講座289 子どもが元気を失う時
三重県の小学校でPTA会長をされていた安藤大作さんが子どもたちにアンケートをとりました。
Q:どういう時に元気がなくなりますか?
さて、子どもたちはどんな回答をしたと思いますか?
今回はこのことについて解説します。(出典:『母2022』致知出版)
2.夫婦喧嘩はDV
3.悪口はマルトリートメント
1.どういう時に元気がなくなりますか?
まずはアンケートをとったPTA会長の安藤大作さんについて紹介させていただきます。
安藤さんのご両親は安藤さんが4歳の時に離婚されました。
その後は、父に引き取られたものの、父親の再婚相手に馴染めずに母の元へ。
しかし、母親は「音楽」という自分の夢を叶えるために単身東京へ。
安藤さんは母親の知人宅で肩身の狭い思いをしながら少年期を過ごします。
父親からの援助で大学へ進学したものの就職活動で挫折。
「俺の人生など意味がない」
「俺の命など意味がない」
「死んで終わりにしたい…」
自死直前で次の言葉をノートに書き殴りました。
家族がほしかった。あたたかい家族が、いつもほしかった。
そこから安藤さんの行動が変わります。
東京にいた母親へ電話をかけ、「話がある」「今日来て!」「来なけりゃ、俺、死んでしまうかも分からんのやぞ!」
お母さんは、安藤さんの話を聞くために大学のある長野県松本市へ駆け付けました。
安藤さんは子どもの時に抱いていた気持ちを母親にぶつけます。
「あの時、俺は寂しかった」
「俺は惨めだった」
「母親の悪口は聞きたくなかった」
泣きながら気持ちを吐き出し、母親もまた泣きながら自分の思いを伝え、
空が明るくなる頃には「母親の愛情」を確認できたといいます。
そんな経験を持つ安藤さんが、仕事を持ち、家庭を持ち、PTA会長になった時にアンケートの中に入れた質問がこれだったのです。
どういう時に元気がなくなりますか?
2.夫婦喧嘩はDV
まず9歳以下の子どもたちの回答です。
第1位がこれでした。
お父さんとお母さんが喧嘩をしている時
衝撃です。
アンケートをとった安藤さんの思いを想像すると衝撃的な結果です。
「やはりそうなのか」
「子どもはそういうものなんだ」
そう思わずにはいられなかったことでしょう。
私はこの結果を知った時に二つのことを考えました。
(1)夫婦喧嘩をする両親がそれだけ多いということ
(2)夫婦喧嘩が子どもに与える影響は大きいということ
(2)については福井大学の友田明美先生の著作が有名です。
『子どもの脳を傷つける親たち』など、いくつかの本が出ています。
テレビ番組にも出演されているので知ってる方もいらっしゃると思います。
ここでは簡単に説明します。
①体罰、②暴言、③DVで、損傷を受ける部位は異なるのですが、
意外なのが、「言葉によるDVを見聞きした子どものほうが6倍近く脳に悪影響を受ける」という結果です。
「暴言DV」とは、まさに夫婦喧嘩のことです。
「怒鳴り声」や「暴言」について、日本弁護士連合会は次のように啓発しています。
では、具体的な夫婦喧嘩の場面を見てみましょう。
友田氏がNHKの「クローズアップ現代」に出演された時の記録がネット上に出ています。
例えば、子どもの靴が脱いだままになっていると…。
父親:「おい!なんだあの靴は!ちょっと見に来い!」
母親:「えっ?」
父親:「こういうしつけをしていると、子どもがダメになるぞ。」
母親:「外ではちゃんとやってるから。」
父親:「うちでやっていることは外に行っても出るんだよ。口答え、まずするな!お前が!」
「夫婦げんかで子どもの脳が危ない!」(NHK)
こういうお父さん、いますよね。
家庭で威張りたがるのは「男の性」なのでしょうか。
参考までにNHKでは「暴言チェックリスト」も公開しています。
- 叱りましたか?
- 大声をあげましたか?
- ののしりましたか?
- 行ったことを責めましたか?
- はずかしめましたか?
- 危害を加えると脅かしましたか?
- 気分を悪くするような悪口を言いましたか?
- ばかで、行動が幼稚だと言いましたか?
- 行わなかった行為について責めましたか?
- 人前でばかにしたり、恥をかかせたりしましたか?
- 批判しましたか?
- 明らかな理由なしにヒステリックにどなりつけましたか?
- 無能で価値のない人間だと言いましたか?
- 無能で価値のない人間だと感じさせるようなことを言いましたか?
- 声を荒げましたか?
NHK「暴言チェックリスト」
威張るのとは反対に「反応が薄い夫」というケースもありますよね。
奥さんの怒りをよそにごはんを食べ続ける夫
妻:「当たり前のように飲みや残業もしてくるしさ。もう、すごい疲れるホントに。」
夫:「あーそう?」
妻:「私は熱が37度5分あっても、保育園とか行くんだよ。」
夫:「うーん。」
妻:「そういうことやってるの。バカらしくなってくるホントに。」
夫:「あー。」
妻:「なんで、あー、なのよ。」
「夫婦げんかで子どもの脳が危ない!」(NHK)
こういう男性もいますよね。
奥さんの愚痴もよくありませんけどね。
3.悪口はマルトリートメント
PTAのアンケートに話を戻します。
9歳以下の子どもたちで「元気がなくなる」のは夫婦喧嘩でした。
10歳以上になるとこれが変化します。
10歳以上で多かったのはこれです。
親が人の悪口を言うのを聞いた時
これもありそうですね。
お父さんのいない所でお父さんの悪口を言う。
家の中で学校の先生の悪口を言う。
ありそうですね。
でも、こういうのも子どもの脳を傷つけます。
「元気がなくなる」というのは「脳が傷つく」ということです。
「マルトリートメント」という言葉を聞いたことがありますか?
虐待まではいかないけど虐待に近い「不適切な養育」のことを「マルトリートメント」と言います。
子どもの前での暴言・悪口はマルトリートメント(略して「マルトリ」)です。
授乳中にSNSや動画を見たりするのもマルトリです。
きっちりとした定義はありませんが「子どもの発達を阻害する行為」「できれば避けた方がいい育て方」をマルトリを呼ぶわけです。
たとえば、料理をしている間に子どもにスマホやタブレットを与えたりする人っていますよね。
それも考え方によってはマルトリです。
でも、程度にもよりますよね。
ですから判断は微妙になります。
しかし、「子どもの前で他人の悪口を言う」というのはどうでしょう?
これはかなり不適切ですよね。
何しろ子どもたちがアンケートで「元気がなくなる」と答えているわけですから。
ところで、学校の先生への不満って多かれ少なかれあると思います。
そういう時は子どもの前では言わないで、うまく学校に伝えてください。
若い先生の中には直接言われると落ち込む人もいます。
先生だってほめられたいです。
教師にとって保護者にほめられることは非常にうれしいものです。
そこをうまくやってください。
どうしても伝えたい時は、教頭先生に伝えるのがいいでしょう。
「渉外」は教頭の仕事です。学校の窓口です。
教頭先生は保護者の苦情を聞いても、担任へ直接伝えずに「上手に」伝えてくれるはずです。
教頭先生は「職員室の担任」と呼ばれる立場ですから、そこも上手に活用してください。
授乳中にSNSや動画を見たりするのもマルトリです。
この言葉が強く心に残りました。
私もしていることがあります。
ダメだよなぁと思いながら、スマホを見ていることがあります。
その時に子どもが、視線を私に送っていても、気づいてなかったかもしれません。
「マルトリートメント」を自分もしていることを意識します。
「ダメだよなあ」と思ってやるのはオッケー!