講座482 「自己調整能力」の育て方

先日、『「叱らない」が子どもを苦しめる』という本を読みました。

私の専門分野である「叱り方」のスキルは全く書かれていません。

簡単に言うと、《叱ることも必要ですよ》という社会への提言書です。

学校に来る子供の様子を見ると、十分過ぎるほど家で叱られて育って来ているのがわかるので、

叱ることを推奨する本はどうなのか? と思って読みました。

多分、昨今の教育書は《ほめて育てましょう!》という感じが多いので、その逆を主張されたのでしょう。

当たり前ですけど両方必要だということですね。

それはともかく、この本には大切なことがいくつか書かれてました。

今回はそのことをご紹介します。

 目 次
1.「他責の子」が増えている?
2.金髪女子への対応
3.自己調整能力(self-regulation)
4.他責の連鎖

1.「他責の子」が増えている?

何かあるとすぐに「だって○○君が~したから」と、

すぐに「だって」を言う男の子。

また、自分の行動に問題があるのに、その点はさておき、

「コワ!」という女の子。

《怖い》という言葉を使って暗黙裡に相手を非難しています。

不快の原因を他者に帰することで、一時的に自らの問題を棚上げする、(『「叱らない」が子どもを苦しめる』より)

簡単に言うと「向こうが悪い」「自分は被害者」という思考です。

教育や子育てというのは、

最終的には《自分の人生を自分で責任が負えるような大人に育てること》すなわち「自立」だと思います。

その点で、私も著者の薮下さんと同じ意見です。

2.金髪女子への対応

たとえば、160ページに、金髪にしたいと言い出した中一の女の子の事例が出ています。

この事例に対し、スクールカウンセラーの薮下さんは相談者の母親に次のようなアドバイスをします。

金髪にすることによって起こる色んな出来事を自分の責任として受け止められるかどうか(『「叱らない」が子どもを苦しめる』より)

決めるのはこの一点だけだというわけです。

本人が「自分の責任でやる」と考えるのならば、それでいい。

しかし、後から生じた出来事に対し、「お母さんが止めてくれなかったからだ」とか「これはいじめだ」などと責任転嫁をするようであれば、

まだ自分の行いに責任の取れるほど成熟していないということになるのでいかがなものか。(『「叱らない」が子どもを苦しめる』より)

明確ですね。

自立を視野に入れた明確なアドバイスだと思います。

3.自己調整能力(self-regulation)

それで思ったのが相良敦子先生の「自己責任の育て方」です。

相良先生は『幼児期には2度チャンスがある』の中で次のように書かれています。

現在、小学校の先生たちが嘆いているのは、そのことです。「最低限のことは身につけてきてほしい。それができないまま小学校に入ってくる子どもが急激に増えた」と、昨今の幼児教育を批判します。

この「最低限のこと」というのが《自分のことは自分でやる》という自己責任の能力です。

この中には《自律》とか《制御》、《我慢》という能力も含まれています。

発達心理学では「自己調整能力」と言います。

【自己調整能力】(self-regulation)
自己の欲求や意志に基づいて自発的に自己の行動を調整する能力である。(Thoresen&Mahoney,1974;新名,1991)

相良先生は、こうした能力を育てる敏感期(最適期)が1~3歳だという主張です。

みなさんは、このことを意識して子育てをされて来ましたか?

たとえば、こんな場面はよくありますよね。

一歳を過ぎたあたりから、子どもは「外の世界」と本格的に関わり始めるわけですが、まだまだ分別がつかない子どもですから、やってはいけないことをたくさんやってしまいます。回っている扇風機に指を突っ込もうとしたり、階段から落ちそうになったり、高いところに登ろうとしたり、とにかく親がハラハラしたり、びっくりするようなことを平気でします。(『「叱らない」が子どもを苦しめる』より)

わかりやすい描写ですね。

こういう時に(幼児期前期に)どう対応するのが「正解」なのかということです。

薮下氏は、親として「自責」の能力を意識して育てるべきだと主張されます。

簡単に言えば、叱る、止める、諫めるです。

そのことによって幼児は、《世界には自分の思う通りにならないこともあるのだ》ということを学ぶというわけです。

これが「自律」や「制御」です。

薮下氏はこう表現しています。

外の世界に合わせて自分を調整するという体験

相良先生のいうところの幼児期前期に必要な体験です。

1~3歳の幼児が、ハラハラしたり、びっくりするようなことを平気でするのは、「外の世界に合わせて自分を調整するという体験」をするために神様が与えてくださった成長の機会なのでしょう。

それが敏感期という考え方です。

幼児期に、適切な援助が得られなかったばかりに、歪みを引きずって学童期に入ってしまった子どもは、次第に良くなるどころか、ますます悪くなります。(『幼児期には2度チャンスがある』より)

4.他責の連鎖

他責への振れ幅が大きい現象は、子どもばかりではなく大人にも見られます。

他責する親が「他責の子」に育ててしまうケースです。

連鎖ですね。

この連鎖をどこで断ち切るかという視点を持ち、

社会的規模でリカバリーしていかなければならないと思っています。

発達の順序の大切さをこれからも主張し続けます。

追記

では、1~3歳の幼児にどのような叱り方で接するのか?

それについては今年のリアル母親講座でお話したいと思います。

また、小学生になってからのリカバリーの仕方についても考えてみたいと思っています。

藪下遊、 髙坂康雅『「叱らない」が子どもを苦しめる』

相良敦子『幼児期には2度チャンスがある』

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水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. 大北修一 より:

    わが身に置きなおして読みました。2歳半の孫をどう叱るか。息子夫婦は試行錯誤しています。自責と他責、興味深いです。

    • 水野 正司 より:

      大北先生、お孫さん2歳半ですか!うちは2歳になったばかりです。
      息子さんご夫婦、素晴らしいですね。
      試行錯誤されているという時点で良いお母さんと良いお父さんだと思います。
      2歳の子の叱り方を簡単にお伝えしますと、
      「ダメ!」はダメ(4歳以降)。
      叱る言葉は「定型オノマトペ」です!

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