講座484 ウェルビーイングになる育て方・前編
2.子育てには「正解」がある!
3.実行機能の育て方
4.「足場づくり」とは
5.「足場づくり」の実際場面
1.「3つの能力」を育てましょう!
心も、体も、社会的にも「健康」であることをウェルビーイング(well-being)と言います。
1946年に世界保健機関(WHO)で初めて使われた言葉です。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。)「世界保健機関憲章前文」
このウェルビーイングを獲得する方法(子育ての仕方)が明らかになりつつあります。
まずは、当たり前ですけど「愛着形成」です。
【人生の土台】乳児期において愛着形成に成功すること
これが大前提です。
近年は、この段階で躓いてしまい、愛着形成不全のまま園や学校に通って来る子供たちが増えているように思います。
私は教師向けのYouTubeチャンネルをちょっとだけやっているのですが、
一番再生回数が多いのが「愛着障害」に関する動画です。
かなり以前にアップした動画なのですが、ずっと1位で再生され続けています。
その愛着形成ですが、これについては、このブログで何度も取り上げていますので今回は割愛します。
今回は、《その他に何が大切なの?》というお話です。
3つあります。
(1)コントロールする力(実行機能)
(2)助け合う力(向社会的行動力)
(3)理解する力(他者理解力)
この「3つの能力」です。
かつて、この「3つの能力」を図にしました。
作図にあたっては、森口佑介さんの『子どもの発達格差』の中にある「自分や他者との折り合いをつける力」というモデルを参考にさせていただきました。
というか、「参考」程度ではなく、ほぼそのままです。
3年くらい前に書いたブログ記事なのですが、つい先日、森口先生のこの本をもう一度最初から最後まで読み直しました。
すると、以前に読んだ時とはまったく異なる光景が見えて来たのです。
それで今回もう一度、この本から学んだことを自分なりに整理してみました。
それがこの図です。
この中の「理解する力(他者理解力)」については、講座299~301「思いやりを育てる方法(前中後編)」で詳しく書きましたので今回は省略します。
今回は残りの二つである「コントロールする能力」と「助け合う能力」について解説します。
2.子育てには「正解」がある!
私のブログの名前は「子育てwin3計画」と言います。
「win3(ウィンスリー)」というのは「win-win-win」という意味です。
この「win-win-win」というのは、「子によし!親によし!世の中によし!」という意味です。
そして、そうした社会を創り上げて行こうというのが私の個人事業である「子育てwin3計画」です(事業説明のページ)。
事業説明のページにも書いていますが、私の運営方針はチョット変わっています。
大抵の「子育ての専門家」は《子育てに正解などありません!》って謳っています。
でも、私はその逆で、「子育てには正解があります!」と謳っています。
これは生来の天邪鬼で反社会的な私の性格がそうさせています。
でも、公の場でそう言うからには、それなりのバックボーンが必要です。
そこで、私は「正解」の基準を持ちました。
(1)科学的根拠がある
(2)社会的効果がある
このどちらかがあれば「正解」と考えています(両方あれば大正解!)。
(1)の科学的根拠というのは、いわゆる「エビデンス」です。
統計処理をした研究結果や大勢の人を集めて長期間にわたって観察した研究結果などは「根拠」とみなされますが、
いわゆる「専門家」の個人的な意見は「根拠」とは言えないほどのレベルです。
このブログでは、科学的な「事実」または統計学的に「有意」な研究結果を「正解」として紹介するように努めています。
(2)の社会的効果というのは、(1)とは逆に数値化するのが難しい現象を指します。
「子育て」というのは、人を相手に行なうものですから、すべてにおいて数値化することは困難です。
しかし、毎日くり返される日常の小さな出来事の中に「大きな意味」を持つスキルが隠れていて、
それがまだ社会的に共有されていない、などという場合もあります。
そして、そういた「小さな出来事」だけど「大きな意味」を持つ子育てスキルは、
「普通のお母さん」が持っていて、使っている場合が少なくありません。
財産が世に出ていないだけです。
でも、その「普通のお母さん」は実感しているはずです。
《我が子がちゃんと育ってくれてよかった》とか、
《我が子が困難を乗り越えて育った》とか、
《こうしたら子育てが楽になった》とか、
自慢したくはないけれども、自分なりの手応えは感じている。
このブログでは、そうした「手応え」や「実感」も取り上げています。
それらを「スキル」という形で共有することによって、社会的な価値(社会的効果)が生まれるからです。
そして、そのスキルを取り上げる時の基準がこれです。
子によし!親によし!世の中によし!の「三方よし」を満たしているか。
注:「三方よし」とは、江戸時代に活躍した商人(近江商人)の経営方針「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」のことです。売り手だけがもうけを得るのではなく、買い手にとっても満足があり、最終的には事業を通じて地域社会の発展に貢献するのが目指すべき会社経営の形であるという考え方です。現代ではこれを「企業の社会的責任」と言って持続可能な世の中を作るための重要な考え方になっています。
《そんなうまい方法があるの?》と思われるかも知れませんが、会社経営の世界では、成功している多くの企業が経営方針に「三方よし」を採用して発展しています(パナソニック、オムロン、資生堂、トヨタ、ヤマト運輸、伊藤忠商事、セブン&アイ・ホールディングス、ヤンマー、大丸など)。
私は「子育て」にも、成功するための方針が必要だと考えています。
その方針が「子によし!親によし!世の中によし!」の「三方よし」であり、
「三方よし」になっている子育てというのは、社会的効果のある子育てだと断言できると考えています。
(1)科学的根拠がある
(2)社会的効果がある
これがこのブログにおける「正解」の考え方です。
3.実行機能の育て方
さて、今回は「幸せな子育て」にとって重要な「実行機能」についての解説です。
実行機能というのは、《目標に向かって自分をコントロールする能力》のことです。
実行機能が高い子は、大人になった時に病気(生活習慣病など)になりにくく、社会的地位や収入も高く、困難を乗り越える力を発揮でき、犯罪や依存などに巻き込まれる可能性も低いことがわかっています。(文献:ニュージーランドのダニーデン縦断コホート研究の結果)
では、《実行機能を高める子育て》とはどのようなものか。
実行機能は脳の前頭前野を中心としたネットワーク機能ですから、小さい時に意識して前頭前野を育てていれば大丈夫です。
乳幼児は好奇心のかたまりですから、その好奇心を大事にして育てるということです。
もう少し具体的に言うと、「いつもと違う刺激」を大切にすることです。
それは「玩具」でもいいでしょう。
同じ玩具でも遊び方を変えれば「いつもと違う刺激」になります。
それは「人」でもいいでしょう。
久しぶりにジイジが遊びに来てくれれたら「いつもと違う刺激」になります。
また、ジイジが来てくれなくても、いつものお母さんが、いつもと違う遊びをしてくれたら「いつもと違う刺激」になります。
私たちは『6歳までに1000の体験!』という本を出しましたが、
体験もまた「いつもと違う刺激」ですね。
では、どんな風に実行機能を高めるのかという実践例をあげてみようと思います。
先日のことです。
私は孫(2歳)の家に遊びに行きました。
天気が良かったので母親は畑仕事をしていました。
孫は畑で遊ぶのもそろそろ飽きて来て、家に入って私(ジイジ)と遊ぶというので、二人で引き上げました。
その間、母親は畑仕事に集中できるというわけです。
さて、家に入って孫と二人になり、私は持って来た紙袋から、お土産(お菓子や食材)を取り出します。
袋から立方体の箱が出て来ました。
「サイコロキャラメル」を少し大きくしたような箱です。
孫にとっては初めて見る物体です。
当然、開けたがります。
私は好きなようにやらせます。
《箱を開ける》という体験をさせるためです。
ここで多くの人は、《好きなようにさせるのが大事なんだな》と思われるのではないでしょうか。
それもありますが、少し違うような気もするので解説します。
「好きなように」というのは《「自発的」を大切にする》ということです。
そして、《「自発的」を大切にする》というのは、《自発的になる環境を設定する》ということです。
見たことのない箱が出て来たわけですから、触ってみたくなりますよね。
好奇心です。
私は、そういう環境をわざと設定したわけなんです。
自発的行動が生じるような仕組みですね。
その上で《好きなようにやらせてみる》というのが第一段階です。
さて、《箱を開ける》という体験です。
2歳児ですから、これはもうできるだろうと思っていました。
ただし、その後の展開までは予想できません。
ただ、見ているだけです。
箱の中から小さな佃煮の小瓶が出て来ました。
こんな感じです。
そして孫はこの瓶を開けようとし始めました。
これも当然の成り行きです。「海苔の佃煮の小瓶」という見知らぬ物体が出て来たわけですから。
こういう時、皆さんだったらどうしていますか?
そのままやらせていますか?
それとも、《佃煮を開けられたら面倒な事になる》と思って取り上げてしまいますか?
私はもちろん、そのままやらせます。
その「面倒な事」よりも、「自発的」と「好奇心」を重視するからです。
すると、孫は写真の「黄色い紐」を解こうとして苦戦し始めます。
なかなか解けません。
孫は「ジイジが!」と訴えて来ました。
この言葉は《ジイジが開けてくれ》という意味です。
こういう時、皆さんだったらどうしていますか?
それは「甘え」だと捉えますか?
それとも助けてあげますか?
私はどうしたと思いますか?
私は孫の指示に従って、佃煮を手に取り、黄色い紐を解こうとしました。
「うーん。うーん…」
孫の前で頑張って見せました。
わざと《出来ないフリ》をしたわけです。
すると孫は、《もう一回自分がやる!》というジェスチャーで佃煮を手に取り、
再チャレンジしました。
助けたわけではないけれど、無視はしない。
「ジイジが!」という言葉はコミュニケーションです。
どんなコミュニケーションかというと、「信頼」に基づくコミュニケーションです。
「信頼」とは「信じて頼む」です。
孫は、私を信じて頼んでいるわけですね。
ですから、それに応じることは「信頼に応える」ことになります。
「甘えを受け入れる」のとは違います。
話はズレますが、これは《親以外の人物との愛着形成》でもあります。
愛着障害の小学生が、信頼できる先生と愛着形成を図る時にもこのスキルを使います。
周囲の先生方から「甘やかし過ぎだ!」と思われるくらいに受け入れなければ、
学校での愛着形成は成り立ちません。
ここまでが前段です。
でも、私は、わざと、瓶を開けられないフリをしました。
どうしてこんなことをしたのだと思いますか?
こういうことって、やったことがありませんか?
これは「葛藤」を生じさせるスキルです。
ジイジに頼んだのだけれど、ジイジも開けられなかった。
そこで自分はどうするか?
考えるわけです。
思考です。
ここで実行機能が働くわけです。
実行機能の中身は3つです。
「抑制(我慢)」「切り替え(シフト)」「記憶保持(作業記憶)」です。
この場合の孫は、《ジイジにお願いしたけど無理っぽかった》と判断しました。
そこで《もう一度自分でやってみよう》と判断しました。
これが「切り替え」です。シフティングと言います。(出典:森口佑介編著『自己制御の発達と支援』)
ここまで、時間にすれば、10秒か20秒くらいの出来事です。
そして、取るに足らない日常場面です。
私じゃなくても、「普通のお母さん」がやっていることです。
でも、分析をすると、こんなに長く解説できます。
そこに「在れども視えず」があるからです。
そのスキルを取り出し、発信し、共有することが私の使命です。
4.「足場づくり」とは
結局、孫は自分で紐を解くことが出来ませんでした。
他の結び目だと、ほどくことが出来ることがあるのですが、これはダメでした。
こうして、佃煮開封は断念。
次は、佃煮の小瓶が入っていた空き箱に興味が移りました。
この《すぐに興味が移る》というのも幼児の特徴ですよね。
私はこれを「幼児らしさ」と呼んでいます。
幼児期の発達課題は「幼児らしさを使い切らせる」ですから、これはこれでいいのです。
というわけで、次の関心は「箱」です。
こんな箱です。
私は何をしたかと言いますと、
この空箱にピンポン玉を1個入れました。
そして、箱にフタをして、カラカラカラと振って見せました。
そうして、その箱を孫の目の前に戻します。
すると、どうすると思いますか?
開けますよね。
孫はピンポン玉の入った箱を自分で開けました。
「箱を開ける」という行為は簡単に出きるレベルでした。
すると、孫は、次に、自分でフタをしようとしました。
その瞬間、私の「子育て意識」にスイッチが入りました!
わかりますか?
この箱のフタを閉めるのはレベルの高い行為です。
「フラップ」と「タック」を順番に戻さなければならないからです。
両サイドにある「フラップ」を内側に入れて、最後に「タック」を差し込むという作業が求められます。
これはいい体験になる。
私は瞬間的に確信し、孫の行動に注目しました。
果たして、孫は自分で箱のフタを閉めることが出来るのか?
見守っていると、これは難しそうでした。
こういう時って、なんとか成功体験に結び付けたいですよね。
そこで私は、指で、右側のフラップを内側に入れてあげました。
すると、孫は自分で左側のフラップを内側に入れます。
最後にタックは自分で入れようとし、差し込むのに少しだけ苦戦しましたが、入れることが出来ました。
成功です。
この場面を振り返ってみましょう。
私は手助けをしましたよね。
これは「足場づくり」というスキルです。
足場づくりとは、子どもが自分でできないことを、親を含めた周りの他者が少しだけ支援することです。(森口佑介著『子どもの発達格差』178ページ)
この「足場づくり」という支援こそ、幼児の実行機能を育てる重要なスキルです。
森口氏の著書からもう少し引用させていただきます。
研究では、 子どもがうまくパズルができない状況で、親が子どもにどのようにかかわるのかを調べます。ある親は、子どもがパズルをできないのがもどかしくて、自分が実演してみせるかもしれませんし、別の親はほんの少しだけヒントを与えて、子どもが自分で できるように支援するでしょ う。前者は過干渉であり、 後者が 足場づくりです。後者が実行機能を発達させることが示されています。(前掲著178ページ)
「過干渉」と「足場づくり」の違いが分かりやすいですね。
そして、「足場づくり」こそが実行機能を発達させることが研究によって示されていると書かれています。
その研究というのがこれです。
「外部規制から自己規制へ: 幼児の実行機能の前兆となる早期子育て」アニー・バーニエ、 ステファニー・M・カールソン、 ナターシャ・ウィップル(2010)
私には難しくて分かりませんが、科学的根拠があるようです。
でも、なんとなく分かります。
というか、日常場面での「実感」があります。
2歳になった孫の発達の様子からも分かります。
ただ、私のスキルは、森口氏の解説とは少し違うところもあります。
それは「お手本」というスキルです。
私は最初に、ピンポン玉を入れてフタを閉めたところを孫に見せています。
つまり、両横のフラップを内側に入れて、タップを差し込んだ場面を孫は目撃しています。
視空間スケッチパッド(目で見て頭に残す機能)を使い、
「あんな風にやるんだ」ということを無意識の内にも記憶していた可能性があります。
私自身は「実演」して見せたわけではありませんが、
フタを閉めた場面を孫が目撃したことは確かです。
この場合は、これが「お手本」になった可能性もあります。
それに加えて私の「足場づくり」があったということです。
そして、これは私の考え方なのですが、「お手本を示す」という支援も、
幼児の実行機能を発達させ得るスキルだと思います。
これは日本の伝統的子育てスキルでもありますし、たくさんの「事実」と「実感」が学校教育の世界に存在しています。
「お手本を示す」は、決して間違った方法ではないと思っています。
5.「足場づくり」の実際場面
ということで、今回はウェルビーイングを獲得する子育ての仕方として、「3つの能力」の中の「実行機能(コントロールする能力)」について解説しました。
次回は「向社会的行動力(助け合う力)」について解説する予定です。
最後に、今回紹介した「足場づくり」というスキルの具体的場面として、あるお母さんの動画を紹介させていただきます。
動画に登場するお子さんは1歳8ヶ月です。
百均で神経衰弱のカードを購入して「ママと同じカードを探せゲーム」をされている時の動画です。
お母さんが示したカードをよく見て、目をキョロキョロさせて、テーブルに広がったカードから目的のカードを探し出す
という遊びです。
これはまさに実行機能を育てる遊びですね。
実行機能の定義を思い出してください。
【実行機能】目標に向かって自分をコントロールする能力
この動画はまさにその瞬間を撮影したものです。
そして、私が注目したのは、動画の中で、お母さんが「足場づくり」をされた場面です。
それは「三輪車」のカードの時です。
お母さんの行動に注目してください。
ゆっくりと、三輪車のカードを息子さんに近づけて、
本人が「自分で」見つけるように仕向けています。
【足場づくり】子どもが自分でできないことを、親を含めた周りの他者が少しだけ手伝って、子どもが自分で できるように支援すること
まさにこれです。
では、動画をご覧ください。
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