講座583 「見て見て行動」へのアセスメント・後編
前回は「見て!見て!行動(承認欲求)」へのアセスメントについて解説しました。
「見て見て行動」、つまり、〈先生からの評価を絶えず気にする〉という行動に対する理解の仕方を「四つの仮説」で解説したわけです。

【仮説A】快感を求めている
大人に見てもらえることによって〈ウレシイ・タノシイ〉という感情が湧いて快感を手に入れることができるので、「見て!見て!行動」をするということです。

【仮説B】不安行動
〈評価を絶えず気にする〉という行動は、〈正しくできているか不安である〉という無意識が源になっているケースです。

【仮説C】自己評価がまだ外在化されている
「5歳」という年齢では、〈大人の評価を絶えず気にする〉という外在化があるのは自然であるという見取りです。

【仮説D】何らかの困難を抱えている
相手の意図や場面の意味、ルールなどを理解することに対して何かしらの困難を抱えているという見取りです。

今回は、この四つの見取りのそれぞれおける対応の仕方を解説します。
まず、仮説A「快感を求めている」場合への対応です。
この場合は、ADHD傾向があってのことというケースが多いので、その行動を否定するのはNGです。
ADHD傾向というのはその子の個性ですから、それを否定するのは〈個性を否定すること〉です。
むしろ、笑顔、称賛、注目などの報酬を与えることで実行機能が発達するという研究結果があるくらいです。
(参考:「就学前児童の実行機能に対する社会的報酬と非社会的報酬の影響;Effects of social and nonsocial reward on executive function in preschoolers」2007)

ただし、いつまでも〈先生が見てくれなければ行動しない〉というのでは成長が遅れてしまいますよね。
先生の反応が強化因子にならないようにする工夫が必要になります。
そこで、対応には次のような方針が必要になります。
方針❶:大人とのつながりを感じながら一人でも続けられる
方針❷:反応を少し待てる
方針❸:自分で工夫や成功を確認できる
方針❹:友達とも喜びを共有できる
これらの方針を具体化させましょう。
具体化させるためのスキルはたくさんあります。
たとえば「サインキャッチ」。
〈気づいて笑顔で返す〉というスキルです。
A君が「見て見て行動」をして来たら、〈目を合わせてうなずく〉といった反応してあげる。
これは、〈無視せず、ただし、過剰な反応はしない〉という対応ですから強化を防ぐ意図的対応になります。

しかし、いつまでもA君だけを見ているわけにもいきませんし、A君自身の発達にとっても望ましくありません。
そこで、「セルフチェック・ブリッジ」というスキルを使います。
A君が投げ終わった時に、「次は三回続けてみよう!」と言ってやらせてみます。
そうすると、A君は「三回続け」なければなりませんよね。
先生は「三回続け」終わるまでA君に対して評価してはなりません。
もし、一回終わった時にA君が先生の方を見たら、先生は笑顔で対応するのではなく、黙って指を三本示します。
これは「三回だよ」という意味です。
これでA君は「三回続けなきゃ評価してもらえないのか」と気づきます。
つまり、
Before:行動する → 先生を見る → 先生が認める
だったものを、徐々に、
After:行動する → 自分で確かめる → 続ける → 後で先生と共有する
というループへ移していくわけです。
これは方針❶❷❸を具体化させたスキルになります。
報酬(快感)への欲求と発達課題(自己調整)を両立させることになります。

さて、三回終わった後にA君は先生を見ることになりますよね。
その時には、どんな言葉をかけてあげればいいでしょうか?
この流れで考えれば、「先生を見ないでできたね!」と言いたくなるところですが、
それよりも効果的なのは、A君が行動した事実に基づいて、
「三回、自分で続けられたね!」
「『三回やる』を覚えていたね!」
「途中で止まらずに続けられたね!」
と、使った制御過程を言葉にしてあげます。
そのことがA君の制御力(実行機能)を育てる支援になるわけです。

そして、次の段階では、単に回数を増やすのでなく、
「次は何回続けてみる?」
「三回と五回、どっちにする?」
などとA君自身に考えさせるという方法を取ります。
これは「子ども選択」というスキルです。
次は、方針❸と方針❹にスポットを当ててみましょう。
方針❸:自分で工夫や成功を確認できる
方針❹:友達とも喜びを共有できる
この二つは〈報酬の対象を広げる〉という点で共通しています。
要するに、いつまでも〈先生〉や〈大人〉からの報酬を求めるのではなく、自己評価や友達からの評価といった世界へのブリッジを作るという方針です。
いくつかの方法があります。
(1)「遊び方」という視点を与える
「今、どの投げ方が入りやすかった?」
「線の後ろからでも入るかな?」
「さっきより遠くから入ったね」
「自分で拾って続けられたね」
こうした言葉かけは「遊び方」を言語化してあげるという支援になります。
私が来る前は、E先生がA君と一緒に遊んでいました。
その時のE先生は
「もっと離してみるよ!」と言って、玉入れのカゴをA君が立っている位置から少し離しました。
少し難しくしたわけです。
これも「遊び方」ですよね。
遊びは「遊び方」を工夫することによって楽しくなります。
一緒に遊ぶ中でそのことを自然に体験させていくわけです。

(2)仲間との共有へ
「次はB君と交代で投げてみよう」
「B君が入れたら、A君が数えてくれる?」
「玉を集める係をお願い!」
「友達に投げ方を教えてあげて!」
これらは〈自分〉から〈友達〉へのブリッジ言葉です。
ここで重要なのは「楽しい」ということです。
A君は快感を求めているというのが仮説でしたから、「常に楽しい」「より楽しい」という活動の中で、発達を促すことが重要になります。
一緒に遊んでいる先生は、このことを頭に入れながら発達というブリッジを仕掛けて行くことになります。
以上が、仮説A「快感を求めている」場合への対応です。

次は、【仮説B】不安行動への対応です。
不安行動とは、
「これでいい?」
「投げていい?」
「失敗していない?」
「怒ってない?」
といった確認行動の身体化ですから、その不安を取り除くことが「対応」になります。
つまり、安心情報を与えることです。
NG対応は、
・「何度も聞かないの」と叱る
・「自分で考えなさい」と放置する
です。
これらがどうして「NG」なのかの理解が重要です。
不安行動(確認行動)が身体化しているお子さんの背景には何かしらの原因があるはずですが、子供と向き合っている最中にその原因を取り上げても無意味です。
それよりも、目の前にいる「その子の発達」をどうするかとうのが求められているわけですから、その対応について考えます。
そうした子への対応方針は〈自己確認の方法を身体化させる〉です。
玉を投げる前にA君が先生の方を見たならば(それが確認を求める行動ならば)、
「投げていいか聞いているのかな?」
「やり方が合っているか心配なのかな?」
「先生が怒っていないか見ているのかな?」
と、その行動を言葉にしてあげるのが最初のステップになります。
身体化しているわけですから、A君は意識せずに先生のほうを見ています。
その行動を言語化するわけです。
これは「機能的コミュニケーション訓練(FCT)」と呼ばれる方法です。
(参考:「機能的コミュニケーション訓練:レビューと実践ガイド;Functional Communication Training: A Review and Practical Guide」2008)

次のステップは、先生が言語化するのではなく、自分で確認(自己確認)ができるようにするためのブリッジです。
「線の後ろに立てているか、足を見てみよう」
「入ったかどうかは、かごを見れば分かるね」
「友達が嫌だったかは、顔と声を見よう」
「分からなければ本人に聞こう」
などと、〈何をすれば確認ができるか〉という具体的な〈行動〉へ導きます。
ただし、一人の子だけに、いつまでもこうした言葉で支援し続けるのは大変です。
そこで、支援をシステマティックにします。
たとえば、「自分が投げていいか周りのお友達を見てみよう!」という支援と、
「投げる前に立つ場所は合っているか見てみよう!」という支援をしていたならば、
その二つを合体させて、「やった後チェック」と名づけ、
先生が「やる前チェック!」と言ったなら、その二つを自分でやれるようにするといった方法です。
次は、その「やる前チェック」を先生の言葉がなくてもできるように導きます。
そうやって自己確認を身に付けさせる。
それが不安行動が身体化している子への対応例です。
ここで重要なのは、こうした対応が必要なお子さんなのだという見取り(アセスメント)です。
それがあるから、
・「何度も聞かないの」と叱る
・「自分で考えなさい」と放置する
はNG対応だということが理解できると思います。
以上は、不安を背景に持ちながら確認行動をするお子さんへの実践的対応方法になります。
それとは別に、その不安背景を取り除く対応も組織としてしなければならない場合は、家庭の理解や行政や専門機関との連携も考えなければなりません。

【仮説C】自己評価がまだ外在化されている子への対応
これは、〈5歳という年齢では大人の評価を絶えず気にするのは自然である〉という見取りですから、発達と経験によって「見て見て行動」は減るはずです。
ですから、評価し続ける(積極的に見てあげる)という対応が基本になります。

【仮説D】何らかの困難を抱えている子への対応
基本は仮説A、仮説Bと同じです。
仮説AはADHD傾向があるという見取り、仮説BはASD傾向があるという見取りでしたが、
仮説Dは、そうした特性への対応がうまくいかずに二次的な困難を抱えているという見取りになります。
ですから、こうしたお子さんは問題行動を多発させていることが予想されます。
仮説Aで述べた四つの対応方針を基本にしましょう。
方針❶:大人とのつながりを感じながら一人でも続けられる
方針❷:反応を少し待てる
方針❸:自分で工夫や成功を確認できる
方針❹:友達とも喜びを共有できる
仮説Bで述べたNG対応も加えましょう。
NG❶叱る
NG❷放置する
これらに加えて、次の三つが有効だと考えられます。
方針❺:小さな成功を積む
方針❻:その場でほめる
方針❼:何もしていない時でもほめる
「小さな成功」は対応の要です。
超重要です。
しかし、今回は解説しません。
具体的場面をイメージできると思うからです。
❻の「その場でほめる」というのは、
「みんなと仲良く遊んでるね」
「手が出そうだったけれど、止めたね」
「『やめて』と言えたね」
「一人分待ててるね」
などと、適切な行動をしている瞬間を捕まえてほめるという対応です。
❼は、さらにその上の褒め方です。
〈何もしていない=制御できている〉ということですから、ただ座っている時であってもほめるとか、
一人であっても玉入れを楽しんでいること自体をほめるといった見方をすることです。

仮説Dでは「専門機関との連携」が前提でした。
つまり、現場での対応はかなり専門的になります。
すから、ここでは確実性のある対応方針を取り上げました。
それが方針❶~❼とNG対応❶と❷です。

以上「見て見て行動=先生からの評価を絶えず気にする行動」に対する見取りと対応について解説しました。



