講座343 寝かしつけ・夜泣き対応【総まとめ】
読者の方から「寝かしつけ」について相談を受けましたので発信することにしました。
これは以前まで高校生向けの「赤ちゃん学」や母親講座で話していた内容をまとめたものです。
ブログに書くのは初めてだと思います。
2.前提:睡眠環境
3.知識:睡眠に関する知識
4.受診:小児科へ
5.最終手段:輸送反応とお腹スイッチ
6.まとめ
1.全体構造
「寝かしつけ」と「夜泣き」に関する対応は大きく4つからなります。
大前提は睡眠環境を整えることです。
睡眠に関する知識も必要です。
そして、困った時は思い切って小児科に相談することも大切です。
「今だけでもなんとかしたい!」という時のための手段も知っておきましょう。
ではこの4つについて順に解説します。
なお、私の話の内容は次のお二人の臨床結果と研究結果に基づいています。
(1)兵庫県立リハビリテーション中央病院子どものリハビリテーション・睡眠・発達医療センター長の菊池清先生
(2)理化学研究所脳神経科学研究センター親和性社会行動研究チームリーダーの黒田公美先生
2.前提:睡眠環境
大大大前提は、朝は明るく、夜は暗くという「明るさのリズム」を守ることです。
これが守られていない場合が意外と多いようです。
①遮光カーテンを使っている家庭が多い。
朝は柔らかな光が自然に入る部屋が理想です。
直射日光はダメです。
「柔らかな光」です。
朝にお日様の光を浴びることで脳の中にメラトニンが分泌されます。
メラトニンは眠気の予約ホルモンです。
朝に分泌されることによって夜に眠気が表れます。
これは大人でも同じです。
不登校の子、ひきこもりの成人、就労していない人、一人暮らしの人、ゲーム依存の人などはメラトニンの予約をしない場合が多いので自律神経が乱れ、ウツ症状が多発すると言われています。
②日中の活動不足
赤ちゃんの起きている時間は限らています。
起きている時に運動をすることも大切です。
ハイハイが出来る赤ちゃんならハイハイの時間。
うつ伏せトレーニングやマッサージなどもいいでしょう。
こちょこちょで声を出して笑うのだって体力を使いますよね。
泣く時はちゃんと泣くのも運動です。
外の空気を吸うお散歩だって刺激になります。
日中にできることは色々あります。
夕方に訪れる「黄昏泣き」は、もしかすると日中の運動不足を補う運動かも知れません。
また、日中の様々な刺激は「運動」でもあり「学習」でもあり、脳を発達させます。
睡眠リズムをつくることはいいことだらけです。
③夜の部屋が明るい
寝かしつけの時は暗い環境にすると思いますが、その直前はどうなっていますか?
眠る準備は、急には、出来きません。
人間も動物ですから本来はお日様が沈んだら暗くなる環境が自然です。
人間が夜になっても活動できるようになったのは白熱電球や蛍光灯が発明されてからのことです。
まだ100年くらいしか経っていません。
数万年もある人類の歴史の中の「つい最近」の環境です。
生まれたばかりの赤ちゃんにとっては予想外(適応外)の環境なのです。
ですから、赤ちゃんのいる家庭には配慮が必要です。
日が暮れたら部屋の明かりを少し暗くしてあげるとか、寝かしつけの1時間くらい前には少し暗くするなどの工夫をしている家庭もあります。
そういった工夫で快適な環境を用意してあげましょう。
3.知識:睡眠に関する知識
「寝かしつけ」や「夜泣き」に対応するためには、睡眠に関する知識を持っていた方が良いです。
ここでは次の2つを紹介します。
①必要睡眠時間とレム睡眠の回数
②睡眠リズムをつかむ期間の重要性
必要睡眠時間は年齢によって異なります。
赤ちゃんは長いですよね。
しかし、夜中に眠っている間に「波」が発生しています。
レム睡眠と言って「浅い眠り(夢を見る時間)」があります。
このレム睡眠の時は、眠っているようでも瞼の下では眼球がキョロキョロ動いています。
「レム」というのは急速眼球運動(rapid eye movement :REM)の略称で、「rapid(急速な)」目の動きという意味です。
この「浅い眠り」が夜中に7回くらいやって来るわけです。
ですから何かのタイミングで赤ちゃんが夜中に起きるのは普通のことです。
ちなみに、人間はこのレム睡眠の時に、その日に体験した出来事を「海馬(かいば)」という所で短期記憶します。
そして、ぐっすり眠っている時間(ノンレム睡眠の時)にその記憶を大脳皮質へと送ります。
(大脳皮質へ送られた記憶は長期記憶として固定されます)
ですから「浅い眠り」と「深い眠り」の両方が大切です。
親にとっては「浅い眠り」が厄介者(ビクビクもの)ですが、成長のためには大切な意味があることを知っておくと、少しは頑張れるのではないでしょうか。
睡眠知識の2つ目は「睡眠リズム」をつかむための重要な期間を知ることです。
その重要な期間とは「生後1~2ヵ月」頃です。
データの黒い部分が眠っている時間です。
生後1ヵ月までは黒い部分が多いです。
ところが、1~2ヵ月頃にかけて「斜めの線」が表れます。
そして、3ヵ月以降は「朝に黒くて日中は白が多い」ようになります。
つまり、3ヵ月以降に「夜は眠って朝に起きる」という人間社会のリズムが完成するわけです。
生後1~2ヵ月頃は、睡眠リズムをつくる努力期間なのです。
ですから、このことを知っておくと、赤ちゃんが睡眠リズムをつくる時期に気を配ることができます。
もし、3ヵ月以降も上手にリズムをつくれない場合は次のように考えるといいでしょう。
①リズムをつくるためには1ヵ月程度の努力期間が必要なので一緒に努力してみる
②睡眠リズムをつくるのが苦手な体質なのかも知れないと考える
①の場合は、前提条件である睡眠環境を整えて再挑戦してみることです。
ただし、②の場合も考えられます。
その場合は迷わずに医療の力を借りることをオススメします。
4.受診:小児科へ
・抱っこじゃないと眠れない
・抱っこしても眠れない
そういう赤ちゃんは「眠るのが苦手な体質」なのかも知れません。
その場合は、迷うことなく小児科医に相談することをオススメします。
医師の判断で自律神経を整える薬を処方してくれることがあります。
そのことによって劇的に改善することがあります。
なぜ、「迷うことなく」なのかと言いますと、乳児も幼児も子供も、学習したことを脳に保存するためには適切な睡眠が必要だからです。
睡眠は、言葉の発達や学力の定着に大きく影響します。
ですから早めの対応に意味があるのです。
参考までに「夜泣き外来」の医師・菊池清先生の所にはこんな質問が届いています。
抱っこ授乳での寝かしつけに頼っています。20時半に寝かしつけても、22時半に起き、23時半に起き1時半に起き・・ととても安定した眠りとはいえません。授乳しないで寝かしつけを行おうとして1週間以上30分おきに一時間以上ギャン泣きで親が疲れ果てて元に戻った経験があり、なかなかもう一度チャレンジするのに踏み切れません。夜の寝かしつけどうしたらいいのでしょうか。もはややり方がわかりません。
この相談に対して菊池ドクターは次のように回答しています。
お母さん・ご家族が愛情込めて優しく適切に対応しても、眠るのが上手でない体質の赤ちゃんは眠たくても眠れずに泣いてしまいます。お兄ちゃんたちも同じであったようですので、眠るのが上手でない体質が疑われます。赤ちゃんに利用できる眠りやすくする薬が必要かもしれません。小児科医に相談してください。(出典「ほっこりAI」)
以上が「体質」の場合です。
このほかに、医師の相談が必要な状況には「睡眠障害」と「夜驚症」があります。
子どもの睡眠障害は(夜間睡眠困難症)と言って、対象は6ヵ月以上の乳児~就学前の子どもです。
次の①~⑤の中のどれか1つでも当てはまれば「危険信号」です。
①寝つきが悪い(眠るまで20分以上かかる)
②途中で目が覚める(もう一度眠るまで20分以上かかる)
③朝目覚めるのが早過ぎる(最適時刻より30分以上早い)
④寝室に入ることを嫌がる・ぐずる
⑤親がいないと眠れない
「睡眠障害国際分類」を参考に菊池清氏(兵庫県立リハビリテーションセンター)が作成
危険信号の場合は小児科の受診をオススメします。
その際、兵庫県立リハビリテーション中央病院の「すいみん日誌」を使って記録をつけておくと診療がスムーズになると思います。
5.最終手段:輸送反応とお腹スイッチ
そうは言っても「今すぐなんとかしたい!」という時のための手段です。
①輸送反応
これは哺乳類の赤ちゃんが持っている反応(本能)です。
ネコ科の動物は赤ちゃんを口にくわえて移動させますが、この時、赤ちゃんは本能的におとなしくなります。
移動を妨げないためです。
自然界で移動が必要な時の中には「身の危険」が迫った場合もあります。
そんな時に暴れたら命にかかわります。
ですから「おとなしくする」という本能が働くわけです。
これはリスでもチンパンジーでも人間でも同じです。
哺乳類の赤ちゃんに備わっている反応です。
ですから、ギャン泣きしている赤ちゃんでも「抱っこして移動する」を行えば泣きやみます。
これを「輸送反応」と言います。
赤ちゃんが車の中で眠るのもこれと同じ原理です。
ですから「寝かしつけ」や「夜泣き」の対応として手っ取り早いのは「抱っこして歩く」ことです。
この原理は理化学研究所の研究チームが発見して有名になりました。
しかし、問題点が残っていました。
抱っこして歩くと確かに泣きやんで眠り始めるのですが、布団におろした瞬間にまた泣き始めるケースが結構な割合で多かったのです。
いわゆる「背中スイッチ」です。
ところが、2022年9月14日に新たな研究結果が発表されました。
赤ちゃんのスイッチは「背中」ではなく「お腹」にあった!
理化学研究所のチームは、赤ちゃんの状態をより精密に知るために心電図を使って赤ちゃんの心臓の拍動の速さを調べました。
その結果、背中が触れるよりも前に、赤ちゃんの体が母親の体から離れ始める瞬間に赤ちゃんは最も強く反応し、目覚めかけることがわかりました。
つまり、スイッチは背中ではなく、親の体から離れ始める瞬間にあったのです。
体から離れた時点で不安を感じているので、寝かされたことがはっきりわかった瞬間に泣き出す。
そういう仕組みだったのです。
だから、いくら慎重に布団に置いても泣き出してしまっていたんですね。
このことから、赤ちゃんを目覚めさせまいように布団に置くコツは、
ギリギリまで赤ちゃんから体を離さないで(くっつけたまま)布団に置く
ということになります。
私の場合、赤ちゃんを抱っこしたまま自分も布団の上に倒れ込んでいます。
そして、数分してから、そうっと、抱いていた腕を抜きます。
この方法はけっこう成功確率が高いです。
ちなみに、理化学研究所の研究チームは次の方法を提案しています。
①5分間の抱っこ歩き
②抱いたまま椅子に座って5~8分くらい待つ
③体をくっつけたまま布団に置く
困っている方は試してみてください。
6.まとめ
今回は「寝かしつけ」と「夜泣き」について、総まとめとして4つのことを解説しました。
最後の「輸送反応とお腹スイッチ」については理化学研究所の動画がありますので詳しく知りたい方はご覧ください。
また、睡眠に関する知識を月齢・年齢別に詳しく知りたい方は、兵庫県立リハビリテーション中央病院の菊池清ドクターが公開されている「こどもの眠りを育てる 12 箇条」が参考になります。
「こどもの眠りを育てる12箇条」と言うのがあるのですね。
確かに昔に比べて明るくなったり、電磁波のものが増えたり、遮光カーテンの部屋が増えたり、眠りを育てていく必要性が出てきているのだろうなと思いました。
LEDで上手に調節したり、現代だからこそ、良いものを上手に取り入れたいです。
大人であっても夜は暗めにすると入眠しやすいというので実践しています!