講座543 脳の発達とイライラの関係

先日、あるお母さんから相談を受けました。

3歳になる娘が幼稚園で先生の指示を聞けずに無視してふざけているので、先生からお説教を受けました。妹が誕生したばかりでストレスが溜まっているようだったで怒ったり小言を言ったりしないように気をつけようとと思っていた矢先のことでした。そんなことがあったせいでしょうか。今朝赤ちゃんを抱っこしたままブチギレて怒鳴りつける事態になってしまい3人で泣きました。

読んで私も泣きたくなりました。

今読んでも心が痛みます。

お母さんが悪いとか、娘さんが可哀そうとかではありません。

こうした状況は子育てをされているお母さんなら、誰しも経験があることだと思います。

そして、避けることが難しい。

そうなってしまう。

その状況に心が痛むわけです。

これは家庭の問題ではなく社会の問題である。

私はそう捉えてしまうのです。

 目 次
1.幼児期の脳内で起こっていること
2.理解しておくこと
3.そうは言っても
4.まとめ

1.幼児期の脳内で起こっていること

子どもが指示を聞けずに無視してふざけていると腹が立ちますよね。

これは親であっても、幼稚園の先生であっても同じだと思います。

でも、どうして子どもは、指示を聞けずに、無視して、ふざけてしまうのでしょうか。

子どもの行動には必ず理由があります。

この場合の「理由」とは何なのか?

《3歳の子どもの脳》を考えてみましょう。

人間の脳は、0~1歳の間にシナプス(神経細胞のつなぎ目)が爆発的に増えます。

そして、その後、使わないシナプスは刈り取られます。

これを「刈り込み現象(シナプス・プルーニング)」と言います。

使わないつなぎ目がたくさんあると情報伝達の効率が悪くなるので刈り取るわけです。

グラフから分かるように、この「刈り込み現象」は幼児期を中心に起こります。

その過程では神経活動が活発で、脳内のネットワークが不安定になります。

スマホやパソコンで言うなら、インターネットを頻繁に使っているのに、回線が不安定なようなものです。

(1)神経活動が活発
(2)でも、ネットワークが不安定

ですから、脳内でのエネルギーの消耗が激しく、それでいて非効率で不安定なのでイライラしがちになります。

イライラするのは感情です。

感情をコントロールするのは前頭前野の働きである「実行機能(我慢・切り替え・記憶保持)」です。

実行機能は3歳前後から発達し始めますが、完成するのは24歳頃と言われています。

感情をコントロールする能力はまだまだ未熟なのです。

(3)感情や意欲が優先され、理屈やルールが後回しになりやすい。

しかし、幼児期は意欲や好奇心を発揮する時期です。

《自分でやりたい》という気持ちが強くなるので自己主張をします。

でも、その自己主張がいつも通るとは限りません。

やりたい気持ちが強過ぎて、大人とぶつかることは多々あります。

(4)自己主張する時期

(1)~(4)のような状況があるため、幼児期にはイライラや反発行動が起こりやすくなります。

このイライラや反発行動が「第一次反抗期」とか「イヤイヤ期」と呼ばれます。

これが幼児期の脳内で起こっていることです。

2.理解しておくこと

幼児のイライラや反発行動に対して、大人はどのような行動をとるでしょう。

頭ごなしに否定したり、無視したりするのはトラウマを生む対応ですので良くありません。

では、《言って聞かせる》という対応はどうでしょう。

《他の人もいるから今は静かにしていなくちゃダメなのよ》などと説明してあげる対応です。

これは悪い対応ではありません。

ただし、次のことを理解しておく必要があります。

幼児の脳は大人よりも「情報処理コスト」が高く、論理的に考えたり会話をしたりするだけで大きな負荷がかかる。

幼児の脳はシナプスの刈り込み期です。

ネットワークが不安定な脳で大人の話を聞くのは大変なことです。

語彙数が多い幼児は、生半可であっても話が分かってしまうので、少ない子よりも負荷がかかります。

そのため、知的に活発な子ほど「消耗 → イライラ → 反発」という流れになることがあります。

研究や臨床でよく報告される3歳前後の特徴は次の通りです。

❶言語・思考が進んでいる子ほど理屈っぽく反発する
❷実行機能(我慢・切り替え・記憶保持)が未発達なため、論理的に説明しても感情が爆発することがある
❸脳の急速な発達期ゆえに疲れやすく気分の変動が大きい

そして、これらの特徴の背景は、脳の仕組みによるものです。

つまり、幼児期にイライラや反発が増えるのはごく自然な現象だということです。

特に、言葉や論理的思考が伸びている子は消耗が激しいために感情のコントロールが追いつかなくなります。

しかし、これは異常なのではなく健全な発達の証拠だと考えられます。

3.そうは言っても

そうは言っても、指示を聞けずに無視してふざけていると腹が立ちますよね。

《言って聞かせる》だけでは通じないことが多いと思います。

一体どうすればいいのでしょうか。

少しずつ考えていきましょう。

原因① 「ワーキングメモリ」の未発達

前頭前野の実行機能には三つの要素がありました。

「我慢」「切り替え」「記憶保持」です。

この場合の「記憶保持」とは「作業記憶(ワーキングメモリ)」のことです。

ワーキングメモリが未発達ということは、《いっぺんにたくさんのことを話しても処理し切れない》ということです。

従って、大人が使う言葉は短い方が良いことになります。

ただし、短くすると何を意味しているのかが分かりにくくなることがあります。

ですから大事な言葉を入れて、短く伝えます。

対応①  指示は短く・具体的に

「片付けなさい」よりも「赤いブロックを箱に入れてね!」と話した方が伝わります。

意味が伝わることは、幼児の脳の負担を減らすことにもなります。

また、意味が伝わることで、指示に対する成功体験にもつながり、感情が安定します。

相談者のお母さんが、「幼稚園で先生の指示を聞けずに無視してふざけている」と悩んでいましたが、もしかすると、その時の先生の指示が伝わらなかったのかも知れませんね。

そういう可能性もあるということです。

原因② 「切り替え」の未発達

「切り替え(シフティング)」も実行機能の一つです。

これが未発達ということは、《注意を切り替えることがまだうまくできない》ということです。

従って、話をする前に、まず《注意を向けさせる》ということが必要になります。

対応② 話す前に注意を向けさせる

具体的には、目を合わせてから話す、話す前に名前を呼ぶ、「あのね」とか「話していいかな」などの前置き言葉を入れる、肩に軽く手を置いてから話す、などです。

原因③ 感情や意欲が優位に発達している

脳の部位で言うと、前頭前野よりも扁桃体が優位に発達しているということです。

これはどうしようもないことです。

人間が発達する順序なのですから。

ですから、自然に対応するとしたら、まずは感情を受け止めるところから始めなければなりません。

「感情を受け止める」ということは、《その感情を否定しない》ということでもあります。

《幼児の扁桃体は発達している》ということは、感情の出力だけではなく、入力にも敏感だということです。

つまり、怒られたり、叱られたり、否定されたりすると、その怖さ、悲しさなどに意識が強く向いてしまい、行動の改善につながりにくくなってしまいます。

対応③A 怒・叱・否などで感情を刺激しない

大人の態度が幼児の感情を刺激しますから、怖い顔はせず、落ち着いた声で対応する「構え」が第一歩になります。

そして、幼児が持っている感情を《言葉にしてあげる》ということが二歩目です。

対応③B 感情や意欲を言葉にしてあげる

「そうか。やりたかったんだね」などという対応です。

詳しくは、講座40「クールダウン」と「ほっとダウン」をご覧ください。

偏桃体の発達は意欲と関係します。

ですから幼児期に「自分でやる!」という自己主張が起こるのは自然なことです。

そこで、「自分で」という気持ちを活かす対応も有効です。

対応③C 行動を選ばせる

「今すぐ片付ける?それともあと3分遊んでからにする?」などという対応です。

同じ原理で次の方法もあります。

対応③D 予定を合意形成する

「長い針が12になったらお片付けをするからね、いいかな?」といった対応です。

これは「5分前」くらいに言っておくのが適切です。

幼児の時間間隔は大人と違います。

「ジャネーの法則」に従うなら「5分前」は「30分前」と同じです。

「5分後」なら「30分あと」です。

「明日どうする?」と聞いても「あした=未来」です。

幼児にとっては「今」の感情が優先されますから、そのへんは注意が必要。

重要なのは《その合意を成功させること》ですから適切な予定を立てることが肝要です。

対応③E 成功体験に導く

これは「感情や意欲が優位に発達している」ということを利用した対応です。

感情や意欲が発達しているわけですから、「できた!」「楽しい!」「うれしい!」などの体験が行動の強化につながります。

それが「またやろう!」につながる可能性が高まり、発達のサイクルが好循環し始めます。

このように、原因を考えると適切な対応を導き出すことができます。

原因と対応を振り返ってみましょう。

原因① 「ワーキングメモリ」の未発達
原因② 「切り替え」の未発達
原因③ 感情や意欲が優位に発達している

対応①  指示は短く・具体的に
対応② 話す前に注意を向けさせる
対応③A 怒・叱・否などで感情を刺激しない
対応③B 感情や意欲を言葉にしてあげる
対応③C 行動を選ばせる
対応③D 予定を合意形成する
対応③E 成功体験に導く

4.まとめ

AIでイメージ画像を作らせてみました。

関連資料です。

次の主張について書くのを忘れてました!

これは家庭の問題ではなく社会の問題である。

このことについてはまたの機会に書きます!

講座544 幼児が脳を休める時

水野 正司

子育て応援クリエイター:「人によし!」「自分によし!」「世の中によし!」の【win-win-win】になる活動を創造しています。

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2件のフィードバック

  1. 畠山 文 より:

    これは、3歳前後に限らず、発展途上にある子供の脳、もっと言えば、脳が大体完成すると言われている24歳くらいまで起こりやすいのかな?と思いました。

    年齢が低い程、脳の発達が遅い程、起こるのかな?と。ワガママとか、我慢できず楽をするだとかも、ズルい奴とかダメな奴とかで大人は片付けてしまいがちですが、脳の発達過程だという目を持たないとと、改めて思いました。

    今回の記事で、私が小学生の頃、宿題をやらず、忘れ物ばかりだった謎が少し分かった気がしました。ずっと自分はダメな子だと思っていました。

    そして、もしかしたら、きちんと対応する大人と出会わなければ、本当にズルい奴、ダメな奴になってしまうのかな?と感じました。

    柔道を教える夫が、上記のような感じで、時々サジを投げるような発言をするので、違う視点もあるよと伝えていますが、上手く伝わらないことも多々です。それでも、夫は、本心では、子供たち皆を気にかけていると感じるので、大丈夫だと思いますが。

  1. 2025年9月30日

    […] 講座543「脳の発達とイライラの関係」にコメントをいただきました。 […]

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