講座533 幼稚園デビュー「二日間」の記録

三歳になった孫が「年少さん」として幼稚園にデビューしました。
その三日間の記録です。
2.幼稚園二日目
3.「お母さんとトイレに行くから帰る」
4.「win-win-win」を実現させる方略

1.入園式
母親は幼稚園生活に向けていくつかの準備をしていました。
その中のひとつがこれです。
幼稚園バッグの開け閉めの練習
親というのは、こうやって《自分でできること》を丁寧に増やしてくれるのだなと、改めて思いました。
その様子を見て、思いました。
私は小学校の教員をしていましたが、このような具体的な情景を想像することがまだまだ足りなかった、と。
きっと、もっといっぱいあるのだろうなと反省したわけです。
さて、4月9日が入園式でした。

孫の入園式に参加したジジイは私だけでした。
この日は、理事をしている幼稚園でも入園式があり、私はダブルヘッダーです。
同じ日に別の幼稚園の入園式も見ることが出来て勉強になりました。
たとえば、園児の席の配置です。
孫の園では《園児が一番前に横一列》で《親がその後ろ》というスタイルです。
もう一つの園では《園児と親がペアで横に隣同士》という配置でした。
これだけでも思想が表れていますよね。
《園児が一番前に横一列》には自立させようという意図が感じられますし、
《園児と親がペアで横に隣同士》には安心させようという意図が感じられます。
園風というのでしょうか。
保育の方針がそこに感じられました。

他にどんなことを感じたか、書いてみます。
孫の園は小規模ですので、年中さんも年長さんも参加していました。
その子たちの参加の様子には、成長の様子が表れていました。
園の説明を書いたパンフレットがあったとするなら、
パンフレットを見るよりも明確に(一目で)、「こうなるんだなあ」ということが分かります。
理事をしている園では先生が前に出て来て、手遊びなどをして入園児を安心させていました。
こういう時、私はどうしても先生の《技量》を分析してしまいます。
子どもと「手遊び」をするというのは指導場面ですから、先生の技量が見えてしまいます。
この園の先生は「笑顔」「声」「指示の明確さ」どれをとっても、溜息が出る程お上手でした。

自分の孫の観察もしてしまいます。
やっぱり気になりますよね。
まず、《自分の席に座っていられるか》ですね。
次が《先生のお話を聞くことができるか》と《返事ができるか》でしょう。
孫はどれも無事にクリア出来ました。
感心したのは、返事が「はい」と短く言えたことです。
3歳児のくせに「はーい」ではなく、「はい」と言えたところが我が家の家風でしょうか。

少し前に、山崎エマ監督の映画『小学校~それは小さな社会~』が話題になりました。
12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている。
というフレーズが有名になりました。
今回、入園式を二つ見て、この言葉を思い出しました。
そして、思いました。
日本の子どもは、幼稚園の入園式の日から“日本人”としての生活が始まる。

2.幼稚園二日目
入園式は親と一緒。
でも、翌日からは玄関で親と別れなければなりません。
そこで問題になるのが《泣くか否か》、《何日泣くか》です。
うちの四人の娘の場合は、長女と次女は一緒に登園を始めましたし、園が家の目の前だったこともあり、
泣くことなく通うことが出来ました。
三女の時は少し距離がありました。
何日か泣いたようですが、それよりも「三輪車で行く!」と言い張って聞かなかったという事件が強烈でした。
そして、三女は実際に三輪車で登園しました。
高校生が校則を破ってバイクで登校するような感じでしょうか。(^^)/
四女は極めてクールな性格ですが、その四女が1日だけ泣いたという出来事が我が家にとっては驚きの事件です。
そのくらい、《泣くか否か》、《何日泣くか》という問題は関心が高まる視点です。
さて、孫の二日目はどうだったか。
実は、この幼稚園は4月10日(木)が開園記念日でお休みになりました。
したがって、11日(金)が「二日目」になります。
朝の様子がLINEで母親から送られて来ました。
2日目の朝
出発前に「アンパンマンみる」「アンパンマンブロックで遊ぶ」などと言ったが、「幼稚園から帰ってきてからね」と言うとそれ以上ゴネることなく家を出る
幼稚園に着くと自分の靴箱に外靴を入れて上靴を履き、振り返ることもなくスタスタ教室へ向かう
「バイバイ、11時30分に迎えに来るからね」と言うと
真顔で「うん」と手を振り返す
先生方に「たくましいね…」「お母さんの方が寂しいね…」と言われる
情景が目に浮かびます。
このLINEを読んで、私も泣きそうになりました。
「振り返ることもなくスタスタ教室へ向かう」
「真顔で『うん』と手を振り返す」
ジイジも涙、涙です。
そして、3歳児なりの本人の決意も伝わって来ます。
母親はその表情を「覚悟を決めたような顔」と見取っていました。

3.「お母さんとトイレに行くから帰る」
この日の連絡帳です。
朝、「いってらっしゃい!」と笑顔で言っていたAちゃん。その後もおままごとをしたり、魚つりや年長さんが作ったコロコロあそびをやらせてもらったり、色々なあそびを楽しみました。
9:40頃トイレの確認をしたあたりから、「お母さんとトイレに行くから帰る」と泣き始め、担任と落ち着くまで一緒に過ごしました。自分でお母さんの車を見たいと言ったので、園長に確認し、一緒に散歩に出かけ、色々な話をして、落ち着いたようで、幼稚園に戻り、その後、粘土やおままごとで時間まで遊びました。
クラス活動では、出席確認のお返事も上手に出き、出席シール貼りも自分でやることが出来ました。
新しい環境で不安がたくさんあると思うので、安心して慣れて行けるよう関わって行きたいと思いますので、家でも幼稚園のことを話している時は教えていただけたらと思います。
そうでした。
トイレの問題がありました。
【トイレトレーニング】トイレットトレーニングともいう。子どもが自分でトイレで排泄できるように練習する取り組みです。おむつがとれるようになり、自立した生活を送れるようになることを目指します。
辞書的にはこうなりますが、幼稚園に行くことを考えた場合には、もう少し複雑になります。
「お母さんとトイレに行くから帰る」
これは秩序感覚ですね。
今まで家では母親が付き添っていたので、排泄は自分で出来る子供でも、その補助や付き添いには《いつもと同じ人にやってもらうものだ》という感覚が身についています。
園での排泄を考えた場合は、そのことも想定して園と家庭が連携しなければならないということです。
あと、手前味噌になりますが、
「~だから帰る」と明確に自分の考えを告げた言語能力は評価できます。
これも秩序感覚とセットで、それまでの子育てが適切であったことを物語っています。
そして、園児のこの主張に対する先生の対応が見事です。
自分でお母さんの車を見たいと言ったので、園長に確認し、一緒に散歩に出かけ、色々な話をして、落ち着いたようで、幼稚園に戻り、その後、粘土やおままごとで時間まで遊びました。
ここまで個別に対応していただいていいのでしょうか? というくらいに丁寧な保育をしていただきました。
この対応はざっくり言うと「時間稼ぎ」です。
少しカッコ良く言うと「クールダウン」です。
でも、もっと分析すると違う面が見えて来ます。
この孫は母親似で、自分で納得しなければテコでも動かない性格の持ち主です。
こういうタイプの子は学校にもいます。
こんな子には闘ってはいけません。
《自分で納得するまで動かない》ということは《納得すれば動く》ということですから、納得させる工夫をすることが支援となります。
「自分でお母さんの車を見たい!」
「じゃあ、見に行こうか!」
と言えば納得するでしょう。
そして、「ちょっと待ってね。園長先生に聞いて来るから」と言えば、待つことが出来るでしょう。
保育者としても、職員としても見事な対応です。
その次も素晴らしいですね。
落ち着いたようで、幼稚園に戻り、その後、粘土やおままごとで時間まで遊びました。
ここも「時間稼ぎ」とか「クールダウン」という言葉で片付けられそうですが、それだけではありません。
これは「シフティング(切り替え)」を使わせたということです。
自分をコントロールする力のことを「実行機能」と言いますが、その機能には3つの種類があります。
この場合は「我慢」というよりは「切り替え」をさせています。
このような場面で、支援者は次のように考えます。
うーん。工夫すれば自分で切り替えられるように出来そうだな。
それで、「納得(合意形成)」を作った上で、外に連れ出しておしゃべりをしたわけです。
ですから、自分で戻れるような雰囲気を察知したなら、すかさず「じゃあ戻ろうか?」などと、ここでも合意形成を作ったのではないかと推測します。
したがって、この先生は、
納得(合意形成)+シフティング(切り替え)
を実現させる技能を持っている先生なのだと判ります。
それにしても、こんな風にジジイに分析されたら嫌ですよね。

4.「win-win-win」を実現させる方略
補足しますが、実行機能(前頭前野)が成熟するのは24歳頃だと言われています。
当然ながら幼児では未発達です。
ですから、放置していてはその機能を使えません。
《使わせる》ための支援が必要になります。
そして、使わせた後は《成功体験》を味わわせると強化されます。
「自分で我慢できたね!」とか、
「お母さんを待つことが出来たね!」などという言葉かけです。
多分、そういうやり取りもあったのではないでしょうか。
保育って奥が深いですよね。
だから専門職なのです。
だからもっと待遇を良くすべきだと思うのです。
最後にまた手前味噌になりますが、このことを子供の側から分析してみます。
子供の側から見ると、《シフティングを使った》ということです。
そして、《3歳の時点でシフティング機能がある程度まで備わっていた》ということです。
簡単に言うと《実行機能を育てていた》ということであり、
これはそれまでの子育ての成果です。
実行機能は脳の前頭前野を中心としたネットワーク機能ですから、小さい時に意識して前頭前野を育てていれば発達します。
何を意識すればいいのかは、子育て講座などで何度もお話ししてきました。
最重要は「好奇心」です。
そのための道具として、「おもちゃ」や「絵本」、場所としての「家庭環境」、時間としての「体験」などがあります。
ですから、この「二日目の出来事」は、先生と保護者との連携の結果だと受け止めることが出来ます。
そして、そのように受け止めることによって、
保護者の家庭教育の質が向上し、
先生の専門性が評価される社会になると私は考えています。
また、それは子供本人の人生を左右するほど重要なことです。
これがいわゆる「win-win-win」を実現させる方略なのです。
