講座412 「大人の発達障害」
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子育てwin3計画では「発達障害圏成人支援プログラム」を用いた大人の発達障害カウンセリングを実施しております。
今回はそのカウンセリングの内容をご説明したいのですが、その前に、
「大人の発達障害」とは一体なんなのか?ということを目次に沿って解説します。
2.発達障害は「障害」ではない
3.発達障害は「障碍」ではない
4.「大人の発達障害」の定義
5.「特性」とは何か(前半)
6.「特性」とは何か(後半)
7.「三人に二人」は発達障害圏
8.まとめ
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1.発達障害は「病気」ではない
発達障害は病気ではありません。
《発達障害 病気ではない》で検索すると、たくさんのページがヒットします。
例えば、日本経済新聞2022/05/19の記事タイトルを取り上げてみましょう。
発達障害は病気ではなく「脳の個性」(「昭和大学医学部精神医学講座主任教授・岩波明氏に聞く」)
この表現は的を射ていると思います。
この他にも病院のドクターが様々な記事を書いています。
・発達障害は、生まれつきの特性で、病気ではありません。(池澤クリニック)
・「発達障害」とは生まれつきの特性であって、病気ではありません。(サクマこころのクリニック)
・発達障害は、生まれつきの脳の特性で、「病気」とは異なります。(河田病院)
発達障害が病気・疾患ではないことは医学の世界では常識です。
発達障害のことを精神疾患だと勘違いされている方もいますが、それは違います。
では、発達障害とは何なのか?
本当に「障害」なのか?
「特性」とか「脳の個性」とは何なのか?
わかりやすく解説していきます。
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2.発達障害は「障害」ではない
発達障害を定義するための国際基準にはDSM-5とICD-11の二つがあります。
DSM-5は、アメリカ精神医学会の診断基準です。(2013 年出版・2022年改訂)
ICD-11は、世界保健機関(WHO)の医療分類リストです。(2022年発効)
このどちらにも「発達障害(Developmental Disorders)」という用語はありません。
どちらの用語も「神経発達症(Neurodevelopmental Disorders)」に変わりました。
つまり、2022年段階の医学の世界では「発達障害」とは呼ばずに「神経発達症」と呼んでいます。
とは言え、世の中では「発達障害」という呼び名が広まっていますので、
日常会話では「発達障害」と言った方が会話がスムーズになります。
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3.発達障害は「障碍」ではない
「障害」という言葉は日本独特のものです。
昔は「障碍(しょうげ)」という言葉を使っていましたが、これは「悪霊や怨霊が邪魔をしている」という仏教用語から来た言葉だったので使われなくなりました。(「『碍』の字表記問題再考」天理大学・八木三郎氏)
一方、欧米では「障害」に対する見方が客観的に進んでいました。
今でも「障害」は次のような種類に分けられています。(「『障害』は英語で何と言えばいい?」学研)
①impairment(身体的に欠損のある障害、handicapは差別的という理由で使われなくなりました)
②disability(社会的な意味での障害)
③disorder(医学的な意味での機能障害)
④difficulty(「障害」という言葉を避ける意味での「困難さ」を表す言葉)
たとえば、片方の目の視力が0.6以下になれば「視力障害(visual impairment)」です。(厚生労働省基準)
視力の低下は①の「欠損」という障害です。
では、「発達障害」という時の「障害」はどれだと思いますか?
「発達障害」はdevelopmental disordersと言いますから③のdisorder(医学的な意味での機能障害)です。
つまり、発達障害(developmental disorders)とは、
developmental(発達上の)disorders(機能障害群)という意味です。
まあ、確かに縮めると「発達障害」になりますね。
でも本当に大切なのは「発達上の」という部分と「機能」という部分なんです。
ここを理解しなければ「発達障害」を理解することはできません。
では次に、「発達上の」という部分と、「機能」について見ていきましょう。
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4.「大人の発達障害」の定義
「発達障害」という言葉は、もともと子どもに見られる特性として使われ始めました。
第33回東日本外来小児研究会の報告によりますと「発達障害」という言葉をメディアが取り上げ始めたのは1989年です。
世の中に広まったその10年後の2000年代です。
「大人の発達障害」という言葉は、その後を追うように広まって来ました。
時事メディカルによると「日本の成人ADHD、10年で20倍以上に」なったそうです。
また、未成年で診断されるより、成人後に診断される人の方が多いことがわかっています。(武田薬品「数字から知る発達障害」)
発達障害の専門家である信州大学の本田秀夫教授は「発達障害」を次のように定義づけています。
発達障害は、何らかの特記すべき精神機能の特性が乳幼児期からみられ、その特性が成人期も残ることによって生活に支障をきたすグループである。(「大人になった発達障害」認知神経科学 Vol. 19 No. 1 2017)
要約しますと、
①特性が乳幼児期からみられ
②その特性が成人期も残ることによって生活に支障をきたす人
それが「大人の発達障害」です。
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5.「特性」とは何か(前半)
では、「特性」とは何かという話に移ります。
発達障害における特性のことを「個性」だと表現する場合がありますが、言おうとする意味は同じです。
特性や個性を分解してみましょう。
(1)考え
(2)行動
(3)感情
その人の考えること(思考)、その人の行動、その人の感情。
この三つの組み合わせの結果が「その人の個性(特性)」です。(参考:「実行機能の発達の脳内機構」森口佑介氏)
- 遅刻や忘れ物が多い
- ルールや順番を守ることが苦手
- 特定の物に関する知識や形式にこだわる
- 授業中にじっとしていることができず、注意されても繰り返してしまう
- 文字が読めなかったり、書き間違えたりする
- 年齢相応でない態度や振る舞いが目立つ
- 同年齢でのお付き合いやコミュニケーションがうまくいかない
- 自分の興味関心のあることしかしようとしない
- 計画性をもって進めるのが苦手
- 断ることができずたくさんの役割を抱えこんでしまう
こうした特性は「思考と行動と感情の組み合わせ」です。
今は、困った特性ばかりを並べてみました。
こうした特性に困っている人が「私は発達障害かも知れない」と悩んでいる場合が多いからです。
でも、こうした悩みは本人が気をつければ「コントロールすれば)解決するのじゃないかと思われがちです。
そこで、「考え」や「行動」や「感情」をコントロールする仕組みについて解説します。
脳科学では、コントロールすることを「制御」と言います。
脳に存在するその制御システムが「中央実行系」と呼ばれるものです。
脳画像で示すと次のようになります。
イラストで示してみましょう。
(1)考え
(2)行動
(3)感情
この三つを制御する仕組みが中央実行系です。
脳の中のいろいろな部位が関係し合っていることがわかります。
自分の特性というのは「思考と行動と感情の組み合わせ」です。
そして、それらをコントロールする時に働くのが図に示した中央実行系ということです。
- 遅刻や忘れ物が多い
- ルールや順番を守ることが苦手
- 特定の物に関する知識や形式にこだわる
- 授業中にじっとしていることができず、注意されても繰り返してしまう
- 文字が読めなかったり、書き間違えたりする
- 年齢相応でない態度や振る舞いが目立つ
- 同年齢でのお付き合いやコミュニケーションがうまくいかない
- 自分の興味関心のあることしかしようとしない
- 計画性をもって進めるのが苦手
- 断ることができずたくさんの役割を抱えこんでしまう
これらの短所は中央実行系がうまく機能しないことが原因だと考えられています。
私は今、「機能」という言葉を使いました。
それが「発達障害 developmental disorders(医学的な意味での機能障害)」という意味です。
ですから私はよく次のように言います。
発達障害は障害ではありません。機能障害です。
そして、これを詳しく述べるなら、
発達障害とは、中央実行系がうまく機能しないことで生活に支障をきたす状態
のことを言います。
ですから、その短所が生活に支障をきたしていない場合は発達障害とは言えません。
「遅刻が多い」という特性を持っていたとしても、お母さんが毎朝起こしてくれて遅刻が減り、自分にも周りにも迷惑をかけていない状態なら発達障害とは言えません。
「忘れ物が多い」という特性を持っていたとしても、先生が教室に予備の教科書や鉛筆などを用意しておいてくれて、問題なく授業を受けられているような状態であれば発達障害とは言えません。
特性はあるけれども生活に支障をきたしていなければ発達障害とは言えない。
このことを知らずに人知れず悩んでいる人は多いと思います。
ただし、このことには注意が必要です。
自分は生活に問題を感じていなくても周囲の人に迷惑をかけている場合があります。
それは「特性による支障」です。
また、支障をきたすかどうかは「環境」に大きく左右されます。
夜のお仕事で朝に「子どもを起こすことができない」保護者のもとで「朝に起きられない」という特性を持っていれば遅刻は減りません。
去年まではよかったけれど今年の先生は「忘れ物に厳しい先生」だった場合は「忘れ物がしやすい」という特性を持っていれば叱られることが多くなるでしょう。
そうなると「生活に支障」をきたしますので発達障害の症状が出たという診断が下る可能性があります。
人の特性は脳の機能ですから簡単には変わりません。
ということは、環境によって生活に支障をきたさないようにする工夫が重要になります。
そして、その「環境」の中心は「人」です。
環境とは人
従って、生活に支障をきたさないようにするには周囲の人の理解が必要不可欠です。
発達障害とは、自分一人の工夫で何とかなるものではありません。
家族や職場や学校など、生活を共にする場における「人」という環境を変えることは最も大きな工夫に成り得ます。
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6.「特性」とは何か(後半)
特性とは、その人の思考・行動・感情のことでした。
- 遅刻や忘れ物が多い
- ルールや順番を守ることが苦手
- 特定の物に関する知識や形式にこだわる
- 授業中にじっとしていることができず、注意されても繰り返してしまう
- 文字が読めなかったり、書き間違えたりする
- 年齢相応でない態度や振る舞いが目立つ
- 同年齢でのお付き合いやコミュニケーションがうまくいかない
- 自分の興味関心のあることしかしようとしない
- 計画性をもって進めるのが苦手
- 断ることができずたくさんの役割を抱えこんでしまう
これらは特性を「悪く」考えた場合の話です。
特性は考え方次第で「良く」も「悪く」もなります。
「遅刻や忘れ物が多い」のは、良く言うと「時間に縛られていない」ということです。
「ルールや順番を守ることが苦手」なのは「ルールや順番などがない職業が開かれている」ということです。
「特定の物に関する知識や形式にこだわる」人は「研究者」に向いています。
学校や家庭や職場などの狭い空間の中では「短所」のように見える特性でも、見方を変えれば「長所」になるわけです。
このように見方を変えることを「リフレーミング(reframing)」と言います。
グラスに水が半分入っているとき、「半分しか入っていない!」という見方と、「半分も入っている!」という見方があります。
特性は、変わっていなくても、見方次第で良くも悪くもなる
これが発達障害におけるもう一つの重要な側面です。
特に、現代社会は多様性を求めています。
社会で活躍するというのは「特性を活かす」ということです。
この「活かす」のも環境です。
歴史上には発達障害だったと思われている偉人がたくさんいます。
エジソンには「強くこだわる」という特性があり、理解が得られず小学校を中退しました。
彼を理解し、支えたのは母の「ナンシー」です。
坂本龍馬には「片付けが苦手で約束や締切を守れない」という特性があり、親を悩ませました。
彼を理解し、支えたのは姉の「乙女」です。
スティーブ・ジョブズには「完璧でなければ許せない」という特性があり、従業員を困らせました。
彼を理解し、支えたのはパートナーの「ティム・クック」です。
エジソンがいなければ電球や蓄音機や映写機は発明されませんでした。
龍馬がいなければ武力による内乱が続き明治維新は10年以上遅れていただろうと言われています。
そして、ジョブズがいなければiPhoneは生まれなかったでしょう。
これが、「特性を活かして社会でで活躍する」ということの具体です。
周囲の人が本人の特性を理解して力を(特性を)発揮できるような環境づくりをしなければなりません。
そして、本人は、自分の特性を前向きに理解して、自分を活かす。
その両方の「理解」が必要なわけです。
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7.「三人に二人」は発達障害圏
私は自分の経験から「三人に二人は発達障害圏」だと思っています。
むしろ、ノーマルな人は少ないんじゃないかという印象です(ノーマルは三人に一人)。
図にするとこんな感じです。
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「圏」というのは天気図のイメージです。
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天気図の等圧線のように、中心に行けば行くほどハッキリとした特徴が出て来る示し方です。
ADHDは高気圧で、ASDは低気圧という感じです(二次障害は台風でしょうか)。
そして、ノーマルというのは低気圧でも高気圧でもない所です。
マークはありませんが、間に挟まれた空間です。
このような考え方をシンプルにすると次のようになります。
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私たちのまわりには、
本人が「自分は発達障害かも知れない」と気にしていたり、
周囲の人が「アイツは発達障害じゃないか?」と思われている人が数多く存在しているはずです。
そうした方々が私のイメージする「発達障害圏」の人たちです。
言葉で表現するなら次のようになります。
ADHD圏の人:ADHDっぽい人
ASD圏の人:ASDっぽい人
ノーマル圏の人:自分を表に出さない人
ADHDとASDはそれぞれに特性があるわけですが、「ノーマル(標準的、普通)」をどう表現すべきかで悩みました。
世の中には「特徴のない人」なんていないと思ったので「自分を表に出さない人」と表現しました。
逆に言えば、ADHD圏とASD圏の人は「自分を出している人」です。
ですから、ADHD圏の人を「明るい自分をだしている人」、ASD圏の人を「暗い自分を出している人」と表現することもできます。
「暗い人」なんて言うと悪いイメージのように聞こえるかも知れませんが、「暗さ」も個性です。
その「暗さ」を隠さずに出しているのがASD圏の人です。
そう考えると「発達障害圏」というのは、かなり広範囲ということになります。
それが、1/3、1/3、1/3という考え方になった理由です。
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8.まとめ
「発達障害」と「発達障害圏」についての解説は以上で終わりです。
私たちのまわりには、
本人が「自分は発達障害かも知れない」と気にしていたり、
周囲の人が「アイツは発達障害じゃないか?」と思われている人が数多く存在しているはずです。
私は、そのような方々の悩みや疑問に答えるために個人相談を受け付けております。
たとえば、「ADHD圏成人支援プログラム」というのは次のようになっています。
![](https://win3.work/wp-content/uploads/2023/07/003-2.jpg)
診断は医師にしか出来ませんが、そこまでは考えていないという段階での「聞き手」をさせていただいております。
また、発達障害についての多少の知識はありますので、チェックリストを用いたアドバイスもさせていただいております。
多くの方に、気軽に利用していただきたいと思っております。
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このほか
「子育て相談」
「保育士・教員相談」
「ストレスや鬱の相談」
「小中校生対象の相談」を実施しています。
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相談を希望される場合は、第一段階として、気軽にこちらへ、アクセスしてみてください。
簡単な相談であれば無料で受けられます(希望にそえない場合はご容赦ください)。
今回の講座は以上です。
環境は場所以上に人なのですね。
特性を自覚して、その予防や対処方法も楽しめる生活をしたいです。