講座441 2023年に読んだ本ベスト5
第5位『狩猟採集社会の子育て論』高田明
去年はずうーっと「子ども観」というテーマで本を読んでいました。
社会は子どもをどう見ているかというのが「子ども観」です。
たとえば今だったら、子どもを殴ったり、外に放り出したりしたら、虐待だ!って騒がれるじゃないですか。
でも、少し前の時代には、生まれた赤ちゃんが女の子だったら首をひねってその場で殺しても問題なかったわけです。
中世のヨーロッパでは、子どもは人間ではなく《動物》のように扱われていました。
現代は《子どもが大切にされる時代》です。
これは人類史上初めての出来事なのではないかと思います。
こんな風に時代によって「子ども観」はまったく違うわけです。
そこに興味を持った私は地球上に人類が生まれた時からの「子ども観」を調べてみようと思いました。
人類史の中で最も長いのが狩猟採集時代です。
ヒト属の誕生はおよそ250万年前で、農業革命は1万2000年前ですから、
250万-12000=248万8000
これはもう1万の位で四捨五入したら約250万に戻ってしまいますね。
人間の歴史の中で農業が始まったのは《つい最近》の出来事なのです。
つまり、人間の歴史のほとんどは「狩猟採集生活」です。
ですから、今でも私たちの脳の中にはその当時の本能が色濃く残っています。
子どもたちが見せる「防衛反応(闘う・逃げる・固まる)」などはその例です。
ところで、私が興味を持ったのは《赤ちゃんへの扱い》です。
農業革命以前、つまり狩猟採集時代の育児はどうだったのか?
中世や近世のように簡単に赤ちゃんを殺していたのか。
それとも大事に育てられていたのか。
そのヒントとして、現代でも狩猟採集生活をしているナミビアのジュホアン族とクン族の生活を記録した本書に注目したわけです。
この追究は今年も継続しますので、いつか整理して配信したいと思います。
第4位『先生がママ先生になったら読む本』平野里那ほか
表題は「ママになったら」ですが、私は「先生になったら」あるいは「先生になる前に」読んで欲しいと思いました。
今は1月ですから、4月から先生になる学生さんに読んで欲しいですね。
そうしたら、学校の先生の生活がどういうものなのかが具体的にわかります。
そういう貴重な本です。
去年は「働き方改革」が叫ばれていましたが、正直、あまり成果を上げずに終わった感じがします。
なぜ成果が出ないのか。
それは教員の生活に密着していないからではないでしょうか。
そういう意味で、政策担当者や校長・教頭にも読んでいただきたい本です。
もちろん「ママ先生になったら」そして「ママ先生になる前」に読むと得ることが沢山あります。
第3位『教室マルトリートメント』川上康則
この本は学校関係者はもちろん、保護者にも読んでいただきたい本です。
「マルトリートメント」とうのは《不適切な対応》という意味ですが、本来は「虐待」という意味です。
英吾でチャイルド・マルトリートメント(Child maltreatment)と言えば、「児童虐待」を意味します。
国連の世界保健機構(WHO)では、児童虐待を次のように定義しています。
Child maltreatment is the abuse and neglect that occurs to children under 18 years of age. It includes all types of physical and/or emotional ill-treatment, sexual abuse, neglect, negligence and commercial or other exploitation, which results in actual or potential harm to the child’s health, survival, development or dignity in the context of a relationship of responsibility, trust or power.
子供虐待とは、18歳未満の子供に対する虐待および無視のことを指します。これには、身体的または精神的な虐待、性的虐待、無視、怠慢、商業的またはその他の搾取など、結果として、責任、信頼、または権力の関係の中で、子供の健康、生存、発達、尊厳に実際的または潜在的な害をもたらすものが含まれます。(水野訳)
長いので整理しましょう。
児童虐待というのは大きく分けると「子供に対する虐待および無視」ということです。
それを具体的に分けると次の6つです。
①身体的虐待
②精神的虐待
③性的虐待
④無視
⑤怠慢
⑥搾取
これを日本の「児童虐待防止法」と比べてみましょう。
日本の場合は「児童虐待」と言えば次の4つです。
①身体的虐待
②性的虐待
③ネグレクト
④心理的虐待
何かちょっと物足りない気がしますが、川上氏の着眼点はここではありません。
川上氏が着目したのは「which results」以下です。
結果として、責任、信頼、または権力の関係の中で、子供の健康、生存、発達、尊厳に実際的または潜在的な害をもたらすものが含まれます。
川上氏は書いています。
これは「日本における児童虐待よりも広く捉えた内容であり、虐待とは言い切れないような、大人から子どもへの発達を阻害する行為全般を含めたものであると言えます。」と。
つまり、WHOが定めている児童虐待とは、「発達を阻害する行為全般」を含めているという解釈です。
これは英文を訳すと、その通りです。
では、子どもの発達を阻害する大人の行為には、どのようなものがあるでしょう。
川上氏の主張を参考にして足りないものを取り上げてみます。
①大人の過度な期待
②将来を思っての高圧的な指導
③家族との離別・死別
④家族の犯罪
⑤家族の精神疾患・依存症
⑥愛着形成不全
⑦発達障害の無理解
こんなところでしょうか。
くり返しますが、WHOが定めている「虐待」には、①~⑦のような「発達を阻害する行為全般」が含まれているということです。
しかし、日本では①~⑦のような行為を「虐待」とは言いませんよね。
例えば、親の離婚は子どもの発達を阻害する行為ですが、社会ではそれを虐待とまでは言いません。
同様に、大人の過度な期待も体罰とは言いません。
言わないけど子どもにとっていいことではないことはわかっている。
ですから、あからさまに「体罰」とは言わないで「マルトリートメント」と表現しているのが著者の川上氏であり、福井大学の友田明美氏であるわけです。
ここだけでも大きな問題提起なのですが、川上氏の大きな提起はもうひとつあります。
「in the context of a relationship of responsibility, trust or power.」
つまり、「責任、信頼、または権力の関係の中で」という意味です。
子どもに対して責任のある大人、信頼関係を結ぶ大人、権力的立場にある大人などが対象になっているという点です。
川上氏はこの点を強調します。
なぜならば、日本の虐待禁止法はこうなっているからです。
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者がその監護する児童について行う次に掲げる行為をいう。
わかりますか?
日本の虐待禁止法では「児童虐待」と言えば保護者が対象になっています。
この条文を読む限り、教師が学校で行う指導は虐待に該当しないことになります。
教師はむしろ通告するのが役目になっています。
教師は明らかに「責任、信頼、または権力の関係の中で」子どもたちに関わっているにもかかわらずです。
これが川上氏の第二の問題提起です。
この本の1章~3章までは、このような川上氏のすぐれた熱い主張が続きます。
第2位『言語の本質』今井むつみ・秋田喜美
2023年の大ヒット新書です。
おもしろかったですね。何度も読みました。
この本については過去の講座の中で詳しく取り上げていますので紹介は省略します。
講座415 「気づく」ということ
講座433 「1歳の壁」を乗り越えさせる方法
講座438 語彙爆発の秘密②
講座439 語彙爆発の秘密③
第1位『サピエンス全史・上下』ユヴァル・ノア・ハラリ
文庫になったので読み始めたのですが、おもしろかったですねえ。
授業化して子どもたちに教えたいことがたくさんありました。
あまりにも中身が濃いのでAIに要約させてみます。
プロンプト:『サピエンス全史』の内容を200字以内で要約してください。
ChatGPT:『サピエンス全史』は、ユヴァル・ノア・ハラリによる著書で、人類の進化と歴史を探求しています。彼は、ホモ・サピエンス(現代の人類)が他の人類種を超えて成功した理由を追求し、農業の革命、帝国の形成、科学の進展など、人類の転換点を明らかにします。さらに、文化、宗教、経済システムがいかにして人類の共同体を形成し、変革させてきたかを解説します。歴史を通して、ハラリは人類が社会的な構造や信念体系を構築していく過程を描き、未来に向けての課題にも触れています。
はい。合ってます。
「ホモ・サピエンス(現代の人類)が他の人類種を超えて成功した理由」が大きなテーマです。
私はこの本を《子育て》の視点から読みました。
サピエンスの人口が増え始めたのは7万年前ですから、《7万年前の子育てとはどんなものだったのか》というところに興味がありました。
そのあたりから《子育ての仕方の歴史》を「子ども観」と交えてまとめてみたいと考えています。
2024年のうちにできるかどうか挑戦してみます。