講座319 QA⑦発達障害理解条例を作ろう
Q7 親同士が集まって助け合える場があればいいと思いました。いかがでしょうか?
実は研修会の翌週にその集まりに呼ばれてお話をさせていただきました。
そのことも含めて、私なりに考えた「発達障害に優しいまちづくり」の構想をお話しします。
1.サークルの重要性
オファーがあって参加したその集まりは7名ほどの小さな集まりでした。
場所も普通のおうちの茶の間といった感じです。
そこに座布団を並べて発達障害についておしゃべりする感じです。
私の話は研修会と同じものです。
衝撃的だったのはそのあとです。
感想や質問をいただいて交流したのですが、参加者の皆さんから出て来る言葉がリアルなのです。
あとから気づいたのですが、その場にいらした方々のほとんどが発達障害の関係者だったのです。
つまり、お子さんに発達障害があったり、ご主人に発達障害があったり、ご自身が発達障害ではないかと疑われていたり。
そういう方々ですので、交流タイムに出て来る話が鬼気迫る内容なのです。
次々と出て来る質問や相談に私も必死でした。
これが当事者の声なんだ!
私にとっては初めての経験です。
研修会のような公の場では話せないことまで踏み込んで話せます。
本音です。
逆に言えば、公の場では話せないことがあるということです。
質問者さんが「親同士が集まって助け合える場があればいい」と言われたのはこのことなのかと合点がいきました。
大きい集まりで理解者を増やすだけではなく、小さい集まりで仲間を増やす取り組みも必要なのだ。
そのことを実感することが出来ました。
2.アウトリーチ
小さい集まりにはもう一つメリットがあります。
それは、
アウトリーチをかけやすい
ということです。
アウトリーチとは、支援や情報が必要な人をただ待っているのではなく、こちらから働きかける仕組みのことを言います。
ほとんどの福祉関係者が実感していると思いますが、福祉の最前線では、つながりたいと思っている人ほどつながることが出来ないというジレンマがあります。
バラマキや待ちの姿勢ではつながれないのです。
そこで必要なのがアウトリーチです。
こちらから働きかけることです。
アウトリーチには様々な方法がありますが、私が考えているのは福祉関係者以外の人たちによる自然なつながりの活用です。
地域の中で、やりたい人たちが自由に集まっておしゃべりするようなサークルがいいのです。
小難しい勉強会はダメです。
おしゃべりやお菓子がメインの集まりです。
なぜそれがいいのかと言うと、敷居が低いからです。
敷居が低いと、参加しやすいからです。
しかし、ここでも、待っていてはダメです。
本当に必要なのは、この集まりに参加している方々ではありません。
まだ、そこに、つながっていない人こそ、本当につながる必要のある人です。
その集まりに参加している人は、既につながっている人なのです。
ですから、
サークルに参加している人たちが、まだ参加していない人たちとつながる
ということが重要です。
そして、このことこそ、行政や福祉関係者には出来ない「力のあるアウトリーチ」になるのです。
そうした小さな集まりが地域の中にいくつもあれば、「出逢い」が生まれる確率は高まるはずです。
3.条例をつくる
もうひとつは「小さい集まり」とは全く逆のことです。
大風呂敷を敷く
町に条例をつくるのがいいと思います。
牛乳消費拡大応援条例(通称「牛乳で乾杯条例」)のようなシンプルでインパクトのある条例です。
試しにつくってみましょう。
○中標津町発達障害理解条例(「のに」を理解し、「なんで」と言わない条例)
(目的)第1条
この条例は、広く町民が発達障害について理解することによって、発達障害を抱える人および発達凸凹などの特性や個性に不安を抱える人などが安心して暮らせる社会の実現に資することを目的とする。
(町の役割)第2条
中標津町(以下「町」という)は、町民と協力し、発達障害の理解を広めるための活動に努めるものとする。
(町民の役割)第3条
町民は、発達障害に対する理解に努める。また、発達障害に対する理解を促進するための活動に主体的に取り組むとともに、町、 関連事業者と相互に協力するよう努めるものとする。
(理解の指針)第4条
発達障害を理解するために、私たちは次の三つの指針を掲げる。
⑴発達障害とは、その人の特性に社会的な不適応が重なって生じるものであり、不適応を生じさせないような環境づくりが求められる。
⑵発達障害とは、「◯◯はできるのに◯◯はできない」といった凸凹の特徴を持つものであり、その「のに」を理解することを第一歩とする。
⑶発達障害に対して、「なんで出来ないんだ」とか、「なんでそういうことをするんだ」といった「なんで」の叱責は不適切であることを理解する。
(町づくりの指針)第5条
発達障害のみならず、生きづらさを抱える人にとって必要なのは次の二つである。
⑴周囲の理解
⑵本人の適応力
この二つを向上させることが、すべての町民にとっての「安心して暮らせるまちづくり」となる。町および町民はそのための支援を協働で行うものとする。
4.大風呂敷を敷く
このような条例は全国にまだありません。
実現すれば外へのインパクトが大きいはずです。
まちを変えるために外へ発信する。
こうした戦略も必要でしょう。
人は待っているだけでは会えないのと同様に、地域の風土も自分たちで創るという発想が必要です。
また、条例には予算を付けることが出来ます。
その予算で町内会にリーフレットを配布したり、町内の施設や店舗にポスターを掲示したり、様々なことが可能になります。
町内にできたサークルに無料で牛乳を配付するなんていうのもいいですね。
大学と連携して町民アンケートを実施して、「発達障害について理解していますか?」という質問を用意し、他の自治体より高い結果を出せたら、全国各地から移住希望者が来るかも知れません。
「子育てをしたい町日本一」とかになったら凄いですね。
中標津町には町立の高校もありますから、可能性はまだまだ広がります。
私はまちづくりには、そういう大風呂敷が必要だと思っています。