講座409 性教育を急げ!~ryuchellさんの死を悼んで~
7月12日、タレントのryuchellさんが渋谷区の事務所で亡くなっているのが見つかりました。
現場の状況などから自殺をはかったとみられるということです。
私はこの報道を受けてショックを受けました。
なぜなら彼を(彼女を)応援していたからです。
彼はLGBTでした。
体は「男」。
性自認は「女」。
性的指向も「女」。
だけど、男として結婚をし、子育てもいていた。
苦悩があったと思います。
しかし、SNS上では厳しい批判(誹謗中傷)が相次ぎました。
妻子を差し置いて好きなことをやっている。
子育てはぺこちゃんに丸投げ
子どもがかわいそう。
などと、事実とは異なった投稿があふれていました。(AERA dot.)
この問題はLGBT(性的マイノリティ)のことだけにとどまりません。
「結婚」や「子育て(子どもを産み育てる)にも大きな影響があると思います。
彼(彼女)は、結婚をしたことによって、子どもを授かったことによって、
それまで以上の誹謗中傷(陰口)にさらされたからです。
YouTube上で堀江貴文さんが叫んでいました。(堀江貴文 ホリエモン )
陰口はネットに書くな。
「言いたいことがあるなら人に言え」と。
ネット上に書き込めば、それはもはや陰口ではなくなります。
多くの人々が見ます。
本人の所に届きます。
それは「陰」ではありません。
犯罪です。(刑法:第二百三十条「名誉棄損罪」)
また、自殺予防・自殺防止の観点からも影響はあります。
文部科学省は令和5年7月10日に「児童生徒の自殺予防に係る取組について」という通知を出したばかりです。
自殺対策基本法の第二条では「自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応」を実施しなければならないとしています。
今回の出来事は、まさに「自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応」が必要な事案です。
自殺は、うつ症状が重い人では起きにくく、
自殺という行動に走る意欲を持つ軽度のうつ症状保持者や
うつ症状から回復した時の保持者に多いことがわかっています。(横浜市こころの相談発達センター「身近な人がうつ病になったら…」)
もちろん、著名人の自殺の報道が悩みを抱える人に影響を与えることも知られています。(「ウェルテル効果とは」毎日新聞)
今回の場合ですと、LGBTの人だけではなく、子育てに疲れてらっしゃる方にも影響があるでしょう。
なぜならば、社会には次のような風潮が存在しているからです。
子育ては「罰ゲーム」
子育てをすると肩身が狭くなる
かつての日本は、「子は地域の宝」「子育ては地域みんなでするもの」という風潮がありました。
それが今は真逆になっています。
子育ては自己責任
親ならちゃんと育てろ
ありませんか?
そんな風潮。
国の子育て支援は「お金」だけになっています。
子育てをしている人の気持ちまでは考えていません(と言われても仕方ないでしょう)。
本来なら「結婚」「妊娠」「出産」は祝い事です。
そして、女性を大切にしなければなりません。
それが重圧になってしまっている社会は歪んでいます。
私のこの主張はおかしいでしょうか?
しかし、今回はそのことよりも性的少数者への理解が進んでいないことに対してこの記事を書いています。
現在、私はYouTubeを使って、男子中高生向けの「性教育動画」を配信しています。
チャネル名は「男の授業」と言います。
ryuchellさんは高校生の時に、母親に「私は男性が好き」とカミングアウトしたそうです。
その時、お母さんはryuchellさんに対して「育て方を間違えた」と言ってしまいました。
この一言は、ryuchellさんの心を、生涯に渡って傷つけ続けます。
ryuchellさんは語っています。
「すごいショックで、でもすごいお母さんの気持ちも分かるし、自分が憎かった」(エンタメRBB)
当時、ryuchellさんの母親は離婚していて、母親に嫌われたら捨てられると思っていたそうです。
ですから、母親から「育て方を間違えた」と言われた直後のryuchellさんはこうしました。
「嘘だよ、男の人が好きって言ったけど嘘だよ」とめっちゃ笑顔でごまかした。(エンタメRBB)
今となっては悲しい話です。
しかし、ryuchellさんのお母さんは素晴らしい方でした。
この出来事の翌日、ryuchellさんをドライブで海に連れて行って、こう話して下さったそうです。
「沖縄はとっても温かくて良いところだけど、とっても狭いところでもあるわけさ。お母さんは世代も違うし、沖縄で生まれ育ったから理解できないこともあるし、自分自身を責めてしまうけど、東京はいろんな生き方をしている人もいるから、あっちに根を張って頑張りなさい」(日刊スポーツ)
こんなお母さんだからこそryuchellさんは芸能界のトップ集団に躍り出たのですね。
しかし、性的マイノリティの問題は単純ではありません。
第一に必要なのは理解です。
一度傷ついてしまった脳は元には戻りません。
トラウマは長期間に渡って自身を傷つけます。
社会は、「あの一言」を防止すべきでした。
それが自殺防止です。
それが多様性への理解です。(「多様な性への理解と対応ハンドブック」長崎県)
これは私がYouTubeにアップしている授業の一部です。
性的マイノリティと言われる人々はいつの時代も人口の7~8%存在すると言われています。
江戸時代でも今でも同じです。
そう考えると決して特別ではありません。
ただ単に「少ない」だけです。
それなのに世の中の理解が進んでいない。
これはひとえに教育の責任です。
ですから私は退職した今も「性の授業」をし続けています。
しかし、理解を広げるにはまだまだ小さな、小さな、ひとりの活動です。
いつかは近いうちにと思っていた矢先に、今回のニュースが飛び込んで来ました。
ryuchellさんの問題意識はきっと私と重なる所があったと思います。
残念でなりません。
彼の(彼女の)の志と闘いの苦悩を想いつつ、己の活動に微力を注いで参ります。
講座144 性教育はいつからか?
講座145 中高生の性教育
母親の一言が大きな影響を受けることが心に響きました。
娘も、私の声色や顔色をくみ取っています。
東京へと背中を押すこのお母さまは、素晴らしい方ですね。
心配して留めるのではなく、我が子の背中を押せる母でありたいです。
「子育ては自己責任」という雰囲気、感じます。核家族化で、周囲に預けられる環境に無い状況がなかなか辛いです。
多くの人の考え方、生き方に触れながら、多様な価値観を認めていけるような子育てをしたいなと思います。