講座416 赤ちゃんが最初に覚える言葉
2.言葉か感覚か
3.赤ちゃんが最初に覚える言葉
4.オススメのオノマトペ
5.AIはオノマトペを理解できるか
1.オノマトペ
暑い日が続くので孫とよく水遊びをします。
そこで問題です。
この写真の私は、この時、何と言っていたでしょうか?
正解は「ジャーーー」です。
恐らく多くの人がこういう場面では「ジャー―」とかって言うのではないでしょうか。
無言でやる人っているかな?
自然に言っちゃいますよね。
この「ジャー――」のことをオノマトペと言います。
【オノマトペ】とは、さまざまな状態や動きなどを音で表現した言葉のこと。主に自然界にある音や声など、現実に聞こえる音を人の言語で表現した言葉(擬音語)である。犬の鳴き声の「わんわん」など。その他には、「ワクワク」のように、実際には音は聞こえないが感覚的な表現としてのオノマトペ(擬態語)がある。日本語は特にオノマトペが多く用いられる言語といわれている。(Weblio辞書)
私たちは幼児に接する時に何気なくオノマトペを使いますが、実はそこに重要な意味があったのです。
この本で知りました。
前回に続いて、今回もこの本から取り上げていきます。
2.言葉か感覚か
ホースから水を出して遊ぶ体験は「身体体験」です。
この水遊びという身体体験にマッチした言葉が「ジャー」です。
「ジャー」は《水を出している感じ》がしますよね。
「感じ(感覚)」「身体感覚」「イメージ」は右脳が働きます。
「言葉」は左脳です。
では「ジャー」というオノマトペはどっちの脳が働くと思いますか?
「ジャー」は言葉ですよね。
でも《水を出している感じ》の音ですよね。
今井(2003)は仮説を立てました。
オノマトペは、言語でありながら、音真似のように音や動きを写し取ることばである。
ということは、オノマトペは言語音と環境音の処理が並行して行われるのではないか。(39ページ)
そこで、fMRIを使って測定してみた結果、右脳と左脳の両方が働いていることを突き止めました。
つまり、「ジャー」は言葉でもあり、感覚でもあるわけです。
そして、これはオノマトペ全般に言えることなのです。
3.赤ちゃんが最初に覚える言葉
赤ちゃんが最初に覚える言葉には「ある法則」があるのです。
この法則を使えば、最初に言ってもらいたい言葉を言わせることができるはずです。
「ママ」とか「パパ」って最初に言ってもらいたいですよね。
どっちが先か!なんて気になりますよね。
これが実は、講座415で解説した「記号接地問題」に関係しています。
意味を知っていることばを一つも持たない子どもは、まったく意味のない記号を使って新たに記号を獲得することはできない。言語と感覚のつながりをまったく知らない子どもが、辞書を用いて言語を学習することは不可能である。(125ページ)
新しい言葉を教える時には、知ってる言葉や簡単な言葉に置き換えて説明しますよね。
その時に、一つも言葉を知らない人に何か言葉を教える時にどうするかという問題です。
つまり、赤ちゃんはどうやって最初の言葉を覚えるのかということです。
そこで、身体接地問題です。
赤ちゃんが最初に覚える言葉は、身体経験に根差した言葉であるはずだ、というわけです。
たとえば、うちの孫は「ジイジ」という言葉を最初に覚えました。
これは、いつもジイジが楽しく遊んでくれるという身体経験とセットになっていたからでしょう。
セットとうのは、遊んでいる時に「ジイジ」という音を聞いているということです。
それが続くと、ある時、赤ちゃんは、気づくのです。
この遊んでくれる人のことを「ジイジ」と言うんだな!
法則① 身体体験とセットで、気づき、覚える。
でも、これだけではダメなんです。
法則② その言葉はオノマトペが良い。
実は、「ジイジ」とか「バアバ」ってオノマトペなんです。
「ジイ」という部分に「お爺さん」という感じが含まれていて、
「バア」という部分に「お婆さん」という感じが音として存在しています。
「お父さん」のことを昔は「とと」と言いました。
「お母さん」は「かか」です。
これはもう完全なオノマトペですね。
これは「発音のアイコン性」といって、音の中に意味が含まれていることをさします。
「ジ」と言ったらもう「爺さん」の意味で、
「か」と言ったら「お母さん」の意味です。
「まる」という音は「まあるい感じ」がしますよね。
「ギザ」って言っただけで「ギザギザした感じ」がします。
このようにオノマトペに使われる言葉にはアイコン性があるわけです。
法則③ 赤ちゃんにとって言いやすいかどうか。
赤ちゃんが最初に「お母さん」と言ったら怖いですよね。
「ママ」とか「マー」とかなら言いやすいでしょう。
「かあ」とか「かか」とか「かあちゃん」でもいいでしょう。
「ああちゃん」と言ってた子もいました。
うちの娘は「おかちん」「おとちん」と言ってました。
そのうち近所の人たちまで私たちのことをそう呼ぶようにもなってました。
子どもが覚える言葉には「印象」「イメージ」が必要という話です。
そして、オノマトペにはそれがあるのです。
お水が「ジャー」というのもオノマトペです。
幼児が相手だと、大人は自然にオノマトペを使ってしまうのかも知れませんね。
4.オススメのオノマトペ
このあと孫は、水でぬれたタイルを手のひらでと叩き始めました。
私はまた言います。
「ペチペチペチ!」
これはオノマトペですよね。
身体体験とセットですから、何度かやっていると右脳と左脳で「ペチペチ」がつながります。
「ペチペチ」が言葉として記憶されるわけです。
そして、いつの日かわかりませんが、「ペチペチ叩く」という表現に出会った時に「叩く」が覚えやすくなるはずです。
秋田(2023)は言います。
オノマトペは、言語が身体から発しながら身体を離れた抽象的な記号の体系へと進化・成長するつなぎの役割を果たすのではないか。(91ページ)
語彙の基礎はオノマトペだったのですね。
そう言えば、絵本もオノマトペが多いですね。
ここで、私がオススメするオノマトペを3つ紹介します。
①ないない
空っぽになった時や見えないように隠してしまった時に使っています。
「なくなった」という意味ですが、応用範囲が広いです。
好きな食べ物がもうなくなってしまった時などに「ないない」と言ってあげれば、「なくなった=もう食べられない」ということで、自分から我慢する力を育てる方向に働きます。
②大事大事
オノマトペと言えるのかどうか微妙ですが、「大事」っていう音はやっぱり「大事感」を持ってますよね。
「これはお母さんの大事大事」とかって教えるときに使います。
「さわっちゃダメ」と言うと否定語ですが、「大事大事」と言うと自分から判断して我慢するという力を育てる方向に働きます。
③バイバイ
お別れする時の言葉です。
私が帰る時に、孫が寂しがって泣くので、この言葉を使います。
そうするといつのまにか自分で我慢します。
これも自分から判断して我慢するという力を育てる方向に働きます。
この他には「アッチッチ」とか「痛い痛い」とか「涼し涼し」とか、畳語なのかオノマトペなのか判断がつかないものもありますが、イメージしやすい言葉を使うようにしています。
5.AIはオノマトペを理解できるか
最後に、記号接地問題に話を戻して終わります。
人間の赤ちゃんはオノマトペ(身体感覚+言葉)を使って語彙を増やしていきます。
でも、AIは言葉から言葉へと語彙を増やすことしかできません。
「日本の首都」と入力すれば大規模な辞書の中から確率計算により「東京」という言葉を準備します。
AIは永遠にこの辞書の中からしか言葉を見つけるだけです。
自分で文を生成しているように見えますが、言葉は生成できません。
言葉を生成するためには身体経験が必要だからです。
ですから、本当に言葉の意味がわかるAIを作るためには、身体経験の出来るAIを発明するしかないと言われています。
その点、人間はすごいですね。
水をペチペチした時に「ペチペチ」と言ってもらえるだけで語彙を増やしていくわけです。
娘の最初の発語はおっぱでした。おっぱいのことです。身体感覚が必要とすれば納得です。食事は身体感覚が必ず伴うものですもんね。最初の発語として、まんまとぱいはよく聞きます。
因みにお母さんはかっか、お父さんはとっとでした。発音が難しいのかと思っていたのですが、オノマトペだったんですね。
「かっか」は太陽!
「とっと」は尊い!
まさに日本の親子ですね!