講座448 スキンシップは1日4回

 目 次
1.先天性表皮水疱症
2.子どもの脳は肌にある
3.自分で触れても癒せない
4.日本式スキンシップ
5.まとめ

1.先天性表皮水疱症

先天性表皮水疱症(ひょうひすいほうしょう)という難病をご存知ですか?

出産時に体じゅうの皮膚がむけて生まれてくる病気です。

5万人に1人の確率で発症し、患者の40%は生後12ヶ月以内、長くても30歳を待たずに亡くなることが多いといいます。

現在の医療技術では痛みを和らげることくらいしか方法はありません。

あまりにも痛々しいので写真の掲載は控えますが、どうしても見たい方にリンクを張っておきます。
(「知的好奇心を刺激するニュース配信サイト」TOCANA

さて、問題です。

【問題】この難病にかかっている子どもには共通した特徴があるそうです。どんな特徴でしょうか。
    ①知能が高い
    ②笑顔で明るい
    ③運動神経がよい

【ヒント】この病気にかかっている子の親は、針で水ぶくれをつぶして軟膏を塗る手当てを、毎日朝夕行うことになっています。

何番が答えなのかをこのヒントだけで見抜けましたか?

大阪大学医学部の玉井克人先生はこの難病の専門家です。

玉井先生はこの難病の治療と研究を続けているうちに「あること」に気づきました。

それは、この難病を背負っている子どもたちが一人の例外もなく、いつもみんな笑顔で明るいということです。

この病気は寝返りを打っただけで水疱が破れて激痛をともなう苦しいものです。

しかも、いつ治るかも分からない難病です。

それなのに、この病気にかかっている子どもは一人の例外もなく笑顔で、逆にこちらが癒されるほど明るいというのです(答えは②)。

ではなぜ、この難病にかかった子どもたちは明るいのか?

玉井先生はその理由を突き止めました。

スキンシップの力

この病気にかかった子どもたちは、生まれた瞬間から毎日毎日、朝夕二回、お母さんが水疱を潰して、全身に手のひらで軟膏を塗るという治療を受けて育ちます。

そのお母さんとのスキンシップが人を思いやる優しい気持ちの発達を促しているのではないかというのです。

玉井先生の話では、難病になったことを恨んでいる子はいないそうです。

それどころか、

お父さん、お母さん、悲しまないで。
僕がこの病気を持って生まれたのには必ず意味があるはずだから。
だから元気を出して。

と、自分の両親を励ます子がいたり、

検査が終わると病院の先生に

この研究、大事だから頑張ってください!

と、ハイタッチをして先生を励ます子もいるそうです。(『致知』2013年1月号)

2.子どもの脳は肌にある

スキンシップの力について別の事例を見てみましょう。

山口創著『子どもの脳は肌にある』という本の中にはスキンシップの効果を示した事例がたくさん出ています。

①先生が肩や手に触れる遊びを多く取り入れたグループの幼稚園児の方に落ち着きが見られた。

②母親とのスキンシップがある子どもほど、癇癪を起さず、ヒステリックに泣くことも少ない。

③特に、母親がよく抱っこする子どもほど情緒が安定している。

④乳児期に母親とのスキンシップが少ない子ほどキレやすい。

⑤ニューギニアの部族Aは母親と赤ん坊の肌が密着する形の子育てをして、部族Bは赤ん坊をカゴに入れて密着させない形の子育てをしていた。Aは穏やかで争いごとのない部族で、Bは攻撃的で争いごとが好きな部族である。

⑥温和な民族として知られるイヌイットは赤ん坊が生まれるとすぐに母親の背中におんぶされるが、トナカイの皮でできたオムツ以外は裸で母親と密着している。

この本の中には日本の子育てにおけるスキンシップも紹介されています。

5つ出て来ます。いくつ答えられますか?

【日本式スキンシップ】
(1)だ〇〇
(2)お〇〇
(3)な〇〇〇
(4)こ〇〇〇〇〇
(5)お〇〇〇〇〇

(1)と(2)はわかりますよね。

「だっこ」と「おんぶ」です。

(3)(4)(5)はわかりましたか?

ヒントを出しましょう。

【日本式スキンシップ】
(1)だっこ
(2)おんぶ
(3)な〇な〇
(4)こ〇〇こ〇〇
(5)お〇〇〇んこ

日本人なら、ほとんどの大人が経験済みだと思います。

答えはあとで出しましょう!

3.自分で触れても癒せない

同じ刺激でも、自分で自分を触るより、他人に触られた方が癒し効果が高いということがわかっています。

そりゃそうですね。

自分で自分に握手しても何も感じませんよね。

でも、他人に握手されると「何か」を感じますよね。

それが自分の好きな人だったら「何か」どころの話じゃないですよね。

大怪我をして意識のない患者でも、看護師が手を握ると心拍数が安定すると言います。

意識がないということは、会話ができないということです。

看護師や家族が「頑張って」「死なないで」と言っても伝わっているかどうか心配ですよね。

しかし、手を握って心拍数が安定するという事実は、体そのものが肌の接触に対して反応しているということです。

けが人や病人に治療することを「手当て」と言います。

自分で自分を手当てするのと、誰かに「手当て」してもらうのでは、

やっぱり「何か」が違うようです。

その科学的なメカニズムは十分解明されていないそうですが、

私たちは明らかに、スキンシップによって、その「何か」を感じることができます。

4.日本式スキンシップ

さて、ここで「日本式スキンシップ」の答えです。

【日本式スキンシップ】
(1)だっこ
(2)おんぶ
(3)なでなで
(4)こちょこちょ
(5)おっちゃんこ

(3)は「なでなで」

(4)は「こちょこちょ」(くすぐり)

(5)は「おっちゃんこ」(ひざの上に乗せること)

注)「抱っこ」は西洋にもありますし、国によっては日本と重なるものもあります。

5.まとめ

前回の講座で、抱っこが重要になる「三つの時期」について解説しました。

(1)生まれた直後
(2)誕生後~6ヵ月くらい
(3)6ヵ月~3歳くらい

別な角度で表すと「愛着形成の大事な時期」ということになります。

しかし、この角度から言えば、その時期は「三つ」ではなく「四つ」になります。

四つ目は「4歳~思春期前まで」です。

この時期は「愛着形成完成期」です。

心のよりどころ(家族や両親などへの信頼)を完成させ、離れていても行動できる時期です。

でも、まだ大人ではありませんから「時々」愛着を求めます。

「安心を確かめる」と言ってもいいでしょう。

ただ、体が大きくなっていますから、もう「抱っこ」は難しくなります。

「抱っこ」の代わりに「ハグ」となります。

それらを総合すると「スキンシップ」というキーワードになるでしょう。

小児科医の田下昌明先生はスキンシップは「一日最低4回」と提唱されています。

一回目は朝起きた時、二回目は学校や幼稚園に行く時、三回目は帰って来た時、そして四回目が寝る前です。

ただし、そうしたスキンシップにも「卒業」の時期があります。

それは思春期です。

スキンシップの専門家である山口創氏は「思春期には肌のプライバシーを侵さない」と書かれています。

個人差はあるでしょうから「スキンシップは思春期前まで」と覚えておくといいでしょう。

最後に、愛着障害について触れておきます。

もし、「思春期前」までに愛着形成ができなかったら?

荒れます。

キレます。

自信をなくします。

逆境に対峙することができなくなります。

引きこもったり、家庭内で暴力を奮うようになったり、様々な形でツケが回ってきます。

そして、それを解決する方法は一つしかありません。

もう一度、一からやり直す。

愛着形成のスタート地点に戻ってやり直すしかないということを多くの医師たちが語っています。

どういうことかというと、こういうことです。

体は大きくなっていますから愛着行動の表現は変わってくるでしょう。

しかし、「対応してあげる」という基本を抜きに愛着は形成されません。

対応してあげる人が親であればいいのですが、それが難しい場合もあります。

その場合は他の大人が対応してあげて愛着を(信頼を)つくり直すしかありません。

逆に言うと、多くの親御さんがやっている愛着形成は、

子どもとの信頼づくりです。

赤ちゃんの発信行動・定位行動・接近行動は、

子どもが「大人」になるために重要な意味があるということを

改めて確認しておきたいと思います。

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. 畠山文 より:

    前回の記事で「3歳までの愛着形成は連鎖する」とあり、逆に言えば3歳まで、愛着形成ができあがっている必要があるのかな、と思っていました。

    私の娘はもうすぐ5歳で、もし、愛着形成に不備があったら、、、と少し心配になりましたが、今回の記事で、大きくなっても親子の信頼関係は築けると分かり、安心しました。

    3歳までは重要だけど、その後も大切で、余裕のない子育てで、もし、不適切な対応をしてしまっても、気が付いたときから、また、始めたらいいのかなと思いました。

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