講座536 体験が活かされる仕組み

初めて登園した日の記録については「講座533」に書きました。

しかし、それ以来、記録する余裕がなくて6月が過ぎてしまいました。

今はすっかり幼稚園に慣れて、こんな感じです。

しかし、困難はこの後にやって来ます。

 目 次
1.「午睡」という困難
2.自律
3.体験が活かされるまでの仕組み
4.子育てには「正解」がある

1.「午睡」という困難

娘からLINEが来た。

W、昨日から幼稚園でお昼寝デビュー(午睡13:30〜15:30)
後半は眠れたらしいが寝起きに寂しくなったらしく、迎えに行ったら大泣きしてた(泣く)

Wは3歳になっていたので家ではほとんどお昼寝をしていない。

従って、幼稚園で午睡が出来るのかを心配していたところであった。

やっぱり。

しかも、入眠が出来なかっただけではなく、目覚めた時に「大泣き」するとは。

いきなり2時間の午睡はなかなか厳しい。

「お昼寝トレ」をすべきなのか?

その後も、この「目覚めた時の大泣き」は続いた。

そして、次のLINEが来た。

W「今日幼稚園?お昼寝しない?」と母親に聞く
母「今日はお昼寝の日だよ」
W「お昼寝いやだー、幼稚園行かない(泣く)」
母「お昼寝嫌なんだね…幼稚園では、今日も水遊びできるかもしれないよ」

その後、
W「わたし泣かないで幼稚園に行けるよ」
母「おお!泣かないで行けるんだね!強くなったね」
W「強くなった(うふふ)。R先生と砂場で川を作る!」

さて、どうなるか。

母親はなんとか宥めて園に送り出した。

それにしても母親のこの対応はどこかで見たことがある。

2.自律

これは「ほっとダウン」ではないか!(講座40「クールダウン」と「ほっとダウン」

W「お昼寝いやだー、幼稚園行かない(泣く)」

母「お昼寝嫌なんだね…」(受容=言葉にしてあげる)

今日も水遊びできるかもしれないよ」(枠の提示で葛藤を起こさせる)

この対応によって次の言葉となった。

W「わたし泣かないで幼稚園に行けるよ」

大成功。

そして、母親はこの「乗り越え体験」を強化した。

お見事!

しかし、この日の午睡でも孫はやっぱり「寝起き」に泣き出してしまった。

私は次のアドバイスを送った。

Wにとっては余程嫌な時間なんだろうね。
何が理由なのだろう?
①夢を見る
②起きたら違う空間なのが嫌
③①と②が合わさって
④午睡自体が嫌
⑤眠たくないのに眠ってしまったことが悔しい
⑥起きた時は母親が居て欲しい
⑦その他

目覚めた時の様子も見なければ詳しいことはわからないな。
あとは先生方に任せよう。
R先生との信頼関係が中心になると思う。

そして次の日。

今日も起きて泣いたらしいが20分程度で機嫌が治ったそうで迎えに行った時はニコニコしてた。
少しずつ進歩している模様

そしてまた次の日。

昨日は泣かないでお昼寝できた。先生方もみんな喜んでいたそうで自信がついたらしく
今日も「わたし泣かないでお昼寝できるよ」と行って登園していった。

ついに泣かないでお昼寝が出来た。

子供はこのように少しずつ成長していくものなのだろう。

自信。

本人の自覚もあっただろうが、先生方が「みんなで喜んでくれた」ということが成功体験を明確なものにしてくれたのだと思う。

そして、翌朝のわたし泣かないでお昼寝できるよの言葉となった。

3.体験が活かされるまでの仕組み

わたし泣かないでお昼寝できるよという決意は自律だ。

実行機能が働いている。(資料「未来を生き抜く子育てマップ」

1.我慢(抑制)
2.切り替え(シフティング)
3.ワーキングメモリ(作業記憶)

実行機能の要素はこの3つだ。

1と2は説明が要らないと思う。

3の「作業記憶」とはどういうことか。

《これまでの出来事》や《昨日の出来事》を記憶しているのは作業記憶なのか?

作業記憶(ワーキングメモリ)の記憶保持時間は10〜20秒程度だと言われる。

過去の出来事を記憶する場所ではない。

では、実行機能(自分をコントロールする機能)にどうして作業記憶が必要なのか?

ここは説明が必要だ。

過去の出来事を記憶しているのは長期記憶の中の「エピソード記憶」である。

エピソード記憶は2歳半~3歳にかけて発達を始める。

それは言葉(言語能力)が発達するからだ。

したがって、《エピソード記憶の発達》と《言葉の発達》は相互に関係し合う。

今回の出来事のように《体験を言葉にすること》で記憶が安定する。

記憶するためには「言葉」が必要なのだ。

「言葉」は、親や先生が《言葉にしてあげる》ことで生まれる。

言葉の発達が早い子なら、自分で自分の体験を言語化できる場合もあるだろう。

夜寝る前に布団の中で《その日の出来事を振り返る》という「語り聞かせ」も有効だと思う。(講座107 「語り聞かせ」してますか?

兎にも角にも、体験の言語化は不可欠だ。

そして、それらの「言語(情報)」を海馬が「いつ・どこで・何をした」といったエピソードに変換してくれる。

変換されたエピソードは「記憶の貯蔵庫」である大脳皮質に送り出されて保存される(長期記憶)。

その保存された記憶を呼び出すのが前頭前野で、《その記憶をもとに考える》ためには記憶を一時的にワーキングメモリというテーブルに載せる必要がある。

これが《記憶をもとに考える》という行為である。

つまり、過去の出来事を思い出して自分をコントロールする(考える)ためには、作業記憶(ワーキングメモリ)が不可欠なのである。

そして、記憶は「タグ付け」しておくと呼び出しがスムーズになる。

「タグ付け」は、ほめられたり、喜ばれたり、葛藤したり、といった感情によって強化される。

それを行うのが偏桃体である。

だから海馬と偏桃体はセットになっている。

つまり、母親の対応や先生方の対応が「タグ付け」として機能し、そのおかげでWは過去の出来事を思い出しやすくなっていたわけである。

さらに、Wは普段から自分のことを「わたし」と表現する。

この「わたし」という表現の仕方は、何かを考える時に「自分のこと」として明確に思考できる。

何気ないことだが、思考の中に「自分」を位置付けることは大事な意味を持つ。

実行機能とは自分をコントロールすることだからである。

脳内には、自分の体験を「自分ごと」として思い出す機能が働く場がある。

後部帯状回(こうぶたいじょうかい)と楔前部(けつぜんぶ)がその役割を持っている。

ここまでを整理するとこうなる。

以上のことすべてが重なって「わたし泣かないでお昼寝できるよの言葉となったわけである。

そして、Wは「午睡」という困難を乗り越えられた。

「克服体験」である。

こうした体験によってレジリエンス(困難の乗り越える力)が育まれる。

脳地図で示すとこうなる。

4.子育てには「正解」がある

私はWの成長を間近で観て来た。

これは生後3カ月のW。

母親が手作りのモビールを吊るしていた。

私が贈った絵本もある。

困難を乗り越える力の育成はこの時から始まっている。

マップの中心にあるのは「愛着形成」であり、

その具体的な行為のキーワードは「二項関係」と「共同注視」である。

あれから3年を経て、子育てにはやはり「正解」があるのだと実感している。

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. 畠山 文 より:

    親子の何気ないやり取りが成長に大事なんだなと思いました。子育ての知識が無くても、子供が何かできるようになったら、周りの大人が喜ぶのは自然なことたと思いますが、それこそが、成長には必要なんだなと感じました。

    これを踏まえると、ネグレクトは本当に成長にとって深刻だなと感じました。色々な事情のある家庭があると思うので、周りの子供が何か出来るようになったら、良かったね、と伝えられる大人でいたいと思いました。

    • 水野 正司 より:

      コメント有り難うございます。
      その「何気ないこと」を意識的にできる世の中にしたいと思っています。
      どうしてかと言いますと、子育ての様子を見る機会が減って、継承が断絶されているからです。
      それに、意識的に出来ると、もっと明確に自信をもって育てられると思うからです。

      虐待問題は本当に深刻です。
      その多くは「言語化できない体験」になっています。
      どうしてかと言いますと、大好きなお父さん、お母さんが自分をひどいめに遭わせることを理解できないからです。
      思考が停止してしまいます。
      「言語化できない体験」には、①感覚記憶、②感情記憶、③手続き記憶、④イメージ記憶などがあります。
      トラウマはこの中の②感情記憶です。
      言語化できなかった感情記憶も脳の中で非言語的に長期保存されます。
      それが、匂いや音や場所などで、ある日突然、ありありと思い出されることがあります。
      フラッシュバックです。
      トラウマを解消するのは相当困難です。
      体験させないことが一番です。
      この方面の問題に今取り組んでいます。

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