講座597 2030年 どうなる?「日本の教育」(6)

【自己調整学習】「漢字の勉強」を例に

 目 次
1.「方略」って何?
2.「動機づけ方略」とは
3.「学習方略」とはその①
4.「学習方略」とはその②
5.「メタ認知的方略」とは

1.「方略」って何?

自分で自分に問いかけながら学習するためには、学ぶ気持ち(意欲)と学ぶ方法(学び方)とその学びを俯瞰すること(メタ認知)が必要です。

学ぶ気持ち(意欲)を持たせるための工夫が「動機づけ方略」です。

学ぶ方法(学び方)を身につけさせる工夫が「学習方略」です。

その学びを俯瞰させる(メタ認知)工夫が「メタ認知的方略」です。

「方略」とは工夫のことです。

これら三つが、自己調整学習を効果的に進めるための工夫ということです。

今回は、自己調整学習の解説図にある二つ目の層を取り上げて説明します。

2.「動機づけ方略」の視点

漢字を覚える時に、〈同じ漢字を1ページびっしり書く〉とか、〈1行くり返し書く〉といった学習の仕方があります。

これって〈苦痛〉ですよね。

どうして〈苦痛〉なのでしょう。

それは、〈もう書けるようになっているのに何度も書かなければならない〉という行為に意味を感じなくなるからでしょう。

素直な子は家に帰ってから「僕はもう覚えてるのになんでこんなに書かなきゃなんないの!」と口にするかもしれません。

これは「動機づけ方略」としてはダメな工夫です。

「あかねこ漢字スキル」(光村教育図書)という教材があります。

これは私が現職の時に必ず使っていた教材です。

学校全体で採用していたこともあります。

「あかねこ漢字スキル」を例に、動機づけ方略を解説します。

まずは、〈空欄に同じ漢字を何回書くか〉という視点で分析してみましょう。

一つ目の漢字「横」では、どうなっていますか?

空欄の数を見てください。

空欄の数は二つです。

四マス目と五マス目が〈空欄〉になっています。

その上のマスを見てください。

一番上のピンクと水色で薄く書いてある一マス目は「なぞり書き」のマスです。

練習中の子供の「頭の中」を想像してみましょう。

ここは、〈はみ出さないように書かなくちゃ〉という意識があると思います。

また、教師は子供にその意識を持たせるように指導することになります。

二マス目からは「うつし書き」になります。

二マス目は、水色が消えてピンク色の部分だけです。

練習中の子供の「頭の中」を想像してみましょう。

ヒント(薄い部分)がある部分には、ほとんど意識が行ってないはずです。安心しています。

意識はヒントのない部分に行きます。

〈こっち側はどうだったけ?〉などと、薄い部分「木」をなぞっている間にも、視線はさっき書いた「黄」の部分に行っているはずです。

次は三マス目です。

三マス目では、ほんの少し(一画目)しかありません。

〈これだけかい!めっちゃ少ないな!〉なんて思いながらも、

〈さっき書いた「黄」をこっちに書かなくちゃ!〉という意識が働くと思います。

このように、一、二、三のマスには〈変化〉があります。

この変化は、徐々にヒントとなる薄い所が少なくなるという単純な作りではありません。

「子供の頭の中」に〈変化〉が生まれるような作りになっているのです。

自己調整学習の観点から言うと、〈問い〉が生まれ、〈問い〉が変化するような作りです。

作成者側の原理では、これを「変化のあるくり返し」と呼びます。

そして、四マス目と五マス目が〈空欄〉です。

一つ目の空欄は、それまであったヒントが消えているわけです。

このマスは、〈ヒントなしで書けるかどうかの挑戦〉という意味を持ちます。

ですから、このマスに書く時には〈ヒントなしで書けるかな?〉という意識が働くはずです。

〈ヒントなし〉で書けた子は、「よし!書けたぞ!」と思うかもしれません。

次に、二つ目の空欄に進みます。

一つ目の空欄は〈挑戦〉でしたので、二つ目は〈確認〉です。

二つ目の空欄でも書けた子は、「よし!大丈夫!」と思うはずです。

思い出してください。

「ヒントなしで書けるかな?」とか、「よし!大丈夫!」などの内言が生まれる学習を何と呼んだでしょうか?

自分で自分に問いかけながら進める学習=自己調整学習

ここで見逃してはならないのが、その陰に〈教師の指導〉が隠れていることです。

教師は、練習の各ステップにおいて、〈その意識〉を持たせるように指導しているのです。

「うつし書きはお手本を見ながらそっくりに書く練習です」

「見ながらでいいんですよ」

などと、四月の段階で指導することもありますし、毎回同じセリフで指導する場合もあります。

 挑戦:ヒントなしで書けるかな? → よし!書けたぞ!

 確認:たしかめるぞ! → よし!大丈夫だった!

自己調整学習が「能動的」と言われるのは、〈自分で自分に問いかけながら進める〉からです。

そして、子供が能動的になるためには、学習を進めるための「内言」を持つ必要があります。

その内言は、自然に獲得できるとは限りません。

放置すれば〝格差〟が生じます。

教師が、すべての子供に、もれなく、しつこく、教える必要があります。

〈漢字学習〉という限定的な場面にも、このような「教師の意図」が隠されているわけです。

そして、〈マス目の数〉に話を戻すなら、

二つしかない空欄にも、それぞれ意味があるということです。

一マス目から振り返ると、すべてのマスに意味があります。

無駄がない、ということです。

緊張感が続く、ための設計です。

〝無意味な練習〟を排除している、ということです。

〈もう書けるようになっているのに何度も書かなければならない〉という学習は、意欲を失わせます。

それに対して、「あかねこ漢字スキル」は、やる気を失わせないように設計されています。

「動機づけ方略」の観点から評価するなら、〈やる気をマイナスにしないための工夫がある〉と言えます。

もちろん、「動機づけ方略」には〈やる気をプラスにさせる工夫〉もあるでしょう。

モチベーションを上げる工夫です。

それらについては、「素案」の450ページに書かれています(赤印の部分)。

これらの解説だけでは具体的には伝わらないと思いますが、自己調整学習には「動機づけ」が大切であることだけは認識していただけると思います。

それと同時に、子供は元々やる気に満ちている存在だという認識も大切です。

そのやる気を失わせない工夫も「動機づけ方略」の大切な視点です。

3.「学習方略」その①「反復方略」とは

みなさんは「ドリル」と「スキル」の違いを意識されているでしょうか。

「え!たった二マスしか空欄がないの?」

「練習させるには少な過ぎるんじゃないの?」

そうした声は、「ドリル」を使うことが多かったベテランの先生方の中に多いようです。

でも、「スキル」は目的が違います。

「ドリル」は、くり返し何度も練習することで漢字や計算に習熟させる方法です。

私が子供の頃は、この「ドリル」が、漢字や計算練習の教材でした。

これは、努力主義と言ってもいいでしょう。

その「ドリル」に対して「スキル」というのは、〈反復〉よりも〈習得の仕方〉つまり〈学び方〉を身につける教材です。

「あかねこ漢字スキル」を設計した向山洋一氏は、〈漢字の指導で大切なのは「覚え方」を教えることです〉と述べています。

漢字そのものを覚えるのではなく、漢字を覚える際の「覚え方」を教えましょうという主張です。

小学校6年間で習う漢字は全部で1026字あります。

これら一文字一文字に対して、書き順や成り立ちや熟語などを教えていては、国語の授業で教科書を扱っている時間がなくなります。

もちろん、成り立ちや熟語なども大切な国語の内容ですが、それらは重点的に、あるいは日常的に臨機応変に扱うのが現実的です。

そこで、1026字もある漢字指導については、早い段階で子供自身に〈覚え方〉を教えてしまうことが効率的になります。

では、その〈覚え方〉とは、具体的にどのようなものなのか。

本当は細かく、いくつものポイントがあるのですが、ここでは大事な2つを紹介します。

(1)書き順を覚えてから鉛筆を持つこと

(2)間違えた漢字のみを練習すること

こうした〈覚え方〉を身につけることによって、先生が何も言わなくても、自分(たち)で漢字の学習ができるようになることをめざしています。

〈覚え方〉を身につけるのは、自己調整学習につながります。

身に付けたスキルは、小学校を卒業した後にも役立つでしょう。

自己調整学習の目的と同じです。

さて、〈覚え方〉は、勉強の仕方(学習方略)の一つです。

覚えるための方法には「反復」があります。

一般の方々は、〈何度もくり返し練習するのが反復でしょ!〉と思っていらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、自己調整学習の観点での「反復(方略)」は、そうじゃないのです。

それをこれから解説していきます。

続けて「あかねこ漢字スキル」を例にします。

「あかねこ漢字スキル」における漢字の〈覚え方〉で重要なのは次の二つでした。

(1)書き順を覚えてから鉛筆を持つこと

(2)間違えた漢字のみを練習すること

(1)に「書き順を覚えてから」とあります。

では、どうやって書き順を覚えるのでしょう?

もう一度、スキルを見てみましょう。

「なぞり書き」をする前に、星印で「指書き」とあります。

そして、「なぞり書き」のマス目の左側に〈書き順〉が示されています。

この〈書き順〉は、ただ単に確認のために書かれているのではありません。

〈確認〉でも、〈見るだけ〉でもなく、〈指書きをするため〉にあるのです。

(1)にあった「書き順を覚えてから」の意味は、〈指書きが空でスラスラできるようになってから〉ということです。

イメージができない方は、この動画を見て下さい(「指書き」の部分だけで結構です)。

この動画を見ると、「書き順を覚えてから鉛筆を持つこと」の意味が伝わると思います(私の学級では動画よりも速いスピードで指書きをさせていました)。

〈指で書く〉という行為は、〈鉛筆で書く〉よりも負担が少ないのです。

〈鉛筆〉も〈マス目〉も〈薄い字〉もありません。

〈芯の削り具合〉などを気にしなくて済みます。

〈マス目の中の位置〉も気にしなくて済みます。

〈薄い字からはみ出さないかどうか〉も気にしなくて済みます。

つまり、意識を〈書き順〉のみに注げます。

これが「指書き」という反復方略です。

もう一つの反復方略「間違えた漢字のみを練習すること」というのは、〈テスト〉をした後のことです。

これが〈テスト〉の紙です。

小学校の時の「漢字のテスト」を思い出してください。

出題漢字が〈10個〉などと決まっていたと思います。

出される問題も〈次のテストではこの漢字を出します〉と教えられていたのではないでしょうか。

教師には、「問題を教えてるんだから練習して来た子は100点が取れるはず」などの思いがあったのではないでしょうか。

そして、100点を取れなかった時の〈再テスト〉では、〈同じ10問〉が出されていたのではないでしょうか。

その場合、最初のテストで40点だった子は、4つの漢字はマルだったわけです。

ですから、〈再テスト〉の時に、その4つは書けるはずです。

でも、それ以外の6つは、なかなか書けない。

だから、〈再テスト〉の結果が50点とか、60点で、100点にならない。

そういったケースを経験しませんでしたか?

漢字のテストでなかなか100点を取れない子が出るのには原因があるのです。

原因は単純です。

学習の過程で〈間違えた漢字にフォーカスしていないから〉です。

〈再テスト〉で〈同じ10問〉を出すのではなく、〈間違えた漢字だけを出題〉し、〈間違えた漢字だけを書いて、合っていたら100点にする〉という仕組みにすればよいのです。

こうすると、最初のテストで90点だった子は、間違えた一つの漢字だけを練習します。

「鉄」という漢字だけを間違えていたのなら、「鉄」だけを練習して〈再テスト〉に臨めばいいのです。

これだったら100点が取れますよね。

最初のテストで40点だった子は、間違えた六つの漢字だけを練習します。

この時、40点だった子は、〈覚えた漢字はもう練習しなくていい〉という学習の仕方を学びます。

〈間違えた漢字だけを練習する〉という〈覚え方〉を学ぶわけです。

まずもって、これがその子の財産になります。

すぐには100点を取れなくても、くりかえしているうちに確実に100点に近づきます。

4月には40点台だった子が、6月には一発で100点を取って大喜びするようになります。

これが、「間違えた漢字のみを練習すること」という反復方略の効果です。

ですから、反復方略とは、ただくり返すだけを求める〝努力主義〟ではないのです。

〈覚え方〉〈学習の仕方〉なのです。

4.「学習方略」その②「精緻化方略」とは

もう一つだけ解説します。

この中にある「精緻化方略」です。

「理由や意味を付け加えるなど、新たな学習内容を、既存の知識と関連付けて深く理解できるように工夫する」

という説明がありますが、

簡単にいうと〈何かと結びつける学習〉ということです。

この「精緻化」も「あかねこ漢字スキル」に組み込まれています。

このページのどこにあるか、見抜けますか?

ここです。

どうですか?

精緻化されてますよね。

こうして〈覚え方〉〈学習の仕方〉を身につけて行くわけです。

5.メタ認知的方略とは

最後です。

メタ認知的方略というのは、〈自分の学習をモニタリングしてコントロールする工夫〉です。参考:梅本貴豊(2013)

この説明だけではピンと来ないと思いますが、肝となるのは〈全体が見えている〉ということです。

たとえば、漢字の覚え方だと、全体が見えているので〈次に何をやるか〉がわかります。

もっと視野を広くすると、〈明日は何をやるか〉もわかります。

さらに視野を広げるなら、〈夏休みの前にやること〉や〈一年の終わりにやること〉まで見えます。

〈見える〉だけではなく、教師が〈年度初めに見せておく〉ことも大切です。

全体像を示すと、次のようになります。

「1年後」とあるのは、漢字は次の学年に上がった時に書けるようになっていればよいと学習指導要領に定められているからです。

ここでは、メタ認知的方略の解説をしているわけですが、何よりも教師自身がこうした全体像を持っていなければ、学習を計画的に進めることはできません。

子供たちにメタ認知的方略を身につけさせるためには、教師自身が学習をメタ認知する必要があります。

さらに言うなら、漢字を勉強するのも「変化が激しい不確実な社会の中で、学びを通じて自分の人生を舵取りし、社会の中で多様な他者とともに生きる力を育む」ためです。

そうしたメタ認知を子供たちにも伝えていきたいと思います。

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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