講座595 2030年 どうなる?「日本の教育」(4)
「通級指導」の特例的な取扱い
2.現行制度の問題点
3.次期学習指導要領ではどうなるか?

1.「通級指導」の現状
令和8年7月に公表された結果です。
前から言われていましたが、「通級指導」を受けている児童生徒が増加を続けています。
「通級指導」は、通常の学級に在籍したまま、必要な時間だけ支援を受ける制度です。
〈在籍異動をせずに済む〉というのは、利用者が増えている一因だと思います。
学校や保護者が「通級が必要かもしれない」と気づいた場合、年度途中からでも利用できます。(出典:「通級による指導を担当する教師のためのガイド」文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課・令和2年3月)
手続きの仕方は自治体ごとに異なります。
申込み時期や審査・判定の回数、利用開始までの待機期間は市町村単位で違うわけです。
基本的には、〈医師の診断が必須ではない〉という点で、診断のない児童生徒でも利用できます。
こうした点も、利用者が増えている一因でしょう。
しかし、その背景にあるのは、〈支援を必要としている子が増えている〉ということです。
ここは揺るぎないことです。
どんなお子さんが利用しているかを見てみましょう。
「注意欠陥多動性障害」「学習障害」「自閉症情緒障害」「弱視・難聴・肢体不自由及び病弱・身体虚弱」「言語障害」と様々です。
「弱視・難聴・肢体不自由及び病弱・身体虚弱」以外は、ほぼ同じ割合になっています。
この増加傾向は今後も続くでしょうから、ここで「通級指導」に関する問題点と最新の動向を整理しておきます。

2.現行制度の問題点
現行の通級指導制度には問題点があります。
その問題点を超簡単に言います。
通級では、教科の勉強が出来ない。
この一点に尽きます。
通級制度を利用できるようになったとしても、国語や算数といった教科の学習は出来ないことになっています。
でも、利用する子の実態としては、〈障害の診断は持っていないけど、多人数の教室では勉強が困難なので少人数で授業を受けたい〉というニーズがあります。
〈少人数や一対一なら学習が成立する〉とか、〈静かな環境なら勉強できる〉といった〝困難さ〟を持った子供たちです。
通級教室では、通常学級よりも少人数で指導を受けられるので、そうしたニーズが生まれるのは自然なことです。
しかし、残念ながら、通級では、教科の勉強は出来ないことになっているのです。
どうしてなのかを説明します。
そのことを知るには、文科省のWEBページにある「通級による指導の制度的位置付け」を読むのがいいと思います。
そこには次のように書かれています。
通級による指導は、学校教育法施行規則第140 条及び第141条に基づき行われています。
この「第140 条及び第141条」というのは何かと言いますと、大したことは書かれていません。
認められた場合には「特別の教育課程」を実施できるということだけです。
通級にとって重要となるのは次の法例です。
学校教育法施行規則第百四十条の規定による特別の教育課程について定める件(平成5 年文部省告示第7 号)
この中で、通級指導というのは、「障害に応じた特別の指導」であると規定されています。
で、その「障害に応じた特別の指導」というのは何かということも規定されています。
障害に応じた特別の指導は、「障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服することを目的とする指導」とされています。これは、特別支援学校の特別な指導領域である自立活動の目標とするところであり、通級による指導とは、特別支援学校の自立活動に相当する指導とされています。
「通級による指導とは、特別支援学校の自立活動に相当する指導とされています。」
これです。
通級指導とは、「特別支援学校の自立活動に相当する指導」なのです。
「自立活動」というのは、国衙や算数といった教科の指導とは別です。
自立活動は、障害による困難の改善や克服を目的とした活動で、そのために必要な知識、技能、態度、習慣を養う活動のことです。(詳しくは「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領」第7章)
この規定が根拠となって、〈通級は自立活動をする所〉であり、〈勉強をする所ではない〉という理解が根本の制度なのです。
しかも、この告示には次のような〝念押し〟まで書かれています。
単なる各教科の遅れを補充するための指導とはならないようにしなければなりません。
これが現場の先生方を苦しめます。
教室での授業について行けなくて困っている児童生徒に、少人数でじっくり向き合って教えてあげたいと思っていても、教科の指導は出来ないことになっているのです。
要するに、制度と現場との間に齟齬が生じているのです。
そこで、先生方はどうしているかと言いますと、この告示の次の部分をうまく解釈して、〝こっそり〟と、国語や算数などの勉強を教えています。
なお、特に必要があるときは、障害の状態に応じて各教科の内容を取り扱いながら行うことができることとされています。
この子には教科の勉強が「特に必要」なんです!
と解釈して、〝こっそり〟やっています。
私もやりました。
私の勤務校では、放課後の通級指導でしたから〈7時間目〉がその時間でした。
通級にやって来る子供たちは、もうヘトヘトです。
さんざん多人数の教室で、困難を抱えながらも、授業を受け続けた後に(他の子たちは帰りの会で「さようなら」の挨拶をしたあとで)やって来るわけです。
もう勉強なんかしたくありませんよ。
指導する側も、可哀そうなのでゆっくりさせたくなります。
大抵は「疲れたよね」と言って、雑談から始めます。
〈7時間目〉ですから、帰りが遅くなります。
学校の玄関には誰もいない時間です。
秋、冬は、外が暗くなっています。
そうしますと、「障害による困難」は〈宿題〉になります。
在籍は通常学級ですから、みんなと同じ〈宿題〉があります。
〈7時間目〉があって、帰りが遅くなって、その上〈宿題〉があるのです。
これこそ通級指導を受けている子が抱える現実の「困難」です。
ですから、私は通級指導の時間に〈宿題〉をさせていました。
そしたら帰ってから楽ですよね。
これが〝癒し〟になります。
自立活動のねらいにある「心身の調和的発達」です。
しかも、その日に出された〈宿題〉というのは、〈その子がいま教室でやっている学習〉ですから、直接的な支援になるのです。
私はこうして、〝こっそり〟とやっていました。
しかし、制度的には〝堂々〟とではありません。
再掲しますが、「通級による指導とは、特別支援学校の自立活動に相当する指導」なのです。
〈但し書き〉は付いていますが、極めて制限があります。
ただし、この場合も、あくまで障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服することを目的として行われることが必要であり、単なる各教科の遅れを補充するための指導とはならないようにしなければなりません。
以上が、現行の通級指導の問題点です。

3.次期学習指導要領ではどうなるか?
この問題があるので、私は「素案」に期待しました。
次期学習指導要領ではどうなるのでしょう。

「素案」の95ページにこうあります(赤印)。
通級による指導については、自立活動に加え、特例的な取扱いとして、各教科の指導を実施できるよう見直すこととしている。また、自立活動を取り入れることを一層明確に規定し、自立活動の指導と通常の学級における各教科等の指導をより密接に関連させることが重要である旨を示すこととしている。
「各教科の指導を実施できるよう見直すこととしている。」
なんと力強い文言でしょう。
「見直すこととしている」に、期待〝大〟です。
ただし、「また」以下も重要です。
また、自立活動を取り入れることを一層明確に規定し、自立活動の指導と通常の学級における各教科等の指導をより密接に関連させることが重要である旨を示すこととしている。
やっぱり通級は〈自立活動が基本〉なのだという線は崩さず、逆に「明確に規定」するとしています。
ただし、「各教科等の指導をより密接に関連させる」とありますから、これまでの自立活動とは異なり、各教科との関連性が重視されています。
この点については、私なりの解釈になりますが、「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」に〈なぜ各教科の指導を取り入れるのか〉という説明を明記する必要があると思います。
保護者との合意の上に、そうした計画が明記された上での支援が一層重要になるという解釈です。
これを逆に言えば、そうした計画を立てた上で実施するなら、〝堂々〟とやれるということです。
そうです。
次期学習指導要領では、〝こっそり〟やらなくてもいいのです。
そうなることが期待できるのです。



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