講座524 「AI過渡期」に必要な私たちの行動
皆さんはAIを使っていますか?
お子さんたちはどうですか? AIに興味を持っていますか?
今、学校の授業では子どもたちの学習にAIが使われていると思いますか?
今回は、「AI」と「子どもたち」について解説します。
2.親が知っておくべきこと①:ガイドライン
3.親が知っておくべきこと②:AIと対話する
4.親が知っておくべきこと③:AIを評価する
5.「AI過渡期」に必要な私たちの行動
1.「AIネイティブ」の子どもたち
今は《生まれた時からスマホがある時代》です。
スマホ無しの生活なんて考えられませんよね。
次は《生まれた時から身近にAIがある時代》がやって来ます。
AI無しの生活が考えられない時代です。
すでに60を過ぎた私でさえ、ほぼ毎日有料版のAIを使っています。
サブスク生活から抜けられません。
そんな時代が始まった今ですが、実は心配なことがあります。
乳幼児に対してはあまり心配していません。
心配なのは、現在の小中高校生たちです。
どうしてかというと今は「AI過渡期」だからです。
《学校教育にAIが入ったばかりの時期》ということです。
先生方だって、まだまだ勉強中です。
得意な先生もいれば、不得意な先生もいます。
教師、学校、自治体によって温度差が生じるのは仕方ありません。
それが「AI過渡期」です。
こんな時ですから、親がAIについて知識を持っておくことは重要です。
もちろん親御さんにも得意・不得意はあります。
もしかしたら子どもたちの方がよく知っているかもしれません。
ですから今回は《AI過渡期の学校事情》について解説したいと思います。
2.親が知っておくべきこと①:ガイドライン
先日、小学校2年生の教室でこんな授業が行われました。
S先生が行った国語の授業です。
「たんぽぽのちえ」という説明文です。
たんぽぽがどのように育っていくのかについて、順序よく書かれた文章です。
S先生はこの授業の終盤で生成AIを使いました。
S先生の授業記録から抜粋します。
もちろん、子供が自由に使うことはさせません。
使って見せるのは教師です。
そうなんです。
小学校低学年では子どもたちに自由にAIを使わせないのが基本です。
これは文部科学省のガイドラインに書いてあります。
なお、小学校段階の児童が直接利活用することについては、発達の段階等を踏まえたより慎重な見極めが必要である。
出典:「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドラインVer. 2.0」令和6年 12 月 26 日
大事なのは「児童が直接利活用することについて」という部分です。
つまり、授業で子どもが直接使わせることについては、現段階では「慎重な見極め」が求められているということです。
「発達の段階等を踏まえた」とありますが、これについては次の2つのことを知っておく必要があります。
①AIの種類によって利用規約に年齢制限が明記されている
②使わせる前に身につかせるべきことがある
①について、主要なAIサービスの利用年齢制限は以下の通りです。
ChatGPT
- 13歳以上が利用可能
- 13歳から18歳未満の場合は親権者または法定代理人の同意が必要
Google Bard
- 2023年11月16日より、13歳以上に年齢制限が緩和された
- それ以前は18歳以上限定だった
Perplexity
- 13歳以上のユーザーが利用可能
- 13歳から18歳未満の場合は、親権者または法定代理人の許可が必要
どれも「13歳以上」ですから、小学生は使えないわけです。
ですから、
もちろん、子供が自由に使うことはさせません。
使って見せるのは教師です。
となるわけです。
②については、文科省のガイドラインに次の説明があります。
(不適切と考えられる例)
生成 AI自体の性質やメリット・デメリットに関する学習を十分に行っていないなど、情報モラルを含む情報活用能力が
十分育成されていない段階で、自由に使用する
出典:「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドラインVer. 2.0」令和6年 12 月 26 日
ですから、たとえ「13歳以上」であっても、十分な事前学習が必要だということです。
そして、それは小学生のうちに身につけておくことが理想的だということになります。
3.親が知っておくべきこと②:AIと対話する
小学生のうちに経験しておくべき「十分な事前学習」とはどんなことでしょう?
これについては私たちTOSSで取り組んでいる「AI活用教育賞」のwebページに便利な一覧が公開されています。
「案」としてではありますが、かなり参考になると思います。
これを見ると小学校2年生では次の2つが指標になっています。
①生成AIと対話をし、その反応を観察する
②生成AIに質問をし、得られた答えを評価する
《AIと対話をする》ってどういうことか想像がつきますか?
これ、重要です。
これがイメージできなければ、我が子がどんな授業を受けているかが、わからないままになります。
《AIに質問をする》
これはわかりますよね。
では、《得られた答えを評価する》って想像がつきますか?
そんな場面を授業参観で見たことがありますか?
大丈夫です!
今からその場面を解説いたします。
S先生の解説から抜粋いたします。
生成AIに質問すると、次々と答えが返ってきます。
その反応を教室の大型テレビに映してあげて、わいわい見るだけでも
私はかなり大切な体験になると思います。
「わー!はやーい」
「こんなにすぐ出るんだね」
「丁寧な言葉遣いだね」
「でも、なんか間違ってない?」
こんなつぶやきが出たら、「じゃあ、もっと友達っぽく、タメ口で答えてもらおうか?」とか「そこ、間違いだよって言ってあげようか」のように、さらに生成AIに言ってあげるのも楽しいです。
これが、①の「生成AIと対話をし、その反応を観察する」です。
教師が大型テレビにAIを映してあげて、操作は教師がやっているわけです。
でも、子どもの意見も取り上げていますよね。
これで「対話(子どもたちとAIとのやり取り」が成立します。
では、②の「得られた答えを評価する」とはどんな学習でしょう?
それを次に解説します。
4.親が知っておくべきこと③:AIを評価する
S先生はAIで作った動画の冒頭画像を示して、こう言いました。
このたんぽぽの花は2、3日経つとどんな色になりますか。
ノートに書きなさい。
専門用語では、一文目を「発問」と言います。
二文目を「作業指示」と言います。
教室にいる20人、30人の集団を相手にする一斉授業では、このように「発問」と「作業指示」によって授業を成り立たせています。
すると、どうなるか。
「どんな色になるか」は教科書に書いてあります。
ですから子どもたちは教科書に目をやります。
《何段落目の》《どこに》書いてあったかを一瞬で探します。
既に何度も学習しているので、全員が見つけます。
「黒っぽい色」です。
これを「読解」と言います。
これは子どもたちが言った言葉ですが、カギカッコが付いていますよね。
カギカッコは「引用符」とも言います。
引用符というのは、テキストに書かれている言葉をテキストに書かれたままに取り出すことを意味します。
テキトーに思い付きで答えるのはペケです。
正確に読み取らなければ「読解」になりません。
ですから一瞬であっても「教科書に目をやる」という行為が重要になります。
そして、その行為を生み出させるための教師の行為が「発問」と「作業指示」です。
しかも、「ノートに書きなさい」と言っています。
ここにも重要な教師の意図があります。
音読などをして何度も読み込んでいる文章ですから、子どもたちはすぐに見つけます。
しかし、それを「ノートに書く」(書き抜く)ためには時間を要します。
ノートを開いて、筆箱から鉛筆を取り出して、ノートの各場所を見定めて、鉛筆を握って文字を書く。
この時、子どもの目は、教科書とノートを往復します。
正確に書き抜くために何度か往復します。
目と同時に手指も使います。
頭の中では先生が発した「2、3日経つとどんな色になりますか」という発問をキープしています。
この時、脳の中では「音韻性ループ」「視空間性スケッチパッド」「エピソード・バッファ」といった中央実行系が稼働しています。
このたんぽぽの花は2、3日経つとどんな色になりますか。
ノートに書きなさい。
たったこれだけのことなのですが、目も手も脳もフル稼働しています。
ですから賢くなるのです。
しかも、大事なことはまだあります。
S先生の記録には、こう書かれています。
「黒っぽい色」です。
これもみんな正解。
発問をし、ノートに書かせ、全員が正解となる。
つまり、一人残らず全員を賢くさせているのです。
これが「一斉授業」の肝(肝腎なところ)です。
子どもたちは全員が自信満々です。
ここで、S先生はAIに作らせた動画を再生させます。
この後、いよいよ動画を再生します。
再生してみてください。
子どもたちはこうなります。
再生すると、3秒後にみんな爆笑します。
3秒後には「綿毛」になっているのです。
何度も再生して、何度も盛り上がります。
楽しいですね。
何度も再生したわけです。
せっかく盛り上がったのですからね!
そして、S先生は言います。
AIが作ったんだから、この動画の通りでいいよね!
「AIが作ったんだから、この動画の通りでいいよね!」
小学校2年生の教室はどうなると思いますか?
子供たちは大騒ぎです。
「ダメー!」
「ちがーう!」
「早すぎ!早すぎ!」
これが2年生です!
そして、S先生は言います。
この動画のどこが違うのか、ノートに書いてください。
もうわかりましたよね?
「発問」と「作業指示」です。
「一斉授業」です。
全員が頭をフル稼働させます。
みんなたくさん、たくさん書いてきます。
教科書の記述を用いて、
「こう書いてあるのに、動画はこうなっている」という書き方の子は
思い切り褒めて、全体に価値づけします。
「書いてきます」とあります。
恐らく、書けた子から先生の所にノートを見せに行ったのでしょう。
「教科書の記述を用いて」とあります。
子どもたちの読解力が育っている証拠です。
しかし、教師によってはこんな発問をする先生もいます。
「たんぽぽのちえ」を読んで、どんなことが心に残りましたか。それはどうしてですか。
これだと、何を答えてもいいですよね。
「綿毛が飛んで気持ちよさそう」とか、
「たんぽぽがしおれてかわいそうだと思いました」とか、
何でもありです。
これでは読解力はつきません。
「それはどうしてですか?」もダメなんです。
これだと、発表が得意な積極な子が手をあげて発言します。
手をあげない子は「お客さん」になってしまう可能性があります。
そして、先生によっては、
「それは手をあげないのが悪い」
「他の人の発表を聞いていないのが悪い」
などと、子どものせいにしてしまう先生がいます。
これでは授業が楽しくありません。
お子さんの参観日には、こうした点も注意して見てあげてください。
ただし、先生の悪口や陰口やクレームなどは絶対にダメです。
そのような行動は我が子のためになりません。
そうした先生にはこのブログ記事をそっと教えてあげてください。(^^)/
5.「AI過渡期」に必要な私たちの行動
話を戻します。
「AIが作ったんだから、この動画の通りでいいよね!」
「ダメー!」
「ちがーう!」
「早すぎ!早すぎ!」
これが、②の「得られた答えを評価する」という学習です。
これでイメージが出来たのではないでしょうか。
授業ではこのあと、NHK for Schoolの動画を見ることになります。
「これはAIじゃなくて、人間のカメラマンさんたちが作った動画ですよ」と言って見せます。
今度は説明文の通り、進んでいきます。
子供たちは満足げに見ています。
同じ動画でも「AIが作った動画」と「人間のカメラマンさんたちが作った動画」では解釈が違って来るわけです。
子どもたちはそのことを学んだわけです。
S先生は最後にこう言います。
AIは100%正しいわけではないのです。
AIから何かを教えてもらった時は、「本当に正しいかな?」と
教科書や先生やお家の人と考えてみる習慣を持てるといいですね。
これが「評価する」という学習です。
別な言葉では「クリティカルシンキング(批判的思考)」とも言います。
文科省のガイドラインでは次のように書かれています。
生成 AI と人間との関係を対立的に捉えたり、必要以上に不安に思ったりするのではなく、生成 AI は使い方によって人間の能力を補助、拡張し、可能性を広げてくれる有用な道具にもなり得るものと捉えるべきである。その上で、生成 AI の出力はあくまでも「参考の一つである」「最適解とは限らない」ことを認識するとともに、リスクや懸念を踏まえつつ、最後は人間が判断し、生成 AI の出力結果を踏まえた成果物に自ら責任を持つという基本姿勢が重要である。
出典:「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドラインVer. 2.0」令和6年 12 月 26 日
これを「人間中心の AI 社会原則」とも言います。(出典:内閣府「人間中心の AI 社会原則」統合イノベーション戦略推進会議決定)
ところで、S先生はどうしてこのような授業を実現させることが出来たのでしょう?
それは、勉強しているからです。
(教師の役割と生成 AI)
教育は、教師と児童生徒との人格的な触れ合いを通じて行われるものであり、適切な指導計画や学習環境の設定、丁寧な見取りと支援といった、学びの専門職としての教師の役割は、生成 AI が社会インフラの一部となる時代において、より重要なものになる。
出典:「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドラインVer. 2.0」令和6年 12 月 26 日
S先生の授業はAIを使った、ある意味で《最先端の授業》とも言えるものです。
しかし、そこには「教師と児童生徒との人格的な触れ合い」もありました。
「人間中心の AI 社会原則」を具現化したひとつのイメージだと思います。
AIを活用する時代は始まったばかりです。
子どもたちにAIを教えるためには教師も勉強しなければなりません。
今は「AI過渡期」です。
教師自らが勉強しなければ情報を手にすることが難しい時代です。
私たちTOSSでは、AIを活用した授業を積極的に実践しています。
教室で実践するためには《教師自身の勉強》が欠かせません。
S先生をはじめ、私たちが勉強していることを次の2冊にまとめました。
まずは保護者の方に読んでいただき、読み終わった後にお子さんに渡してみてください。
過渡期ですので、保護者の方も、そして子ども自身も、自ら学ぶ姿勢が必要になっています。
S先生の授業記録は、NOTEの記事として読むことが出来ます。
出典:「動画生成AI(Sora)を説明文指導に活用する」(TOSSファミリー)