講座316 QA⑤不適応を起こしやすい四つの場所
Q5 社会的不適応がなければ発達障害ではないということですよね?
その通りです。
でも、社会的不適応は、いつ、どこで起こるかわかりません。
そのことをもう一度復習しておきましょう。
2.就職先に告げるかどうかの問題
3.医療とつながるメリット
4.まとめ
1.不適応を起こしやすい四つの場所
まず、私の考え方の元になっている杉山登志郎ドクターの言葉を紹介します。
(1)社会的適応が損なわれたときのみ障害となる
(2)発達障害も発達する
個性的なお子さんや発達の凸凹を持ったお子さんが人生で最初に「社会」とぶつかるのは保育所や幼稚園や子ども園だと思います。
集団生活、保育士による指示などが、それまでの家庭生活にはなかった環境になるからです。
次が学校生活です。
学校には授業というものがあります。
これが幼稚園時代にはなかった新たな環境です。
その次が高等学校です。
高校に進学すると、それまで支援を受けていた子に支援がなくなります。
授業内容は、学科を問わず「高度な普通教育」になります。
ついて行けなくなった生徒には中退という選択肢があります。
そうした点で、高校は小中学校とは全く異なる環境です。
そして、最後の壁が就職です。
職場は、子どもたちがそれまで過ごして来た環境(幼少中高大)とは全く異なります。
通常の学校教育を真面目に受けても、就労にはほとんど役に立たない
信州大学医学部教授・本田秀夫先生の言葉です。(講座309「わが国の教育システムの問題点」)
まったくその通りだと思います。
ですから多くの職場が「学校を出た者は社会人としては使い物にならない」という心づもりで受け入れているのが現状です。
職場:一から教えなければならない
就職した子:一から教わる
電話の応対、対人関係のマナー、仕事場での振る舞い、雑談の仕方…。
(発達障害)を持った子にとっては難しいことが多くあります。
そして、仕事の失敗は組織の不利益ですから今までとは次元が違います。
幼少中高大は自分のための教育です。
失敗して叱られるのも「自分のための教育」です。
職場は違います。
失敗は組織の不利益、組織のダメージです。
くり返されるミスを放置することはできないでしょう。
就職は、(発達障害)を持った子どもにとって大きな環境の変化なのです。
①園
②学校
③高等学校
④職場
社会的不適応はどこで生じるかわかりません。
質問者さんの娘さんは現在大学4年生で就職も内定しているということですが、「最後の壁」が思ったよりも大きかったということはよくあります。
作戦を立てて臨んだ方がいいと思います。
2.就職先に告げるかどうかの問題
では、どんな作戦が考えられるか。
娘さんは精神科でADHDの診断を受けたことがあるということですから、医療とのつながりを活用することが可能です。
福祉手帳を持っていない場合でも、医療とつながっていることは重要です。
確認しておいた方がいいのは、内定している職場がそのことを知っているかどうかです。
知っている場合は、そのことを承知で雇用したわけですから話がしやすいですよね。
上司だけが知っている場合もあれば、職場でオープンにしている場合もあります。
いずれにせよ雇用する側が知っているなら、不適応を起こさないような勤務を配慮してもらえる可能性があります。
一方で、就職に不利になるので精神科受診歴は隠しておくケースもあります。
受診歴は個人情報なので守秘することに問題はありません。
ただ、職場に告げなかったことで自分が追い詰められることも想定できます。
結局はそのことで職場に迷惑をかけることになるかも知れません。
最初からオープンにした方がよいのか、告げないでおいた方がよいのかは難しい問題です。
参考までに、二つの例を紹介させていただきます。
一つは、私の場合です。
私は現役の精神疾患者です。
うつ歴8年で、今も精神科に通っています。
現在、町の公共施設で働いていますが、面接の時に精神疾患を持っていることは話しました。
それでも採用していただいているので有り難く思っています。
で、勤務時間をどうするかを自分で考えました。
発達障害者や精神疾患者は自己管理が重要なんです。
私の場合はパニック障害を抱えているので次のことに注意しています。
無理し過ぎない
精神疾患者って、全く働かないのも良くないし、働き過ぎるのも良くないのです。
自分にちょうどよく働く
これが大事です。
しかし、多くの場合、それは単なる「わがまま」になります。
でも、医療とつながっているとそれが「わがまま」にはならずに済むのです。
ですから私は(飽くまでも私の場合です)、オープンにして働いています。
同僚の方々が知っているかどうかは聞いたことがありませんが、上司は知っているので、なんとなく伝わっているのかなあという感じです。
3.医療とつながるメリット
二つ目の例はマンガからです。
『Shrink』というマンガの第1巻に次の場面があります。
ウォーターサーバーの営業をしている藤木信吾(36歳)は「微笑みうつ」を抱える人物です。
仕事で失敗が多く、職場での理解もなく、主人公の精神科医・弱井幸之助とつながります。
医療とつながることでどう変わったか?
弱井医師は藤木に「魔法の言葉」を授けます。
それは「精神科の先生に言われました」という言葉です。
藤木は職場の上司にそれを実行します。
「精神科の先生が言うには、復職してすぐフルタイムで働くのは勧められないと」
雇用者側は、「精神科の先生に言われました」と言われると対応しないわけにはいかなくなります。
それが「魔法の言葉」です。
医療とつながった人は、この言葉を使えるわけです。
もう一人の人物も紹介させてください。
塾講師の才賀真美(32歳)はASDを抱える人物です。
この人物も職場でうまくいきません。
そして、弱井医師と出会い、発達検査を受け、自分が発達障害であることを知ります。
自分が自分の特性を知ることによって転職を決意し、新たな職場では自分の凸凹をオープンにして臨みます。次のように。
「私は電話の音が苦手です。ストッキングなど一部の製品を身につけるのも苦手です。仕事の説明は一度ではわからないことがあるので、具体的に指示していただけると助かります。集中力は非常に高いですが、その後とても疲れることがあります」(第2巻より)
このように自分で宣言しちゃうんです。スゴイですね。
そして、職場は彼女の特性に適した労働環境を用意するように努めます。
たとえば、彼女の机には電話を置かないなど。
その分、彼女は彼女の得意な分野で能力を発揮して、同僚からも頼りにされます。
医療とつながることで、win-winの関係を築けるようになるという物語です。
4.まとめ
質問者さんの娘さんは4月から働くのでしょう。
引っ越しもこれからするのだと思います。
そうだとすれば、現在通院されている病院から新しく住む場所の近くの病院へ紹介状を書いてもらうという方法があります。
そのことを職場に告げるかどうかは別として、引っ越し先の近くの病院とつながっておくことは保険になります。
3月までに一度、受診しておいて情報を共有しておくのも良いと思います。
もしものための保険は「安心」につながります。
ADHDということですから、本来は明るく活発な方なのだと思いますが、ADHDの方でも職場でうまくいかずに落ち込むと人が変わったかのように暗くなってしまう場合があります。
「わかってもらう」「周囲の理解」というのは重要です。
「人」や「場所」は発達障害の要因となる社会環境です。
「人」や「場所」が変化する時は気をつけておいた方が良いと思います。
持病やご家庭のご都合など、皆色々ありますよね。
全くない人の方が少ないのではないのでしょうか。
より働きやすい雰囲気の職場や社会になることを願っています。
労働安全衛生法
第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
最近拝読させて頂いております。
わたしについてですが、その場の空気感に幼い頃から敏感で先走り、お仕事や勉強においてもケアレスミスが多くまた、読書も苦手です。
その結果、逃げるばかりの人生を歩み若い頃は
親身に話せる家族や友人も居なく過ごしていました。
今は少しずつですが、子育てをする機縁を与えられ、子ども達も成人まで立派に成長してくれたことが有り難く、子供たちや周囲の方々に感謝する毎日です。
これかも気持ちよく”有難うございます”と言える
生き方を願い選んでゆきたいと思います。
丁寧なお話しに気持ちが落ち着きます。
水野先生、有難うございます。
ご丁寧なコメント有り難うございます。
感謝の出来る人生は周囲と共に生きるための最強の生き方だと思います。
困難を抱える方々にも「感謝」という生き方に気づいていただけるような支援を私自身も心掛けたいと思います。
ありがとうございました。