回す」という風潮。
      明らかにこれは特別支援教育を低く見ています。
      こうした状況を打破するには杉山登志郎先生が言うように特別支援を専修免許にすべきだと思っています。

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