発達障害への理解

講座45 発達障害の「原因」は 遺伝?育て方?

投稿日:2020年10月7日 更新日:

 目 次
1.結論
2.エピジェネティクスとは何か
3.ストレスと環境化学物質
4.「スイッチ」と「コントローラー」
5.まとめ

1.結論

 まず、結論。

発達障害の原因は「遺伝」でも「育て方」でもありません。

 文科省が示している「特別支援学級」の在籍者数は年々増えています。

 遺伝が原因だとしたら「増える」なんておかしいですよね。
 親の育て方がそんなに変わって来ているとも思えません。

 そもそも「遺伝が原因だ!」と言われたら、親としてどうしようもないですよね。遺伝子を取り換えることなんて無理ですから。

 「育て方のせいだ!」と言われるのも親としてキツイですよね。そんなことを言われても「育て方」なんて学校でちゃんと教えてくれなかったじゃないですか。親を責めるのは親のストレスを増やして子どもの環境をかえって悪くさせてしまう可能性があります。それこそ発達障害の要因になりかねません。

発達障害の原因は「遺伝」でも「育て方」でもありません。

 私はこの2冊の本を何度も読んで、この結論に達しました。
 この結論を共有した上で、次の話に進んでいきましょう。

2.エピジェネティクスとは何か

 では原因は何なのか?

 私たちの遺伝子には「エピジェネティクス」という仕組みがあります。
 簡単に言うと、「遺伝子のスイッチが切り替わる仕組み」です。
 「ONとOFFに切り替わる仕組み」と言ってもいいでしょう。

 どの子にもASDやADHDといった発達障害の遺伝子があると考えられます。「みんな持ってる」っていうことですね。
 でも、A君の遺伝子はOFF(健常発達)になっていて、B君の遺伝子はON(発達障害)になっている。
 見た目ではわかりません。
 この違いはどこにあるのでしょう。 

 遺伝子の発現(ON/OFF)には「ストレス」と「環境化学物質」が関わっていると考えられます。
 生活していく上で、「ストレス」は大なり小なり誰にでもあるでしょう。
 「環境化学物質」の影響も地球人全員にあります。
 しかし、それらの影響が小さい場合は遺伝子のスイッチはOFFになりやすく、影響が大きい場合はONになりやすいと考えられます。
 つまり、A君の場合は、どちらの影響も小さく済んでいるので遺伝子のスイッチがOFFになっているというわけです。

 また、影響を受けやすい遺伝子と受けにくい遺伝子の存在も考えられます。
 A君はストレスの影響や環境化学物質の影響を受けにくい子なのかも知れません。

 次に、B君を考えてみましょう。

 B君はストレスと環境化学物質の影響を大きく受けてスイッチがONになってしまったと考えることができます。
 また、そういう影響を受けやすい子であるとも考えられます。

発達障害の遺伝子が、ONになっているかOFFになっているか

 これがエピジェネティクスの考え方の基本です。

 この発見は「遺伝子と環境は別々の要因」「遺伝子は変化しない」という既成の概念を覆すものであった。エピジェネティクスの登場以来、病気の発症や子どもたちの発達にとって、遺伝と環境の相互作用は非常に重要であることが認識されるようになった。(『発達障害の謎を解く』53ページ)

3.ストレスと環境化学物質

 では、子どもに影響を与える「大きなストレス」とは何でしょう。

 それはDV(子どもの前での暴力)や虐待(身体的・性的・精神的)や放置(ネグレクト)などのPTSD(心的外傷)です。

 「PTSDがなぜおこるのか」については、もともと動物脳に備わった「生命の危険に結びつく」捕食獣などの恐怖をともなう体験記憶が、一度でも脳に記憶され消えない仕組みが、次の捕食獣への対応を早め、生存率を上げたためと考えられる。(『発達障害の原因と発症メカニズム』114ページ)

 念のために確認しますが、発達障害を持った家庭がこのような問題行為をおこなっているというわけではありません。そのような「疑いの目」は、保護者や子ども自身のストレスを強めてしまい、むしろ有害です。
 エピジェネティクスの特長は、「遺伝のせいだ!」という親にとってストレスを減らす一方で、「育て方のせいだ!」という社会の偏見(これも親にとってのストレス)も減らすところにあります。
 区別が必要です。
 虐待は「育て方」ではありません。犯罪です。
 私たちは「偏見」も「虐待」も両方とも無くさなければいけません。

 次に、もう一つの要因「環境化学物質」を見ていきましょう。

 これはもうたくさんあり過ぎて避けられない状態です。
 代表的なものをあげてみましょう。

①農薬
②食品添加物
③ダイオキシン
④○○剤(殺虫剤、除草剤、洗剤、柔軟剤、消臭剤など)
⑤その他(タバコ、化粧品、マイクロプラスチック、住宅建材など)

 「日本人における有害な環境化学物質の曝露状況割合(環境省)2011~2012」という資料を見てみますと、ざっと次のような物質が並んでいます。

ダイオキシン、PCB、フッ素化合物、DDT、ヘキサクロロベンゼン、メチル水銀、有機リン系農薬、パラチオン代謝物、プラスチック可塑剤、トリクロサン、カドミウム、ヒ素

 特に「農薬」は「遺伝子ON」との関連が強いことがわかっています。

 農薬使用量の多い国は、韓国、日本、アメリカ、イギリスの順ですが、この順位が発達障害の人数と見事に一致していることが知られています。

 アメリカやヨーロッパでは規制や警告が出されています。
 日本でも環境省の「エコチル調査」というプロジェクトが動いています。

北九州市のポスター

 環境化学物質は生殖前の私たちの体に取り込まれています。
 男性は特に影響を受けやすく、男性の生殖年齢と発達障害の関係には科学的根拠が出ています。
 また、女性は胎児期にその影響を受けるので注意が必要なのは一般に知られているところです。
 そして、当然ですが、誕生後の子どもの体もその影響を受けています。
 「飲み・食い」「吸う」「触る」ことによって環境化学物質は私たちの体内に入ります。これは地球上の誰もが背負っているリスクです。

なるべく減らす

 これしかないように思います。
 そのためには家庭や学校での「教育」が重要です。

4.「スイッチ」と「コントローラー」

 ここまで、ストレスと環境化学物質が発達障害の遺伝子をONにするという話をしてきました。

 ですから、遺伝子をOFFにするためには、ストレスと環境化学物質を減らせばいいということになります。

 では、

遺伝子がONになった子はずっと発達障害のままなのでしょうか。

 そんなことはありません。
 発達障害の関係式を思い出してください。

発達凸凹 ≠ 発達障害

 発達の凸凹があっても「発達障害」とは呼ばないということでしたね。
 これは発達障害の遺伝子がONであっても「発達障害」とは呼ばないということです。

発達凸凹 + 周囲とうまくいかない = 発達障害

 凸凹に「周囲とうまくいかない」という状況が発生した時(適応障害の発生)が「発達障害」でした。
 問題はこの「周囲とうまくいかない」という状況です。
 ですから、たとえ遺伝子がONの状態であっても、周囲とうまくいくようにコントロールすれば「発達障害」にはなりません。

 そこで「コントローラー」が活躍します。
 人間は誰もが脳の中(おでこの裏)に「コントローラー」を持っています。
 「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と言います。

この前頭前野を使えば、「発達凸凹」という個性はそのままで、周囲とうまくやっていくことが可能です。

前頭前野は「栄養」「睡眠」「刺激」によって発達します。

 「バランスのとれた食事」、「適切な睡眠」、「楽しい刺激」や「心地よい刺激」や「遊び・運動」などです。気持ちで表すと、「おいしい」「気持ちいい」「うれしい」「楽しい」などです。
 子どもの頃は、抱っこされたり、ハグされたり、ナデナデされたりすると喜びますよね。スキンシップは「心地よい刺激」です。
 勉強も本来は「楽しい」ものですよね。最近の勉強は「楽しい」ではなく「苦しい」ものになっているように感じるのは私だけでしょうか。

5.まとめ

 子どものコントロール力(前頭前野)を発達させるポイントは2つです。

①発達時期を知ること

 発達のピークは1~8歳頃です。「8歳までが勝負」とも言われますが、グラフを見ると8歳以降でも伸びる時期です。20歳以降は平らになって70歳からは下がっています。つまり、乳児期、幼児期、児童期はチャンスです。

②子どもがコントロールしやすい環境を用意すること

 子どもは「発達途中」だから「子ども」です。
 コントロールしやすい環境をつくってあげることが必要です。
 その環境とは「大人の理解」と「生活環境の工夫」です。

 発達障害は遺伝子のせいではありません。
 発達障害の遺伝子は誰もが持っています。

 育て方のせいでもありません。
 PTSDを受けやすいという「人間の本能」と生活する中での「環境化学物質」が大きくかかわっています。

 そして、たとえ「スイッチ」がONになっていても「コントローラー」でコントロールすることが可能です。

 ただし、これは本人や家族だけで出来ることではありません。

 「周囲の理解」と「社会の教育」が不可欠です。

 私はそのことを2冊の本から学び、ここにまとめました。

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