講座594 発達障害?小学校入学までにできること!
2.入学までにやれること《その前提》
3.入学までにやれること《専門的な理解》
4.入学までにやれること《その具体例》
5.入学までにやれること《組み立てと般化》

1.就学時健康診断が早まる理由
近年は、就学時健康診断の時期が早まっているようです。
私が住んでいる地域では、「10月」だったのが、「8月」に変わっています。
法令上は、11月30日までに実施すればよいのですが、支援の判断(就学先の判断)に時間を要するようになってきたために(必要に迫られて)、早くなっているようです。
具体的に言えば、検査や相談を必要とするお子さんが増えていることと、それに伴って必要となる保護者との合意形成に時間を要するということでしょう。
私が住んでいる近隣では、3~4割の新入学児童が〝要検討〟となっているようです。
保護者の間では、「ウチの子、引っかかっちゃった!」などという言い方になるようですが、
これまでにたくさんの保護者と出会って来た経験から申し上げますと、
学校生活のスタートにあたって、心配し過ぎるのはよくありません。
どうしてかと言いますと、
〈小学生になる〉というのは、子供にとってウレシイことだからです。
ほとんどの子供たちは小学生になることを楽しみにしています。
学校で勉強するのを楽しみにしていますし、意欲満々です。
〈自分は成長した〉という誇りを持って学校生活をスタートさせるのです。
家族全員でその〈わくわく感〉を共有し、明るい雰囲気をつくってあげて欲しいと思います。

2.入学までにやれること《その前提》
そうは言っても、実際に〝引っかかっちゃった〟保護者の方は心配を拭えないと思います。
そこで、今回は具体的なアドバイスを書き出してみたいと思います。
その前に、〈やってはいけない事〉を書いておきます。
たまにあるのですが、我が子が〝引っかかっちゃった〟ことによって、突然、猛勉強をさせるタイプの保護者がいます。
これはいけません。
勉強が嫌いになってしまう可能性があります。
先程も書きましたが、小学校入学時というのは、人生で最も勉強する意欲が高まる時期です(本当は、学年が進むにつれて意欲が高まって欲しいのですが、残念ながら日本の実態はその逆です)。
せっかく〈やる気〉になっているのですから、その意欲を潰すことだけは避けましょう。
ですから、意欲を高めるような勉強なら大丈夫です。
でも、「不安」によって「突然」始める勉強は、多くの場合、〝闇雲〟になりがちです。
たとえば、〈本屋さんでドリルを買って与えるだけ〉とか、そういう安易な方法では〈入学準備〉にはなりません。
大切なのは「明るい雰囲気」です。
まず、そのことをお伝えして、一つの具体的な例を紹介いたします。

3.入学までにやれること《専門的な理解》
たとえばですが、今では、ほとんどの学校の新一年生の教室で見られると思いますが、
授業中に席に座っていることができずに立ち歩いてしまう子が出てきます。
この「立ち歩き」に対して、多くの学校では〈支援が必要だ〉と判断して、支援員を付けたりします。
その判断が正しいかどうかは別として、そういうお子さんがいることは珍しくありません。
そこで、こうした時に何が重要かという話です。
最も重要となるのは〈理解すること〉です。
子供のことを〈理解〉することです。
そのためには、こうした行動に対して「立ち歩き」という言葉で処理して終わりにしないことです。
講座484「ウェルビーイングになる育て方・前編」でも書きましたが、
集団生活で必要な能力は次の三つです。
(1)コントロールする力(実行機能)
(2)助け合う力(向社会的行動力)
(3)理解する力(他者理解力)

「立ち歩き」をしてしまうお子さんに必要なのは、この中のどの力でしょう?
それは「コントロールする力」ですよね。
専門的には「実行機能」と言います。
この実行機能には、三つの機能があります。
①我慢(抑制)
②切り替え(シフト)
③記憶保持(ワーキングメモリ)
「立ち歩き」をしてしまうお子さんに必要なのは、この中のどの機能でしょう?
それは、①の「我慢(抑制)」ですよね。
つまんない授業を我慢する必要はありませんが、同年齢の多くの子供たちが我慢できているのなら、やっぱり我が子にも我慢してもらいたいですよね。
入学式などで座っていられなくて一人だけ立ち歩いてしまったら目立ちますよね(つまんない長話だったら我慢できない気持ちはよくわかりますが…)。
そこで、言葉は良くありませんが、
人並みに我慢する機能を入学までに発達させたい!
としましょう。
入学までは約6カ月あります。
その6カ月でやれることを書き出してみたいと思います。

4.入学までにやれること《その具体例》
行動を起こす(Go)か、行動を抑制する(No-Go)かを判断する課題を「GO/NO-GO(ゴー・ノーゴー)課題」と言います。
抑制が苦手な子は、この課題が苦手だということです(この課題は抑制機能の検査方法でもあります)。
ですから、この「GO/NO-GO課題」を使って抑制機能を発達させることも可能です。
たとえば、「信号ゲーム」という療育方法があります。
先生が「青!」と言ったら、子供が歩きます。
「赤!」と言ったら、止まります。
これが、ごく単純な「GO/NO-GO課題」です。
抑制が苦手な子は、こうした行動が苦手だということです。
そして、逆に、こうした行動を通して、抑制機能を発達させることができるというわけです。
実際に、そのことを示しているレビュー論文があります。
カナダのブリティッシュコロンビア大学の教授、アデル・ダイアモンド氏は、実行機能は生まれつき固定されたものではなく、訓練や練習によって向上させることが可能であることを2014年に示しています。出典:Executive Functions(2014)
その訓練や練習をプログラムしてみましょう。
期間は6カ月。
対象年齢は5~6歳(来年入学するお子さん)。
最初に、このプログラムを行う場合の注意点を示しておきます。
さっきの「信号ゲーム」を例にします。
先生(または親)が「青!」と言ったら子供が歩き、「赤!」と言ったら、止まるというゲームでした。
これ、すぐに家庭でマネできると思いますか?
多分、多くの大人は失敗すると思います。
単純なゲームですが、いざ真似しようとすると、人によって違いが表れます。
その「違い」は、ストップさせる時間に表れます。
我が子が、何秒くらい止まっていれば〈よし!〉としますか?
抑制機能の訓練ですから、〈止まっていることが大事だ〉と思いませんか?
多分、多くの一般の大人は、そう考えるのです。
でも、それが間違いなのです。
正しいのは〈1~2秒で「よし!」とする〉なのです。
「いち、に。」
これでオッケーです。
「え!そんなんだったら、誰でも出来るじゃん!」
「訓練にならないでしょ!」と思われますよね。
そこが「違い」なのです。
〈止まっていることが大事〉なのでは、ないのです。
じゃあ、何が大事なのでしょう?
それは〈成功させること〉です。
だから、意図的に「1~2秒」なのです。
ポイント❶ 成功させることが重要。そのために目標はわざと低くする。
では、合格基準を「1~2秒」とすれば、この「信号ゲーム」を真似できるでしょうか?
本当にやれますか?
大事なことは、まだありますよ。
それが何か、わかりますか?
先生(または親)が「青!」と言ったら子供が歩き、「赤!」と言ったら、止まる。
止まっている時間は「1~2秒」でよい。
そこまではわかりました。
その次に必要なのは何でしょう?
そうです。
ストップできたことをほめることです。
じゃあ、何と言ってほめますか?
「よし!合格!」←20点
「スゴイね!」←10点
「じょうず!」←10点
100点のほめ方は何でしょう?
それは、
「止まれたね!」とか「ストップできたね!」です。
〈成功させることが重要〉なわけですから、その事実を言葉で伝えます。
その子は、抑制機能が全く機能していないわけではないのです。
少しであっても止まることはできます。
その機能を伸ばしていく(発達させる)のが目的ですから、
その一点に着目して、「できてるよ!」というメッセージを伝え続けます。
「止まれたね!」
「ストップできたね!」
そこに、
「止まるって面白いね!」などという言葉を加えることのできる大人はセンス抜群です。
ポイント❷ 「できた」「できている」という事実を言葉で伝える。
超重要なポイントはこの二つです。
あとは、
ポイント❸ スモールステップで成功体験を積み重ねる。
つまり、少しずつハードルを上げて行くということです。
では、そのプログラムの全体像を提示しましょう。

このプログラムは、既存の研究を参考に私が〈5歳児の個別支援用に再構成した案〉であり、検証済みの標準治療プログラムではありません。
私が個人的に作成したものです。
でも、「6カ月でやれること」のイメージは共有できたのではないでしょうか。

5.入学までにやれること《組み立てと般化》
実施時間は、5分でも10分でも可能です。
ポイント❶~❸を守って続けることです。
幼稚園などで実践するのなら、複数のゲームを組み合わせるのもいいでしょう。
【組み立て方】1回15分の例
①ウォーミングアップ 3分:走る→止まる、音楽ストップなど。
②今日のメイン課題 5分:GO-NO-GO、反対ゲームなど。
③少し難しいチャレンジ 3分:ルール変更など。
④成功して終わる課題 2分:本人が得意なレベルへ戻す。
⑤振り返り 1~2分:「今日は赤で止まれたね」
この場合、毎回同じ構造にすると分かりやすくなります。
大切なのは〈難易度を70~80%にする〉です。
この種のゲームでは、簡単すぎても、難しすぎてもよくありません。
ポイント❹ 10回中7~8回程度成功する難易度に調整する。
10/10なら少し難しくする。
3/10なら簡単にするという調整です。
〈失敗させて覚えさせる〉という発想ではありません。
〈成功できるぎりぎりのところで抑制制御を少しずつ要求する〉という考え方です。
大事なのはやはり「成功体験」なのです。
「成功体験」を際立たせる(楽しくさせる)ための「70~80%」です。
ここまでの説明で、多分、多くの方は真似できると思います。
そこで、最後の〝仕上げポイント〟をお伝えして終わります。
ポイント❺ 実生活に応用する。
これは「6ヵ月目」の課題でもあります(「般化」とも言います)。
お出かけする時の玄関で、
親が「GO!」の合図を出して、ゲームとして靴を履くことができるか?
靴を履き終わったら、勝手に外に出ないで、「STOPしててね!」の合図で〈待つゲーム〉ができるか?
そうした課題を作ります。
これを「GO/NO-GO課題」の般化と言います。
戦後の日本人は、こうした練習に対して「主体性を無視している」とか「軍事訓練的だ」といった抵抗感を持ってしまいがちですが、
バイアスを取り除いて、認知科学における〈子供の発達〉だけを考えてみましょう。
「その後の人生において」今、何が必要であり、何が財産(生きる力)になるか。
そうした考え方が、この「入学までにやれること」の根本にあるのです。
その上で、もう一つ「般化」の例を示します。
たとえば「順番待ち」です。
これも実生活で必要ですよね。
その練習方法です。
公園に行って、すべり台をさせましょう。
他の子が遊んでいる時がチャンスです。
そばに付いて、まだ前の子がいる時に「〈待って〉だよ」と言葉にしてあげます(ジェスチャーでもいいでしょう)。
これは指示ではありません。ゲームです。
前の子が終わる瞬間に「GOだよ!」の合図を言葉(またはジェスチャー)で出してあげます。
いつものゲームですから、付き添っていた大人がやることは、
「ちゃんと待てたね!」という評価です。
記録表を作って、
0点=ほぼできない
1点=大人の援助でできる
2点=時々自力でできる
3点=概ね自力でできる
などと記録すれば、6か月間の変化を可視化することもできます。
最後に、このプログラムの全体構造図を示して終わります。



講座595 2030年 どうなる?「日本の教育」(4)「通級指導」の特例的な取扱い


🍎YouTube動画での解説はこちら!
中標津ひかり&第二【発信】ページ



