講座413 1歳児は40000回指さしをする!
講座299~301で「思いやりを育てる方法」について解説しました。
今回はその続編です。
「指さし」というのは子育てをする上で超重要なキーワードなんです。
「1歳児は40000万回指さしをする!」
それでは始めましょう!
2.視線理解
3.「一人指さし」
4.コミュニケーション指さし
5.「応答」の指さし
6.まとめ
「指さし」が始まるのは8ヵ月~9ヵ月頃だと言われています。
これは私の孫(1歳4ヵ月)の写真です。
お花(ネモフィラ)を指さしています。
これが「指さし」です。
「指さし」とひとくちに言っても、それ以前には土台となる育て方や発達の順序などがあります。
今回の記事ではそれらについてわかりやすく解説していきます。
1.指さし理解
まず、第一段階は「親の指さし」です。
写真を見てください。
お母さんが指を指していますね。
この時、赤ちゃんはどこを見るでしょう?
①お母さんの手
②お母さんが指をさしている方向
普通なら、指を見せたのですから「お母さんの指」を見ますよね。
ところが、脳が発達した赤ちゃんは「指」ではなく「指さしている方向」を見ます。
これはスゴイことなんです。
手を見ないで方向を見る赤ちゃんは、
「あ!お母さんはぼくに何かを見せようとして指をさしているんだな!」
と思っているわけです。
大袈裟に言えば、お母さんの心の中を読み取っているわけです。
講座299「思いやりを育てる方法(前編)」の中で中学生の保護者からのアンケート結果を紹介しました。
中学生の保護者が我が子に望む第一位は「思いやりのある子になって欲しい」でした。
その「思いやり」はこの時に芽生えるのです。
知ってましたか?
生後8ヶ月ですよ!
我が子に指さしを使って何かを「教える」という行為が如何に大事かってことです。
この時に、手を見ないで方向を見た赤ちゃんは「思いやり」が発達し始めているのです。
これを「指さし理解」と言います。
この「指さし理解」の出現時期は253日(約8ヵ月半)と言われています。(徳永2003)
2.視線理解
これとほぼ同時期に現れるのが「視線理解」です。
親の手がふさがっているときなどは視線で合図を送ることがありますよね。
「あれ見て!葉っぱキレイだね!」
このような時にも赤ちゃんはお母さんの見ている方向を見ようとします。
指ではなく視線でわかるというのもスゴイですよね!
「あ!お母さんはぼくに何かを見せようとしているんだな!」
目だけで気づく!
心の中を、ですよ!
この能力の発現時期は311日(約10カ月)と言われています。(徳永2003)
しかし、赤ちゃんはどうして心の中を読み取ることができるのでしょう?
これは、chatGPTにもBardにも実装されていない機能です。
赤ちゃんはなぜ、「人指し指」や「視線」によって、「あっちを見るんだよ!」という意味だとわかるのでしょうか?
赤ちゃんの「目」に関する発達段階は次のようになっています。
0~2ヵ月:お母さんの顔を見つめて安心感を獲得する
2~4ヵ月:モビールなどの物を見つめるようになる(注視)
4~6ヵ月:人や物が動く様子を目で追うようになる(追視)
この0~6ヵ月の間には親からの「言葉かけ」がたくさん行われているはずです。
そして、その「言葉かけ」は「指さし」や「視線移動」の際も行われているはずです。
安心感の中での 《体験》+《言葉》=《気づき》
何度も、何度も、このようなことがおこなわれて、
「あれのことかな?」
「これのことかな?」
「あ!これのことなんだ!」
「これをぼくに見せようとしてくれていたんだ!」
「この指の形(目の動き)があった時は何かおもしろい物があるんだ!」
この段階では、まだまだ条件反射的なつながりだと思います。
赤ちゃんは「自分」という存在も自覚できていないかも知れません。
しかし、こうした経験を積むことによって《世界》は広がり、
《働きかけ》が《働きかけられている自分》を気づかせてくれるでしょう。
それが「ぼくに何かを見せようとしている!」という《他者の心》への気づきにつながるはずです。
3.「一人指さし」
ここまでは「親の指さし」と「親の視線」を理解する行動を解説しました。
次からがいよいよ赤ちゃん自身による指さし行動です。
それを「自発的指さし」と言います。
「自発的指さし」には2種類あります。
(1)一人指さし
(2)コミュニケーション指さし
「一人指さし」は誰かに何かを伝えるのではなく、自分だけの世界で指さしをする行為です。
抱っこされている時などに、動く物や光る物や変わった物などを見た時に興味を持って指を指す時があります。
また、いつも見慣れていてる物、自分が知っている物を見た時に「コレ知っているわ!」という確認の意味で指を指す時があります。
また、欲しいものがあった時に「これ欲しいな!」と思って指をさす時もあります。
ただし、コミュニケーションではありません。
誰かに知らせるためにやっているならコミュニケーションになりますが、そうではなくて、明らかに自分だけで「欲しいよー」と指をさす段階です。
これらは赤ちゃんが自分から勝手に指を指しているので「一人指さし」と言います。(宮津2018)
それが8~9ヵ月頃に起こります。
「一人指さし」と「コミュニケーション指さし」の違いは「顔の向き」です。
どちらも「指さし」をしているわけですが、
「一人指さし」は顔をこちらに向けて来ません(対象物を見て指を指し続けます)。
それに対して「コミュニケーション指さし」は指は対象物に向けたままですが、首をひねって顔をこちらに向けて来ます。
ASD児(自閉スペクトラム症)の場合はこの「コミュニケーション指さし」に困難が生じるそうです。(泰野1983)
ところで赤ちゃんが「一人で」指さしをした時に、親はどんな反応をすると思いますか?
「一人指さし」が始まった時の親の対応は次の二つに分かれるでしょう。
A:「あ、ワンワンいたね!」などと言ってあげる
B:反応してあげない
AとBの違いによって、赤ちゃんの頭の中で何が起きるとと思いますか?
A:「ん?指を指したらお母さんが反応してくれたなあ。どうしてかわからないけどウレシイなあ!」」
B:(何も起こらない)
Aの対応が続くと「指さし」は強化され、コミュニケーションへと転化します。
反対に、Bの対応が続くと赤ちゃんの「指さし」は減ってしまうことでしょう。
4.コミュニケーション指さし
いよいよ「コミュニケーション」の指さしです(11~15カ月頃に発現)。
同じ「自発的な指さし」であっても、相手に対して応答を求める積極的な指さしです。
この「コミュニケーション」の指さしには3つの種類があります。
①要求の指さし
欲しい物があった時に指をさすとか、助けてもらいたい時に指をさすとかです。
この指さしは、要求が実現されるまで何度も繰り返される時があります。
親にとっては大変ですよね。
こんな時、みなさんはどんな対応をされていますか?
②確認の指さし
珍しいものを見たとき、知っているものを見たときなどの指さしです。
大人だったら「あっ!」と声を出して指をさす場面でしょう。
赤ちゃんが「あっ!」と指をさした時。
みなさんならどんな対応をされますか?
③質問の指さし
これは、まるで問いかけているような指さしです。
「これなあに?」といった感じです。
言葉が出るようになった後でしたら、「ワア?」「コワア?」「コワア?」といった感じで様々なものを指を指しながら質問して来ることもあります。
ちなみに「コワア?」は「これは?」という意味です!
さて、こんな時はどんな対応がよいでしょうか?
※ ①~③の対応の仕方は記事の最後で解説します。
5.「応答」の指さし
これは、聞かれたことに対して指さしで答えるという行動です。
「ネコはどれ?」と聞かれて、絵本の中のネコを指さしで答える段階です。
この能力は1歳半健診の診査項目にもあるので知っている方が多いと思います(定型発達の場合は1歳~1歳半で出現します)。
注)1歳半健診で使われるイラストは古い物が多いのでくて昭和感があると思います。涙
6.まとめ
ここまで到達するまでにはどんなステップがあったのかをまとめます。
1.親の指さしを理解する
そのためには、指さしを使って我が子に何かを「教える」という行為が必要です。
2.親の視線を理解する
そのためには、抱っこしている時などに視線で合図を送るという行為が必要です。
そして、1と2には大切な環境がありました。
安心感の中での 《体験》+《言葉》=《●●●》
安心感の中で、言葉をかけながら「指さし」や「視線移動」をするということです。
そうすると赤ちゃんの脳の中で「革命)が起こります。
「●●●」が何か気づきましたか?
「気づき」です。
(再掲)何度も、何度も、このようなことがおこなわれて、
「あれのことかな?」
「これのことかな?」
「あ!これのことなんだ!」
「これをぼくに見せようとしてくれていたんだ!」
「この指の形(目の動き)があった時は何かおもしろい物があるんだ!」
この段階では、まだまだ条件反射的なつながりだと思います。
赤ちゃんは「自分」という存在も自覚できていないかも知れません。
しかし、こうした経験を積むことによって《世界》は広がり、
《働きかけ》が《働きかけられている自分》を気づかせてくれるでしょう。
それが「ぼくに何かを見せようとしている!」という《他者の心》への気づきにつながるはずです。
それがやがて「思いやりの心」へのつながっていくことは講座299~301で解説しました。
まだ読まれていらっしゃらない方はぜひどうぞ。
3.「一人指さし」
自分だけの世界で指さしをする行為です。
ここから「コミュニケーション指さし」ができるまでには壁があります。
ASDの子は「コミュニケーション指さし」以降が困難です。
「ネコはどこ?」といった質問への対応も困難です(「ネコ」という名詞は知っていても質問者の問いに応じるのが困難)。
なぜ、ASDの子は「一人指さし」から抜け出せないのでしょう?
ひとつ言えるのは「指さしによって働きかけられている自分」に気づいていない、その意味がわからないということです。
「指さしがわかる」というのは人間だけが持つ高度な能力です(ASDの子の能力が低いという意味ではありません)。
犬や猫なら指さしをすると指自体を見るでしょう(訓練された犬なら「GO」の合図なんだと結びつけることができますがそれはあくまでも合図です)。
指さしが「あそこを見てごらん!」という言語なんだということを理解するには高い壁があるわけです。
ですから、子育てにおいては初期の段階で「積み木」や「バナナ」などの触れる物を指さしして「つみき」「バナナ」などと教えます。
その「指さし」が段々と遠くを指さすようになって、「あ!お月様だよ!」といった遠くのものにも反応できるようになります。
このように「指さし」にはたくさんのステップ(階段)があるわけです。
したがって、それを少しずつ経験することで、赤ちゃんは「壁」も乗り越えられるようになるのではないかと考えられます。
4.「コミュニケーション」の指さし
そして、その壁を乗り越えた赤ちゃんは次のステップへと進みます。
①要求の指さし
②確認の指さし
③質問の指さし
親にとっては面倒なことばかりですが、この3つができるということは発達の証(おめでたいこと)です。
そして、この3つを十分に味わった子は次のステップへ進みます。
5.「応答」の指さし
「ネコはどれ?」と聞かれて、絵本の中のネコを指さしできる能力です。
これが出来るようになれば「指さし」の学習は卒業です。
以上、今回は「指さし」に焦点を当てて解説をしてみました。
赤ちゃんが自発的に指さしをするのは8ヵ月くらいからだと言われています。
そこから先の1歳代は「指さし」の敏感期です。
敏感期とは、幼児期における、ある特定の事柄に対して、強い感受性が表れる、ある特定の時期を言います。
特筆すべきことは、敏感期にある内は、その特定の事柄は、簡単に吸収されるが、時期が過ぎると、その感受性は消えてしまうということです。(モンテッソーリ教育におけるキーワード)
「1歳児は40000万回指さしをする!」というタイトルは、1歳児が「指さし」の敏感期であることと、イアン・レズリーの『子どもは40000回質問をする』という本のタイトルにかぶせて付けました。
レズリーはかけ算で回数を推測したようですが、私は指さしの回数を数えたわけではありません。
イメージとしてそのくらい沢山するんじゃないかと思って付けました。
①要求の指さし
②確認の指さし
③質問の指さし
この3つへの対応の仕方については最後に有料部分として書かせていただきました。(↓)
関心のある方はぜひご覧ください!
「コミュニケーション」の指さしには3つの種類がありました。
①要求の指さし
欲しい物があった時に指をさすとか、助けてもらいたい時に指をさすとかです。
この指さしは要求が実現されるまで何度も繰り返される時があります。
そんな時は、まず、言葉で確かめることです。
「~したいの?」
と聞きます。
そうすると「うん」と頷くか、「ううん」と首を振るか、どちらかになります。
赤ちゃんは、この「うん」と頷く動作と「ううん」と首を振る動作を覚えると、各段にコミュニケーション能力がアップします。
日本にはたくさんの外国人が働きに来ています。
子どもたちも親と一緒に来日し、日本の学校に通っています。
日本人だらけの教室で最も役に立つ言葉は「YES」と「NO」です。
この2つがあれば学校生活の多くの場面で子どもたち同士がコミュニケーションをとり始めます。
それと同じで「うん」と「ううん」という動作は赤ちゃんにとって超重要なジェスチャー(言語)なのです。
本当は、指さしができるようになる前に、「うん」と「ううん」を覚えておけばいいのですが、
もし、出来ない場合は、親が言葉と一緒にジェスチャーでやって見せることをおすすめします。
くり返しやって見せていると、赤ちゃんはある時に《気づき》ます。
これは「YES」と「NO」だ!
私の孫は最初に「うん」を覚えました。
成功体験優先で育てていましたので、しばらくの間は「うん」だけで生活していました。
それから数か月経ってから、「ううん」も使うようになり、現在に至っています。
そんなわけで「~したいの?」はとても大切な言葉です。
ちなみに、もし、その行動をさせたくない時にどうするかについては、講座40「クールダウンとほっとダウン」をお読みください。
「クールダウン」と「ほっとダウン」というスキルを使えば大抵の場面は乗り越えられると思いますが、
赤ちゃんの場合はこの2つに加えて「誤魔化す」というスキルも有効です。
なんとかうまく誤魔化してその場を切り抜けるのは赤ちゃんの脳を傷つけない有効な手立てです。
②確認の指さし
珍しいものを見たとき、知ってるものを見たときなどの指さしです。
大人だったなら「あっ!」と声を出して指をさす場面でしょう。
こんな時は一緒に驚いてあげます。
共感ですね。
そうすると情緒や好奇心が育ちます。
そして、言葉を加えてあげます。
「びっくりしたねえ。カマキリさんだよ。これ『カマキリ』」
言葉の入力です。
③質問の指さし
まるで問いかけているような指さしです。
「これなあに?」といった感じですね。
これはもうはっきりしています。
「言葉の入力期」なのです。
この時期の後に言葉を言い始めるわけです。
一語から二語へと「言葉の爆発期」が待っています。
その準備段階(燃料の注入状態)が指さしによる質問です。
まだ言葉は話せませんから、「ん!」とか言って指を指すだけです。
でも、その「ん!」は「名前を教えて!」の「ん!」です。
ですから名前(名詞)をはっきりと短く答えてあげればオッケーです。
「ん!」(これなあに?)
「せんぷうきだよ。『せんぷうき』」
こうやって繰り返してあげるのがいいです。
一言目は「応答」。
二言目は「はっきりとした発音で名詞だけを言う」という答え方です。
もちろんその2秒後くらいに、同じものを指して、再び「ん!」が始まります。
その時は「『せんぷうき』」とだけ答えます。
二回目以降は名前の確認(復習)ですからね。
そして、別な場面で違う形の扇風機を見た時がチャンスです。
これも扇風機なんだ!ということを学習すると学習能力は飛躍します(もっと賢い子になります)。
4.で述べた「ワア?」「コワア?」「コワア?」といった感じで様々なものを指を指しながら質問してくる場面での対応も解説しておきます。
実はこの場面は「名前」ではなくて、「所有者」を聞いている場面なんです(秦野1983;1歳5か月児の観察)。
テーブルの上に箸が並んでいて「コワア?」(これは誰の?)と指さしで聞いているのです。
ですからこの場合は「おじいちゃんの」とか「お父さんの」というように答えてあげる対応になります。
最後に資料として、「共同注意関連行動の出現時期」という図を紹介させていただきます。(出典: 乳幼児の発達における共同注意関連行動について)
「指さし」という小さな行為が、「言葉の発達」はもとより、「社会的参照」や「向社会的行動」といった重要な社会的能力につながっていくことがわかります。
子育てはwin3です。
子どものためはもちろんですが、親自身が学びになったり、助かったりできて、それがやがて世の中のためもなっていく壮大でやりがいのある営みです。
指差しに多様な意味があるのですね。これからの我が子の指差しを一緒に楽しもうと思いました。