講座295 思春期は早い方がいい?遅い方がいい?

前回は「思春期らしさ」について解説しましたが、

最近の思春期には社会的な問題が生じているので今回はそのことを補足します。

 目 次
1.思春期はいつから?
2.思春期が早まっている?
3.早まることのリスク
4.なぜ早まっているのか?
5.まとめ

1.思春期はいつから?

教科書的に言うと、思春期は4つの段階に分けられます。

でも、けっこう複雑ですし、個人差もありますから、私は次のように覚えています。

思春期はピューバティ!

思春期は英語で、puberty(ピューバティ)と言います。

「陰毛」という意味です。

医学的には「タナ―段階」という指標があって、これがステージⅡになったら(陰毛が生えたら)思春期です。

これなら男女差や個人差が含まれますから分かりやすいですよね。

次の覚え方も大切です。

発達心理学での考え方です。

思春期=「心」より先に「体」が大人になる。

脳科学的に言うと次のようになります。

思春期=「前頭前野」より先に「大脳辺縁系」が成熟する。

前頭前野は「おでこの裏」ですね。

ここが成熟するのは24歳と言われています。

それより先に大脳辺縁系(「辺縁」というのは「ふち」という意味)といって、大脳に囲まれている部分(扁桃体、海馬、視床下部、側坐核など)が成熟します。

ここは感情などの本能を司る部分ですから、理性と本能にアンバランスが生じるわけです。

2.思春期が早まっている?

思春期の始まりについては分かったと思います。

目安として、体が「大人」になったら思春期です。

実は、ここに、知っておくべき大切な問題があります。

思春期の始まりは早まっている。

思春期の始まりを調べる調査に「初潮調査」があります。

最近は12歳で止まっていますが、これはもう限界にまで早まっているということでしょう。

重要なのはその幅が広いということです。

年齢別に見てみましょう。

日本性教育協会「青少年の性行動」2017年調査(「ダ・ヴィンチ」より)

確かに12歳が多いのですが、「早い子は早い」「遅い子は遅い」というのも事実です。

そこで質問です。

思春期は早い方がいいと思いますか? 遅い方がいいと思いますか?

これは遅い方がいいのです。

昔のように14、15歳くらいの方がよかったのです。

なぜだかわかりますか?

思春期=「心」より先に「体」が大人になる。

体が先に大人になると、不都合なことが多くなるのです。

10歳で体と心のアンバランスを経験するより、15歳で経験した方が「おでこの裏」が発達しています。

遅い方が抑制が効くわけです。

従って、問題行動を起こす可能性も減りますし、アンバランスに苦しむ期間も短くて済みます。

発達心理学者のローレンス・スタインバーグは「子どもが早く思春期を迎える可能性を減らそう」と訴えています。(『15歳はなぜ言うこと聞かないのか?』)

思春期が早いとリスクがあるからです。

3.早まることのリスク

スタインバーグが指摘するリスクを3つ紹介します。

①勉強に身が入らなくなるリスク

小学校から中学校、高校と進むにつれて、学習内容は難しくなります。

そして、大人の監視や支援も減ります。

つまり、自分の責任で集中したり計画を立てたりして勉強しなければなりません。

【小学校低中学年】内容がやさしい・大人の支援が多い・脳のバランスはとれている
【高学年以降】
内容が難しい・大人の支援が減る・脳がアンバランスになる

小学校低中学年の勉強は内容がやさしいですし、親も先生も親切に教えてくれます。

脳(前頭前野と大脳辺縁系の発達)もバランスがとれている時期です。

ですから「勉強に向いている時期」です。

しかし、高学年になると内容が難しくなる上に、自主的に勉強することが求められるので大変です。

しかも、この時に思春期が重なると「脳のアンバランス」が起きます。

大脳辺縁系が成熟し出すと、YouTubeやSNSやメディアなどの情報を集めることに注意が向きます。

家庭よりも友達との時間が大切になります。

目の前の楽しさを優先しがちになります。

異性のことを考える時間も増えます。

思春期が早く始まる子は他の子よりも早くこういう状態を経験してしまうわけです。

なかには勉強に対して離脱してしまう子も出るでしょう。

思春期が早いと、勉強面で不利に働くことを知っておくべきです。

②問題行動を起こすリスク

思春期が早いと、同学年の遅い子たちに満足できない場合が出て来ます。

大人志向になるので、年長者に憧れ、年上の仲間と付き合うケースがあります。

服装などのファッションを気にするようになり、同じ志向の仲間を大切にします。

早ければ早いほど自制心が発達していませんから、環境の影響を受けて、非行などの問題行動を起こすリスクが高まります。(友田明美「脳科学・神経科学と少年非行」

③精神不安に陥るリスク

まわりに比べて早く「大人」になったことで、ストレスを抱える子もいます。

女の子では不登校や摂食障害なども気をつけなければなりません。

以上が「3つのリスク」ですが、その他にも「思春期早発症」といって、早く身長が伸びても最終的に早期にストップしてしまい低身長となるリスクもあります。

このように思春期が早まることにはよくない面が多いのです。

4.なぜ早まっているのか?

思春期は早まっていることには社会的な背景があります。

粗く言うと「生活環境の悪化」です。

生活環境が悪いほど思春期は早まる。

思春期を早めると言われる環境には次のようなものがあります。

中には本当かどうか確信が持てないものもありますので、私が重要だと思うものに★印を付けました。

(1)母体環境
(2)環境物質
(3)光と睡眠
(4)DVや叱責

(5)経済格差

低出生体重児の思春期は早いと言われています。

低出生体重児の原因は、妊娠の高齢化、母体の低栄養、母体の喫煙歴などです。

母体環境は気をつけるに越したことはないので★印を付けました。

環境物質というのは化学物質やプラスチックなど、いわゆる環境ホルモンです。

食品添加物、住宅建材、殺虫剤、柔軟剤、シャンプーや染料など様々なものがあります。

信憑性はわかりませんが、思春期を早める環境の一つと言われています。

光と睡眠の「光」とはゲームやスマホ、「睡眠」とは生活リズムです。

前者は、ゲームやスマホなどの光の影響がホルモンの乱れを起こすという主張です。

後者は、睡眠時間や睡眠の質がホルモンの乱れを起こすという主張です。

DVや叱責が与える影響は私自身の教職経験とも重なっています。

DVや叱責を受けて育った子(いわゆるマルトリートメント)では体が早く成熟します。

原因は愛情不足だと思われます。

女の子の場合は、他者からの愛情を手にするために体が早く成熟するのです。

心と体がアンバランスですから望まない妊娠をするケースも少なくありません。

これは親だけが悪いのではなく、社会的な問題だと思っています。

経済格差についてはローレンス・スタインバーグの本からそのまま抜粋します。

残念ながら、貧困家庭の親には、裕福な親のように、子どもの自己制御のために費やす時間がない。
仕事の予定が不規則だからとか、片親の場合は一人で子育ての大部分を担わなければならないからとか、理由はいくつもあげられる。こうした理由、またこれから見て行くたくさんの理由から、下層階級出身の親の子育てでは、強い自己制御が育つ可能性は低くなる。彼らは厳しく叱りつけ、体罰を与える傾向がある。気まぐれで一貫性がなく、極端に支配するかと思えば、極端に甘くなる。たいていは、あまり温かくも優しくもない。もちろん、下層階級の親がすべてそうだというわけではないし、中流階級の親が皆、節制と優しさと思いやりの見本というのも真実ではない。だが貧しい親と裕福な親との、この一般的な違いは、何百もの研究の中で示されているのである。。(『15歳はなぜ言うこと聞かないのか?』)

日本の社会も他人事ではないと思います。

次の一節も見逃せません。

彼らは自己流に子育てをする場合が多く、そうすると子どもに甘くなる。疲れ切った時に一息つけるような経済的余裕もないので、子どもにわがままを言われても、断固とした態度を取るのが難しい。そして、おそらく親自身も似たような環境で育てられているため、よい子育てに必要な強い自己制御を持っていないことが多いのだ。(前掲著)

「負の連鎖」について分かりやすく書かれた一節だと思います。

「思春期が早い」という問題はこうした「負の連鎖」の中に位置づいているわけです。

5.まとめ

思春期が早いのはよくないことが多いということです。

では、遅いのはどうなのか?

遅いのは問題ありません。

むしろ、遅い方が得です。

子ども自身の負担が減ります。

思春期の始まりは遅い方が得。

思春期の始まりが遅いということは、児童期が長いということです。

児童期が長いということは、その分「子どもらしさ」をたっぷりと発揮できるわけです。

乳児期:「赤ちゃんらしさ」を大切に!
幼児期:「幼児らしさ」を使い切らせる!
児童期:「子どもらしさ」を発揮させる!

体の発育(第二次性徴)は、いずれ必ずやって来ます。

大人が気をつけるべきなのは脳(心)の発達です。

脳(心)の発達は階段状です。

下が土台になります。

順序よく発達すれば、だんだん手がかからなくなります。

ウェルビーイング(持続可能な幸せ)を手に入れることができます。

まとめます。

乳児期:「赤ちゃんらしさ」を大切に!
幼児期:「幼児らしさ」を使い切らせる!
児童期:「子どもらしさ」を発揮させる!

思春期:「思春期らしさ」を理解して見守る!

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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5件のフィードバック

  1. 畠山文 より:

    まさに大器晩成という感じでしょうか?たしか、北海道の牡蠣やホタテは水温が低いゆえ、大きくなるに時間がかかるが、身が詰まって美味しくなるとか、そんな話を思い出しました。

    色々と気を付けていても、早く思春期が来てしまった場合、どんなふうに支えあげたらいいのか?先生がおっしゃられていたように、心の港を意識することは大事だと思いますが、中学年くらいだと、社会的にはまだまだ子供という認識だと思うので。

    そう言えば、私はプレ思春期の頃、友達のお母さんが、私に、大人として接する、友達になりましょうと言われ、何だか嬉しかったことを思い出しました。

    • 水野 正司 より:

      その友達のお母さんはなかなか素敵ですね!
      子育て上手な方だったのですね。

  2. つむちゃんのお母さん より:

    私の妹は、私とほぼ同じ時期に体が大人になりました。
    私の母は、相当気をつかったと言っていました。体は大人だけど、心はまだ子どもだから、そのせいで周りと自分は違うと思わないように甘やかしたと言っていました。
    このブログを見て、理にかなっていたんだなと思いました。

  1. 2022年11月13日

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