講座547 (第一次反抗期)現実は難しい

 目 次
1.理想はわかっていても
2.三つの理解
3.「大人の知識」
4.「優しい一貫性」とは
5.無敗無敵の対応

1.理想はわかっていても

講座546「【解説】第一次反抗期」にコメントをいただきました。

子どもを観て声をかけていれば、また叱ったり怒ったりしてなければ、子どもが親に従わなかったり無視しても問題ないということですね。
しかし、何日もお風呂に入れず、体を掻きむしったりおしりが赤く腫れたりしているのを見ると悶々としてしまいます。
これを読んだ直後にも、もう子どもに怒鳴り散らしていました。
理想はわかっていても現実は難しいものです。
(3歳の母)

「理想はわかっていても現実は難しい」

全くその通りだと思います。

何しろ現在の日本のお母さん方は「この20万年間で最も過酷な環境」の中で子育てをされているわけです。

理想通りに出来たら論文にしてノーベル賞をもらえるくらいです。

というか、その理想がどういうものなのかを知っているだけでも珍しいことです。

講座546では、そのスキルをお伝えしたつもりでしたが、実現できなかったとしたら「3歳の母」さんのせいではなく、私の伝え方に問題があったのです。

せっかくコメントをいただきましたので、もう一度挑戦させてください。

2.三つの理解

まず一文目のご質問にお答えします。

子どもを観て声をかけていれば、また叱ったり怒ったりしてなければ、子どもが親に従わなかったり無視しても問題ないということですね。

「子どもを観て声をかけていれば」というのは《見取りと介入》のことですね。

はい。問題ありません。

全くその通りです。

特に、子どもの表情を観ることが大切です。

すべてはそこから始まると言っても過言ではありません。

子どもが熱中している顔というのは尊いですよね。

3歳児にとって《遊び》は仕事や勉強と同じです。

「いっしょうけんめいやってるなあ」と観察するのが見取りですね。

「叱ったり怒ったりしてなければ」というのは《ダメな対応》のことですね。

はい。その通りです。

叱ったり怒ったりするのはよくありません。

怖い顔になっても無視し続けているようなら問題ありませんが、急にフリーズしたり、急に泣き出したりするほど怖がっている場合は問題です。

そのような時は子どもの脳内にトラウマが発生している可能性があります。

もし、そうだとしたら、そのトラウマ(恐怖体験)は必ず記憶(長期保存)されます。

ここまでなら、多くの家庭でよくあることだと思います。

問題なのはそのような体験が長期間にわたって続くことです。

その場合は発達に影響しますので《ダメな対応》の中でも特に注意が必要です。

「子どもが親に従わなかったり無視しても問題ないということですね」

これは《反抗期の反発や無視には発達上の意味がある》ということですね。

はい。その通りです。

自然な反応ですので問題ありません。

講座546ではこのことをメインに解説しました。

3.「大人の知識」

二文目に行きます。

しかし、何日もお風呂に入れず、体を掻きむしったりおしりが赤く腫れたりしているのを見ると悶々としてしまいます。

これは問題です。

子どもの健康や安全が損なわれるレベル(何日もお風呂なし・皮膚トラブルなど)なら、親として介入すべきです。

「見取りと介入」の「介入」とはそういう意味です。

子どもが反発した時に「声をかけて」いましたよね。

それは問題ありません。

でも「何もしない」のはよくありません。

また「怒鳴って従わせる」のもよくありません。

しかし、健康や安全が損なわれるレベルなら親が責任ある判断をして介入すべきです。

それが「大人の知識」による判断です。

「3歳の母」さんが悶々とするのは、《子どもを大切にしたい》という気持ちの裏返しです。

でも、「悶々」は親にとってのストレスです。

できれば、悶々とせずにすぐに介入した方が良いと思います。

4.「優しい一貫性」とは

三文目。

これを読んだ直後にも、もう子どもに怒鳴り散らしていました。

「3歳の母」さんが怒鳴ってしまった理由は何だったのでしょう。

【A】《自分のしたいことばかりする子になるのではないか》という思いから

【B】《親の威厳がなくなるのではないか》という思いから

【C】《またお尻が腫れちゃう!》という思いから

Cだとしたら、自分を責め過ぎないでください。

むしろ十分に《子どもを大切にできる親》です。

最初に書いたように私の伝え方に問題があったのです。

要するに、対応(介入)の仕方ですよね。

講座546では、そこをあっさり通り過ぎてしまったのでここで補足します。

まずは原則です。

【第一反抗期対応の原則】 優しい一貫性

ポイントは「優しい」と「一貫性」です。

もう少し具体的に言いますと、

あなたの気持ちは大切だよ。でも、やるべきこと(安全・健康・生活)は親が守るね

という一貫性です。

この二つを矛盾させずに伝えようとする姿勢が「優しい一貫性」です。

前回はこれを4つの方針として示しました。

①様子を見取る
②気持ちに共感する
③ 必要な生活行動へゆるやかに橋渡しする

④ダメならあきらめる

③にするか④にするかが「判断」です。

そして、③を選んだならお風呂に入れなければいけません。

それが「枠」です。

「枠」の使い方については何度か取り上げていますので、その記事の中から象徴的な図を3つ再掲しておきます。

これらは子育ての技術です。

子どもも親も様々ですし、その場その時の環境も多様です。

技術とは、ただそこに存在しているだけのものです。

使うか使わないか、どう使うかは、使う人の勝手です。

必ずうまく行くとは限りません。

むしろ、うまく行かないことの方が多いかも知れません。

その上で、今回解説したいのは「優しい一貫性」です。

「優しい一貫性」とは、

①うまく行かなかったとしても優しい姿勢を崩さない。
②やるべきこと(安全・健康・生活)は断固として親が保障する。

ということです。

「優しい一貫性に《失敗》はありません。

優しい姿勢を崩さないで断固として対応した結果、子どもの行動を変えることが出来なかったとしても、それは失敗ではありません。

「優しい一貫性」を保てたのですから、矛盾なく、やるべきことはやったのです。

むしろ「親の威厳」を保てたことになります。

その《ありがたさ》はずっと後になって伝わることもあるでしょう。

悪影響がないわけですから《ダメな対応》とは全く異なります。

「優しい一貫性」のメリットはそこにあります。

その上で、出来れば本当に子どもの行動を変えたいですよね。

技術を駆使したり、作戦を練ったりして、何とかして行動させたい。

たとえば、優しい姿勢を崩さないで《力づくでお風呂に連行する》という場合もあるでしょう。

「断固」ですからね。

では、怒鳴ることなく優しい顔をして、子どもの気持ちを受容しながら、無理やり力づくで浴室に連れて行く対応をした時に、子どもの脳内にトラウマは発生するでしょうか。

次はそのことについて解説します。

5.無敗無敵の対応

「優しい力づく」でも気をつけなければならないことがあります。

幼児は身体を押さえられると《拘束》として記憶することがあります。

特に、自分の意思が無視されたと感じた時にそうなります。

対応の仕方によっては、力では勝てずに逃げられない体験が《無力感》となってトラウマ記憶の核になることがあります。

どうすればトラウマを生じさせない対応になるのか?

重要なのは《力を使ったかどうか》よりも次の要素です。

①その瞬間、子どもは「怖かった」のか?「守られている」と感じたのか
②その後、親がどう関わってくれたか(修復・受容があったか)

たとえば、抱っこしつつ「怖くないよ」「一緒だよ」と伝えながら移動する。

落ち着いてから、「怖かったね」「泣いてもいいよ」「でもあなたの体を守りたかった」と気持ちを受け止める。

寝る時にその日を振り返って、どうしてお風呂が大切なのかを話して聞かせる。

「次はどうしようか?」などと、子どもと一緒に考える。

トラウマというのは、行為の有無だけで生じるものではなく、《子どもがどう感じたか》ということがポイントです。

そのためには、

①その瞬間に「守られている」と感じさせるもう一押し
②その後に「趣意」を理解させるもう一押し

があれば大丈夫です。

こうした「優しい一貫性」は無敗無敵です。

子どもの発達を守り、親子関係の全体をプラスに回します。

質問をいただいたことで私自身も確認できました。

有り難うございます。

講座546「【解説】第一次反抗期」

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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8件のフィードバック

  1. 3歳の母 より:

    なるほど、腑に落ちました。
    同じ「怒ってしまった」でも、怒られた子が恐怖を感じているかどうかがポイントなんですね。
    今まで、数え切れないほど怒って支配しようとしてきた気がしますが、固まったり泣いたりすることはほとんど記憶にないので案外ダメージは少ないのかもしれません。
    SNSでは子どもを制御できない親や怒れない親がよく叩かれています。育て方の知識が広がることを願います。

    • 水野 正司 より:

      よかったです!(^^)/
      世の中には《ダメな時には怖い顔をして叱るべき》という考え方をされる親御さんも多くて、
      それがアンビエントな親子関係を作ってしまうケースもあります。
      そう思わせてしまっているのは、学校の先生方の生徒指導や親の姿勢などが影響しているようです。
      しかし、実際は「優しい一貫性」こそが親の威厳を確立させる近道なのです。
      今回の2つの講座は「3歳の母」さんの《相談》がおかげで言語化できました。
      感謝です。

      • 3歳の母 より:

        そんなコメントをした翌日に怒って泣かせてしまいました。記憶にないなんて言いましたが、泣かせてますね。
        最近は少なくなりましたが、2歳になりたてぐらいの時はしょっちゅう泣かせてました。
        何かとイライラして、泣かせてやらないと気が済まないという状態でした。
        3歳くらいの子が「しつけのつもり」の虐待で亡くなるのはこんな状態がエスカレートして起こるんだろうなと考えてました。
        我が家は幸い、近所に子どもと遊んでくれる人がいるので、毎日のように遊びに行ってストレス解消して乗り越えてきました。
        その遊んでくれる人というのが「優しい一貫性」を実行できる人でいつもすごいなぁと思っています。
        日々、反省と感謝の繰り返しです。

        • 水野 正司 より:

          このようなコメントをいただけるなんて涙が出ます。
          どうか「3歳の母」さんもストレスを解消して頑張ってください!

  2. 畠山 文 より:

    共感の嵐でした!分かっていても怒りが湧くこと、怒ってしまい、後悔することばかりです。

    今日も、お願いしていた手伝いをせず、無断で外出し、おばあちゃんの家に行ってしまった娘に、怒り心頭!でした。

    今の家は造りが古く、トイレの直ぐ側に玄関がありまふ。トイレが長くて、心配で見に行ったら、もぬけの殻でした。しかし、時間が経ち、何か閃いたことがあり、私への外出の報告や、お手伝いをすること、みんな忘れてばあちゃん家に行ったんだなと、そう思えました。

    出かける時は声をかける、お手伝いがどうしてもできなければ相談する、など、良い対応を伝えつつ、できるようになると応援して信じて発達を待つしかないなぁ、改めてそう感じました。

    いつもブログでの発信ありがとうございます。

    • 水野 正司 より:

      文さん、コメントありがとうございます!
      「共感の嵐」をいただけて発信した甲斐がありました!
      今は執筆作業に集中している毎日ですが、
      時々はこうして発信していきたいと思います。
      これからもよろしくお願いします。

  1. 2025年10月27日

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  2. 2025年11月9日

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