講座39 それって「叱る」なの?
「正しい叱り方」について具体的に紹介すると、次のように聞かれることがあります。
それって、叱っているんですか?
はい。
叱っています。
なぜなら、子どもは行動を改め、反省するからです。
でも、多くの間違った叱り方では、子どもは反省できずに、また同じことをくり返します。
大人は形だけ叱って満足しているのです。
私は逆に聞きたいですね。
「それって、叱ってるんですか?」
大切なのは結果です。効果です。
叱ったつもりになって大人が満足するのが「叱る」ではありません。
今回は「効果」に注目して解説します。
2.「叱る」と「怒る」の決定的ちがい
1.それって「叱る」なの?
「正しい叱り方」という表現に疑問を持った方はいませんか?
「あらっ?」「どうしたらいいかな?」とか、
「そっかあ~」「じゃあ、お母さん…」とか、
それって「叱る」なの?という疑問を持ちませんでしたか?
ここではその疑問に答えておきます。
子どもにとって「叱られること」の多くは、
生きる意欲の表れ!
子どもにとっては、
「兄弟げんか」も「イヤだ!帰りたくない!」も、
生きる意欲の表れです。
成長・発達の証拠です。
ですから、大人の側も、それを承知で叱ってあげればよいのです。
ただ、叱る時に「動物脳」を刺激しては意味がありません。
「人間脳」に働きかけるのが正しい叱り方です。
そのためには、叱る側に「余裕」が必要です。
無理に笑顔をつくる必要はありませんが、
心の中で、
「ああ、やってる!やってる!」
と思えるような余裕が不可欠です。
まずもって、叱る側の大人が、「人間脳」でなければなりません。
講座ではそれを「正しい叱り方」と呼んでいるわけです。
2.「叱る」と「怒る」の決定的ちがい
よく、「叱る」と「怒る」は違う、と言われますが、
一体どこが違うのでしょう。
イラストでイメージしてみましょう。
私の中での「叱る」は一番左のニコニコ顔のお母さんです。
心の中に余裕があります。
「怒る」は感情的です。
感情的という点で「怒る」と「怒鳴る」とほぼ同じです。
決定的な違いは「子どもの脳の中」にあります。
「叱る」は子どもの動物脳を刺激しないように言います。
それが叱り方の原則でしたね。
「怒る」は子どもの動物脳を刺激することを言います。
子どもが防衛反応を示します。
それが「怒る」です。
親が怒ったつもりがない場合でも、
子どもの動物脳を刺激してしまえば「怒る」です。
決定的な違いは「子どもの脳の中」にあります。
日常のほとんどは、この区別で事足ります。
ただ、人生の中には「非日常」というのが、たまにあります。
親が真剣に叱らなければならない「非日常」がある。
それは、次の四つの時です。
(1)他人の体を傷つけた時
(2)他人の心を傷つけた時
(3)自分の体を傷つけた時
(4)自分の心を傷つけた時
(4)だけ補足しておきます。
これは自分で自分のことを「バカ」だとか「ダメな人間だ」などと思ったり、口に出したりした時のことです。
この四つは、「自他の脳」を傷つけています。
「体」はもちろん「心」にも傷はつきます。
心の傷は、脳の扁桃核という部分が縮小することを指します。
そして、体が傷つく時に心にも傷を負うことは少なくありません。
リストカットしているときはには両方に傷を負っています。
ですから「この四つ」については、
真剣になって働きかけなければなりません。
ただし、真剣に叱る時には注意が必要です。
それは、動物脳(感情)を刺激してはならないという点です。
動物脳を刺激してしまうと、事態を冷静に判断できなくなります。
大事な場面なのに人間脳が働かないのでは叱る意味がありません。
動物脳ではなく、人間脳に働きかける。
その行為を「真剣に」というのです。
いずれにせよ、真剣に叱る場面は非日常です。
そんなにあるものではありません。
しかし、子どもの人生にとっては大事な場面です。
親として心得ておくべきことだと思います。
話を日常に戻します。
「兄弟げんか」も「イヤだ!帰りたくない!」も、
生きる意欲の表れです。
成長・発達の証拠です。
毎日毎日、毎回毎回、怒っていたら疲れます。
日常的に起きる小さな出来事への対応は「余裕で叱る」です。
それができれば、子育ては楽になると思います。
参考:松澤大樹『目で見る脳とこころ』(NHK出版)