講座46 発達障害「薬の役目」

 目 次
1.薬で治りますか?
2.AIと人間の違い
3.「不安」の正体
4.薬の役目
5.まとめ

1.薬で治りますか?

 発達障害の薬には、コンサータ、ストラテラ、エビリファイ、インチュニブなど様々なものがあります。
 そのような薬で発達障害は治るのでしょうか?

結論 治りません。

 発達障害は、そもそも病気ではないので治りません。(詳しくは講座44)
 「治す」というよりも、「発達させる」とか「育てる・療育する」と言った方が適切だと思います。
 では、薬は何のためにあるのでしょうか? それは次のためです。

発達のチャンスを増やすため

 どの薬も根本治療のためではありません。
 症状(苦手や困難)を軽減・緩和させるためのものです。
 そして、大切なのは次のことです。

症状の軽減・緩和が「ゴール」ではない。

 薬で症状がおさまることをゴールだと勘違いしている大人もいますが、そうではありません。症状が軽くなったことで、プラスの学習、プラスの体験を積み重ねやすくなります。成長・発達のチャンスです。自信をつけるチャンスなのです。
 そのことを踏まえた上で、今回は薬で症状が軽くなる仕組みについて解説します。このことは発達障害のさらなる理解に役立つはずです。

2.AIと人間の違い

 私たちの脳には電気が走っています。
 情報は電気信号です。
 電気信号を走らせることで情報のやり取りをします。これを

「頭を使う」

と言います。

 電気ですからAIみたいな感じがしますよね。
 実はその通りで、電気信号(情報)はコンピュータのように正確に脳の中を駆け巡ります。

 しかし、人間の脳にはコンピュータと違う点があります。

線と線が完全にはつながってない。

 当たり前ですが、コンピュータは100%電気でつながっています。
 キャッチされた情報は回線を通して「速く」「正確に」処理されます。

 人間も神経細胞の中では電気信号が「速く」「正確に」情報を運ぶのですが、よく見ると神経細胞と神経細胞の間にすき間があります。
 実は、100%が電気ではないのです。

 すき間があるために電気信号はそこでストップします。
 ストップしたままだと情報が伝わらないので、送られて来た情報(電気信号)を化学物質に変えて向こう側へ送ります。

この物質のことを「神経伝達物質」と言います。

 神経伝達物質とは「セロトニン」「ドーパミン」「ノルアドレナリン」などです。どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。
 この神経伝達物質が神経細胞の向こう側でキャッチされて、また電気信号となって脳の中を駆け巡ります。

 脳の中には1㎜³あたり10万本もの神経細胞が詰まっているそうです。
 1本1本の神経細胞でこのような「伝達」をしているので、人間の情報処理はコンピュータに比べて「ちょっと遅く」「ちょっとアバウト」になります。
 そして、そのスピードや受け取り方は人によって異なります。
 ですから人は「まったく同じ」ではないわけです。
 AIとは違い、「人間味」とか「個性」が出て来るわけです。

3.「不安」の正体

 その人間味や個性が原因で周囲とうまくいかない「状況」が発達障害です。
 特に、幼児期・児童期は、伝達機能が未発達なので、伝達物質が十分に分泌されない場合があります。それが子どもの発達障害です。

誤って教室のガラスを割ってしまった場合で考えてみましょう。

 A君は健常発達児です。神経伝達物質がたくさん放出されています。「ガラスを割ってしまった」という状況を冷静に受け止めることができています。

 B君は発達障害です。神経伝達物質の濃度が薄いために「伝達」がうまく行きません。「ガラスを割っちゃった」という感情(不安)だけに強く襲われます。
 不安は人間の本能である防衛反応(3F)を引き起こします。「オレはやってない!」とか、逃走するとか、固まるなどの行動です。場合によっては、奇声を発するとか、暴れるなどの行動も起こします。それらは不安から自分を守るための防衛反応です。

 神経細胞と神経細胞のすき間には、セロトニンやドーパミンやノルアドレナリンといった伝達物質が分泌されているのですが、発達障害ではこれらの濃度がアンバランスになります。そのために情報がうまく伝わらず、様々な困難を抱えてしまうわけです(情報よりも感情に強く影響されてしまう)。

4.薬の役目

 神経細胞をよく見ると、すき間の近くに「再取り込み口」という穴があります。これは使い終わった伝達物質を再び細胞の中に取り込むための口です。 

発達障害の薬はこの口をブロックします。

 ブロックされるので、神経伝達物質は、そのまま、すき間で漂うことになります。つまり、神経伝達物質の濃度が下がるのを防いでくれます。

 発達障害のことを「グレーゾーン」と呼ぶ人がいますが、それは「決められない」という意味です。神経伝達物質が「濃い」か「薄い」か、どのくらいがちょうどいいのかといった基準はどこにもありません。この粒々が何粒あれば健常だという基準はないのです。

診断」はできても「断定」はできない。

 診断はお医者さんしかできません。そのお医者さんであっても「発達障害の疑いがある」といった言い方をします。ましてや他の立場の人が簡単に判断することはできません。「粒々」の数は環境によって増えたり減ったりします。その時によっても違うので断定はしないものです。

5.まとめ

 薬が神経伝達物質のバランスをとるために役立つ仕組みは以上ですが、薬以外にもバランスをとる方法はあります。

 栄養 睡眠 刺激

 この三つには次のような効果があります。

 ①セロトニンを増やしてくれる
 ②ドーパミンを出してくれる
 ③ノルアドレナリンのバランスを保ってくれる

 生活の中で、「おいしい」「楽しい」「うれしい」「気持ちいい」が増えると、神経伝達物質のバランスもとれてきます。

 トラブルが多かったり、叱られることが多かったりすると、このような生活が手に入りません。その子の状態によっては、「おいしい」「楽しい」「うれしい」「気持ちいい」を手に入れるためにも、

薬の力を借りる

という選択肢があるわけです。

 これが、

 症状の軽減・緩和が「ゴール」ではない

ということの意味なのです。

参考図書:杉山登志郎『発達障害の子どもたち』

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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