講座349 関心ありますか?大学入学共通テスト
先日、2023年度の大学入学共通テストが実施されましたが、ニュースをご覧になりましたか?
ニュースと言っても、今はいろんな種類のニュースが手に入ります。
今回はその中からいくつかを取り上げます。
「大学入試の問題」って実は小中高校の在り方に大きく影響します。
ほんの少しでも関心を持っておいた方が良いと思います。
2.求められる情報処理能力
3.大学入試は「発揮させる場」
4.社会生活に必要な能力
5.まとめ
1.通じぬ保護者の経験則
「受験は情報戦」通じぬ保護者の経験則
これは産経新聞の見出しの一部です。
リード文を抜粋します。
団塊ジュニアが中心の保護者世代と比べ、近年の受験事情は大きく変わっている。新しい学問領域に応じてさまざまな新学部も登場。導入から3年目となる大学入学共通テストや多様な入試方式など、見守る側も情報のアップデートが求められている。「自分のときはこうだった」という経験則だけでは、対応できないことも多いといい、戸惑う保護者も少なくない。(産経新聞イザ・2023/1/13)
簡単に言うと、「制度も問題も変わって来ている」ということです。
ですから、「親」としても絶えずアップデートが求められる、ということです。
制度についての解説は割愛します。
ここでは「どんな問題が出ているのか?」ということについて具体的に解説します。
2.求められる情報処理能力
問題文に多くの情報が盛り込まれているため、読解に時間がかかるとの声も少なくない。ある高校教諭は「思考力というより、問題の設定を素早く理解する情報処理能力が必要だ」と語る。(日本経済新聞2013年1月14日)
学校関係者の間でよく言われるのは「思考力が大切だ」という意見です。
小中高校では「主体的・対話的で深い学び」というのがひとつのキーワードになっています。
でも、実生活ではピンと来ませんよね。
実は学校の先生方でも「ピンと来ない」人は多いと思います。
ところがです。
入試問題ってこういうことをちゃんと考えて作られているんです。
これは「倫理」の問題です。
まさに「主体的・対話的で深い学び」をやっています。
どうですか?
普段からこのような対話をしている高校生(お子さん)をイメージできますか?
しかし、こんなところで立ち止まっていてはならないのです。
こんな対話はさっと読み取って、あとから出て来る「問1~9」に答えなければいけないわけです。
つまり、思考力も情報処理能力も両方必要だということです。
3.大学入試は「発揮させる場」
では、その「後の問い」の「問3」を見てみましょう。
問3 下線部Cに関して、次の資料は、子どもの資質や環境と将来の成功の関係について研究をまとめたものであり、倫理の授業で配付された。これを読んだ生徒の発言のうち、資料の趣旨に合致する発言として最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
すごいですね。
こういうのが「大学での学習に求められる能力」です。(産経新聞イザ・2023/1/13)
正解はどれか?わかりますか?(正解はこちら「第4問の設問3」です。)
2020年まで実施されていた「センター試験」は高校の教科書に準拠した問題が出題されていました。
しかし、現在の「共通テスト」は違います。
生徒の学習場面、社会・日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータ等を基に考察する場面など、学習過程を意識した場面設定を重視(河合塾資料より)
簡単に言いますと、
【センター試験】:基礎重視
【共通テスト】:基礎を発揮させる場
発想が異なるのです。
文科省が出している学習指導要領は小中高で一貫した目標が示されています。
例えば「国語」ですとこうなります。
小学校国語の目標
国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。
中学校国語の目標
国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにし,国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる。
高校国語の目標
言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 生涯にわたる社会生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。
(2) 生涯にわたる社会生活における他者との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を伸ばす。
(3) 言葉のもつ価値への認識を深めるとともに,言語感覚を磨き,我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち,生涯にわたり国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。
一貫してますよね。
小学校一年生から高校三年生まで「目標」はほぼ一貫しているのです。
つまり、この目標は小学校での到達目標でも中学校での到達目標でもありません。
高校教育をゴールとするならば、高校三年生で到達すべき目標ということになります。
そして、それを「発揮させる場」が共通テストだと解釈できるはずです。
4.社会生活に必要な能力
以上は、大枠の理解です。
次に具体的な問題を考察してみましょう。
先程の「問3」を例にします。
問3
下線部Cに関して、
次の資料は、
子どもの資質や環境と将来の成功の関係について研究をまとめたものであり、
倫理の授業で配付された。
これを読んだ生徒の発言のうち、
資料の趣旨に合致する発言として最も適当なものを、
後の①~④のうちから一つ選べ。
問3は「たった2文」ですが、その中にたくさんの情報(記憶しばければならないこと)が含まれています。
これが「問題の設定を素早く理解する情報処理能力」が必要な理由です。
しかも、この問3に入る前には「高校生GとHが交わした会話」がありました。
それも含めるともっと増えます。
一度に沢山の情報を処理しなければならないことが具体的に理解できると思います。
この「情報処理能力」とは何か?
このブログを読まれている方なら分かると思いますが、「作業記憶(ワーキングメモリ)」が求められているということです。
作業記憶というのは、課題を解決するまでの間に情報を一時的に保持しながら作業を進める能力のことです。
問3を解くまでの間には、いくつものことを記憶しながら解決に向けて進む必要があります。
この時に脳の中で使われる機能が「作業記憶」です。
そして、この「作業記憶」の発達には次のようなことが必要となります。
(1)めいっぱいの遊び
(2)絵本の読み聞かせ
(3)言葉を使って考えることを苦にさせない
(4)言葉づかいを悪くさせない
(5)たくさんの様々な体験
詳しくは、講座301「思いやりを育てる方法(後編)」
どうですか?思い出されましたか?
私の頭の中では、「大学入試問題」と「乳幼児期の子育て」が結びついています。
これは何も「大学進学が必要だ」と言っているわけではありません。
大学入試問題は「社会生活に必要な能力」を示すひとつの指標です。
毎年変わりますから「時代の変化」に応じやすい指標です。
ですから、それを知っておくことは「子育て」に役立ちます。
そういうスタンスです。
今回紹介したニュース記事の中に興味深い一節がありました。
今後、子供の受験を控えた保護者世代にできることは何か。ベネッセの谷本さんは「子供にさまざまな体験を経験させることが親の役割になってくる」と話す。「無料で行われている地元のイベントとかボランティアでいいんです。大事なのは行きっぱなしにせず、感じたことや考えたことを子供自身の言葉でアウトプットさせること」という。(産経新聞イザ・2023/1/13)
まさに「6歳までに1000の体験!」です。
私の仮説ですが、
幼児期に様々な体験をたくさんした子は高校生になっても知的好奇心が高い
と考えます。
「問3」には最近話題になった「マシュマロテスト」のことが出ていました。
今すぐマシュマロを1個もらうのと、少し待ってマシュマロを2個もらうのかを選ばせる実験のことです。
数年前までは「先を考えて我慢できる子の方が賢い」とされて本も話題になりました。
しかし、その後、問3の資料にあるように批判研究も発表され議論されています。
こうした情報をキャッチできる高校生は「知的好奇心が高い」と言えるでしょう。
「社会的問題に関心がある」とも言えます。
そして、こうした情報を持っているのと、持っていないのとでは、問3に直面した時に差が生じます。
知っている子の方が情報処理能力は高いと言えます。
つまり、作業記憶という能力だけではなく、「社会的問題に関心がある」といった態度も情報処理能力に関係があるということです。
そうしたことも含めて整理しましょう。
5.まとめ
大学入試問題は「社会生活に必要な能力」を示すひとつの指標です。
毎年変わりますから「時代の変化」に応じやすい指標です。
時代はどんな能力を求めているのか?
1.思考力
2.情報処理能力
二つを合わせて「問題解決能力」と呼ぶことも可能でしょう。
そして、この能力の基盤になっているのが次の2つです。
(1)作業記憶(ワーキングメモリ)
(2)知的好奇心
この2つは脳の機能と言ってもいいでしょう。
この機能はどうやったら育つのか?
(1)めいっぱいの遊び
(2)絵本の読み聞かせ
(3)言葉を使って考えることを苦にさせない
(4)言葉づかいを悪くさせない
(5)たくさんの様々な体験
特別なことではありません。
「ごくごく普通の子育て」だと思います。(『向山家の子育て21の法則』の中にある言葉)。
つまりは以下のような子育てです。
講座301「思いやりを育てる方法(後編)」に掲載した写真をまとめとして再掲載して終わります。
最後の最後に全体を整理して終わりとします。
①大人からの視線によって「人との二項関係」を築く(新生児期~)
②おもちゃによって「物との二項関係」を築く(5ヵ月頃~)
③共同注視によって「三項関係」を築く(1歳前後~)
④イヤイヤ期を通して自分の気持ちを「言葉」にできるようになる(1歳半頃~)
⑤絵本の読み聞かせによって言葉を増やし、ワーキングメモリを発達させる(0歳~)
⑥集団遊びでワーキングメモリを発達させる(4歳~)
⑦言葉遣いを悪くさせないことで「思考の道具」を増やす(2歳頃~)
⑧書くのがつらくなる鉛筆の持ち方をさせないことで書くことを苦痛にさせない(1歳~)
⑨様々な体験をさせて総合力を伸ばす(「6歳までに1000の体験」)
とても参考になりました。正直、小学校の授業は私達団塊ジュニアの頃とあまり変化を感じないのですが、入試は全く違っており、大変驚きました。
娘は、ウイスクを受けた結果、言語理解はとても高い値だったのですが、ワーキングメモリーを含めた他3つは平均以下でした。やってみたい!気持ちが強く、時に暴走気味で、私は手こずってばかりですが、発達や成長に必要な刺激を本能的に求めているのかな?と思いました。
言語理解が高いことは良い事でありますが、時につらい事もあります。それは、他の能力とのさが大きいからです。差が
あることによって生じる失敗やトラブルをこれから乗り越えて行かねばなりません。そのサポートが大切です。それさえうまく出来れば高い言語理解力が花開くはずです。
たくさん溢れる情報社会なので、ワーキングメモリが大事だと改めて思いました。
言語化の表現の場は、こちらがよっぽど意識しないと機会を提供できないと感じています。
日常生活では困らなくても、職場や学校で困りますし、
国家を支えている経済や科学や産業分野の最先端部門で困ります。
大事な問題だと思います。