講座439 語彙爆発の秘密③

一つ目の理由は、《赤ちゃんは推論力を持って生まれて来るから》でした。

二つ目の理由はは、《0歳~1歳半までの間になんとなく意味を推論しているから》です。

今回はいよいよ最後、三つ目の理由です。

ここで「爆発」が起きます。

さて、どんなことが起きるのでしょう。

3.赤ちゃんに劇的な事件が起こる時

1歳8ヵ月頃になると、赤ちゃんに事件が起こります。

あることに気づくのです。

それはヘレンケラーが体験した《あること》とそっくりなことです。

ヘレンケラーは1歳7か月の時に猩紅熱の後遺症で視力と聴力を失いました。

目も見えない、耳も聴こえない。

真っ暗で、音のない世界でその後を送ったわけです。

そして、7歳の時に出会ったのが家庭教師のサリバン先生です。

ある日、ヘレンは人形を使って遊んでいました。

そこへサリバン先生が来て、指文字(ヘレンの手のひらの指で文字を書くこと)を使って、「doll(ドール)」と書きました。

今、ヘレンが持っている物は「doll(ドール)」という物なんだよ、ということを教えるためです。

でも、ヘレンはもういい加減、指で何かを書かれることにイライラしていました。

それが何なのか。

何の意味があるのか。

「意味」という概念もありませんから、感情だけがイライラしていました。

同じことのくり返しに我慢できなくなったヘレンは人形をつかみ、床の上に投げつけました。

人形は砕け散り、破片が足に散らばったのがわかりました。

サリバン先生はほうきを持って人形のかけらを掃き集め、片付けが終わると、気分転換のためにヘレンを外へ連れ出しました。

小道を歩いていると誰かが井戸の水を汲んでいました。

その時、サリバン先生はヘレンの片手をとり、水が流れ落ちるその下に置きました。

冷たい水がほとばしり、ヘレンの手に流れ落ちました。

その瞬間、先生はヘレンのもう片方の手のひらに、最初はゆっくりと、それから素早く、w-a-t-e-r と綴りを書きました。

ヘレンはじっとしたまま、その指の動きに全神経を集中させていました。

すると突然、まるで忘れていたことをぼんやりと思い出したかのような感覚に襲われました。

感激に打ち震えながら、頭の中が徐々にはっきりしていく。

この時はじめてヘレンは、w-a-t-e-r が、自分の手の上に流れ落ちる冷たい物のことだとわかったのです。

この事件で、ヘレンは自分の人生を変える《ある重要なこと》に気づきました。

それは二つあります。

原作である『奇跡の人・ヘレンケラー自伝』では一つしか明記されていませんが、よく考えるとそれは「二つ」であることがわかります。

さあ、その「二つ」とは何でしょう。

ヘレンは、w-a-t-e-r が、自分の手の上に流れ落ちる冷たい物のことがわかりました。

その直後です。

その直後に、自分の人生を変える《ある重要なこと》に気づいたわけです。

私は、先生方を相手にこのことを授業しました。

同じことを聞きました。

一つはわかるだろうけど、もう一つは出ないだろうと思っていました。

そしたらなんと、両方とも出たのです。

さすがは先生だと思いました。

その一つ目はこのことです。

すべてのものには名前があった

《ものには名前がある》ということに生まれて初めて気づいたわけです。

「名前」というのは《言葉》です。

人間の世界には《言葉》というものがあったという記憶がよみがえったわけです。

ヘレンが視力と聴力を失ったのは1歳7ヵ月頃ですから、まだ言語爆発は起きていなかった可能性があります。

多分、起きていなかったでしょう。

ですから言葉の数は3語前後で、「なんとなく」の世界をさまよっていたはずです。

だからこそ、「すべてのものには名前があった」と初めて気づいたわけです。

再度書きますが、「名前」というのは《言葉》です。

自分が生きている世界には《言葉》があるのだということを、この時はっきりと認識したわけです。

それが一つ目の気づき(認識)です。

もう一つは何でしょう。

それは先生方だからこそ気づいたことかも知れません。

今までサリバン先生がしてくれた行為の意味に気づいた

《先生がしてくれていたのはそういうことだったのか!》という気づき(認識)です。

手のひらに指で毎回違う形を書いていたことの意味です。

その「形」が《言葉》なのだということに気づいたわけです。

全部つながったわけです。

ヘレンの場合は、1歳8ヵ月になるまでの記憶がありますから、《思い出した》といった方が正確かも知れません。

しかし、赤ちゃんの場合は違います。

赤ちゃんこそ《生まれて初めて気づいた》という瞬間があるはずです。

①ものには名前があるんだ!

②お母さんやお父さんが言ってたことは言葉だったんだ!

さあ、赤ちゃんは何に気づいたのでしょう。

うまく説明できますか?

答えはこれです。

「そうか!そういうことか!」

「そういうこと」に気づいたのです。

「そういうこと」というのは漠然としています。

その《漠然としたこと》に気づいたのです。

赤ちゃんはまだ言葉の数が少ないのでうまく説明できません(思考できません)。

でも、ハッと気づきました。

直観です。

なんとなく《コツ》をつかんだのです。

それは言葉を増やすコツです。

今までの実体験や絵本や歌やお母さんがやっていることなどがつながって、《意味があるんだ》ということに気づいた瞬間です。

これは、ヘレンが《自分が生きている世界には言葉があるのだ》ということを認識した瞬間と同じです。

ヘレンはそのあとどうなったか知っていますか?

井戸を離れた私は、学びたくてたまらなかった。

すべてのものには名前があった。

そして名前をひとつ知るたびに、新たな考えが浮かんでくる。

家へ戻る途中、手で触れたものすべてが、いのちをもって震えているように思えた。(『奇跡の人・ヘレンケラー自伝』より)

ヘレンは「学びたくてたまらなく」なりました。

そして、その日のうちに30個の単語を覚え、次の月には語彙数が300になりました。

これはまさに「語彙爆発」です。

さあ、いよいよ理由の三つ目です。

1歳8ヵ月頃の赤ちゃんは何のコツに気づくのでしょう。

もうわかりましたね。

ヒントは理由の①と②です。

答えは「推論」です。

1歳8ヵ月頃の赤ちゃんは推論のコツに気づきます。

養育者の言った音(言葉)に《意味》があるのではないか!と気づき、
その気づきが《コツ》となって、次々に言葉の数を増やしていくのです。

お母さんが「これ、ポイして来てちょうだい」と言うと、

《もうわかったぞ!》という感じでゴミ箱にポイします。

意味をわかってしまえば(舌骨と声道の発達が整ってるという前提で)、あとは自分から「ポイ」という言葉を言うこともできます。

「シール、ぺたんしてください!」

「ぺたん!」(声に出してシールを貼る)

「これ、だいじだいじね!」

「だいじだいじ!」と言って触らない。

スイッチが入ったかのように《言える言葉の数》が増えます。

1歳の時点で平均3語だった語彙数は、約1年後に100倍の300語になっていきます。

この急激な増加が「語彙爆発」です。

そして、その理由として考えられるのが、

①赤ちゃんは推論力を持って生まれて来るから

②0歳~1歳半までの間になんとなく意味を推論しているから

③1歳8ヵ月頃に推論(言ってることの意味を理解すること)のコツをつかむから

以上が「語彙爆発」の仕組みですが、ここで非常に重要なことがあります。

それは、気づきを得た直後のヘレンの言葉に表われています。

井戸を離れた私は、学びたくてたまらなかった。

「語彙爆発」には学習意欲がともなっているのです。

これは赤ちゃんも同じです。

まだうまくしゃべれないくせに、意味不明のいろんな言葉を言い始めます。

何を言ってるのかよくわからないので対応するのが大変です。

でも、決して無視しないでください。

この頃の赤ちゃんは学習意欲をもって、自信満々に言葉を発しているのです。

こんな例があります。

「しょう油」という言葉は生活の中で頻繁に使われますよね。

これは2歳くらいの子だと思うのですが、ある日お母さんにこう言いました。

「イチゴのしょう油、取って。」

「イチゴのしょう油」とは何でしょう。

これも授業でやってみたのですが、ある先生が見事に答えました。

こたえは《練乳》です。

この子は、「しょう油=食べ物にかけるもの」という理解をしていたわけです。

ですから、イチゴにかける練乳を「イチゴのしょう油」と言ってしまったわけです。

この例からもわかる通り、幼児は推論で言葉を理解し続けます。

それは9歳頃まで続くと思います。

学校では小学校3年生で国語辞典の使い方を習います。

国語辞典というのは《言葉》を《別な言葉》に変換するツールです。

「疲労」という言葉を国語辞典で調べると、「つかれること」と出て来ます。

「つかれる」という言葉なら知っているので「疲労」の意味がわかります。

こうやって言葉から言葉を増やしていくのが9歳以降です。

ですから9歳以降の子には読書が大切になります。

それは絵本ではなく本です。

私が2年生の教室に置いていたのは、『幼年版ファーブル昆虫記』などの文字が少し大きくて、挿絵がところどころに入っていて、総ルビの本です。

この「総ルビ」というのが大事です。

子どもの本を選ぶ時には、すべての漢字にふりがなが振ってある「総ルビ」の本がオススメです。

そして、5年生くらいになったら、「幼年版」から「角川つばさ文庫」のような新書サイズの本を選びます。

そして、6年生には本物の新書ですね。

今だったらこんな本を教室に置くと思います。

このくらいの読書力があれば情報読解が不可欠な現代社会でも生きていけると思います。

そのために大切なのがその出発点になる幼児期の接し方です。

幼児は間違った言葉の使い方をします。

それは言葉の意味や使い方を直観的に学習しているからです。

そして、それとともに学習意欲を燃やしています。

ですから大切なのは、その意欲をつぶさないことです。

大笑いして恥をかかせたり、

「間違ってるよ!」と否定したり、

「アホか!」と叱って傷つけたり、

そんな失敗体験が学習意欲を失わせます。

「イチゴのしょう油、取って。」

「うん。これかな。」

それでいいのです。

「ああ、これのことね。よく考えたね!」なんて言えたらスーパーお母さんです。

以上で「語彙爆発の秘密」は終わりです。

最後に復習問題を提示しますね。

【参考文献】
『言語の本質』(中公新書)今井むつみ, 秋田 喜美
『サピエンス全史』 上下(河出文庫)ユヴァル・ノア・ハラリ
『奇跡の人・ヘレンケラー自伝』(新潮文庫)ヘレン・ケラー

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. みやなな より:

    かつての教えた知的発達がゆっくりなお子さんのことを思い出しました。
    まさに、コップから水が溢れるが如く言葉が溢れて来ました。
    今4歳の娘は、独自の名前を考え出して、色んな名前をつけて楽しんでいます。
    ファンタジーの世界も大切にしてあげようと改めて思いました。

    • 水野 正司 より:

      ゆっくりでもあきらめないで指導されたのですね。
      可能性というのは実は脳科学ではメカニズムが明らかなのだと改めて思いました。
      コメントありがとうございます。

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