講座575 我が子が「AIと相談をする」時代
巨人軍の阿部慎之助監督が辞任されたニュースが様々な衝撃を与えています。
私は〈子育て支援者〉という立場から、〈子どもたちにAIとの付き合い方をどう教えたらよいのか〉について考えてみたいと思います。
2.私たちはどうすべきか?
3.教師ならどう教えるか?
4.生成AIが作った文章は「第三の文章」
5.「第三の文章」を読む時の構え
6.生成AIを味方につけよう!

1.なぜAIに相談するのか
「AIは危険」とか、「子供にはまだ早い」といってAIを避けて通れる時代ではないと考えます。
子供たちの将来を考えればこそ、〈AIに関する教育〉は不可欠でしょう。
今回の事件で、高校3年生(18歳)の娘さんはAI(ChatGPT)を使って家庭内の件を相談しました。
多くの生成AIでは、13歳未満の個人利用は認められていません。
13〜17歳は、保護者の同意や学校・組織の管理のもとで使うことが前提です。
個人で使えるようになるのは18歳以上というサービスが多いようです。
こうした年齢制限はサービスによって異なりますが、「保護者の同意」がどこまで守られているかは家庭によって様々でしょう。
そもそも「知らなかった」というケースもあるような感じがしています。
ただし、今回はこの「同意」の件は別にして話を進めます。
今回の中心テーマはこれです。
子供たちがAIを使って相談や調べ事をする時代になっている。
この娘さんは18歳ですが、まだ高校生ということもあり、ここでは「子供」として話を進めます。
「相談や調べ事」としたのは、ちょっと前までは「ググる」という言葉があったように、調べ事と言えばGoogleなどを使って検索するのが中心でした。
しかし、今は調べ事でもAIを使うのが普通になっています。
そもそもGoogleで調べてもトップに「AI による概要」というGeminiによって生成された要約が出て来ます。
私の場合で言いますと、「検索」は研究論文や公的文書などを調べる時に使うことが多く、軽い調べ事であればGemini、詳しい調べ事であれば有料版のAIという感じで、〈「検索」はDEEPな作業〉というイメージに変わって来ています。
子供たちも多分、検索よりもAIが身近に感じるようになっていると思います。
office masuiの益井貴生さんは、「なぜ10代・20代は『人』ではなく『AI』に相談するのか」という見出しで次の3点を挙げています。
(1)心理的なハードルの低さ
(2)「24時間・即座」のレスポンス
(3)絶対的な「中立性」への信頼
AIには〈相談のしやすさ〉という大きな長所があります。
相手が人間ではなく、AIだからこそ相談しやすいという特長があるわけです。
家族には相談できないようなことでもAIにだったら聞くことができる。
これは確かにあると思います。
たとえ、家族関係が良好な場合であっても、この長所は消えないでしょう。
しかも、24時間いつでも相談できます。
親は早く寝るでしょうが、思春期の子供は部屋で様々悩みます。
まさに「身近」な存在です。
しかも、多くのAIは親切です。
説教臭いことを言いません。
その情報が正しいかどうかは別として、相手を忖度して、もっともらしい回答をしてくれます。
益井さんが書かれた「心理的なハードルの低さ」は確実に存在します。

2.私たちはどうすべきか
AIを使って相談や調べ事をする波は、大人から子供へと広がっています。
この波は止められないでしょう。
しかし、AIを使うことにはリスクもあります。
しかも、そのリスクは年齢が低いほど大きくなる可能性があります。
前頭前野の成熟年齢が24歳頃という研究結果があったと思いますが、脳の成熟だけではなく、社会人としての判断力を身に付けるためには社会経験も必要でしょう。
18歳という年齢であっても、〈まさかこんなことになるなんて〉と思ったわけですから、小中学生だったら尚更リスキーです。
私たちはどうすべきなのか。
教育の力が必要だと思います。
AIに関する教育です。
遠ざけるのでなく、興味を持って学ぶ。
それが人類の学ぶ姿勢です。
ここから先は、子供たちにどのようなことを教えたらよいのかを整理してみたいと思います。

3.教師ならどう教えるか?
私が所属している研究団体のTOSSは、2024年に『9歳から知っておきたい AIを味方につける方法』(監修:谷和樹)という本を出版しました。
「はじめに」の中から抜粋します。
でも、使うほうが圧倒的に便利です。
問題は、「危険性を知らないで使う」ことなのです。
この本は、AIを遠ざけるのではなく、積極的に使うことを目指して書かれています。
その第一歩が〈危険性を知ること〉です。
教師の集まりで作成した本ですので、現在の学校教育と照らし合わせて、新しく何が必要かを考えて作られています。
その第一歩が〈危険性を知ること〉なのです。
では、どんなことが〈危険性〉なのか。
具体的に見て行きましょう。
学校の先生方が必要だと考えることは、ちょっと変わっています。
この本でも極めて基本的な話から始まっています。
世間では「AI」という言葉を普通に使っていますが、今の時代に「AI」と口にするのは、恐らくChatGPTやGeminiなどの「生成AI」のことだと考えていいでしょう。
ですから、もしAIのことを学校で教えるとしたら、「生成AI」という言葉を意識的に使うと思います。
本来は、AI(人工知能)という言葉は、コンピューターを動かす技術全体の名前です。
AIは昔からあったのですが、生成AIが普及した現在では、AI=生成AIという考え方が当たり前になっています。
しかし、子供たちには「生成AI」という言い方に意味があることを教えたいと思います。
この本では、ChatGPTは「文章生成AI」として解説されています。
生成AIにも、画像生成AIや音楽生成AIや動画生成AIなど、いくつかの種類があります。
ですから、
ChatGPTは「文章生成AI」です。
という説明をしています。
そうしますと子供たちは、
「ChatGPTは文章を作るAIなんだ。」
と理解するでしょう。
何でもないことのように思えますが、教師という職業は、こうしたことにこだわります。
なぜなら、常に子供たちの頭の中(理解の仕方)を考えているからです。
〈ChatGPTは文章を作るAIなんだ〉と理解した子は次に何を考えると思いますか?
それはきっと〈どうやって作るんだろう?〉ということだと思います。
ですから、次に必要な展開は、〈どのようにして文章を作っているか〉についてです。
たとえば、このような展開です。
「文章生成AIは、世界中の本やインターネットの知識を集めて、質問された言葉から〈多くの人が納得する答え〉と〈相手が喜ぶような答え方〉を計算して文章を作っているんだよ。」
これも何気ない説明のように見えますが、使う言葉を慎重に選んでいます。
「質問された言葉」とは、高学年になると「プロンプト」という名称で教えたいと思います。
生成AIを使うための超重要キーワードです。
「多くの人が納得する答え」という言い方も重要です。
〈世の中の常識〉と近いかも知れませんが、その常識は人間が持っている(考えて出す)常識とは少し違うような気がします。
単に「世界中の本やインターネットの知識を集めて」計算した常識ですから、飽くまでも機械的な常識です。
しかし、その常識であっても(それだからこそ)多くの人に納得してもらいやすいということになります。
〈この質問には、こう返すのが自然だ〉というパターンやルールを、何千億・何兆という単位で記憶して、「質問された言葉」に対応する形で、統計的に最も正解っぽく見える、確率の高い言葉の組み合わせ、を作っているに過ぎません。
「みんなが納得する答え」を出してくれるのは、「統計的に最も正解っぽく見える確率が高い」からです。
もちろん正解も出しますが、〈正解っぽく見える答え〉を自動的に出してしまうシステムだということです。
これを「ハルシネーション(誤情報生成)」と言います。
次は、答えの出し方についてです。
その〈出し方(答え方)〉が見事です。
相手が喜ぶような答え方も計算しています。
同じチャットの中で対話を重ねたり、同じアカウントを使い続けたりすると、生成AIは利用者の情報を学習・記憶して、〈相手に合わせる能力〉を持ちます。
これを「パーソナライズ」と言います。
また、生成AIは、開発の段階で人間に高評価をもらえるように訓練されているので、〈ユーザーに嫌われない・喜ばせる〉という方針で答えを出します。
これを「シコファンシー」と言います。
日本語だと「お世辞」や「忖度」です。
これも生成AIが利用者の情報を学習・記憶して行くので、ユーザーに合わせた〈相手を喜ばせる答え方〉ができるわけです。
したがって、文章生成AIと対話を重ねれば重ねるほど、まるで人間と対話しているような感覚に陥ることは珍しくありません。
これを「イライザ効果(ELIZA効果)」と言います。
また、「世界中の本やインターネットの知識を全部集めて」という説明は、〈AIは情報を集めている〉という理解につながります。
生成AIはユーザーから質問された瞬間に、最新の情報を探しに行くので、利用すればするほど情報は蓄積されていきます。
これは「RAG(ラグ / 検索拡張生成)」という機能で、AIが外のデータベースやインターネットから最新の情報を検索して、それを元に文章を生成するという仕組み全体のことを指します。
この〈AIは常に情報を集めている〉という理解は、私たちの利用自体がAIの情報に影響することや個人情報を打ち込くことの危険性などへの理解につながります。
以上をまとめます。
「文章生成AIは、世界中の本やインターネットの知識を集めて、質問された言葉から〈多くの人が納得する答え〉と〈相手が喜ぶような答え方〉を計算して文章を作っているんだよ。」
①正解も出すが、〈正解っぽく見える答え〉を自動的に出してしまう(ハルシネーション)
②相手が喜ぶような答え方をするように作られている(パーソナライズ+シコファンシー)
③人間と対話しているような感覚に陥りやすい(イライザ効果)
④AIは常に情報を集めている(RAG/検索拡張生成)
「文章生成AI」という言葉をきっかけにして、このような理解に導くことができるわけです。

4.生成AIが作った文章は「第三の文章」
「文章生成AI」という言葉にはまだヒミツがあります。
ChatGPTは「文章生成AI」です。
ここに「文章」という言葉が付いていますよね。
「文章」というのは大きく分けて二種類です。
説明的文章と文学作品です。

そして、これらの文章を作っていたのは人間です。
そして、文章の書き手には、その文章を作った責任があります。
説明的文章は、人に説明する文章ですから、分かりやすくなければなりません。
タイトルと内容にズレがあってもダメです。
もちろんウソは書けません。
事実を書いているのが説明的文章です。
一方、文学作品は虚構の世界です。
ウソが許されます。
読み手は最初からそれをわかって読みます。
それを承知で、楽しんだり、感動したり、考えさせられたりします。
それが文学作品です。
ですから、学校では、説明的文章と文学作品とでは、読むときの「構え」が違うということを教えます。
同時に、〈文章(書き手)には責任が生じる〉ということも教えます。
国語の教科書の文章に書き手の名前が書いてあるのはそのためです。
説明的文章なら「筆者」、文学作品なら「著者」もしくは「作者」と教えます。
書き手には著作権という権利もありますが、書き手としての社会的な責任もあるのです。

文章を別な言葉で分けると「情報」と「読書」です。
学校での国語の授業は大きく分けて、この二種類です。
ところが、文章生成AIの登場によってこの構造が変化しました。
文章生成AIは、文章は作りますが、責任はありません。
責任が生じるとすれば、生成した文章を使って違法な行為をしてしまうなど、利用者側に責任が生じるケースのほうが多いでしょう。
文章を生成したAIには責任がありません。
サービス会社の安全対策がズタズタで、誰でも簡単に人道に反する文章を生成できるような状態を放置していた場合は開発企業側にも責任が発生すると思いますが、その場合であっても責任が生じるのはサービス会社であって、書き手である「AI」ではありません。
ですから、文章を読解する時の「構え」には、新しい枠組みが必要だと思います。

責任のない文章ですから、読み手には、新しい「構え」が必要になります。
それはどのような「構え」でしょうか。

5.「第三の文章」を読む時の構え
言ってしまえば、生成AIが作った文章を読む時の「責任」は、読み手(利用者)の側にあると言っても過言ではないでしょう。
だからこそ年齢制限が設定されていると言えます。
そして、生成AIが広がることを考えると、子供たちへの教育は不可欠です。
生成AIが作った文章を読む時の「責任」は自分にある。
これが、第一の構えになると考えます。
今は私たち大人も、仕事でAIを使うことが不可欠になっています。
膨大な知識、圧倒的な処理速度など、AIを使わない手はない日々です。
しかし、活用して完成した「仕事」を提出した後で、何か落ち度があったとしても、AIの責任にすることはできません。
「それはAIがミスしたからなんです」などという言い訳は通用しません。
結果責任は自分にあります。
このことは、子供も知っておかなければならないことです。
このことを具体的にするためには、国際大学GLOCOM准教授の豊福晋平さんが提唱されている「6つのスイッチ・クエスチョン」が役に立つと思います。
Q1 「AIの答えにそのまま乗ろうとしていないか」
Q2 「この相談は、AIとの会話だけで終わらせてよいことか」
Q3 「AIの答えは、現実に何が起きるかまで見通しているか」
Q4 「いま一番知りたいこと、決めたいことは何か」
Q5 「AI以外に、誰に相談できるか」
Q6 「自分はどうしてほしいのかを言葉にできているか」
学校教育向けに少し整理してみます。
AIは「みんなが納得する答え」を計算して出すわけですから、〈納得するかどうか〉を自分で決める構えが必要です。
それが構え(スイッチ)の一つ目です。
また、AIは利用のハードルが低いので、自分だけの世界に閉じこもりがちになります。
そこで大切なのは、一度その世界から抜け出して考えることです。
つまり、AI世界から人間世界(現実世界)に戻ってみること。
特に、重要なことであればあるほど、「人間」にも聞くことが大切です。
それがQ2とQ5だと思います。
【大前提】生成AIが作った文章を読む時の「責任」は自分にある。
構え① 納得するかどうかは自分で決める
構え② 人に聞くことも大切である
小中学生に教える時の「構え」としては、このことが最低限必要だと考えます。
その上で、豊福さんが書かれたQ3(想像すること)、Q4、Q6(言語化すること)は、「生成AI活用スキル」として別に取り上げる必要があると考えました。

6.生成AIを味方につけよう!
生成AIを使うためには次の能力が不可欠です。
質問力(使い倒す力)
質問力は、プロンプトの打ち方と言ってもいいでしょう。
詳細は省きますが、プロンプトの打ち方にはコツがありますから、その中の基本的なことを子供たちに伝える必要があるでしょう。
一般に知られているのは次のような打ち方です。
①役割を与える
例:「あなたは優秀なマーケターです」「プロの編集者として〜」
②具体的な指示
例:「〜のアイデアを5つ出してください」「〜を要約してください」
③条件の提示
例:「専門用語を使わず小学生にもわかるように」「100文字以内で」
④出力形式
例:「箇条書きで」「表形式で」「メールの文章の形で」
この他にも、たくさんのスキルがあります。
・質問をくりかえす
・意地悪な視点を投げかける
・あり得ない組み合わせをぶつける
・理想のゴールから逆算させる
・抽象的な質問から入る
このような質問力は想像力とも連動しています。
そのAIのクセを知った上で、「使い倒す」くらいの姿勢です。
そのためには、生成AIの得意・不得意を把握しておくことや、生成AIの種類を知って活用することなど、習得すべき具体的なスキルが存在しています。
そのようなAIスキルは、今後の学校教育で必要になって来ると思います。
ただし、今はその過渡期ですので、家庭におけるサポートが必要です。
そのために今回の記事を書きました。

ここまでをシンプルにまとめます。
【文章生成AIとは】世界中の本やインターネットの知識を集めて、質問された言葉から〈多くの人が納得する答え〉と〈相手が喜ぶような答え方〉を計算して文章を作るAI。
①正解も出すが、〈正解っぽく見える答え〉を自動的に出してしまう(ハルシネーション)
②相手が喜ぶような答え方をするように作られている(パーソナライズ+シコファンシー)
③人間と対話しているような感覚に陥りやすい(イライザ効果)
④AIは常に情報を集めている(RAG/検索拡張生成)
【構え】生成AIが作った文章を読む時の「責任」は自分にある。
【必要な力】生成AIを使い倒すくらいの質問力
当然ですが、質問力には言語能力がかかわってきますから、幼児期からの言葉の育ちが重要です。
学校での国語など教科の授業も大切です。
家庭教育と学校教育の連携が重要な時代です。




