講座329 子育ては世代間伝達する
池田沙幸さんからいただいたコメントです。
仲の良いお母さんとお話しをしていて感じたことです。
どうやら、お母さん方は「叱る」ではなく「怒る」ことが多いようです。特に小さいお子さんがいるご家庭は、お母さんが寝不足な上に子どもが危険なことをしている!という事が度々起こるようです。お母さん目線だと、心にゆとりがなく、ついつい「コラー‼︎」とか「さっきも言ったでしょー‼︎」となってしまいがちになります。しかし、これでは子どもにとってもお母さんにとっても良いことは無いな、と思います。お母さん自身が『自分の機嫌を自分でとる』ということがまず大前提で、そこから「叱る」という行動ができるのだと思いました。仲の良いお母さんとのお話しやこの本の内容をふまえて、私も自分の機嫌の舵を自分でとって頑張ります!(池田沙幸)★2
とても大切な内容ですので、今回はこのことを解説します。
2.弁別の法則
3.怒る母親が多いのはなぜか?
4.言葉づかいの問題
5.アンビバレントという問題
6.まとめ
1.「叱る」と「怒る」の違い
感情的かどうかということだと思います。
他意はありません。
どちらもオススメできません。
「怒る」は駄目だけど「叱る」はいいんじゃない?
と思っている人もいるようですが、違いはありません。
違うのは感情が入っている分だけ怖くなるという「程度の問題」です。
2.弁別の法則
親や教師はなぜ叱るのか?
それは「やめさせたい行動」があるからでしょう。
では、怒ったり叱ったりすると「やめさせたい行動」は減るのか?
それは、その時は減ります。
それが「麻薬」なのです。
親や教師は、その時に行動が変化したので「効果があった」と思ってしまいます。
子どもは、叱られたので、その時はやめます。
ここが大事です。
やめたのは、叱られたからです。
もっと言うと、叱る人がいたからです。
和久田学博士はこれを「先行条件によって行動は変化する(弁別の法則)」と説明しています。(『科学的に考える子育て』p36)
この場合の先行条件は「叱られる」「叱る人がいる」です。
子どもは条件を弁別します。
・叱られる時→言うことを聞こう!
・叱る人がいる時→言うことを聞こう!
親や教師は効果を実感し続けます。
・「叱る」は即効性がある!
・「叱る」は良い方法だ!
これが「麻薬」です。
目の前で子どもが変化しますからこの実感は強化されます。
我が子が人前でダメな行動をした時など、親は自信を持って叱ります。
そして、子どもは弁別します。
これが「弁別の法則」です。
3.怒る母親が多いのはなぜか?
以前、このブログで「街で見かけた理不尽な叱り方」というシリーズを書きました。
すべて実際にあった出来事です。
全部、母親が言っています。
このような場面に遭遇したことはありませんか?
私は怒っている母親の顔まで目に浮かびます。
このような母親がなぜ多いのか?
それは「親」になったからです。
こうした母親は子どもの頃に「弁別の法則」を身につけています。
・叱られる時→言うことを聞こう!
・叱る人がいる時→言うことを聞こう!
そして、実感しています。
・「叱る」は即効性がある!
・「叱る」は良い方法だ!
そして大人になり、親という立場になった。
今度は自分が我が子を叱る番です。
こうして、「怒る・叱る」は世代間伝達されます。
4.言葉づかいの問題
「怒る・叱る」には、あと二つ問題があります。
その一つは「言葉づかい」の問題です。
親や教師は、子どもを叱る時に「荒っぽい言葉」を使いがちです。
「荒っぽい言葉」「乱暴な言葉」は感情を刺激します。
防衛本能を刺激するので「3F(動物脳)」にスイッチが入ります。
反発したり、逃げたり、固まったりするわけです。
行動を変化させるのも防衛のためです。
叱られる→防衛(行動の変化)
この時に人間脳(前頭前野)は使われません。
じっくり考えていたら自分を守れないので動物的に反応します。
意味ではなく、感情で行動しているのです。
自分がなぜ叱られたかという状況を人間脳で理解することなく防衛します。
親にとっては「即効」です。
子どもは「即行」です。
そしてこれも世代間伝達されます。
乱暴な言葉によって育てられた子は言葉による理解を面倒くさがるようになります。
言葉による理解を面倒くさがる子は、言葉による理解を面倒くさがる大人になります。
言葉づかいが悪いと「助詞」や「操作語」や「論理語」の使用が極端に少なる
物事を論理的に考えることが苦手になります。
このことは、親になった時に次のような形で現れます。
①待てない親になる(見守ることが苦手)
②教えない親になる(即効性のある手段に走る)
この伝達には教師も絡んでいます。
昭和後期~平成前期の教師は、生徒指導という名のもとに感情的な言葉を乱用していましたから、子どもの頃にそうした経験をした世代は「叱る教育・怒鳴る教育」が強化されているはずです。
幸い、最近の小学校や中学校の先生方は暴言が減ったように思います。
しかし、保育士や母親の間にはまだまだ多いように感じています。
5.アンビバレントという問題
「怒る・叱る」の残り一つの問題は、
母親が我が子を叱ると子どもの心にアンビバレントな感情が生まれてしまう
という問題です。
自分の母親がいつも怒鳴っていて暴力的なお母さんだったとしましょう。
それでも子どもは母親が好きなはずです。
「お母さんコワイなあ」と思っていても、心の中には「お母さんを好きでいたい自分」というものが存在します。
子と母親の絆は運命的であり絶対的です。
世界の中の一人と一人の関係です。
悲しいことに、そのお母さんが暴力的であった場合、子どもの心の中には矛盾が生まれます。
お母さんから逃げたい自分と好きでいたい自分です。
このような相反する心理状態が「アンビバレント(両価性)」です。
状態自体は病気ではありませんが、アンビバレントな状態が長く続くと、うつ症状や摂食障害などを引き起こす可能性があります。
怖いお母さんは気をつけてください。
子どもは母親が好きなんです。
6.まとめ
今回は、池田さんからいただいたコメントから「怒る母親が多いのはなぜか?」という解説をしてきました。
池田さんのコメントの中にはもう一つ大事な指摘が含まれています。
それは「母親にゆとりがない」ということです。
これは社会的な大問題です。
三世代同居から核家族へ移行して、核家族しか知らない世代が核家族をつくり、
最終的には暗黙裡に「母親の自己責任社会」へと変わりました。
日本人男性の育休取得率は14%です。
育休の取りやすさは世界1位にもかかわらずです。
「産褥期(さんじょくき)」の存在さえ知らない男性がいる社会です。
学校で教えていないからです。
システムとしてはまだまだ未熟なのです。
ただし、変わろうとはしています。
高校生に「赤ちゃん学」の授業をすると、「奥さんを助けていい父親になる!」という感想を書く男子生徒が必ず出ます。
これからは男性の育児参加が当たり前の社会が来ると思います。
そうあるべきです。
今はその過渡期です。
産後ケア制度も、ベビーシッター制度も、保育の質の向上もこれからです。
もしかすると母親にとって今が一番大変な時代かも知れません。
しかし、もう少しすれば、昔は「ワンオペ」とか「孤育て」という言葉があったねーと思える時代が来るでしょう。
そうしなければならないと思って私は活動を続けます。
お母さんのゆとり、本当に大切ですよね!私は怒っているお母さん、責められません。何でこんなに育児が大変なのか、、、やはり、手助けが少ないからなのでしょうか?子供の問題行動に対する社会の目が厳しいというのもあるのでしょうか?
私自身、先生の講座を受け、ブログを読んでも、なかなか怒らない、叱らないが実践できなくて悶々としていたのですが、突然、昨日から、怒るの止めようとふと思い、まだ2日目ですが、続いています。
大きな気付きがありました。私は、子供の問題行動に対して、いつか大人になるまでは止めると理解していましたが、実際は、止めさせないといけないと、強迫的になっていたなと。口で適切な行動を教え、その場で出来なかったら手助けする。これは、なかなかストレスなくできていて、発見でした。改めて、今出来なくても、将来出来ればいいと感じるようになっています。
そして、子供は3F状態にならないので、すぐに、怒っていないからこそ?、ごめんなさい、分ったよなんて言葉が出てきます。そうすると、伝わったなと感じ、こちらもそれで満足です。次の瞬間また同じことをしたら、繰り返せばいい、そのような感じです。とても楽です。
大きなきっかけとなったのは、向山先生のお母様は叱らないのが当たり前というエピソードです。叱るを当たり前にしていてしんどいなと感じていたので、叱らないを当たり前にしたい、、、から、当たり前にしているところです。
長々とすみません。いつも有用な情報ありがとうございます。
そうです。
それが「教えて、ほめる」です。
体得されましたね!
結果はすぐに出なくていいのです。
「大人になった時」でもいいのです。
私たちだって大人になってようやくわかってきたことがたくさんあります。
子どもはできなくて、分からなくて当然です。
目の前で結果が出なくても、叱るよりはマシです。
叱るといいことはあまりありません。
小学生になると、教える機会も少なくなります。
「教える」より「驚いてあげる」ことの方が多くなるかもしれません。
そんな感じです。
素晴らしいコメントをありがとうございます。