講座438 語彙爆発の秘密②
理由の一つ目は、《赤ちゃんは推論力を持って生まれて来るから》でした。
今回は、《0歳~1歳半までの間に何が起きているのか》について考えます
2.まだ言葉を話せない時に起きていること
最初のヒントはこの写真です。
こういう時、お母さんはなんと言うでしょう?
次のヒントはこれです。
こういう時はなんと言うでしょう。
次のヒントはこれです。
3つ目の左側の写真は、まだ話せなさそうな赤ちゃんに、お父さんが絵本を読み聞かせています。
その右側の写真は、読み聞かせの名作、松谷みよ子の『いないないばあ』です。
さて、以上のヒントに共通しているキーワードが《語彙爆発の秘密その②》です。
そのキーワードとは一体なんでしょう?
はい。もうわかった方がいるはずです。
5文字。
その方はきっと今年流行した今井むつみさんの『言語の本質』を読んだ方ですね。
でも、この本を読まなくても、大人なら経験的に知っているはずです。
この言葉を知らなくても、赤ちゃんに対してやっているはずです。
最初の写真は、お母さんと赤ちゃんが、一緒に犬を見ていましたね。
こんな時にどう言いますか?
「あっ!犬いるね!」って言いますか?
言いませんよね。
「あっ!ワンワンいるね!」って言いますよね。
二番目のイラストは、お母さんが赤ちゃんをくすぐっていました。
こんな時にどう言いますか?
「こちょこちょこちょ!」ですよね。
最後のヒントは絵本でした。
松谷みよ子の名作の題名は何でしたか?
『いないないばあ』
ワンワン、こちょこちょ、いないないばあ
これらのことを何と言うか。
正解は「オノマトペ」です。
学校の教科書ではこんな風に習います。
【オノマトペ】
①物事の状態を表す擬態語(ふっくら、すべすべなど)
②音を言葉で表した擬音語(ガチャン、ドカンなど)
③人や動物の発する声を表した擬声語(ワンワン、ブーブー)
覚えようとすると頭が痛くなりますからやめましょう。
全部まとめて「オノマトペ」です。
生活の中にはオノマトペがたくさんあります。
私は孫とお散歩に行く時は「あんよ、あんよ」と言っていました。
(江戸時代の人たちは「あゆみ、あゆみ」と言っていたそうです)
ごみを捨てる時には「ポイして来て」。
シールを貼る時には「ペタンして」。
触って欲しくない物がある時は「だいじ、だいじ」と言います。
「ダムダムしてください」と言うと、孫はおもちゃのボールを持ってドリブルをします。
(スラムダンクの影響を受けて育っています!)
最近では「るかわ、ダムダム」と言うようになりました。(^^)/
環境音というのは、要するに「音」です。
手を「パン!」と叩いたら音が鳴りますよね。
これが環境音です。
環境音が聞こえると、脳の右半球が反応します。
音楽も環境音ですね。
それに対して、言語音というのは「言葉」です。
「thank you」とか「おはよう」とかも音ですが、意味を持っていますよね。
ですから、言語音に反応するのは左半球です。
生活の中にある様々な音は、右半球か左半球かに分かれて処理されます。
ところが、オノマトペに関しては、両方の脳が反応するわけです。
「ポイ(POI)」は音ですが、この音を聞いただけで、物を放り投げる感じ(意味)が伝わります。
「ダムダム(DAMDAM)」という音は、ボールを床に突く動作(意味)を感じてしまいます。
このようにオノマトペは《音》と同時に《動作》とか《状態》までも伝える働きを持っているわけです。
もしも、赤ちゃんに対して、「これゴミ箱に捨てて来て」と言ったら言葉の意味が伝わるでしょうか?
伝わる子もいるでしょうが、初めてその言葉を言われたら伝わりませんよね。
でも、「これポイして来て」と言われるうちに、「ポイ」の意味を理解し始め、
ある日、「これゴミ箱に捨て来て」と言った時に、ちゃんと伝わるようになるはずです。
説明しなくても伝わる
それがオノマトペの力です。
私たち大人は《説明すればわかるだろう》という考え方をしがちです。
でも、子どもは(特に9歳以下は)、説明しても伝わらなくて当たり前です。
むしろ、説明はしない方が伝わるのです。
学校の先生方は、そういう考え方に基づいて授業をします。
《「説明なし」でいかに分からせるか》が基本です。
でも、先生以外の大人は、そんなことはあまり考えませんよね。
ところが、オノマトペを使うと、誰でもそれが出来てしまうのです。
説明しなくても伝わる。
さあ、これで《理由②》の答えが分かって来たでしょうか?
思い出しましたか?
人間の赤ちゃんには推論力が備わっています。
「両手で顔を隠してください」などと難しい言葉で言われると、推論は難しくなりますが、
「いないないばあ、してください」などとオノマトペで言われると、推論しやすくなります。
オノマトペは、赤ちゃんの推論を助けるための重要なツール
そして、多くの大人は、それを無意識にやっています。
でも、意識的にやると、赤ちゃんはもっと助かるはずです。
そこで活躍するもうひとつのツールがあります。
それが絵本です。
絵本にはたくさんのオノマトペが出て来ます。
ですから、「オノマトペの力」を知らない大人でも、読み聞かせをすることによって赤ちゃんはたくさんのオノマトペを聞かされることになります。
そして、そのたびに赤ちゃんは推論することになります。
これは『しろくまちゃんのほっとけーき』の中に出て来る言葉です。
なんと全部がオノマトペです。
でも、なんとなく動作や状態が伝わりますよね。
しかも、絵本ですから言葉と一緒に絵があります。
ますます推論がしやすくなります。
ちなみに、テレビや動画だと展開が早かったり、面白すぎたりして、推論する時間がなくなる可能性が高くなります。
そこを考えて、わざと間を空けて考えさせる番組もありますが、あの空白の時間もなぜか画面に集中しちゃって結局何も考えないんですよね(私だけ?)。
その点、絵本だと、自分でその世界を作っちゃうんですよ。
この「自分で」というのが大事です!
集中させすぎずに、赤ちゃんが自分で考える時間を与えてくれるのが絵本なのです。
話をオノマトペに戻します。
絵本に続く、もうひとつのツールがあります。
それは体験です。
お母さんが匂いをかぐ時に鼻を近づけて「クンクン」と見せてあげると、赤ちゃんは「クンクン」を推論しやすくなります。
これが体験です。
「いないないばあ」は、生活の中で体験している上に、絵本にまでなっている最高のオノマトペです。
この絵本の人気の秘密はここにありそうですね。
オノマトペ、絵本、体験
赤ちゃんは、私たちサピエンスが生まれながらに持っている推論力を使い、オノマトペ、絵本、体験などの助けを得ながら言葉の数(語彙数)を増やしていきます(このほかに歌やジェスチャーもあります)。
0歳〜1歳半の間は、「音」からなんとなく「意味」を推論する期間です。
この「なんとなく」というのが「直観」です。
ここで発揮されている推論はアブダクション推論です。
赤ちゃんはアブダクション推論を使って「言葉」より先に「意味」を理解しているわけです。
したがって言葉の数そのものはあまり増えません。
それで0歳~1歳までの間のグラフは平らだったわけです。
もちろん、《声の出し方》がまだ未発達だという身体的な理由もあります(舌骨や声道の発達)。
しかし、それだけだと③で急に「爆発」する理由をうまく説明できません。
その前の段階で、①推論力というものがあり、②それを使って練習している期間が存在していることを知っておくことは、言語の発達にとって重要な意味を持っていると思います。
そのことを知ることによって、養育者は意図的に、「オノマトペ」や「読み聞かせ」や「様々な体験」をさせることが出来ます。
このことは、子育てにとって、とても大きくて、ポジティブな意味を持っていると思います。
ということで、第二の理由は、《なんとなく意味を推論している期間がある》です。