講座89 新卒教師への「バトン」
2.1分間の中に「11のスキル」がある
3.「スキル」とは何か
4.動画に見られるスキル(後半)
5.新卒教師への「バトン」
1.「教え方」を見抜けますか?
写真を見てください。小学校一年生の教室です。
授業開始のチャイムが鳴りました。
隣とおしゃべりしている子がいますね。
席を立っている子もいます。
この状態から、1分もしないうちに、次の状態になります。
先生の話を聞く姿勢になってます。
小学校一年生です。先生は叱ったりしません。時間は1分未満。
どうやってこの状態を作ったのか?
約1分の動画を紹介します。
この動画の中に「教師のスキル」が存在します。
見抜くことができますか?
2.1分間の中に「11のスキル」がある
見抜けましたか?
スキルはこの1分間の動画の中に「11のスキル」があります。
教師以外の方でも「3つくらい」は見抜けたんじゃないでしょうか。
半分以上わかった方は「人に何かを教える技」をすでに持っている方だと思います。
では解説していきましょう。
スキル①② 0:05の場面
この写真の場面です。
教師は何をしたかわかりますか?
まだ何も言ってはいません。
「ある行動」をしています。
スキル① 子どもたちの正面に立つ。
チャイムが鳴って正面に向かいましたよね。歩いて行きましたよね。
これ、意味があるから歩いて出て行ったのです。
その意味は単純ではありません。複合的です。
表情にも注目してください。
スキル② 笑顔
「にこやか」です。
決して怖い顔ではありませんよね。
考えてみてください。
「これから話をするぞ」という時に怖い顔をする大人っていますよね。
そういう表情ではないという点に意味があるのです。
①子どもたちの正面に立つ
②笑顔
それから指示を発しています。
スキル③ 0:08の場面
「はい!じゃあ、いい姿勢になりましょう!」
スキル③ 「プラスの言葉」を使う。
ちょっと噛んでますけど、そんなの関係ありません。
大事なのは「プラスの言葉」を使っているという点です。
「いい姿勢」というのがプラスの言葉です。
子どもたちは先生にほめられたいので「いい姿勢」になりますよね。
これが「マイナスの言葉」だったらどうでしょう。
「はい!ちゃんとしなさい!」とか、
「座りなさい!」とかです。
教室には立って歩いている子もいますし、横を向いている子もいます。
「ちゃんとしなさい」とか「座りなさい」という言葉は、
「立っている子はダメな子」「しゃべってるのはダメな子」
というマイナスを意味を暗黙のうちに教室全体に伝えてしまうのです。
これが「いい姿勢になりましょう」だと、「いい姿勢になっている子はお手本」
というプラスの意味になります。
このように、教師が使う言葉というのは集団に「意味」を与えてしまうのです。
ですから教師は意図的に「プラスの言葉」を使います。
スキル④⑤⑥ 0:10の場面
「はい!じゃあ、いい姿勢になりましょう!」
この言葉を発したあと、教師は「ある行動」をしています。
見抜けましたか?
ここを見抜けるのがプロです。
スキル④ 一歩下がる。
黒板の方に一歩下がりました。
なぜだかわかりますか?
全体を見渡すためです。
教師の世界では、これを「立ち位置」と言います。
チャイムが鳴って、指示を出す前に正面に立ったのも、この「立ち位置」というスキルです。
では、なぜ、全体を見渡す必要があるのでしょう?
これはですね。
「先生は見てますよ」ということを子どもたちに知らせるためです。
これは教師の指示と連動しています。
「はい!じゃあ、いい姿勢になりましょう!」と言ったのですから子どもたちは頑張るのです。
「ぼくは、私は、『いい姿勢』になったよ!」
「先生!見て!見て!」
「私をほめて!」
そうやって頑張るのです。
スキル⑤ 活動をさせたら必ず評価する。
これが教育者の大切なスキルです。
「一歩下がる」はこのスキルと連動しているわけです。
スキル⑥ 目を合わせる。
そして、この「一歩下がる」は次の行動である「目を合わせる」につながります。
下がって全体を見ることによって「先生は見てますよ」という合図になります。
教師の世界ではこれを「目線」と呼びます。
①子どもたちの正面に立つ
②笑顔
③「プラスの言葉」を使う
④一歩下がる
⑤活動させたら必ず評価する
⑥目を合わせる
このように、教師のスキルは連動して(重なり合って)働くわけです。
3.「スキル」とは何か
「スキル」というのは「専門的な知識・技能」という意味です。
「活動させたら必ず評価する」というのは一つの知識ですが、
それを子どもの前で実際に行うのは簡単ではありません。
「行う」という行動にまで持って行くには技能が必要になります。
技能は練習しなければ身につきません。
「水に浮くには体の力を抜く」という知識があっても、
実際に水に浮くことができるとは限りません。
実際に「行う」には様々なことが複合的に必要になって来ます。
それを「スキル」と表現しています。
4.動画に見られるスキル(後半)
さて、動画に戻ります。
ここまでで、すでに「6つ」解説しました。
①子どもたちの正面に立つ
②笑顔
③「プラスの言葉」を使う
④一歩下がる
⑤活動させたら必ず評価する
⑥目を合わせる
後半は少し大雑把に解説しますね。
スキル⑦ 0:14の場面
この場面です。ここで超重要な指示を出しました。
スキル⑦ 机の上にある物をしまわせる。
教師の世界では有名なスキルです。
『新版・授業の腕を上げる法則』という本の30ページには次のようにあります。
子供は手に何かを持っていれば、それをいじりたがる。いや、大人だっていじりたがる。自然な現象だ。何十人もの子がいれば、何人かは必ず手いたずらをする。当然である。だから、作業の途中で指示する時は、手にしていたものを全員置かせて、自分の方に向かせるのである。(向山洋一)
念のために解説しますが、「当然」「自然」という思想が重要なのです。
「子どもとはそういうものだ」「大人だってそうだ」という考え方がなければ教師は意地悪になります。
「なんで出来ないんだ!」という考え方に陥ってしまいます。
ですから、スキル(知識・技能)という名前が付いていますが、その裏には「教育」「子どもを育てる」という行為における考え方が存在しているわけです。
スキル⑧⑨ 0:20の場面
これはもう多くの人が見抜いたと思います。写真からもわかりますね。
スキル⑧ 支援が必要な子を目立たぬうちに助ける。
机の上を片付けさせている間に一人の子を助けています。
片付けるのが苦手な子です(発達障害のお子さんかも知れません)。
それをそっと無言で手伝ってあげています。
目立たないようにです。
このように「全体を動かしてから個別に対応する」というのも超重要なスキルです。
スキル⑨ 全体を動かしてから個別に対応する。
これを逆にすると教室は騒然となります。
たとえば、チャイムが鳴った時に、「はい!じゃあ、いい姿勢になりましょう!」と言わないで、教師が一人の子にかまっていたらどうなるでしょう。
教室は騒がしいまま「空白の時間」となります。
「立っている子」や「おしゃべりをしている子」がいる中で、一番前の席の子の相手をしている時間が過ぎてしまう。野放しというか、無法地帯というか、そういう状況ができてしまうのです。
これが学級崩壊へとつながります。
スキル⑩ 0:32の場面
このあと教師は教室の端の方へ移動しています。
スキル⑩ 支援を目立たせないように離れる。
片付けを助けてあげた子から意図的に離れたわけです。
それと同時に、廊下側の子たちへ「ちょっとした刺激」を与える効果もあったと思われます。
スキル⑪ 0:45の場面
「立ち位置」と「目線」を意識しながらここで使ったスキルはこれです。
スキル⑪ 次々とほめる。
「○○君もいい姿勢になってる!」
「6班さんもいい姿勢になってる!」
次々と子どもたちをほめています。
すると、どうなるかわかりますよね。
「ぼくも」「私も」という空気が生まれて、教室はどんどん「いい姿勢」になっていきます。
そして、0:54の時点で教室は写真のようになります。
そして、話し始めます。
「明日から『あるお休み』が始まりますね。何休みですか?」
「ハーイ!」
子どもたちの手が一斉に上がります。
これが「教師のスキル」です。
5.新卒教師への「バトン」
この春休み、この動画を使って、大学を出たばかりの新卒の先生方と学習会をしました。
その中で私は質問をしました。
こういうことって大学で習いましたか?
「習ってません」
そうなのです。戦後の教員養成大学は西洋の教育学や教育思想といった旧来のコンテンツばかりを扱っていて、現場に役立つようなスキルを教えていないのです。
大学では「授業の仕方」「指導の仕方」を習いません。
講座88で書いたことは決して誇張ではないのです。
教員免許は授業ができるようにならなくても発行されている。
これが日本の現状です。課題です。
見過ごすことの出来ない「大きな課題」です。
多くの子どもたちに影響することです。
今、文科省では「教師のバトン」というプロジェクトを行っています。
検索するとこんな風になっています。
ネット上では「炎上」が発生し、テレビなどでも取り上げられました。
教師が置かれている環境には課題がたくさんあります。
保護者の方をはじめ、教師以外の方々には「見えにくい課題」が存在します。
私はそのことを伝えたくてこの記事を書きました。
シェアしていただけたら嬉しいです。
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