講座599 2030年 どうなる?「日本の教育」(8)最終回
教科書に書いてなくても教育しなければならないこと
2.子供たちを取り巻く環境
3.〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は学習指導要領の中に書かれているのか?
4.『生徒指導提要』ではどうか?
5.「素案」における「学級経営」
6.レストラティブ・プラクティス(修復的実践)
7.〝やりたい〟という意志こそが、困難をのりこえさせる

1.「次期学習指導要領」私の関心事
8月31日に「素案」が公表されて、9月2日にこのシリーズを書き始めました。
「素案」を読んだのも9月2日です。
1054ページ全部に目を通して、自分に関係のある部分だけ詳しく読みました。
詳しく読んだのは次の6か所です。

この6点は、〈個人的な関心事〉です。
大事だと思う内容ほど文字を大きくしてあります。
〈教師〉ではなく、〈一社会人・一国民〉として関心のある項目ほど詳しく読みました。
ブログで記事にし、YouTubeで解説しています。
今回は、最後の「学級経営」について解説します。

2.子供たちを取り巻く環境
感染症や熱中症や豪雨などによって、〈子供が外で遊ぶ機会〉が減っています。
ゲームやSNSへの依存への高まりは、〈現実世界で遊ぶ機会〉を奪っています。
また、学習塾やスポーツクラブなどの習い事は、それ以外の集団との〈分断〉を生みます。
また、いじめ防止やコンプライアンスの強化などは、〈トラブル〉が生じる機会を減らす方向に作用しています。
また、学校によっては、〈休み時間〉を減らしたり、〈宿題〉を増やしたりするなど、〈遊び〉の機会を奪うような教育課程を実施しているところもあります。
こうした状況によって、現在の子供たちには、〈多様な同年齢〉での集団生活の場が少なくなって来ています。
高校や大学を卒業して社会に出れば、そこに待っているのは、〈多様〉かつ〈異年齢〉での集団生活です。
ですから、学校での集団生活は〈社会に出る前の練習の場〉と言えます。
いきなり社会に出て人間関係による困難にぶつかるよりも、学校生活の中でそうした困難を克服する経験を積んでおいた方がいいと考えるべきです。
それが教育です。
その教育の場が「学校」です。
学校での生活、特に教室では、子供同士の諍い(いさかい)が起きます。
小学校低学年では毎日のように起こります。
その「諍い=小さなトラブル」を上手に乗り越えさせることが、〈上の学年に上がって少し大きなトラブルを乗り越える力〉になります。
小中学校の9年間で9回アップデートできます。
トラブルは、年齢を重ねるごとに、〈友達同士〉から〈社会全体〉へと変化します。
現在はSNSなどの発展により、子供と社会との接点は身近になっています。
14歳で刑事処分の対象になる前に様々なことを学ばねばなりません。
失敗や叱られる経験は大切です。
それが〈学校は社会に出る前の練習の場〉という意味です。
そして、この〈小さなトラブル〉を上手に乗り越えさせるのは教師の役目です。
中心となるのは学級担任です。
その指導力は「学級経営」という分野において大きな割合を占めます。
では、〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は学習指導要領の中に書かれているでしょうか?
次期学習指導要領の「素案」ではどうでしょうか?
このことについて考えてみたいと思います。

3.〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は学習指導要領の中に書かれているのか?
学校教育は〈三つの領域〉からなります。
「教科」「総合的な学習の時間」「特別活動」です。
「教科」は〝勉強〟です。
それに対して「特別活動」は、集団活動を通して〝生きる力〟を育てる場です(「総合的な学習の時間」は中間的)。
もし、学習指導要領の中に〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉が書かれているとしたら、それは「特別活動」の中にあるはずです。
現行の学習指導要領における「特別活動」の目標を示しておきましょう。
【特別活動の目標】
望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り,集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度を育てるとともに,自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養う。
分解しますと、(1)望ましい集団活動を通して、(2)よりよい人間関係と、(3)自己を活かす能力を養うことが目標です。
注意しなければならないのは、〈集団生活〉ではなく「集団活動」であるという点です。
「生活」は、日々暮らし全体を指すのに対し、「活動」は目的を持って何かをするという行動を指します。
生活=自然、平常、非管理的、非計画的
活動=目的的・計画的・教育的・意図的
したがって、「望ましい集団活動を通して」の「集団活動」というのは計画的なものです。
それに対して〈トラブル〉は偶発的なものです。
〈小さなトラブル〉というのは、普段の生活の中で起きる〈諍い事〉を意味していますから非計画的です。
ケンカは計画できませんよね。
つまり、「望ましい集団活動を通して」というのは、〈計画的な活動を通して〉という意味であって、〈トラブル〉はその対象に含まれていないと読むのが通常の解釈になります。
ですから、学習指導要領の特別活動は、「学級活動」「児童会活動(生徒会活動)」「クラブ活動(小学校のみ)」「学校行事」というように、すべてが「活動」で構成されています。
偶発的な〈トラブル〉は対象外なのです。
たとえば、特別活動の中にある「学級活動」の目標は、次のように書かれています。
〔学級活動〕学級や学校での生活をよりよくするための課題を見いだし,解決するために話し合い,合意形成し,役割を分担して協力して実践したり,学級での話合いを生かして自己の課題の解決及び将来の生き方を描くために意思決定して実践したりすることに,自主的,実践的に取り組むことを通して,第1の目標に掲げる資質・能力を育成することを目指す。
「生活」という言葉がここで登場しますが、それは普段の生活を「よりよくするため」という目的的な活動であって、その活動の仕方が「課題を見いだし」「話し合い」をするというように規定されています。
したがって、担任となった先生は、学習指導要領に基づいて「課題」となるテーマを決めて「学級活動」の年間指導計画を立てます。
子供たちは、そのテーマに基づいて、「生活をよりよくするための課題」を自分たちで「見いだし」「話し合い」をするわけです。
それが「学級活動」です。
ですから、もし〈トラブル〉を「課題」にするのであれば、「最近トラブルが多いと思うので、どうしたらいいかみんなで話し合いましょう」というような形で活動が行われます。
〈トラブル〉に対する即時対応ではなく、課題として取り上げるわけです。
学習指導要領では、偶発的な〈トラブル〉は対象外になっている。
〈トラブル〉を扱うとしても、
A:トラブルが起きた → どうしたらいいか?
ではなく、
B:トラブルが多い → どうしたらいいか?
という一般化された形での〈トラブル〉になります。
具体的な一つ一つのトラブルに対しての〈乗り越えさせる教育〉とは本質が異なります。
したがって、今回の本題に対する正解は次のようになります。
〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は学習指導要領の中に書かれていない。
「生活」と「活動」の違いについて着目して、正しく読むと、そうなります。
当然のことながら、学習指導要領は意図してこのように表記しているはずです。
「生活を通して」と表記してしまうと、全く違った内容になってしまうことを知っています。
その「全く違った内容」はリスキーなのです。
たとえば、「生活を通して」と表記してしまうと、〈トラブルそのものを意図的に経験させる〉と読めることになります。
そうなると、次の二点でリスキーなのです。
(1)トラブルに対する〝線引き〟が難しくなる。
(2)トラブルに対応するためのスキルが要求される
たとえば、いじめ・暴力・ハラスメントなどを「経験させる」わけにはいきません。
〈小さなトラブル〉といっても、「小さな」の範囲はどこにあるのか?
本来、トラブルは避けなければならない出来事ではないのか?
こうした疑問が、特に社会や一般の方々から出てくるはずです。
ですから、公的な文書では〈トラブルそのものを意図的に経験させる〉と読める表現を避けます。
〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は大切かもしれないけれど、それよりも、いじめ・暴力・ハラスメントなどの未然防止を優先しなければならない。
日本では、こうした考え方が広く認知されているのではないでしょうか。
ですから、学習指導要領という極めて重要な公文書には〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉を表記するのは難しいわけです。
ここには、私たち一人ひとりの考え方が影響しています。

4.『生徒指導提要』ではどうか?
「生徒指導」と言えば、生徒が問題行動を起こした時に先生方が対応し、そのトラブルを乗り越えさせる行為だと思われますよね。
でも、「生徒指導」の目的というのは、〈個性の伸長〉と〈自己実現への支援〉なのです。
生徒指導のガイドラインである『生徒指導提要』から抜粋しましょう。
【生徒指導の目的】
生徒指導は、児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支えることを目的とする。
ここには〈問題行動〉的な文言は一切書かれていません。
飽くまでも、〈個性の伸長〉と〈自己実現への支援〉の二つが目的なのです。
ただし、そこは流石に「生徒指導」ですから、〈問題行動〉に対応するための記述もあります。
それは、大きく二種類に分かれています。
先手対応(プロアクティブ)と事後対応(リアクティブ)です。
『生徒指導提要』では次のように図示されています。
もしも、教室内で〈小さなトラブル〉が起こった場合は、この中のどこに当てはまるのでしょうか?
先手対応(プロアクティブ)というのは、「未然防止」です。
事後対応(リアクティブ)は、「早期発見」です。
これは、どちらも〈問題行動〉を起こさないようにするための教育です。
ですから、時系列で見ると、「未然防止」と「早期発見」の前に「予防的生徒指導」があります。
そして、それでも、もし〈問題行動〉が起こってしまったら、それは「困難課題(深刻な課題を抱えている特定の児童生徒への指導・援助)」として対応します。
したがって、青の囲んだ部分は〈問題行動を起こさないようにするための教育〉です。

唯一残っている「発達支持的生徒指導」というのは何でしょう。
発達支持的生徒指導は、特定の課題を意識することなく、全ての児童生徒を対象に、学校の教育目標の実現に向けて、教育課程内外の全ての教育活動において進められる生徒指導の基盤となるものです。発達支持的というのは、児童生徒に向き合う際の基本的な立ち位置を示しています。すなわち、あくまでも児童生徒が自発的・主体的に自らを発達させていくことが尊重され、その発達の過程を学校や教職員がいかに支えていくかという視点に立っています。すなわち、教職員は、児童生徒の「個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支える」ように働きかけます。(『生徒指導提要』1.2.2 発達支持的生徒指導)
この説明は難解です。私にはよくわかりません。
このあとに、次のようにあります。
発達支持的生徒指導では、日々の教職員の児童生徒への挨拶、声かけ、励まし、賞賛、対話、及び、授業や行事等を通した個と集団への働きかけが大切になります。(『生徒指導提要』1.2.2 発達支持的生徒指導)
これが「働きかけ」の例ですが、〈小さなトラブルを乗り越えさせる〉という視点はないようです。
要するに、「生徒指導」のガイドラインである『生徒指導提要』であっても、その目的は〈個性の伸長〉と〈自己実現への支援〉であり、〈問題行動〉に対しては「予防」「未然防止」「早期発見」「困難課題」といったマイナスイメージの対応しかない、と読むのが正解のようです。
次期学習指導要領の「素案」においても、この考え方は引き継がれています。
「第4層」は、関係機関との連携で対応することが示されています。
「第3層」は、「気になる一部の児童生徒」に対する「予兆行動」を対象にしています。
「第2層」は、「未然防止教育」の実施です。
4・3・2は、〈問題行動〉をネガティブに捉えています。
「第1層」は、『生徒指導提要』の説明にあったように、「教職員」による「日々の」支持的な「働きかけ」です。
これは〈信頼関係や良い雰囲気を作っておくこと〉という意味ではないかと読み取れます。
したがって、ここまでは、現在の特別活動の方向を引き継ぐ形です。
ただし、気になる表現があります。
特別活動が、学級経営とも相まって、全ての児童生徒を対象に行う生徒指導の第1層の機能を教育課程上の「要」として担うものとした上で、
まず、「教育課程上の『要』」って何でしょうか?
「教育課程上の『要』」ということは、学校教育の「要」ということです。
ここは、次のように読めます。
学校・学級は、すべての子供たちにとって安心安全の場でなければならない。
これが「要」の意味だと思います。
今回は解説しませんが、「素案」では、このことが強く打ち出されています。
それとは別に、「特別活動が、学級経営とも相まって」という言葉に注目してください。
これは、〈特別活動と学級経営は別物である〉ことを意味しています。
さっきの球体の図でもそうでした。
中心の特別活動には「学級活動」とあって、てっぺんの①は「学級経営」でした。
つまり、
「素案」は、「学級活動」と「学級経営」を分けて考えている。
ということを、読み手である私たちは認識しなければなりません。
次は、このことについて解説します。

5.「素案」における「学級経営」
「学級活動」と「学級経営」は異なります。
「学級活動」は計画に基づいて実施するものですが、「学級経営」は教室での生活全体を包みます。
現行の学習指導要領では、「学級経営」という言葉は二ヵ所しか出て来ません。
総則に「日頃から学級経営の充実を図ること」とあるのと、特別活動の配慮事項に「学級経営の充実を図ること」という言葉があるだけです。
「学級経営」という言葉には、定義も目標も内容もありません。
配慮事項として登場するだけです。
しかし、「素案」では「学級経営」という言葉が何度も登場します。
登場するだけではなく、改善の目玉です。


「学級経営」「生徒指導」「キャリア教育」という言葉が並んで示されています。
これらの教育内容は〈同列〉であり、〈異なる〉ものだということを意味します。
つまり、「学級経営」が大きく取り上げられているということです。
「生徒指導」とは区別されて、です。
次期学習指導要領では、その表記の仕方が注目されています。
先生方が使いやすいように工夫された表記になると思われます。
その時に、「学級経営」という言葉が、どのレイヤーで、どのような機能を与えられるのか。
恐らく、「総則」か「特別活動」に表記されるのではないかと思われますが、いずれにしても現行の学習指導要領よりもクローズアップされた形になると思われます。
348ページには、「学級経営は」「不可欠である」と書かれています。


88ページには、教員養成・採用・研修のために、「学級経営」という枠組みでの内容を「追加」すべきだと整理されています。

これは、「学級経営」が「学級活動」とは異なる概念であり、新たな研修が必要だということを意味しています。
したがった、次期学習指導要領では「学級経営」が注目されるのではないかと考えるわけです。
では、「学級経営」とは何なのか。
次期学習指導要領にその定義は示されるのか。
今のところ、「素案」では次のように書かれています。
上位概念は「学級全体のウェルビーイングの実現」です。
その下には、次の内容が示されています。
①子供の主観的幸福感が「友達関係」「教師のサポート」と深く関係すること
②学級経営に関わる学術的な理論や教育現場で蓄積されてきた実践的な理論
③教育基本法(規律を重んずる等)及び子ども基本法(子供の意見表明等)の規定等
これらを「総合的」に「バランス」を考えて表記されるものと思われます。
そこで私が注目しているのは、②です。
②の内容は二つです。
〈科学的根拠〉と〈蓄積されてきた実践〉
〈蓄積されてきた実践〉と言えば、数々の実践家が「学級経営」に関する実践を記録し、公開してきました。
「学級経営」に関する教育雑誌や書籍もたくさんあります。
そして、その中には〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉が確かに存在しています。
ぜひ、次期学習指導要領に活かして欲しいところです。
〈科学的根拠〉に関しては、日本の弱い所ですので海外の実践から学ぶべきでしょう。
次は、海外にも目を向け、本題である〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は今後どうなるのかについて考えます。

6.レストラティブ・プラクティス(修復的実践)
諸外国には「RP:Restorative Practices(修復的実践)」という教育方法があります。
〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉は、この「修復的実践(レストラティブ・プラクティス)」に該当します。
「修復的実践(レストラティブ・プラクティス)」とは、どのような教育方法なのか。
簡単に説明すると次のようになります。
【修復的実践(RP)】人間関係のトラブルを〈学びの機会(teachable moments)〉と捉えて、対話などを通して関係修復の機会に変える教育方法
補足します。
海外の「修復的実践」における「人間関係のトラブル」は、教室内で起きる〈小さなトラブル〉だけではありません。
友達同士の諍い、行き違い、失礼な言動、軽い衝突などの〈小さなトラブル〉から、集団間の対立、民族・文化的分断などの〈社会的なトラブル〉までも対象になります。
その上で、海外で実践されているRPを閲覧してみると、次のような研究結果やプログラムが公表されています。
(1)カリフォルニア州の485中学校、約200万人のデータを用いた研究「帰属意識を育み、学校を変革する:修復的実践の影響」(2023)
(2)ニュージーランド教育省の 公式プログラム「PB4L修復的実践」(2011)
(3)スコットランド政府の「行動調査報告書」(2023)における「軽度の問題行動」という考え方
(4)オーストラリア・ニューサウスウェールズ州が公開している「修復的実践」(2026)
この他にも海外には「修復的実践(RP)」に関する実践は多数紹介されていますが、その成果と課題、日本との違いなどをまとめてみましょう。
【成果】
①停学などの懲罰的処分の大幅減少
②教員の負担軽減
③学校風土・信頼関係の向上
④子供自身の問題解決能力・社会的スキルの向上
⑤校内における一貫した指導基準の確立
RPでは、〈小さなトラブル〉を〈学びの機会〉として、制度的に(積極的に)扱います。
「何があった?」
「そのときどう思った?」
「誰が影響を受けた?」
「これからどうしたらいい?」
「元の関係に戻すために何ができる?」
こうした対応を、即時的に行います。
応答性(Responsiveness)が高い
これは子供を相手にする教育において、非常に重要な視点です。
今回は触れませんが、この「応答性」だけを取り上げても、様々な研究でその効果が実証されています。
RPを教育計画に実装することは、この「応答性」をすべての教師が重視することを意味します。
そして、こうした対応は、SEL(社会性と情動の学習)やPBS(ポジティブ行動支援)そのものですので、SELやPBSにおける研究成果ともリンクします。
このようなことを理解できると、「③学校風土・信頼関係の向上」「④子供自身の問題解決能力・社会的スキルの向上」という成果が表れることは予想がつくと思います。
しかし、「②教員の負担軽減」については説明が必要だと思います。
これは〈懲罰的処分が大幅に減ったので負担が減った〉という意味ではなく、〈小さなトラブル〉が教室内の対話で迅速に解決されるようになった結果、教員が規律指導に追われる時間が減り、余白の時間が増加したという意味です。
この成果が示されているのは、(2)のニュージーランド教育省の 公式プログラムです。
“a calmer school environment, with less classroom disruption and more time for teaching”(教室での授業妨害が減って指導に充てられる時間が増え、より落ち着いた学校環境が実現)出典:「タフランギ(ニュージーランドカリキュラム)」What is PB4L Restorative Practice?
別なページには、次のような報告もあります。
The Restorative Essentials supports teachers and adults within the school community to approach problems in a restorative way and equip staff with the skills needed to de-escalate situations successfully, enabling all staff to ‘keep the small things small’.(リストラティブ・エッセンシャルは、教師や学校コミュニティの大人が修復的な手法で問題へアプローチすることを後押しし、事態を上手に沈静化させるために必要なスキルを教職員に備えさせ、すべての教職員が「小さな問題を小さなまま解決する(深刻化させない)」ことを可能にします。)出典:「タフランギ(ニュージーランドカリキュラム)」What is involved?
この「小さな問題を小さなまま解決する(深刻化させない)」ことができるというのは、「小さな問題」を〈乗り越えさせることができる〉ということです。
それは教室の安定だけではなく、乗り越えた子供自身に自信を育みます。
さらに、子供たち自身に解決のスキルを与えるということにもつながります。
そして、こうしたことを学校全体で実施できるのは、州や国のプログラムとして制度化されているからです。
しかし、当然のことながら、すべての教師が〈小さなトラブルを乗り越えさせること〉ができたわけではありません。
ですから、「可能にします」という表現になっています。
実際、ニュージーランド教育省の最終報告書では、次のような課題が報告されています。出典:「EVALUATION OF RESTORATIVE PRACTICE – A POSITIVE BEHAVIOUR FOR LEARNING PROGRAMME」(2018)
①“Ongoing training and support is needed”(教師がRPのスキルを身につけるまでに時間がかかる)
②“There is information in the kete but we need more practical scenario training .”(実践的な研修の場をもっと増やして欲しい)
③“Staff are unwilling to change their practices”(自分の実践を変えたがらない教員がいる)
この③は、従来型の懲罰的指導観を捨てられない教師の存在を意味しています。
②はそれと逆です。
〈RPのスキルを身につけたい〉と願う教師もいるということです。
ただし、それには〈時間がかかる〉〈具体的な練習が必要〉ということです。
では、話を日本に戻して、もしも〈小さなトラブルを乗り越えさせる教育〉が学習指導要領に実装されたらどうなるか?
多分、ニュージーランドと同じような課題が出て来ると思います。
①時間がかかる、②練習が必要、③考え方を変えられない教師がいる。
ただし、日本には〝強み〟があります。
学級会、ホームルーム、係活動、当番活動、学校行事、給食、清掃、休み時間における自由遊びなどの活動があり、〈小さなトラブル〉が生まれる機会が存在します。
また、〈小さなトラブルを乗り越えさせた実践記録〉も多数存在します。
ただ、そうした実践は〈教師個人〉に任されていて、制度的なものではありません。
〈やってる先生はやっている〉というだけです。
〈小さなトラブル〉に対してでさえ、予防的・管理的・高圧的に対処する先生もいます。
「学級経営」を制度化するならば「公的な研修」が必要でしょう。
だから、「素案」には「学級経営」に関する研修が「追加」されたのだと思います。
周到な準備だと思います。
いずれにしても、次期学習指導要領において「学級経営」がどのような形で登場するのかに注目です。

7.〝やりたい〟という意志こそが、困難をのりこえさせる
学校での集団生活は〈社会に出る前の練習の場〉です。
それは、どのような練習でしょう?
何の練習でしょう?
〈トラブルを乗り越えさせる〉とはどのようなことでしょう?
突き詰めて言えば、それは「合意形成」です。
そして、この「合意形成」を学校生活の中で仕組む場はどこにあるでしょう?
小学校で言えば、まちがいなくそれは「係り活動」です。
低学年での係り活動は、教室の中の2~3人の仲間から始まります。
しかし、学校における教室とは、全員が仲良しではありません。
多様な考えを持った子供たちの集まり(多様な同年齢)です。
一つの小さなイベントを実施するにも、その過程で様々な〈小さなトラブル〉が発生します。
それをどう乗り越えるか。
そこに「合意形成」と「意思決定」が必要となります。
〈小さな責任〉は、低学年時での「係り活動」から生まれます。
中学年では、隣りのクラスや学年全体を巻き込んだイベントに発展し、高学年では児童会活動へとつながります。
中学校・高校では、それが地域や社会に発展するでしょう。
係り活動は、次期学習指導要領が示す「2つの力」を育成する最高の教育です。

日本の教師にとって、「係り活動」は「学級経営」の柱です。
トラブル自体は計画できませんが、〈小さなトラブル〉が起こるであろう活動は計画できます。
それが「係り活動」です。
かつて私たちが設立した「知的学級集団づくり研究会」(代表:青坂信司)では、こうした係り活動を「動的係り活動」と呼んでいました。
その実践は、今も一部の先生方が引き継いでくださっています。
その「動的係り活動」の〝はじめの一歩〟は、〈係り活動と当番活動の分離〉です。
これは向山洋一先生の学級経営から学んだことです。
向山先生は「児童の組織」について、次のように書かれています。
自発性・自主性に支えられた活動であるようにする。〝やりたい〟という意志こそが、困難をのりこえさせ、子供を成長させる起因だからである。出典:『向山の教師修業十年』「六年一組学級経営案」




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