講座598 2030年 どうなる?「日本の教育」(7)
【自己調整学習】縦の糸と横の糸
2.効果的な学習方法と効果的な指導方法
3.「統合的な理解」を実現させる指導方法
4.まとめ

1.自己調整学習をどうやって指導するか

今回は、自己調整学習における「三つの層」の一番下の層について解説します。
ここで最も重要なのは、青で囲んだ小っちゃい字の所です。
拡大してみます。

※研究では、教師による方略の直接的な教授の有効性が示されている。
ここでいう「研究」というのは、ドイツのシャーロット教授らのレビュー論文「The Role of Direct Strategy Instruction and Indirect Activation of Self-Regulated Learning—Evidence from Classroom Observation Studies」(2020)のことだと思われます。
この研究では、何がわかったかと言いますと、次のことです。
自由に学ばせれば自己調整学習になるというわけではない。
当たり前のことですね。
だから、次のことが必要だということです。
ステップ① 必要となる方略をまず教師が教える
ステップ② 徐々に教師の支援を減らして行く
ステップ③ 必要となる方略を子供が選択して学習を調整できるようにする
これも当然ですよね。
この論文をAIに要約させて結果、次のまとめが出力されました。
自己調整学習を子供任せにしてはいけない。必要な方略は教師が明示的に教え、その上で自分で使える学習環境を整えることが重要である。
「明示的」というのは、意識的ということでしょう。
教師が意識的に教えることが大切だということです。
その「意識」というのが、ステップ①→②→③です。
まず、教師が方略を教える。【直接的な指導】
徐々に、教師の支援を減らして行く。【間接的な指導】
最後は、子供自身が方略を選択・調整できるようにする。【学習環境の工夫】
この三つが「方略の指導に関する類型」ということである。

つまり、この三つは別々にあるのではなく、指導のステップなのです。
そう読むわけですね。
教師の中には、〈自己調整学習というのは子供に任せる学習のことだ〉と思っている人がいるかもしれませんが、それは違います。
〈自己調整学習=任せること〉ではありません。
たとえば、算数の文章問題の授業をイメージしてみよう。
「算数の文章問題では、すぐ答えを出そうとしないで、まず〈どんなお話なのか〉を考えましょう。」
と教えることがあります。
これは方略の「直接的な指導」です。
もっと具体的に解説しましょう。
ゆうとさんは、えんぴつを 3本 もっていました。ぶんぼうぐやさんへ いって、あたらしく えんぴつを 4本 かいました。えんぴつは、ぜんぶで なん本に なったでしょうか。
教師「どんなおはなしですか?」
子供「えんぴつを買って、全部でいくつになったのかというおはなし。」
教師「そうだね。算数で〈おはなしの問題〉が出てきたら、水野先生はいつも〈どんなおはなしですか?〉って聞くからね。」
こういうのが「方略の直接的な指導」です。
子供たちに宣言したように、これをいつもやるわけです。
そうしますと、算数で文章問題が出てきた時に、子供はもうわかってしまいます。
一年生なんか特にそうです。
だから、こうなります。
教師:文章問題を読んだあとで言う。
「つぎ、先生はなんて聞くと思いますか?」
子供:「どんなおはなしですか(って聞く!)」
子供たちは嬉々として答えます。
こうやって徐々に“教師の手”を減らして行くわけです。
これが「間接的な指導」です。
そして、学年末の算数の時間に、文章問題をたくさん与える授業を設けます。
これが「学習環境の工夫」です。
※研究では、教師による方略の直接的な教授の有効性が示されている。
こうした意図的な指導に効果があるというわけです。
ちなみに、「つぎ、先生はなんて聞くと思いますか?」というような言葉をアクティブラーニングでは「足場かけ」と言います。

2.効果的な学習方法と効果的な指導方法
さて、これで自己調整学習における「三つの層」の解説がすべて終わりました。

解説を終えてみてわかったのですが、もしかしたら緑色の「第三層」が一番わかりやすかったのではないでしょうか。
三つのステップはシンプルですよね。
あとは、方略にはたくさんの種類があるので、それを「第二層」で把握しておけばいいと思います。
そして、「方略」とは〈問いを持たせること〉であったことを忘れないでください。
例にあった「どんなお話か?」も〈問い〉ですよね。
私の場合ですが、「第一層」はあまり意識しません。
実際の授業でダイレクトに影響するのは「第三層」と「第二層」だと思います。
そして、この図の中には出ていませんが、もう一つ影響する知見があります。
それはこの図です。
これは、「自己調整学習研究会」代表で名古屋大学の教授でいらっしゃる中谷素之先生が総則・評価特別部会に提出された【資料1-2】の中にある図です。
「方略の種類」に挙げられているのは、①動機づけ方略、②認知的方略、③メタ認知的方略の三つです。
「素案」では、①動機づけ方略、②学習方略、③メタ認知的方略の三つでした。
実は、「素案」にある②「学習方略」という言葉は、自己調整学習の方略全体を示す広い概念なので、この図における分け方のほうが適切であると考えます。
ですから、本来はこうなるべきです。

図の右側の数値の「効果量」というのは、0.2前後が小、0.5前後が中、0.8以上が大きい効果とされます。
その目安で〈三つの方略〉の効果を見てみましょう。
動機づけ方略は、0.94ですから〈効果大〉です。
認知的方略は、0.37ですから〈効果小〉です。
メタ認知的方略は、0.70ですから〈効果中〉です。
そして、この図が示している最も重要な発見は、〈組み合わせると効果が高まる〉ということです。
動機づけ方略とメタ認知的方略を組み合わせた場合の効果は、1.13で〈非常に高い効果〉となります。
出典となっている「Dignath et al.,」とは、「小学生が自己調整学習戦略を最も効果的に習得するにはどうすればよいか?:自己調整トレーニングプログラムに関するメタ分析」(2008)という論文です。
この論文は、小学校1〜6年生を対象にした自己調整学習の研究論文をメタ分析したものです(これもドイツのシャーロット教授の研究)。
①動機づけ方略、②認知的方略、③メタ認知的方略を〈単独または組み合わせ〉で教えたときの効果を比較しています。
この図です。
この結果はメタ分析によるものですから、信頼性の高いものです。
そして、その結果を読み取り、一文で示すとこうなります。
学習方略は、組み合わせると効果が高まる。
この「組み合わせる」を別な言葉で表現したのが「統合」です。
ですから、「素案」では「統合的な理解」という言葉がキーワードになっています。
次期学習指導要領における有名なキーワードは「深い学び」ですが、この「深い学び」の半分が「統合的な理解」で、残りの半分が「総合的な発揮」です。
「理解」と「発揮」ですから、この二つは〈入力〉と〈出力〉の関係です。
「素案」の12ページから抜粋しましょう。
次期学習指導要領における「深い学び」とは、個別の「知・技」、個別の「思・判・表」について、一体的に育成しつつ、それらの統合的な理解や総合的な発揮を促す学びと言うことができる。
さらに、この「統合的な理解」と「総合的な発揮」という考え方は、現・学習指導要領にはない〈新しい取り組み〉であることが13ページに書かれています。
「統合的な理解・総合的な発揮」による構造化は、過去の学習指導要領に前例のない取組であることから、その性質をよく整理した上で、具体的な記載を検討する必要がある。
「具体的な記載を検討する必要がある」と書かれていますが、その具体例(指導方法)のいくつかをこのブログで書いたことになります。

3.「統合的な理解」を実現させる指導方法
もう一度この図を見てください。
大事なことがもう一つあります。
それは〈認知的方略単独では効果が小さい〉という点です。
認知的方略とは、どのような学習方略だったかをもう一度見てみましょう。
「素案」では「学習方略」となっている部分です。

認知的方略(学習方略)とは、よりよく理解できる・よりよく定着させることができる学習の工夫です。
次のような方略が認知的方略(学習方略)になります。
反復方略:くり返し学習できるようにする工夫
精緻化方略:既存の知識と関連付けたり、理由や意味を付け加えるなどの工夫
組織化方略:分類や要約などによって体系的に理解できるようにする工夫
教師は、これらの方略を「直接的な指導」「間接的な指導」「環境の設定」という形で身につけさせることになります。
たとえば、「算数で〈おはなしの問題〉が出てきたら〈どんなおはなしですか?〉って考えましょう」という指導は、文章問題が出た時にどうしたらいいかという〈よりよい学習の工夫〉ですから認知的方略です。
そして、「考えましょう」と言った(教えた)だけですから「直接的な指導」です。
毎回、しつこく口癖のように唱えたとしたら、それは反復方略になりますが、指導形態は「直接的な指導」のままです。
しかし、次の時に教師が文章問題を読んだ後で、「つぎ、先生はなんて聞くと思いますか?」と聞くと、子供たちは、教師が持っている方略を予測することになります。
これは、〈教師の発問を手掛かりに方略を検索させる働きかけ〉です。
教師は意図的に〈手を放そう〉としているわけです。
したがって、これは「間接的な指導」というわけです。
シャーロット教授らのレビュー論文では、「直接的な指導」の有効性が示されていました。
「直接的な指導」に効果がないわけではありません。
組み合わせが必要なのです。
自己調整学習を子供任せにしてはいけない。必要な方略は教師が明示的に教え、その上で自分で使える学習環境を整えることが重要である。(再掲)
「次、先生はなんて聞くと思いますか?」
この〈問い〉は、「向山型算数」という指導法において向山洋一氏が使っていたものです。
この〈問い〉には、いくつもの工夫が施されています。
「向山型算数」を実践したことがある先生は分かると思いますが、子供たちは喜んで答えます。
子供:「わかった!どんなおはなしですか(って聞く!)」
この場面に「苦痛」はありません。
嬉々として答えます。
目が爛々としています。
〈先生の頭の中を予想する〉という行為は、子供たちにとって楽しいのです。
ただし、漫然とやっても効果はありません。
リズム、テンポ、敏感性が必要です。
これは学習方略で言えば、「動機づけ方略」にあたります。
そして、〈先生の頭の中〉にあるのは〈文章問題が出たら、まず、どんな話か考える〉という認知的方略ですから、〈先生の頭の中〉を予測する行為は〈学習方略の検索〉です。
したがって、いつしか教師が何も言わなくても、文章問題が出た時に、子供自身が、「文章問題だ。まず、どんな話か考えよう」という思考をする可能性が高まります。
これができるようになった子は、「メタ認知的方略」を選択し、自己調整学習をしたことになります。
ですから教師は、当然の意図として、何も言わずに文章問題に向かわせる機会を設けるはずです。
これが「環境の設定」です。
つまり、「次、先生はなんて聞くと思いますか?」という〈問い〉には、「動機づけ方略」「認知的方略」「メタ認知的方略」という〝横糸〟と、「直接的な指導」「間接的な指導」「環境の設定」という〝縦糸〟が組み合わせれているということが分かります。
つまり、「次、先生はなんて聞くと思いますか?」という〈問い〉は、「統合的な理解」を目的とした指導言なのです。
研究では、「メタ認知的方略」と「動機づけ方略」を組み合わせた場合の効果量は、1.13で〈非常に高い効果〉となっていました。
このことから予想すると、向山洋一氏の「向山型算数」による指導は、かなりの効果が期待できると思われます(実際に私は「向山型算数」で算数の授業をしていたので学級のテストの平均点は90点前後でした)。

4.まとめ
以上、三回にわたって「自己調整学習」の解説をしてきました。
講座596 【自己調整学習】親に言われなくても自分で勉強ができる子の秘密
ここでは、「自己調整学習の価値」について解説しました。
「社会の創り手」となるには、「深く学んで真実を求めようとする使い方」ができなければならない。
ここでは、〈問い(内言)〉を持つことの大切さについて解説しました。
自己調整学習が「能動的」と言われるのは、〈自分で自分に問いかけながら進める〉からである。
そして、「講座598【自己調整学習】縦の糸と横の糸」では、
効果を高めるには方略を組み合わせることが必要であることを解説しました。
自己調整学習は〈学習法〉である。〝子供任せ〟にする授業ではない。
「効果的な学習方法」と「効果的な指導方法」は分けて考えねばならない。
全三回を一枚の図にまとめます。




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