発達障害への理解

講座93 わかりあえない不幸「発達障害」

投稿日:2021年4月26日 更新日:

 目 次
1.参観日「親の心配」
2.参観日「教師の心配」
3.参観日という非日常
4.我が子の日常を知ることができない
5.「親の自信」が壁になる
6.学校側の選択肢
7.本当の「子育て支援」

1.参観日「親の心配」

参観日 行きましたか? 行ったことありますか?

こんなことを思ったことありませんか?

我が子は「ちゃんと」してるだろうか?

「ちゃんと」というのは、

ちゃんと席に着いているだろうか? とか、

ちゃんと先生の話を聞いているだろうか? とか、

いろいろありますよね。

要するに、「変に目立っていないか」とか、「恥ずかしいことをしていないか」とか、

そういう「マイナスの行動」をしていないか!

ということですよね。

2.参観日「教師の心配」

先生には先生の心配があります。

ちゃんと授業できるだろうか。子どもたち、言うことを聞いてくれるだろうか…。

「ちゃんとやれていますよ」というところをアピールしたいわけです。

アピールと言ったら言葉は悪いですけど、「信頼を得ておきたい」ということですよね。

四月の参観日は特にそうですよね。

「ちゃんとしたところを見てもらいたい」

「それで信頼を持っていただきたい」

だから「マイナスの行動」は見せたくない。

子どもが床に寝っ転がっているところや、

子どもが勝手に立ち歩いて黒板の前までやって来るところなんかは見せたくないですよね。

「マイナスの行動」は見せたくない・見られたくないという点で、親と教師の願いは一致しています。

でも、これってどうなんでしょう。

子どもにとっていいことなのでしょうか。

3.参観日という非日常

参観日の教室の空気は非日常です。

後ろに保護者が立っています。

先生は緊張しています。あるいは気合が入っています。

子どもたちも「いつもと違う気配」を感じます。

コロナ対策で三回に分けて実施したとしても、この構図は変わりません。

この「いつもと違う」ということは、参観日の目的に合っているのでしょうか?

「参観日」って、学校での子どもたちの様子を見てもらうために実施するのですよね。

ところが、その様子というのは、実は「いつもの様子」ではないわけです。

子どもたちも、先生も、「いつもと違う」わけです。

言わば「非日常」です。イベントなのです。

我が子に見つからないように、廊下からこっそり参観しようとされる保護者の方もいますが、

自分の親がいようといまいと、その教室は「いつもと違う」のです。

まずは、このことを理解しておきましょう。

4.我が子の日常を知ることができない

A君は普段の授業で床に寝っ転がったりします。

黒板の前に出て来て勝手に黒板消しを使って遊んでいたりします。

落ち着いて自分の席で授業を受けられる時間はほんの数分間だけです。

教師はA君の行動に困っています。

でも、参観日の時の授業では「ちゃんと」席について、おとなしくいていられました。

これはよくあることです。

お母さんが後ろで見ているからです。

こんな時、教師は悩みます。

どうすればA君の普段の様子を伝えられるか。

参観後の懇談会では、他の保護者がいるので伝えられません。

教室に残ってもらって個別に話そうか。廊下で話そうか。なんとか話すチャンスを作れないか。

そう思う先生もいるでしょう。

しかし、そう思わない先生もいます。

今、このお母さんにA君の普段の様子を伝えることはやめよう。

なぜなら、参観日でのA君の行動が「普段」とは違ったからです。

つまり、お母さんが見ているから「ちゃんと」できたという推測です。

わかりますか?

つまり、このお母さんはA君にとって「怖い」存在だということです。

簡単に言えば、いつもA君を叱っているのではないかという予想が立つわけです。

「間接的な恐怖」という場合もあります。

お母さんに見られると、そのことが父親に伝わって怒られるというケースです。

この場合は、父親からの虐待やDVが予想されます。

いずれにしても、A君の行動が普段とは違う場合、教師はこのようなことを考えます。

だから迂闊に普段の様子を伝えられないのです。

伝えると、そのことで叱られる可能性があるからです。

だから教師は母親に伝えないでおく。

ここには様々な問題がありますが、ここでは次のことだけを確認しておきましょう。

A君の母親は普段の様子(A君が学校で何をしているのか)を知ることができない。

5.「親の自信」が壁になる

この話はまだまだ奥が深いんです。

仮に、先生がA君の実態をお母さんに伝えたとします。

そうした場合に考えられることの一つに次の展開があります。

叱ってください。

先生がAを叱れば済むだろう。

教師ならちゃんと指導しろよ、という展開です。

このことの背後には次の自信があります。

Aは、叱れば言うことを聞く。

母親がいつも叱っているとするならば、そして、A君がそのことで抑圧されているとするならば、

このような「親としての自信」を持っているケースがあります。

そうなると、Aを放置しているのは学校側の問題、教師の指導力不足ということになります。

6.学校側の選択肢

このような場合、教師に残された選択肢は限られてきます。

3つです。

(1)教師も叱る。

これはA君にとって最悪の対応です。

落ち着いて授業を受けられないA君には理由があるはずです。

原因のない行動はありません。

その原因を探り、支援しなければ、いい方向には進みません。

発達障害の可能性もあるわけですから、本来ならば支援につなげるチャンスです。

親も教師もその方向に目を向けていないとすれば、A君の状態は悪化する可能性があります。

自分を守ってくれる人が誰もいないとなれば、

不登校で自分を守るか、

自分を責め続けて二次障害を引き起こすか、

そういったマイナスの方向に向かってしまいます。

(2)理解はするが、合意はしない。

担任として、母親との関係を悪くしたくはありません。

かと言って、母親の意見に合意してA君を叱ることはしたくない。

こうした場合、教師はこの方法を選択します。

母親の考え方を理解はするけど、実際の場面では叱らないという選択です。

「そうですよね。わかりました!厳しく指導します!」なんて言って、

実際は「叱る」のではなく、あの手この手で工夫して対応するケースです。

これは、A君にとっては救いの手です。

でも、学校・子ども・保護者の三者関係の中では、単なる「時間稼ぎ」です。

なぜかというと、学校は保護者に知られないように「あの手この手」で工夫しているだけで、本当の連携ができていないからです。

また、子どもにとっても「叱られていない」というだけで「積極的な支援」にまで結びついているとは言えないからです。

(3)学校側の本音を伝える。(学校の考え方に理解を求める)

誤魔化さずにストレートに伝える道です。

「A君にとって叱ることはよくありません」と伝えることです。

これは危険な道にもなる選択です。

考え方がまるで違うわけですから。

一歩間違えると家庭との対立になります。

担任が言うと、担任不信に陥ります。

ですから、担任ではなく、「第三者」がこの方向を伝えるケースが基本です。

7.本当の「子育て支援」

「親の自信」が壁になっているケースとして3つの方向を提示してみました。

(1)教師も叱る。

(2)理解はするが、合意はしない。

(3)学校側の本音を伝える。(学校の考え方に理解を求める)

しかし、どの選択肢にも欠点があります。

(1)がダメなのは明らかですよね。子どもの発達と真逆です。

(2)は、ある時期には必要なことですが、学校と家庭が平行線のままです。

その学年ではうまくいっても、新しい先生になったときに崩れる可能性もあります。

いつかは連携しなければならない問題だという認識が必要です。

(3)は「危険」ですよね。

でも「動き」は必要です。

動くのは、特別支援コーディネーターの先生だったり、教頭先生だったり、通っている児童館の先生だったり、幼稚園時代の先生だったり、地域の心理士さんや保健師さんだったり、あるいはママ友だったり様々です。

母親が信頼を寄せている人物との「出会い」をつくる必要があります。

こうした母親を悪く言うつもりはまったくありませんが、A君のようなお母さんの場合、情報が届いていないだけの場合があるのです。

「そうなんだ。知らなかった。」というだけのケースです。

お母さん自身もA君を育てる中で苦労し、困って来たわけです。

本当は「自信」ではなく「不安」なのかも知れません。

そうした過程や不安を包み込んで理解してくれる人物が必要になります。

それが「ママ友」だったりするケースは珍しくありません。

ですから、この記事を読んでいらっしゃるお母さんの中で、似たような経験を持っていらっしゃる方は、A君のお母さんのような方と積極的に交流していただきたいと思います。

一方、学校の先生方は、保護者との付き合いが始まったばかりということがほとんどでしょうから、保護者への理解を積み重ねていただきたいと思います。

よく「信頼関係が大事だ」と言われますが、それは保護者の側に立って理解を積み重ねることです。

保護者には子どもを育てて来た歴史があります。

法的にも第一責任者です。

学校は短期間でその過程を「理解」しなければならないのでいつまでも「時間稼ぎ」はできません。

短期間で保護者の信頼を得る努力も必要です。

今回の記事は「選択肢」を狭めながら意図的に書いてみましたが、現実はもっと複雑です。

でも、方向さえ正しければ、いつかは適切な支援につながります。

参考にしていただければと願います。

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-発達障害への理解

執筆者:


  1. はばたん より:

    こんなにリアリティのある学校側・担任の思いを知れるメルマガはそうないと思います。
    参観日ってなんなのでしょうね。良くも悪くも、先生・子どもにとって発表会みたいな感覚ですよね。

    第三者の存在、繋がり、とても大切だと思います。

    • 水野 正司 より:

      はばたんさん、コメントありがとうございます。このような感想をいただけて本当に嬉しいです。今日はがんばって書ききってよかった!と心から思いました。今後ともよろしくお願いします。

  2. Hikaru Takada より:

    いつも勉強させていただいております。学校や先生側からの視点、ご家庭や私どものような立場からの思いなど、なかなか言葉で伝えられない事柄をうまく表現してくださっていることに感謝です!特に今回の記事では様々な事例やお子さんの顔が思い浮かびました。子どもを取り巻く大人たちの、多様な立場がありつつも、むしろその立場や立ち位置の違いを生かして、子どもたちが抱える葛藤や困難を少しでも解消してあげたいなと思いますよね。

    • 水野 正司 より:

      コメントありがとうございます。
      こうした課題は一組織では難しいので、様々な立場の人との連携が大切だと思っています。個人的には「保護者同士」や「高等学校教育段階」からの連携が必要だと思っています。これからもご指導ください。

  3. まき より:

    本当の意味での連携をするために、外部の協力が必要なのですね。
    目の前の子どもの対応に目が行きがちですが、広い視野で子どもと保護者両方に必要な支援を考えていきたいです。
    いつも思考が整理される記事をありがとうございます。
    勉強になります。

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