講座371 高校生の自殺が増える理由

2022年の小中高校生の自殺者数は514人で、はじめて500人台を超えました。

特に多いのが高校生で352人(約7割)を占めています。

そして、高校生の352人のうち男子が207人で女子より多くなっています。

今回はこのことについて解説します。

 目 次
1.「高校」って何?
2.高校教育の問題点
3.「高校中退調査報告書」
4.まとめ

1.「高校」って何?

「高校」の正式名称をご存知ですか?

「高等学校」です。

略して「高校」って呼んでいるわけです。

では、高等学校の「高等」は何か知ってますか?

それは「高度な教育」という意味です。

普通科の場合ですと「高度な普通教育」をする学校という意味です。

「高度な普通教育」というのは次のような教科です。

国語総合、国語表現、現代文A、古典A、世界史A、日本史A、地理A、現代社会、倫理、政治・経済、数学I、数学II、数学III、物理、化学、生物、地学、体育、保健、音楽I、美術I、工芸I、書道I、コミュニケーション英語I、英語表現I、英語会話、家庭基礎、家庭総合、社会と情報、情報の科学…。

ですから、簡単に言うと高校受験というのは、このような勉強を自ら進んで学びに行くということです。

でも、受験する中学校3年生には、そういう意識がなんじゃないでしょうか?

「みんなが行くから高校行く」

「高校くらいは卒業しなければ」

そんな感じではありませんか?

しかも、倍率が1倍を切っている学校が多いですから簡単には入れてしまう。

しかし、いざ授業が始まると、「高度な普通教育」が待っていて、定期テストもあって、ついていくのがしんどくなる。

授業が難しいので寝てしまう(生活も夜型になる)。

義務教育ではありませんので「中退」という選択も出て来る。

粗く言うと、それが「高校」の現実ではないでしょうか?

2.高校教育の問題点

これは私が講座で使っているスライドです。

高校には「通い方」によって、全日制・定時制・通信制があります。

「学習内容」によっては、普通科・専門学科・総合学科があります。

普通科・専門学科・総合学科には「共通学科」がって、程度の違いはありますが、どの学科へ行っても「高度な普通教育」がおこなわれます。

その中でも一番時間数の多いのが普通科です。

なぜなら、さらに高度な「大学教育」に対応しなければならないからです。

このスライドを読むときの一番のポイントはこれです。

視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱の子は支援学校に行くことができる。

逆を考えてみてください。

それ以外の子は高等学校に行くしかない。

「それ以外の子」とはどんな子でしょう。

それを理解するグラフがこれです。

IQ(知能指数)だけで考えた場合、自治体にる違いはありますが、「IQ70未満」が知的障害の認定基準です。

つまり、IQだけで考えた場合、「それ以外の子」とは、IQ70以上の子です。

この中には境界知能の子と発達障害の子がいます。

義務教育時代にこの子たちは支援を受けていたはずです。

次のような支援です。

①特別支援学級・通級指導という支援
②担任の配慮による支援

高校では、この支援が途切れがちになります。

①特別支援学級はない
②通級指導の実施率は4割程度
③体制整備は依然として課題(支援員の配置、個別計画、教員の研修に課題)
資料

つまり、高校には現状2つの問題点があるということです。

1.学習内容が難しい
2.支援体制が未整備

その結果、どんなことが起こっているかといいますと、

高校入学直後から夏休みまでの間に中退する生徒が多い

これは国立教育政策研究所の「高校中退調査報告書」の中で統計的に明らかになっています。

3.「高校中退調査報告書」

この報告書の中身は非常に興味深いです。

これは高校1年のときに4回実施されたアンケート結果です。

当たり前の結果ですが、高1で中退した生徒は「まじめに授業を受けている」「授業がよくわかる」が低くなっています。有意差もありました。

簡単に言うと、「授業について行けなかった」ということです。

このことは次の分析結果からも明らかです。

「高1中退者」と「高3中退者」の回答の平均値に統計的有意差が認められた項目も,「授業がよくわかる」であった。(「高校中退調査報告書」)

同じ中退者でも「高1」でやめた生徒と「高3」でやめた生徒の比較です。

言ってみれば「高3まで頑張れた」要因も「授業がよくわかる」だったのです。

私が注目した点をあと2つ紹介します。

「あなたは毎日の生活で楽しかったことやイヤだったできごとを,誰によく話しますか」の質問に対して,「家族」と回答(選択)している生徒ほど,高2段階および高3段階で 中退しない可能性が高いと考えられる。(「高校中退調査報告書」)

これです。

「話し相手が家族」だと中退しない可能性が高いという点です。

もう一つあります。

参考までに,以下の「話し相手(ネット等で知り合った人)」の項目は,「高3中退者」は高1段階及び高2段階の全8回の調査中6回において,「 高3登校者」との間に統計的有意差が認められているが,高3中退者の平均値の方が「高3登校者」よりも高いという特徴がみられた。このように,「中退者」 の平均値の方が高く,かつ, 複数回において統計的有意差が認められた項目は,全11回の調査を通して,他にはみられなかった。(「高校中退調査報告書」)

「話し相手がネットで知り合った人」だと中退する可能性が高まっています。

このように家族の在り方も関係しているわけです。

4.まとめ

いずれにしても私が感じているのは次のことです。

高校生は頑張っている。

家族の励ましを受けながらも頑張っている生徒が多いはずです。

そして、その中には「過剰適応」している生徒もいるはずです。

過剰適応とは、環境に合うように自分の行動や考え方を変える程度が度を超えている状態を指します。

その結果、うつ病になったり、発達障害から二次障害を引き起こしたりする要因になっています。

グラフからわかる通り、自閉・情緒学級の在籍児童生徒数は増えています。

10年間で約2倍増です。

そして、その子たちの多くは支援学校に行けません。

高等学校を選択するしかないのです(精神障害者保健福祉手帳を持っていても)。

というか、みんなと一緒に高校に行きたがっている子が多いのです(行こうと思えば行けますし)。

しかし、その選択の先に考えられる状況も考えておかなければなりません(高校の中でも難しい勉強の少ない総合学科を選ぶなど)。

また、小学校に入学する時から始まる在籍の選択も重要です。

知的学級と自閉情緒学級の違いを知っておかなければなりません。

また、発達障害を持っていても幼少期から支援を受けている子は社会適応ができるという研究結果も報告されています。(横浜市総合リハビリテーションセンター

このように早期からの選択がとても重要になっています。

今回は「小中高校生の自殺者数がはじめて500人台を超えた」というニュースを取り上げて、その背景にある問題を解説してみました。

もしかするとこの自殺者の中には高校中退者は入っていないかも知れません。

高校中退者の中には、その後、アルバイトをしてみたものの続かずにひきこもる子もいます。

そこからうつ病になる子もいます。

札幌医科大学の精神科医・河西千秋Dr.は「自殺者の98%がすでにうつ症状になっている」と指摘しています。

山口大学の安達圭一郎教授は「発達障害者の約25%に精神疾患がみられる」と報告しています。

くり返しになりますが、「早期の支援と慎重な選択」が、現状では、とても大切になっています。

この記事に投げ銭!

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. タミー より:

    保護者に話せる高校生で中退する人は少ないと知り、我が子を思い出しました。
    まだ未就学児ですが、弱音も話せるように、親として努めていきます。

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