本の紹介

『子育てに苦しむ母との心理臨床』

投稿日:2020年6月19日 更新日:

副題:EMDR療法による複雑性トラウマからの解放

今回ご紹介するのは、大河原美以『子育てに苦しむ母との心理臨床』(日本評論社)です。折り目は48カ所。

熟読しました。カウンセラーにとってはバイブルです。

このことを多くのお母さん方に伝えるのが私自身の課題です。

私たちは一般に、不安や恐怖や痛みなどはないほうがいいと思っていますが、実はとても大事なものなのです。そもそも負情動や身体感覚というものは、ストレス状況にあるということを自身に伝える脳の反応であり、理性や認知による判断(前頭前野)よりも早く的確に行動することを可能にするといわれています。命を守るための本能的な能力、機能なのです。(90ページ)

子どもも同じですね。

マインドフルネスの状態にあると、「不安を感じていることに気づいて不安のままでいることができる」という形で、不安が制御されることになります。(93ページ)

ここの解釈が重要です。意味が通じていたら自己制御はバッチリです。ピンと来ない方のために少し補足します。

マインドフルネスといのは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」(日本マインドフルネス学会)という意味です。評価せずに、ただ受けとめるということですね。

「不安」というのは、自分で自分が不安であることを見つめられれば、不安を制御していると判断されます。制御できないでいる人は防衛反応(暴力、逃亡、フリーズなど)を起こします。自己制御できない子(大人)は、自分の不安を受け止められない人だと言ってもいいでしょう。

それが、「制御できる人=不安のままでいられる人」という意味です。

ここまで理解できた方は解釈の半分が成功しています。

次に必要なのは、「不安のままでいられる」というのは「ストレスを感じている」とか、「我慢している」とか、「じっと耐えている」というような負のイメージとは異なるという解釈です。

「ままでいられる」ということは、ストレスを感じていないということです。「あ!自分はいま不安を感じているな!」と気づくのが初動で、「さてこの不安をどうしようかな?」くらいに落ち着いて受け止めているという感じです。

「子育て」ということについていえば、子どもに泣かれたりぐずられたりしたときに、「困ったな、やだ、もうどうしよう」と思うこと、それはなくなりません。そう感じるのはふつうのことだからです。それは「ただ、そう感じる」ということ、「感じたままでいられる」ということ。「困ったな、やだ、どうしよう」と感じているけれども、それを感じたままでいられれば感情制御困難には陥らないのです。そして、子どもの寝顔を見れば、また幸せを感じられるのです。(94ページ)

これが不安処理の仕方です。泣かれたり、ぐずられたりしたときに自分を責めてしまうお母さんがいますが、それも同じです。自分を責めてはいけません。それは普通のことなのです。自分を責めそうになったら、「あ、今自分は不安を抱えているなあ」という自分を発見して、その「不安を抱える自分」を大切にしてあげてください。「不安を抱える自分」は抱えない自分にとっての大事なパートナーです。「不安を抱える自分」がいてくれるからこそ、それを見つめる自分が別な所で活躍できるのですから。

最後に、健全な感情制御の仕組みを105ページをもとにまとめてみます。

⑴子の動物脳において負情動が喚起されると、子は情動性発声と言われる泣きや奇声を発します。命を守るための愛着行動で動物共通です。

⑵母親は⑴に対して本能的に共鳴を引き起こします。情動調律反応です。

⑶それに基づいて母親は子に安心を与えるための共感行動をとります。すなわち、授乳したり、オムツを替えたり、抱っこしたり、声をかけたり、微笑んだり、あやしたりなどです。

⑷「怖かったね」「気持ち悪かったね」などのリズミカルな声掛けなどにより、子の負情動は言語化され、安心に包まれて制御される状態に至ります。

⑸このような相互作用により、子の「人間脳」が発達し、感情が社会化され、年齢相応の感情制御の能力が身につきます。

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