講座600 「子供集団の教育力」を活用した読み聞かせスキル

2.えっ!始めちゃうの?
3.「子供集団の教育力」
4.システムの中でスキルを使いこなす

1.教育の極致とは
園での「読み聞かせ」は、家庭と違って〈一対一〉ではありません。
一人の先生がたくさんの子供たちを相手にします(イラストのように)。
私が勤務させていただいている園では、それを〈帰り支度〉とセットで実施しています。
想像できると思いますが、幼児の〈帰り支度〉には時間差が生じます。
早く終わる子もいれば、支度するのに時間を要する子もいます。
これは、それでいいのです。
幼児というのは〝そういうもの〟です。
ただし、先生方としては、この「時間差」をなんとか工夫しなければなりません。
早く済ませた子をボーっと待たせるわけにはいきません。
(幼児の発達にとって〈退屈〉は敵!)
だからといって、遅い子に対して「早くしなさい!」と叱るわけにもいきません。
(否定語は幼児に〈自責感情(ぼく駄目なんだ)〉を与えます。)
そこで、園では〈早く済ませた子から読み聞かせを始める〉という工夫をしています。
これだと、早く終わった子は退屈しません。
まだの子にも自責感情は生まれません。
私の師である向山洋一には、次の言葉があります。

2.えっ!始めちゃうの?
早く終わった子を待たせない。
かと言って、遅い子に対して否定語を発しない。
そのために、早く終わった子に〈活動〉を用意する。
こうした工夫を教育や保育の世界では「空白禁止の原則」と呼びます。
「原則」ですから、広く、昔から、一般的に使われて、効果のある工夫です。
そして、「原則」には思想があります。
〈「早い子」と「遅い子」の両方に対応してあげる〉という思想です。
こうした「思想」や「原則」に基づいて、私たちは仕事をしています。
そうした「思想」や「原則」に基づいて、〈早く済ませた子から読み聞かせを始める〉という「システム」が生まれるのです。
一般の方々の中には、
「えっ!まだの子を待たないで読み聞かせを始めちゃうの?」
と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
始めちゃうのです!

ついでに書きますと、こうすることで遅い子の中には「急がなくちゃ!」と思って頑張る子も出て来ます。
でも、読み聞かせが始まっているのに、相変わらずマイペースの子もいます。
しかし、そんな子であっても否定せずに
この環境(システム)の中で、自分から気づけるようになる瞬間(日)を待つ、
という見取り方をします。
周囲の状況に気づけない子には、気づけないなりの理由があります。
私たちには、その理由がわかっている場合もあれば、わからない場合もあります。
それでも否定せずに待つ。
ただし、できれば自分から気づいて、動いて欲しい。
そのために〈気づきやすい状況を意図的に設定する〉わけです。
「退屈」「空白」「否定」「自責」「待つ」「システム」「環境設定」「自分から」
〈時間差をどうするか〉という一瞬の場面をとってみても、実に様々な考え方が頭の中を巡るわけです。

3.「子供集団の教育力」
でも、こうした「思想」や「原則」や「システム」を持っているだけでは目の前の子供たちに対応できません。
集団を相手に読み聞かせをするためには、〈集団を相手に読み聞かせをするスキル〉が必要になります。
先日、A先生が読み聞かせをしている場面に居合わせました。
図書館司書さんなどの読み聞かせを体験したことがある方は知っていると思いますが、
絵本の読み聞かせというのは、原典を忠実に読むのが基本です。
読んでいる途中でアドリブを入れたり、解説を挟んだりなどはしません。
(絵本の世界に浸ってもらうために)
でも、A先生の読み聞かせは違いました。
読んでいる途中で、子供に声をかける場面が何度もありました。
それは、よそ見をしてしまった子への〈声掛け〉だったり、
姿勢よく集中して聞いている子との〈対話〉だったり、
絵本の中の一場面に対する〈コメント〉だったり、様々です。
たとえば、

この中のB君の姿勢が崩れて来て、よそ見をしたり、カバンを開いたりし出したとします。
そんな時に、読んでいる途中で、
「B君、このあとどうなると思う?」
などと突然振られたら、そりゃあ絵本に向き直りますよね。
または、
Cちゃんが姿勢よく読み聞かせに集中しているのを見て、
「Cちゃんの姿勢いいね!」
などと言ったら、姿勢が崩れていた子供たちはピン!としますよね。
または、
絵本の中に、その日の園の活動と重なる場面が出て来た時に、
「今日のみんなと同じだね!」
などと言ったら、絵本の世界に没頭できますよね。
こうした工夫を教育や保育の世界では「子供集団の教育力」と呼びます。

こうやって集団で活動する空間では、子供たちの間に「教育力(互いに影響する力)」が生まれます。
「Cちゃんが褒められた!私も先生に褒められたい!」とか、
「みんな座っているから自分も座ろう」とか、
「今は勝手におしゃべりしてはいけないんだな」とか、
そういう〈空気〉が生まれます。
〈空気〉はこれだけではただの雰囲気のままですが、私たちはその〈空気〉を意図的に利用する場合があります。
その行為が「教育力」となるのです。

4.システムの中でスキルを使いこなす
教室には、まだ帰り支度を、せっせと行っている子が存在しています。
読み聞かせの途中で〈先生の声〉が入ると、
淡々と、絵本に忠実に読み聞かせる読み聞かせと違って、
〈先生は本を読んでいる(=みんな集まって本を読んでもらっている)〉
という状況が教室の中で明確になります。
これが〈気づきやすい状況を意図的に設定する〉です。
すぐに効果は起きないかもしれませんが、放置とは違います。
この環境(システム)の中で、自分から気づけるようになる瞬間(日)を待つ。
その上で、時には追い立てるための手も打つ。
そこはケースバイケースです。
今回は、〈時間差をどうするか〉という一瞬の場面の中に、様々な考え方があるのだということをお伝えしてみました。






