講座293 「子どもらしさ」って何?
今回は「子どもらしさ」です。
「子ども」とは、児童(小学生)と考えて下さい。
前回までの復習もしながら解説します。
2.復習・「幼児らしさ」
3.児童期「子どもらしさ」とは何か?
4.「子どもらしさ=自信」と考える
5.「自信」には種類がある
6.低学年の「自信」
7.中~高学年の「自信」
8.まとめ
1.復習・「赤ちゃんらしさ」
これまでに「○○らしさ」をひとことで解説してきました。
「赤ちゃんらしさ」は、《泣く・確かめる・追う》です。
「幼児らしさ」は、《めいっぱい遊ぶ》です。
これらは単なる思い付きではありません。
その陰にある発達の仕方をまとめた結果です。
《泣く・待つ・追う》だと、発信能力・待機能力・接近能力という「能力の発揮」が陰にあります。
人は自分の能力を発揮した時に、成功すれば喜び、失敗すれば落ち込みます。
赤ちゃんも同じです。
さらに、乳児期は「愛着形成」という人生の土台を築き上げる超重要な時期です。
成功すれば母親との間に基本的信頼感が生まれ、失敗すれば不信感が生まれます。
愛着形成は、「成功 >失敗」「信頼 >不信」の結果として築かれます。
多少の失敗や不信を乗り越えた方が「強く」形成されると考えていいでしょう。
あとは赤ちゃんの性格やその時の事情など人それぞれの都合です。
これが乳児期(0歳~1歳半)における「赤ちゃんらしさ」への対応です。
2.復習・「幼児らしさ」
《めいっぱい遊ぶ》の周辺にはどんなキーワードがあったでしょう?
次の一枚にキーワードがちりばめられています。
(1)生活のすべてが遊び
(2)安心の中で遊ぶ
(3)NGは退屈と不安
(4)理想は熱中体験(フロー体験)
(5)イヤイヤ期は感情を言葉にして葛藤を助ける(自律心の育成)
(6)なぜなぜ期は疑問に対応して認識を助ける(好奇心の育成)
(1)~(6)が幼児らしさの全体像です。
「イヤイヤ」も「なぜなぜ」も幼児にとっては広い意味での「遊び」です。
「イヤイヤ」も「なぜなぜ」もめいっぱいさせて構いません。
でも現実には「イヤイヤ」と「なぜなぜ」は対応が面倒ですよね。
①自分の思い通りにしたがる
②自分でやりたがる
③自分の感情をうまく表現できない
④自分のタイミングで何でも知りたがる
ですから、幼児と大人はここでぶつかります。
ぶつかっていいのです。
ぶつかることで幼児は、
「今はしちゃいけないんだ」「迷惑がかかるんだ」という罪悪感
「これは恥ずかしいことなんだ」という恥ずかしさ
「どうしてなんだろう?」「知りたいんだけどなあ」という疑問
を感じます。
そして、こうした葛藤を通して、自主性や自律性を身につけて育ちます。
ですから結果的に、
【遊び・自主性】 >【罪悪感・恥ずかしさ・疑問】
となれば幼児期はクリアして次の段階に進めます。
その割合は「8:2」なのか「6:4」なのかは人それぞれです。
要するに「2:8」や「4:6」だと駄目だということです。
「2:8」や「4:6」だとクリアしたことになりませんから。
また、「10:0」というように完璧過ぎても駄目です。
これだと罪悪感や恥ずかしさを知らないまま育ちますからコントロール不能になります。
これが幼児期(1歳半~6歳)における「幼児らしさ」への対応です。
3.児童期「子どもらしさ」とは何か?
【A】子どもの発達には、その時期に経験すべき大切な課題がある。
【B】結果的にその課題を乗り越えさせればよいのであって完璧を求めてはいけない。
乳児期の子育ても、幼児期の子育ても、この考え方でOKです。
児童期も同じです。
それが発達(成長)の法則です。
このことが頭に入れば、子育てはシンプルになります。
児童期には次のことが「子どもらしさ」の課題になります。
自信 >劣等感
「8:2」になるか「6:4」になるかは人それぞれです。
でも、「2:8」や「4:6」にはならないようにします。
また、「10:0」というように完璧過ぎても駄目です。
児童期を「自信 >劣等感」で終えると、次の思春期の課題に向き合えるわけです。
では《自信》について解説します。
4.「子どもらしさ=自信」と考える
子どもは自信に満ちています。
自信に満ちているのが子どもらしさです。
「生き生きしている」とか、
「輝いている」とか、
「元気だ」というのはそういうことです。
しかし、児童期にはその逆の「劣等感」が付き纏います。
学校生活が始まるからです。
勉強もあります。
運動もあります。
友達付き合いもあります。
その中で「自信 >劣等感」という課題を乗り越えて行くのが児童期です。
別な言葉で言えば、
子どもらしさを失わせない。
というのが児童期の課題です。
5.「自信」には種類がある
自信には種類があります。
①万能感(何でもできると思う自信):10歳未満
②有能感(Bは苦手だけどAはできるという自信):10歳以降
③効力感(努力すればできると思う自信):年齢問わず
④自尊心(駄目な所も含めて自分を尊重できる自信):青年期に確立
幼児~低学年の自信は万能感です。
自分は何でもできると思っています。
できないと劣等感を抱きやすくなります。
ですから、一・二年生の勉強は「みんな100点」「みんなマル」が基本です。
これは10歳未満の自信が万能感だからです。
10歳を超えると自分を客観視できるようになります。
「勉強は駄目だけど運動は得意だ」というような自信です。
領域ごとに自分の得意を認めることができるようになります。
これを有能感(自己有能感)と言います。
効力感というのは「やればできる」という自分に対する信頼の自信です。
自分は「努力できる」「挑戦できる」という自信が効力感(効力期待)です。
そして、失敗や挫折を経験しながらも、青年期までには「駄目な所も含めて自分」という境地に達します。
それが自尊心です。
逆に考えると(青年期までに自尊心を持つためには)、児童期に何が必要でしょう。
①10歳未満での万能感を否定しない(この時期の自信を失わせない)
②10歳以降では有能感を持たせる(得意を自覚させる)
③子ども時代に効力感を実感させる(努力や挑戦の成功体験)
6.低学年の「自信」
小学校低学年で「自信 >劣等感」を実現するためには配慮が必要になります。
学校は集団生活ですから他人と比較して劣等感を抱きやすい環境にあります。
しかも、低学年の自信は「万能感」ですから厄介です。
いくらなぐさめても効果がない場合があります。
なぐさめるよりも実際にできるようにさせなければ納得できないわけです。
まだ「幼児らしさ」も残っていますから、
助けてもらうのではなく、自分でできたという実感が必要になります。
そこで、「助けてもらった」と思わせない(「自分でやった」と思わせる)対応が重要です。
学校の先生が持っている専門的な技能です。
2つあります。
【A】ちょうどいい課題の準備
A〔今はまだ一人でできない〕
B〔もう一人でもできる〕
AとBの間にあるのが〔ちょっとした指導があればできる〕という課題です。
ですから学校の先生方は〔ちょうどいい負荷の課題〕を用意します。
それが授業の準備の9割です。
これを「最近接領域理論」と言います。(ヴィゴツキー L.S. Vygotsky)
【B】自分でやれたことをほめる
あとは「すごいねえ!自分でやれたね!」などとほめることです。
実は助けているんだけど「あとは自分でやってごらん」と「自分で」を強調する方法もあります。
そうすれば「自分でやれた」ということになります。
「自分でやれた」という経験は成功体験です。
「ちょうどいい課題」を準備し、「自分でやれた」ということをほめることは、効力感(努力や挑戦に対する自信)の育成にもなっています。(バンデューラ;Albert Bandura)
7.中~高学年の「自信」
10歳以降になると「自信」に対してシビアになります。
醒めた目で自分を見ます。
客観的に評価できるようになって来ていますから、大人が安易に「スゴイじゃん!」「天才だね!」と言ったても納得しない場合があります。
逆に「いい加減な大人だ」と軽蔑する子さえ出て来ます。
事実
が重要になります。
ただし、低学年のような「万能感」は必要なくなるので次のことで自信は保たれます。
【A】得意分野を見つけること
ハーター(Harter,1982)は子どもが自信を持つには4つの分野があるしています。
(1)認知的コンピテンス:勉強・成績
(2)社会的コンピテンス:友達・人気
(3)身体的コンピテンス:運動・スポーツ
(4)全体的自己価値:自分に対する総合的な満足度
10歳を超えたら、この中のどれかに得意を見つけると自信がキープされるでしょう。
ただし、これは意図的でなければなりません。
日本の子どもたちの多くは5年生を境に勉強に対する面白さや楽しさが急降下します。
学校は勉強するところですから、それが自信の低下につながります。
つまり、放っておくと(1)の認知的コンピテンス(勉強・成績)だけが評価基準になってしまい、子どもたちは自信を失うという構図が出来上がっているのです。
こうした傾向は私たちの実感と一致しているはずです。
言ってしまえば、小学校5年生からの勉強は、難しく、つまらなくなっているわけです。
ですから、放っておくと「自信 <劣等感」となり、子どもらしさが失われる傾向にあります。
そうならないためにも、
大人が意図的に得意分野を見つけ、評価してあげることが大切になります。
これが10歳以降の自信(有能感)です。
もう一つ大切な視点があります。
【B】困難を乗り越える経験
10歳以降は勉強が難しくなるだけでなく、運動も高度になりますし、友人関係でのトラブルも複雑になってきます。
低学年の時とは違って集団生活における様々な困難とぶつかります。
その困難を乗り越える経験が自信(効力感)となります。
たとえば、苦手分野の克服です。
漢字が苦手、鉄棒が苦手、水泳が苦手、人前で発表するのが苦手…。
得意分野を有能感として認める一方で、苦手分野の克服もこの時期の課題です。
苦手であるからこそ、その克服には努力や挑戦を伴います。
まだ小学生です。ここでも大人(親や教師)の助けが必要になります。
大人が、少しずつ、上手に、レジリエンス(困難を乗り越える力)を身につけさせる。
レジリエンスは幼児期における「遊び」の中から培われています。
幼児は遊びの中で努力や挑戦を経験します。
しかし、小学校に上がると「遊び」が「生活」へと変化します。
大袈裟に言うと「人生」の始まりです。
人生での困難が、急に、大きく、降りかかって来る前に、
少しずつ、上手に、乗り越えさせるのが大人の役目です。
たとえば、向山洋一氏の次のアドバイスがあります。
「一年生になったら10のうち1つくらいは自分で決めさせる」
そして、「失敗してもいいから」と言って失敗の責任を親が受けとめる。
生活の中で生じる「ちょうどいい課題」に向き合わせ、失敗も受けとめて、励ます。
学校生活が始まれば課題は生じて来るものです。
その課題とどう向き合わせるかが児童期に自信を育てる視点です。
8.まとめ
児童期に「子どもらしさ」を育むためには「自信 >劣等感」が課題です。
このステージをクリアすることで、思春期以降に自尊心を持つことが可能になります。
①10歳未満での万能感を否定しない(この時期の自信を失わせない)
②10歳以降では有能感を持たせる(得意を自覚させる)
③子ども時代に効力感を実感させる(努力や挑戦の成功体験)
高学年の子どもたちは「どうせやってもできないし」と諦めがちです。
教えて励まし、乗り越えられるくらいのハードルを授業の中で作り出す難しさを、高学年を担任していたときは毎日感じていました。
ほんとそうですよね。
学校の先生の大変さに頭が下がります。
学校の勉強で自信をつけるためには親はほぼ無力です。
先生に頼るしかありません。
逆を言わせてもらえるなら、すべての先生方がそこに力を注げる環境を早く作って欲しいと願っています。