講座436 愛着形成の道筋

前回は「育児の神様」と呼ばれた小児科医の内藤寿七郎先生のご著書から、
「育児のワンポイントアドバイス」を紹介させていただきました。

今回は私が個人的に「療育の神様」と慕っている精神科医の杉山登志郎先生のご著書から、
「愛着形成の大切さ」について解説させていただきます。

今回紹介する本は、杉山登志郎著『発達障害の薬物療法』(岩崎学術出版社)です。

この本の一節「反応性愛着障害」という部分(p.31~p.32)を少しずつ分けて紹介します。

1.人生の土台

愛着の形成は、乳幼児期の最も大切な発達課題である。(杉山登志郎)

これはもう皆さん知ってますよね。

何といっても愛着形成は人生の《土台》ですから「最も大切」ということになります。

「土台」が完成していなければ、その上が崩れてしまう危険性があります。

つまり、人生につまずいてしまうということです。

そして、愛着形成は乳幼児期、特に乳児期に作り上げるものですから一生に一度です。

「愛着の形成は、乳幼児期の最も大切な発達課題である」という一文はそういう意味です。

2.視線を向ける

乳児期後半になると赤ちゃんは人見知りを示すようになって、知らない人が来たときに怯え、泣いたり親にしがみついたりする行動がみられるようになる。それだけでなく、いつも親の方に視線を向けていて、親といるときに一番リラックスしている。(杉山登志郎)

「人見知り」については皆さんご存知でしょう。

わかりやすい行動なので必ずと言っていいほど大人は対応します。

ここで重要なのは《視線を向ける》ということです。

乳幼児は一日の中でたくさん視線を向けます。

そして、他人に対して視線を向けるのと、親に対して視線を向けるのでは意味が違います。

親に対して視線を向けた時は《何かを求めている時》です。

「おもちゃを並べることが出来たよ!」(見て!)

「なんだかお腹が痛いよ~」(こっち見て!)

「抱っこして欲しいなあ」(こっちを向いて!)

赤ちゃんはまだ話せません。

話せないので視線を送ります。

これは赤ちゃんの「発信行動」(John Bowlby1958)です。

この「発信」(視線を向ける)によって親との間に愛着を形成しようとしているわけです。

しかし、《視線を向ける》という行動は、小さな小さな行動です。

大人が何かしている時は、なかなか気づいてあげられません。

左側は、いわゆる《スマホ授乳》です。

「授乳中に赤ちゃんの目や顔を見ている」が88.1%で1位ですが、「LINEの返信をする」も64.0%あります。

これは「複数回答」だからこうなっています。

ということは、《両方やっている》という人が大多数ということです。

私はこれでいいと思います。

そもそも《ずっと赤ちゃんを見ていなさい》というのは無理です。

それに、授乳の時ぐらいしか、スマホを操作するチャンスがないのが実情です。

ですから、ここで重要なのは《赤ちゃんにも気を配る》ということでしょう。

具体的に言うと、授乳中の赤ちゃんがひと息入れてお母さんの顔を見た時に、

その小さな小さな発信に気づいて、目を合わせてあげるということです。

それで赤ちゃんは成功体験を手に入れます。

これは授乳中の赤ちゃんに限ったことではありません。

1歳を過ぎてひとりで遊んでいる幼児でも、時々親の方に目を向けることがあります。

その小さな小さな発信に気づいてあげられるかどうか。

そこが愛着形成の大切なポイントになります。

3.母子分離不安

そして、不安に駆られたときに、泣いて親に信号を出す。
さらに不安なときや親が離れようとしたときに、にじり寄ってくっつこうとする。
これらの一連の行動が愛着行動である。
(杉山登志郎)

いわゆる《母子分離不安》です。

母子分離不安は生後10~18カ月頃に最も現れる傾向があります。

母親がトイレに行くだけで大泣きしたり、トイレまでついて行ったりします。

離れていても安心し切っている幼児もいれば、まだまだ不安な幼児もいます。

しかし、いつしか愛情が満タンになれば、こうした行動はなくなっていきます。

大切なのは《叱らないこと》です。

これは《愛着を形成しようとする行動なのだ》という理解がお母さんをイライラさせません。

4.愛は壺に貯まる

1歳を過ぎると、外の世界への好奇心で一杯になって遊んでいた赤ちゃんが、はっと親の不在に気づき、親のもとに駆け寄り、ひとしきりくっついていて、しばらくするとまた親から離れて探索に行く。あたかも親にくっつくことでエネルギーを補充しているかのようだ。(杉山登志郎)

これは教育学者である故・坂東義教先生の《愛は壺に貯まる理論》です。

壺の中は外から見えません。

壺の中の愛情は消費されるので増えたり減ったりします。

そして、壺の大きさや形は子どもによって異なります。

少しの愛情で満タンになる子もいれば、いくら愛情を注いでもなかなか満タンになってくれない壺もあります。

この写真を見てください。

幼児が小学生の集団を注目しています。

この時、幼児の体はお母さんの体から少し離れています。

好奇心が働いて、お姉さん、お兄さんの所に行ってみようかなと思っているわけです。

しかし、

やっぱり怖くなって、お母さんにハグされます。

お母さんは我が子がバックして来たのでハグして愛情を充電しています。

すると、

勇気を出して、また近づいて行きました。

これが愛情(安全安心)の充電です。

5.飛行場現象

これが繰り返される過程で、徐々に子どもは、親から離れることができるようになる。(杉山登志郎)

ここで大切なのは「徐々に」ということです。

時折、気がついた時には、愛情を求める行為をします。

自分の壺の満タン状態が続いて、安心安全の確信が持てた時に、親から離れることができるわけです。

これを《飛行場現象》とも呼びます。

6.内在化

この接近、接触、再分離を繰り返すうちに、目の前にいなくとも、そこにいる親のイメージを思い浮かべることができるようになり、思い浮かべるだけで、エネルギー切れが起きなくなる。つまり子どもの中に親が内在化される。これが愛着の形成である。(杉山登志郎)

お母さんがキッチンで料理をしていても、子どもがひとりで遊べるのは、子どもの心の中に《大丈夫!自分は守られている!》という確信があるです。

これを「内在化」と言います。

そして、これが出来上がった時が愛着形成のゴールと言えます。

7.愛着形成の後に起き上がって来る能力

愛着形成は対人関係の基本であるだけでなく、情動コントロールの基盤でもある。愛着行動は、子どもが怯えたときに養育者によって不安をなだめてもらう行動である。愛着が未形成だと、自らをなだめることが困難になる。(杉山登志郎)

心の中に親が内在化していると様々な行動が起き上がって来ます。

人とのコミュニケーション、自分の感情のコントロールなどは愛着という土台があってこそ健全に出来る行為です。

ですから、《我慢する》という行為は愛着形成のあとに行うのが健全です。

内藤寿七郎先生が「ダメという言葉は4歳から」と言われたのはこのためでしょう。

前頭前野がある程度発達してから《納得して我慢する》ということができるわけです。

私の子育て講座で使っているスライドを提示します。

8.「親の顔」理論

また愛着は社会性の核にもなるものである。子どもが何か禁じられていることを行うとき、親の顔が浮かび、「これをしたら親がどんな顔をするだろう」と考え、それが行動の歯止めになる。(杉山登志郎)

これは私自身にも経験があります。

子どもの頃はよくこんなことを考えていました。

小学生の時もありました。

中学生の時もありました。

高校生になってもありました。

親の顔が浮かんで歯止めになる。

これは日常の小さな禁止行為から麻薬や売春や自殺や他殺やに至るまで、様々な行為に影響を与える考え方だと思います。

この「これをしたら親がどんな顔をするだろう」という思考をするには、ある程度の脳の発達が必要です。

《記憶の出し入れ》や《情報の統合》をたくさん行って前頭前野を発達させるのは4歳前後の課題です。

その前までに愛着形成を完成させておくと、《これをしたら相手がどんな気持ちになるか》がわかるようになります。

「愛着は社会性の核にもなる」というのはそういう意味です。

9.レジリエンスは思春期までに

さらに愛着はトラウマからの防波堤でもある。われわれが辛い体験をしたとき、どのようにそれを乗り越えるのか考えてみるとよい。親、配偶者、恋人、子ども、そして大切なペットなど、愛着をもつものの存在を支えとして乗り越えようとするではないか。つまり愛着の不全はトラウマの防波堤を低くしてしまう。(杉山登志郎)

大人の自殺者数は減っていますが、小中高生の自殺者数は増えています。

これは、困難を乗り越える力が弱いからでしょう。

困難を乗り越える力を《レジリエンス》と言います。

そして、レジリエンスは思春期までに身につけるのが健全だと言われています。

人生における大きな困難は思春期以降に訪れるものだからです。

しかし、《その前》に自ら命を絶ってしまう子どもたちが減りません。

その大きな要因に「愛着の不全」があるはずです。

10.「第四の発達障害」

子ども虐待において、この愛着はどうなるのだろう。子どもの側からすると、養育者と一緒にいるときは、リラックスではなく、いつ暴力が降りかかってくるのか、緊張のなかに過ごすことになる。その結果、虐待のなかに暮らす子どもたちは常に警戒警報が出っぱなしの状態を強いられる。つまり、覚醒状態が続く。これが被虐待児に普遍的に認められる生理的な緊張状態とハイテンションの基盤である。重要なことは、子どもは養育者との間に何らかの愛着を作らずには生きられないという事実である。(杉山登志郎)

今、我が国における児童虐待の件数(児童相談所対応した件数)は20万人を超えています。

現場の経験から言いますと、これは氷山の一角でしょう。

現実にはもっとあるはずです。

私は以前、全国の先生方から「街で見かけた理不尽な叱り方」を集めました。

ざっとこんな感じです。

皆さんも見かけたことがあるのではないでしょうか?

今、母親たちのこのような言葉が街の中で聞かれています。

これは「母親」だけの問題ではありません。

21世紀になって脳科学の進展とともに、子ども虐待というトラウマの影響が、脳にきちんとした器質的、機能的な変化を引き起こすことが明らかになった。それは海馬の委縮、性的虐待における後頭葉の委縮、および脳梁の委縮など、一般の発達障害よりも遥かに広大な異常が認められるのである。(杉山登志郎)

11.まとめ

今回は杉山登志郎先生の『発達障害の薬物療法』という本の中から、愛着形成の大切さに関わる部分を抜粋し、解説を加えさせていただきました。

今後も愛着形成の重要性について発信していきたいと思います。

 目 次
1.人生の土台
2.視線を向ける
3.母子分離不安
4.愛は壺に貯まる
5.飛行場現象
6.内在化
7.愛着形成の後に起き上がって来る能力
8.「親の顔」理論
9.レジリエンスは思春期までに
10.「第四の発達障害」
11.まとめ

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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